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第百三十七話
しおりを挟む僕達は傭兵。上があっちに行けと言えばあっちへ。こっちに行けと言えばこっちへ。パンツを脱げと言えば…… 女性限定で。
「え!? ルネリウスじゃないんですか?」
「……はい。白百合団はアンハイムオーフェンで従軍するようにとギルドからの指示です」
ここから約半日かかる距離の西にアンハイムオーフェンがある。狙われるならルネリウスだと思ったのに。やっとここまで着いて、また移動なのか。
「分かりました、移動しましょう。白百合団、アンハイムに向けて移動です。全員乗車、そこの酔っぱらい、急げ!」
「少しは休ませろって、まったく人使いの荒い団長だ……」
僕はクリスティンさんの手を引いて馬車に乗せ、酔っぱらいの尻を押して馬車に詰め込んだ。マルテ嬢の行き先も決まったし、ラウエンシュタインから逃げて来た人もこれからは自力で頑張ってもらわないと。
みんなとの別れ際、あのオバチャンは逃げ出した人達の陣頭指揮を取っていた。やっぱりスカウトするべきだったか。
「頑張るんだよ、死ぬんじゃないよ」
オバチャンも無理な事を言うもんだ。僕は振り返らずに手だけを振った。僕も死にたくはないですから、何とか頑張ってみますよ。
無茶な言葉に少し気分が落ち込みそうになった時、急に首に腕を廻されて荷台に引きずり倒された。
「報酬は望みのままだったよな」
くそッ、酔っぱらい! お前には払ったばかりだろうが! 押し倒された僕の回りにはメンバーが目を輝かせて見下ろしている。アンハイムに着くのは遅くなりそうだ。
アンハイムオーフェンの街。ルネリウスファイーンから約半日もあれば十分に着く距離にある中堅所の城塞都市だ。
人ってのは面白い者で楽しい事をすると時間が短く感じられ、嫌な事は長く感じられる。例外もあるが、僕の体感では一時間も経ってないのにアンハイムの城門が見えて来た。
僕は馬車を操車している、普段の事だ。何故かパンツ一枚しか履いてないのは普段とは違う。隣に座っているはずのアラナが居ない、普段とは違う。影のダークエルフを膝枕をしながら操車してる事も普段と違う。
もっと言えば薄着になったダークエルフが僕の膝枕で寝ていること。 ……おかしい? 確かマルテ嬢の護衛に付けたのに、僕の事が恋しくなって帰って来たのか!? しょうがないなぁ。
僕は薄着の服の見えそうで見える角度に満足がいかず、少し直してあげようと左下を見ると、スタンプを押すように足の裏で蹴られた。
「何、見てんだ、てめぇは!」
顔に張り付いた足の裏に対抗するようにと力を込めて左下を見る。その角度じゃダメなんですよ。それだと見えてしまう。見えてはダメだけど見えそうにならないとダメなこの至高の感覚が分からないのですか。
「プリシラさん、おはようございます。後ろのみんなは元気ですか?」
「あぁぁん、てめぇは見なくていいんだよ」
見なくていいってどういう事ですか!? まさか何かあったのか! 何があったっけ? そういえば荷台で報酬を払って……
「プリシラさん! 足を退けてください。みんなは大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だから、てめぇは見なくていいんだよ」
さらに力を込めるプリシラさんに力で対抗する僕。これは引けない、引いてはダメだ。後ろで何があるのか団長として確認しなければ。
「ぶ、り、じ、ら、ざ、ん~」
「てめぇぇぇ~」
お互い一歩も引かない力の均衡。ダークエルフの影さんも頭の上でこんな事が起こってるとも知らずに、すやすや寝てる。
バカめ! 僕を舐めるな! 僕は一瞬、力を抜いてプリシラさんの足をやり過ごした。勢いついたプリシラさんはそのまま足を前に。僕はプリシラさんの足首を見た時点で右から振り返った。
そこはまるで秘密の花園、官能の世界が広がっているはずが、僕が見たのはプリシラさんの鍛え上げられた足のスネだった。
「ぷぎゃっ」
プリシラの野郎は僕のフェイントで体勢を崩したのに、その場で跳ねて右蹴りを僕の顔面にぶちこみやがった。
「ソフィア、腐れがまた暴れたぞ、治しておけ」
「またですか。 ……団長、馬車から落ちてるし、目も落ちてますよ」
「唾でも付けて入れときゃいいだろ。おい! お前ら起きろ。もうすぐアンハイムだ。服ぐらい着ておけ」
「プリシラさん知ってますか。目にはイー・ピー・エーとかシー・アイ・エーとかのエイヨーが入っていてお肌がツルツルになるんだそうですよ」
「……食うか?」
「団長のなら食べられます」
僕が痛みで気を失う前に聞いたんだ。本当に聞いたんだよぉ。
