異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百二十九話

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 「やっと楽しくなって来やがった!」
 
 楽しく何か無いよ。報酬を出すのは僕なんだから。やっぱり「望みのまま」は言い過ぎた。
 
 
 暴風が僕の右を通り抜ける。完全武装のオーガの鎧もプリシラさんの超振動のハルバートの前では紙と同じた。
 
 「何か言ったか!」
 
 オーガの首を飛ばしたうえに、野球のバットの様にハルバートを振るってオーガの頭を僕の方へ飛ばして来やがる。そんなプリシラさんは可笑しいだろ。笑うしかないよ。
 
 プリシラさんがハルバートを振れば振るほど命が消える。盾や剣、鎧でさえもハルバートを止められ無いなんて、悪い冗談を見ているようだ。
 
 輪番の時はハルバートを中古の剣で受けた時もあるけど、その時は平気だった。きっと超振動を使わないでいてくれたんだね。何だかんだ言っても優しいプリシラさんが大好きだよ。    ……てめぇ、また頭を飛ばすな!
 
 ネーブル橋の防衛隊と言ってもいい僕達は、プリシラさんの大活躍と、ルフィナの味方さえ巻き込む広域魔法で善戦していたが、橋の上にはオーガや冒険者達の死体が並び、戦う足場さえ失われていった。
 
 魔物達は多大な被害を出しつつも、前進は止むことも無く、僕達はジリジリと後退して行くしか無かった。
 
 「いったい何匹いやがるんだ!?   きりがねぇぞ」
 
 僕達が後退したのと、霧が少しずつ晴れていった事で、見張り塔の全容が見えてきた。魔導砲があると思われる所からは黒煙が上がり塔の外壁にも爆撃の跡が黒々と残っている。
 
 ノルトランドに繋がる橋の上の霧も晴れてきて、そこにはオーガ、トロール、でっかいイノシシみたいの、でっかい足が六本あるの、サンドドラゴンさえも隊列を組んで遠くに見えて来た。
 
 これは……    絶対重量オーバーだ。サンドドラゴンはさすがに重いだろ。これが全部乗ってるなんて、どれだけ丈夫に作ったんだよ。昔の物ってやたらと丈夫に作るから手に負えない。
 
 目の前のオーガの鎧の隙間を狙ってチクチクと刺し、派手さの影も無く盾の超振動で弾き飛ばしているが、トロールまで来たら僕の技は通用しなくなる。トロール相手に中古ソードで相手にするのは分が悪い。
 
 僕は目の前のオーガよりトロールをどうやって倒すか考え始めた時に、見張り塔の上の方で大きな爆発音が聞こえた。
 
 撃ったのか!?    僕はそう思って橋の遠くの方に目を向けるが着弾した感じも無い。これは魔導砲の発射音じゃなくて爆発音か。
 
 見張り塔を見るとさらに大きな黒煙が上がっていた。失敗したのか!?    あそこにはオリエッタとアラナがいる。まさか爆発に捲き込まれた……
 
 どうする?   オリエッタとアラナが心配だけど、ここを離れてプリシラさんに任せる訳にはいかない。 突撃を指示して全滅するのは分かりきってる。
 
 「プリシラさん、プリシラ!   見張り塔に行け!   オリエッタとアラナを連れて先に南門に行ってろ!」
 
 「てめぇ、命令するな!   こっちはどうするんだよ」
 
 「こっちは何とかするから行け!   ルフィナ、ロッサも出せ!   全力だ!」
 
 「死ぬなよ、てめぇ!」
 「あぁ……   湖ほどの血の広がりが見えるである……   ロッサ!」
 
 オリエッタとアラナはプリシラさんに任せれば大丈夫だ。ルフィナさん、血の湖は無理です。
 
 「お久しぶりです、ミカエル様」
 
 うん、久しぶりだね。今、オーガの剣を避けて忙しいから挨拶よりも先に魔法を使ってね。
 
 プリシラさんの抜けた穴は大きいがオリエッタ達の安否には変えられない。二人の事だから大丈夫だと思うが、あの大きな黒煙がどうしても気になる。
 
 「ルフィナ、ロッサ、毒の沼を出して。後退する時間を稼いで」
 
 「人使いが荒いのである」
 「久しぶりなのですから、もう少しゆっくりと」
 
 早くやれ!
 
 「後退するぞ!  橋のたもとの門まで下がる!   行け!   下がれ!」
 
 押され気味の防衛隊は我先にと下がっていった。
 
 「■■■■、毒の沼。毒素千倍」
 「■■■■、毒の沼。毒素万倍」
 
 魔王軍の先陣のオーガ達は足元に出来た深いドロドロとした緑色の沼に悲鳴をあげて沈んでいく。後退しようにも毒の沼が広がる方が速い。腐れたような臭いを漂わせ橋が白い淀んだ霧に包まれた。
 
 「ロッサ!   主人より毒気を出すとは何事であるか!」
 
 「申し訳ありません。久しぶりにミカエル様に会えたので、少しやり過ぎてしまいました」
 
 とりあえず、捲き込まれた味方はいないから良しとしよう。それとケンカはいいから速く逃げようね。さっきのヤバそうな白い霧がこちらにまで流れて来たから。
 
 僕は軽いルフィナとグラマーなロッサを抱き抱えて神速を使って門まで下がったが、さすがに重い。ルフィナはまだ軽いが、肉を付けている時のロッサは大人の女性と同じだ。
 
 僕の前では肉を付けて来るように言った事を守ってくれたのは嬉しいが、僕の力は一般人以上くらいしかないんだよ。二人はさすがに重い。でもせっかく肉を付けてくれて出て来たのだから……   揉みっと……
 
