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第百二十七話
しおりを挟むハルモニア北端の街、ラウエンシュタイン。魔王のいるノルトランドに繋がる橋がある城塞都市。
街には夕方の閉門前には入れるが今は輪番も終了して平和な日常。その前のプリシラさんが言った「派手にやろうぜ」で調子に乗った全員でのバトルロイヤル、正確には一対六。
本当に死ぬかと思った。さすがに不眠不休で働いただけあって、レベルアップはしているのだろうけど、調子に乗った馬鹿一人の毒付きナイフが目に突き刺さり、今は左目が見えません。
「死ぬような味方はいないである」
ああ、確かに死んでねえよ。ソフィアさんが治療してくれたからな。毒はすぐに取れたけど左目に突き刺ささった傷はすぐには癒えず、見えるようになるには少しばかりかかるらしい。
お前には、いつかフルパワーでバスターソードを突き刺すと誓った僕を無視する様に、みんなは荷台で疲れを癒して寝ている。本当にたいした奴等だ、寝込みを襲って一緒に寝たい。
ラウエンシュタインの街には形ばかりの城壁がある街だ。南から城下町がありラウエンシュタイン城があって、その次にノルトランドに繋がる橋がある。城壁があるのは橋を渡ってくる魔物に対してあるだけで、その他はフリーに移動が出来る。
橋の名前は「ネーブル」 馬車が三台並んで渡れるくらいの橋はノルトランドまで繋がっている。その近くにはネーブルの塔と言われる見張り台があり、橋を渡ろうとする魔物に魔導砲と言われる物騒な物が、今まで橋を渡ろうとした者を全て粉砕してきた。
一本橋で高台から見晴らしのいい射撃。数を頼りに攻めきれるものじゃない。宿屋の親父さんは観光かノルトランドへの魔石取りかと思った僕達に上機嫌で話してくれた。
「明日、戦闘訓練を浜辺で行います。全員、完全武装で参加する事。参加しなかった者は輪番を停止します!」
僕は団長として威厳と自信に充ち溢れた言葉で言った。
「めんどくせぇ。今まで飽きるほど殺ってきたろ。今更やらなくて……」
「全員参加です! 異論は認めません!」
ここまで来た理由が分かってないのか!? 海で遊ぶためなんだよ。完全武装はインナーの水着も着るんだよ。遊びたいが為に苦しい道のりに耐えて来たのが分からないのか!?
「お前、左目が見えないんだろ。少しは休んでたらどうだ?」
右目が見えてるから、いいんだよ。片目で充分。心眼があるから、いいんだよ!
「構いません。僕達は傭兵です。何時いかなる時も戦場に行かなくてはならないのに左目が見えないくらい関係ありません」
「めんどくせぇ……」
プリシラさん以外は分かってる、この海に来た理由を。いや、本当はプリシラさんも分かってて恥ずかしくて言ってるのかな。プリシラさんのマイクロビキニ、僕はとても楽しみですよ。
「明日は早いのでもう休みましょう。プリシラさん、遅刻しても輪番を外しますからね」
僕はそう言って部屋を出た。今からワクワクして眠れない気がする。だけど、その前に宿屋の親父さんに明日のご飯と、海で遊べる場所を聞かないと。
「霧だな」
早すぎたかな。親父さんに聞いた場所はネーブル橋からさほど離れていない、人気の少ない所だったのだが海の近くだけあって朝霧が出ていた。
「どうする? 訓練するのか」
「ヤります。いえ、やります。朝霧なので時間が経てば消えますから、それまでは待機で」
全くもってついてない。朝早くから一人起き出して準備をしてたら、アラナだけはインナーと言われる水着を見せに来てくれたのは嬉しかったけど。
他のメンバーはともかくプリシラさんは着てくれただろうか。本当に戦闘訓練だと思って重武装の下は下着か? この世界の下着なんてTシャツに短パンみたいなものだからね。やっぱり海は水着でしょ。
僕は朝霧の中でテントを建て、休める所を作り水やタオルを用意し、エールだけは馬車に積んだままにした。これを出すと遊びだとばれるからね。プリシラさんが水着になったら出そう。
着々と準備を進める中で霧が少しずつ晴れていく。薄らとネーブル橋や見張り塔が見えてくる中で潮風にあたると、本当に海に遊びに来たのだと実感した。
ネーブル橋はノルトランドまで続く長い橋だけあって先の方は霧の中だし見張り塔さえも上段の方は見えなかった。後方にあるラウエンシュタイン城は霧の中に隠れて全容さえ見えない。きっと霧が晴れたら巨大な建造物が見れるのかと少し楽しみだ。
「晴れてきたな、そろそろやるか?」
さて、これから戦闘訓練から海で遊ぶ事にどうやって持っていくか。形だけの訓練をして早めに休みを取って、それから海で体を冷す。これだな!