小鳥のさえずり、心地よい風。そして柔らかい膝枕。目覚めるとそこには美しきダークエルフの影さんが僕を覗き込んでいた。
どうやら気を失っていたらしい。おや? 目が見えるぞ。左目は毒で治りが遅かったから心配だったんだよね。
「良き人……」
心配そうに僕を覗き込むダークエルフ。何か心配をかけるような事があったかな? もしあったとしても、それは普段のこと。いつも通りさ。
「良き人……」
なんだか潤んだ目を閉じて近付いてくる。これは目覚めのキスだね。こんな目覚めならいつでもオッケーさ。もしリクエストに応えてくれるなら、膝枕は生足でお願いしたい。
近付いて来たダークエルフの両肩を跳ね上げるようにして僕は引き離した。ダークエルフは驚いた顔をして僕を見る。驚くのはきっとこれからだよ。
ダークエルフの頭が合った所、今は僕の両腕がある所に通るプラチナ色の光。さらに驚きを隠せないダークエルフ。
いつものことさ。ソフィアさんのプラチナレーザーは僕の両腕を撃ち抜く。もちろん側には居ないし見えもしない。見えたのはアンハイムの城壁に、穴が空いて焦げた煙だけ。
だ・か・ら、どうやって場所が分かるんだよ。何故にこのタイミングが分かる!? だいたい、これから戦争するのに城壁に穴を開けるな! 小さな穴とはいえ、ダムだって壊れるんだぞ。
「良き人……」
同じ「良き人」でも三回目は恐怖に震えていた。気にするなよ、いつものことさ。僕は両腕から血をピューピューと流しながらダークエルフとアンハイムの城門をくぐった。
白百合団がどこの宿屋に泊まっているかなんて簡単に分かる。宿屋には必ず飲み屋か食事処があるから、そこから聞き慣れた笑い声か悲痛な叫び声が聞こえたら白百合団が泊まってるとみていい。
通りを歩くと情緒漂う佇まいが老舗の重みを感じさせる素晴らしいお宿から、見知らぬ男がドアを破って飛び出して、中から酔っぱらいの高笑い。……今日のお宿はここみたいだ。
中に入ると酔っぱらいからのハルバートが、僕とわざとらしく腕を組んで入って来たダークエルフの間を裂くように飛んできたのを避け、僕は何事も無く席を二人ぶん用意して座った。
「さすがプリシラさん、大仕事の前に派手にお金を使いますね。修理代はプリシラさんのポケットマネーから出してもらいますよ」
「ふざけるな! ドアはあの男が勝手に転んだんだ!」
「ハルバートの説明は?」
「あ、ありゃぁ…… 手が滑ったんだ……」
語るに墜ちたな、そんなの誰が信じるものか。後で宿屋に謝罪と保証をしないと。でも戦争になるのだから保証は少し待ってもらおう。払わないで済むかもしれない。
「もういいです! 傭兵ギルドの方には行ったんですか? または領主様の所は?」
「それは、てめぇの仕事だろ団長。働けよ」
目が飛び出て、両腕をレーザーで貫通された男を働かせますか!? 働かせますよね白百合団なら。僕は黙々と出来上がった物を食べ、ダークエルフの影を引き連れてギルドに行こうとしたら…… 哀れ、プリシラさんに首根っこを引っ付かまえられ酒の席に同席させられた。 ……南無。
僕とクリスティンさんは傭兵ギルドに向かった。本来なら魔王軍が来ていても不思議ではないのだが、まだ来ていないらしい。僕とルフィナやロッサの遅延戦術が聞いたのか、悪魔の声に恐れたのかは知るよしもない。
中堅所のアンハイムだが独立した傭兵ギルドは無かった。冒険者ギルドに並列されてある小さな窓口だった。やはり冷遇されてる傭兵ギルド。だが、しかし、僕の隣に居るのはクリスティンさん。
羨め男ども! こんな美人と腕を組んで歩いているのは白百合団、団長のミカエル・シン様である。
う~ん、人が居ないし。居てもオバチャンばかりだし。最近、女運というのを考えてしまうよ。果たして僕は運のいい方なのか、悪い方なのか。
「……傭兵、白百合団です。 ……アンハイムで従軍するようにと命を受けました」
契約はクリスティンさんに任せ、僕は暇そうにしている冒険者ギルドの過去の美女に話を聞いてみた。
アンハイムオーフェンは戦時体制が取られて冒険者も傭兵として徴用されたが、街の人は逃げ出しているのは少ないらしい。
昨日の今日では魔物が攻めて来るなんて実感が無いようだった。お陰で宿屋の清潔なベットで寝れるけれど、街の人には早く逃げ出してもらいたい。
ラウエンシュタインのように捕虜を連れて逃げるなんてゴメンだ。逃げるなら身軽じゃないと。
クリスティンさんの受付が終わると、僕達は正式に領軍の傘下に入った。魔王軍が来るなら早くても明日だろう。今日はゆっくり寝させてもらおう。一人で、誰にも邪魔されずに……
「今日の輪番は自由参加な!」
しまった。戦時団則の適応を言うのを忘れてた……
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