 「あふっ……」
 
 なかなか良い肉の付き方。もとは骨だけのノーライフキングなんだから、肉も付きたい所に自由につけられるのかな。
 
 「何をしているのであるか!」
 
 スキンシップである。二人を下ろすと顔面に飛んできたナイフを神速で避け、ロッサの豊満な胸からも手を離した。
 
 「うげげぇ……」
 
 毒付のナイフかよ。冒険者よ、スマン。避けたナイフの先にいた冒険者に当たってしまったが、僕も両目を無くす訳にはいかないんだ。
 
 「毒付は止めろ、死人が増える」
 
 「ロッサ、こっちに来るのである!」
 
 離れがたいロッサの目線がゾクッとするね。色っぽいとは正にこの事。去り際にお尻を揉みっと。
 
 「おのれ、一度ならず二度までも……」
 
 冗談でしたで、済まない雰囲気。やり過ぎたかな……    だって仕方がないだろ。本当ならこんな橋の上での殺し合いより、ビーチに寝転んで日焼けしたいんだよ。
 
 本当なら今ごろプリシラさんのマイクロビキニやクリスティンさんのホルターネックのビキニの女の子と遊んでいたのに……    あれ?
 
 さっき僕に投げつけたナイフを持っていたルフィナの右手。二の腕の方まで肌が見えていような。ルフィナは黒いネクロマンサーのローブを被っているが、いつもその中の服も黒っぽい長袖の服を着ているはずなのに……
 
 神速!   モード・ツー!
 
 無駄な神速と言うなかれ。僕は眼にも止まらぬ速さでルフィナの前に立ち、一気にローブを広げてみせた。
 
 オう、ノぉー。  こんなリアクションが出るくらい。ローブの中のルフィナは、ブラックのモノキニを既に着ていた。
 
 「なっ、何をするのである」
 
 控えめな胸元が男心をくすぐる。おへそを見せる様に大きく開いた水着が、見せない様で見せると言う反則技。色っぽさとは、かけ離れた幼児体型が、大人を女性を目指して背伸びしている感じに心踊る。
 
 「どうせ似合わぬと笑うつもりである」
 
 そんな事をする訳がないだろ、とても良いよ。確かにその水着を着こすには、ロッサほどのボディの持ち主の方が艶っぽさが出て似合うのだが、ルフィナのような幼児体型と水着の色っぽさが一粒で二度美味しい感が良く出てる。
 
 「可愛いですよ。着てくれたんですね。良く似合ってます……    おわっ!」
 
 僕達に向かって急ブレーキを掛けた重騎兵が小石を飛ばしてきた。
 
 「貴様、何をやっとる!」
 
 はあ?   ルフィナの水着姿を見てるんだよ。見れば分かるだろ。戦争どころじゃないんだよ。お前には見せてやらねえ。僕はルフィナのローブを戻して水着を隠した。
 
 「傭兵、白百合団、団長のミカエル・シン、アシュタール帝国男爵です。貴方様は?」
 
 体格が良く、大きな槍を持っている男はフェイスガードをあげて睨むように答えた。
 
 「殲滅旅団、アシュタールの男爵だと!   なんでここに……    我はラウエンシュタインの騎士団長ランプレヒト・ジキスヴァルト、ハルモニア王国男爵である。ここで何をしておる!」
 
 だ・か・ら、ルフィナの水着姿を見てるんだよ!   邪魔をするから少ししか見れなかったろ。後ちょっとで手を入れられたのに。これ以上、邪魔するなら神の元に送るぞ!
 
 「ネーブル橋を渡って魔物が攻めて来ております。今は、毒の魔法で進攻は停滞中ですが、すぐに攻めて来ます。門を閉じて防衛をされるのがよろしいかと」
 
 「何を言うか!   今までネーブル橋の門を閉じたことなど一度もない!   貴様らは引っ込んでいろ、我らラウエンシュタイン重騎兵が魔物など蹴散らしてくれる!」
 
 貴方が言えと言ったんでしょうが。魔導砲から煙が出てるのが見えませんか?    橋の先は毒の煙で見えないだろうけど、その先は見渡す限り魔物が列になってるんですよ。
 
 「退け!   行くぞラウエンシュタイン重騎兵、付いて参れ!」
 
 僕の話は良く無視をされます。無視されるのには慣れて来たけど、この気分の悪さには慣れないねぇ。
 
 「ルフィナ、ロッサ、毒を消して。騎兵が通る」
 
 「死ぬような味方はいないである」
 「ミカエルさまの助言を無視されるのですから、このままでいいかと」
 
 頼むから早く消してくれ。毒素千倍とか、そこの空気を吸っただけで肺が腐りそうだよ。
 
 「早く!   報酬を忘れたのか!?」
 
 言いたくない言葉がルフィナを動かす。報酬の事は後でうやむやにしたい。
 
 「くだらんが、報酬の為。■■■■、浄化」
 「マイ・ロードの望むがままに。■■■■、浄化」
 
 毒を含んだ霧までは消せなかったがラウエンシュタイン重騎兵が橋を突撃していく。こんな狭い所で騎兵を使うくらいだから、それなりに勝算があるのだろう。
 
 
 だが、魔物の列はネーブル橋をノルトランドまで埋め尽くしていた。
 
 
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