「そうですね。格闘訓練と魔法組に分けてやりましょう」
いっそのこと鎧を切り落としてから着エロにしてやろうか。その方が手間が省ける。
「団長、あれは何ッスかね。見張り塔の近くに何か飛んでるッス」
それはトンビか海鳥ですよ、海なんだから。それにしてもアラナの目は良く見えてる。僕には霧しか見えないのに……
僕がどうやって着エロにするか考えながら見張り塔を見ていると、赤い閃光と大きな爆発音が聞こえた。
「なんだぁ!」
爆発を見たのは僕とアラナくらいか、今はもう白い霧の中に黒煙をあげている見張り塔があった。
くそっ! やりやがった! トンビなんて呑気な事を言っていたけど、たぶんハーピィの爆撃だよ。コアトテミテスと違って石を落とすだけじゃなかったんだ。
見張り塔からは次々と爆発音と黒煙があがっている。この霧の中で爆撃するなんて、どれだけ鍛えられた部隊なんだよ。これはハーピィ単体でやれる事じゃない。
本当に始まったんだ魔王の進攻が。本当にいたんだ魔王なんてものが。ここに来てゆっくり考える時間なんて無かったけれど、魔王の事なんて夢物語になればいいと思っていたよ。
これから魔王と人間が戦い、人間側はかなりの数の死人も出る戦争が始まる。傭兵の僕達が勇者と呼ばれる様になって、魔王を倒すまで終る事はないんだろうか。
「何だかヤバそうだな。どうする?」
プリシラさんも白百合団のメンバーもみんなが僕に視線を向け、この白百合団、団長様である俺様の言葉を待っていた。
……やってやるさ。この為に神速をもらって二度目の異世界ライフなんだから。
「白百合団! 僕はこれを魔王の進攻と見ます。見張り塔にある魔導砲を破壊し、ネーブル橋を安全に渡るための先制攻撃だと思います」
「はぁ? 魔王なんてもんが本当にいるのか?」
「います。魔族だっているんだから魔王がいても不思議じゃないでしょ。それに、この霧の中からの空爆なんて、よほど訓練されてなければ出来ません」
「それがやれるのは魔王だけってことか……」
言葉の後の沈黙。それが魔王の存在を認めた。みんな考える事があるだろう。おとぎ話が実話になるのだから。
「指示を出します。このまま全員でネーブル橋を目指します。橋に着いたらオリエッタとアラナは見張り塔に向かって魔導砲を確認して撃てるものなら撃って下さい。もし壊れているなら修理を試みて下さい」
「了解ッス」
「もし修理が出来なかったらどうしますか~」
「その場合は直ぐに撤退です。クリスティンさんは対空迎撃をしながらソフィアさんと南門で二時間待機して下さい。二時間待って戻らない様なら馬車に乗って先に行って下さい」
「待ってます!」
「それだと撤退ルートが一本に限られてしまうのでダメです。南門に戻れないなら他の道で撤退しますから」
「団長はどうしますか~」
「僕とプリシラさんとルフィナで橋に行きます。二時間くらいは時間を稼ぎたいですね」
「よっし! 決まった。さっさと行って片付けようぜ。それとこの報酬は団長から出るんだよな?」
さすが傭兵。こんな時でも報酬の話か。お金で済む訳にはいかないよね。
「今回はスコアを稼げる人と稼げ無い人に別れてしまうので…… 指示通りに動いてもらえたら一回だけ望みのままに」
「「「うおぉぉっ!」」」
言わなければ良かった……
「望みのままだな!」
「殺りたい放題ッス」
「うふふ」
「楽しみです~」
「血、血、血!」
「……」
いっぺんに喋るな、一人は喋れ。大盤振る舞いしてしまったかな。緊急事態なら事後報告でもギルドからお金はもらえるし、傭兵としては間違ってないだろ。
しかし、このタイミングで魔王の進攻が始まるなんて絶対に神様が裏で糸を引いてるに違いない。僕を海で遊ばせないが為に。
魔王も魔王だ! 後一日くらい進攻を遅くしたって平気だろ。せめて半日あればビーチで女の子と遊べたのに、何で邪魔するんだよ!
やってやる! やってやるぞ! 魔王も魔物も皆殺しだ。さっさと終わらせてプリシラさんの水着を見るんだ!
そのあとは……
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