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第百九話
しおりを挟む「三倍、殺します~」
装甲服姿の時にもオリエッタの武器はハンマーだ。部位で言うなら殴り付ける頭の部分の大きさが軽自動車並にデカい事。それを前方に見えたリッチに向かって投げやがった。
リッチを取り巻くオーガごと、その周辺ごと、言うならば着弾点に爆弾が落ちた感じ。オリエッタハンマーを中心に大きな爆発とクレーターが出来る。
「三倍です~」
いや、もう何でしょう、これ。
「バ~カ。死体が無いんじゃスコアにならないだろ」
「自己申告です~。それにオーガちゃんを十匹は殺してます~」
「てめぇはリッチだけを殺ってればいいんだ。あたいの獲物に手を出すんじゃねえ」
「はい、は~い」
もう…… これから行われるのは一方的な虐殺か。白百合団の黒歴史がまた一ページ刻まれるのか。
「団長~ 装甲服の稼働時間は後十分くらいです~ 昨日のサンドドラゴンの後で補充が足りないんです~」
はぁ!? 充電しとけよ、壁のコンセントから。稼働時間はオリエッタの魔力量にも関係するんだっけ。オリエッタは錬金術師で魔法使いではない。魔力はあるけどソフィアさんやルフィナに比べたら遥かに少ない。ヤってる場合じゃなかたったのね。
「オリエッタ、代わりのハンマーはありますか」
「無いです~ あんな大きいのは入らないです~」
ちょっとエロい。 ……そんな事を言ってる時じゃない。一つしかない武器を投げてどうするの。拾いに行くのかオーガの中に。
「あのハンマーを回収して逃げますよ。プリシラさん先方を。アラナはオリエッタにくっついてフォローを」
作戦が決まれば動きが速いのは、僕達が傭兵だから。プリシラさんはオリエッタに取られたオーガの分までハルバートを振るい道を切り開く。僕はプリシラさんの「フォロー兼後ろまで飛んでくるハルバートを受ける」仕事をきっちりとやってのけた。
「止まります~」
えっ!? 五分と経ってないだろ。バッテリーか魔力か、動作管理はしっかりしてよ。
「オリエッタ、装甲服を脱いで。ハンマーは諦めます。プリシラさん、アラナ時間を稼いで」
「恥ずかしいです~」
てめぇ、装甲服から引っ張り出すぞ。囲まれそうでヤバイから早く降りてきて。僕達三人がオリエッタを囲むように布陣してオーガの攻撃を防ぐ。
後ろの方で光が輝くのを見えた。オリエッタが装甲服を戻している所か。これで後は逃げるだけ。
「オリエッタ、戻れま・す・ね……」
戦場に咲く一輪のスク水白の美少女が恥ずかしそうに立っていた。見とれるほど美しい。二秒時間をくれ…… よし!
「オリエッタ、その服に防御力の魔法とか掛かってるんですか」
「ただの服です~」
アホかこの娘は。戦場に裸に近い格好で立つなよ。戦闘はここまでと、僕はオリエッタを抱き上げた。
「プリシラさん、アラナ、城壁まで後退します。遅れずに着いてきて下さい」
「今がスコアの稼ぎ時だろうが。リッチは三倍だな」
神速、
「ビリはスコア一割減です」
全開!
オリエッタを抱き上げたままの神速。いかに神速を使おうとも重いものは重い。いや別にオリエッタが太ってる訳じゃないんだよ。普通に女の子を抱き上げて走るなんて大変なんだよ。
足下にはオーガの死体が転がり、飛んで避けて走って、二人は僕を追い抜いて。少しは手伝え!
「ビリだな……」
「ビリッスね……」
モード・ツーにしておけば良かった。息を切らして城壁まで走ってきた僕に掛ける言葉がそれかよ。本当に団長想いの可愛いヤツらだ。
「オリエッタ、スコア一割減な、ビリだし」
「そうッスね。ビリッスね」
オリエッタがそれを聞いて泣きそうになる。年頃の女の子をイジメルなよ。フォローが大変なんだから。
「あいつら体制を整えたら来ますよ。二人は城壁を守って下さい。それと指揮官は予定通りに。オリエッタはこっちにおいで」
僕は近くに寄ってきた指揮官にも指示を出してから、オリエッタの手を引いて城壁を少し離れた。空いている方の手を目にやり少し泣いている様だった。
泣いているスク水少女の手を引いている僕は回りにはどう映ったのだろう。これでも人の目は気になる小心者なのです。オリエッタを少し離れた人目に付かない所に連れていき変な事を…… しません!
「オリエッタ、泣かないで。プリシラさん達の冗談ですよ。それにオリエッタを抱いていたから一番後ろは僕ですよ。オリエッタのスコアは減りません」
オリエッタは僕に抱きついて声をあげずに泣いていた。少しして安心したのか上目使いをして静かに目を閉じた。僕はそっと口付けをしてから優しく抱き締めた。
「オリエッタは着替えて南門のソフィアさんと合流して魔力を分けてもらって来て下さい。まだオーガやトロールは残っていますからね」
オリエッタを見送ってから僕はすっと横に避けた。今いた場所に落ちるカカト。読めてるんだよ。
「のぞき見はよろしく無いですよ」
「チゲーよ。今、早馬が来て明日の朝には領軍が来るからそれまで死守しろってよ」
お前は報告するのにカカトを落とすのか。「たんこぶ」が出来て身長が伸びるのが先か「軟骨」が潰れて縮むのが先か……
「クリスティンさんとルフィナはどうしてます」
「見えないからアラナがドロンを飛ばしてるよ」
ハーピィは殺った事があるし不明の大きな者が不安材料だけど、あの二人と一人なら問題ないだろう。殺戮しか想像できない。
始末したのはリッチが一人、ソフィアさんの話なら数人はいないとプラチナレーザーは弾けないらしいし、殺したオーガをアンデッド化してるなら戦力は割けなかったかな。首を落としておけば良かった。
「戻りましょう。すぐに来ます」
リッチがいるのは誤算だったな。死んでも生き返らせれるのなら、いつまでも長引いてしまう。こっちで出来るのはルフィナくらい、戻した方がいいのか。でも対空戦を出来るのはクリスティンさんとルフィナくらいだし…… 困ったね。
壊れた城壁に着くとオーガの一団が逆八の細い所を抜けて来た。このまま来てくれればと思ったが、横方向に移動して次の一団、また次の一団と入ってきた。
最終的に城門前にオーガ四百の横隊が出来上がり、後方にはトロールの五十、それと不明だった十は黒炎竜か。人が乗ってるように見えるけど操ってるのか!? 僕もやってみたい。
「なかなか壮大な光景だな。楽しくなってきたぜ」
「トロールがいいッスね。五倍ッスよね」
「クリスティンさんとルフィナは?」
「ハーピィらしき物は飛んでないッス。大きな三体と殺り合ってるみたいッス」
こちらには来れないか…… 壊れたと言え城壁。一度に入れるのは一団分くらい。ここで持ちこたえる事は出来ないだろうから街中に誘い込んでの第二作戦だな。
考えているとオーガの進撃が始まる。こちらは冒険者が二百越えるくらい。オーガ一匹に対して五人は欲しい。簡単に言えば二千人いればだが、それは平地での話。
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さてと…… 楽しい仕事の時間だ。
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