異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百三十八話

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 「アラナ、敵の数は!?」
 
 「オーガ、ゴブリンが約千五百ッス。その他にトロールが十、それとサンドドラゴンが一匹ッス」
 
 こっちが当たりか!   アラナの飛ばしたドロンはアンハイムの北、五キロ先を行軍中の魔王軍を見付けた。
 
 
 白百合団は置いてきぼりを喰らった僕以外は、朝から北門に集まり領軍の指揮に入っていた。僕が寝坊したのは、いつもの輪番のせいだが今回は無傷だ。誰も起こしてくれなかったけど。
 
 領軍及び傭兵、全てが北門に集まり僕は神速モード・ツーを使って周りには分からないように列に並びアラナを探した。
 
 「まったく、いつまで寝てるんだか。いい身分だな団長さんにもなると……」
 
 僕は言い返す言葉を飲み込み、アラナとドロンを連れて列を離れた。偵察をしたかったからだ。覚えておけよ、次に突撃が掛かったら先陣切らせてやるからな。
 
 それで見付けたのがサンドドラゴンを率いた魔王軍千五百。てっきり中央のルネリウスファイーンに行くと思っていたのに、サンドドラゴンも連れているならこっちが本命なんだろう。
 
 と、思いたいが兵力が千五百とトロール十は総兵力としては少なすぎる。ラウエンシュタインに残しているのか、もしくは三都市同時に攻撃か。魔王軍の総兵力が分からないので何とも言えないが、ここを落とすには十分過ぎる戦力だ。
 
 なんて言ってもこちらの戦力が心もとない。徴兵された冒険者が約百人。騎士団に至っては重騎兵が五十人、騎士五十。総兵力二百で千五百とトロールとサンドドラゴンを相手にする。
 
 まだ昼にもなってない。明るいうちなら街の人も逃げやすいだろうし、いつも通り時間を稼いで撤退だね。そしていつも通りの殿。   ……今度は先に逃げたいよ。
 
 アラナの報告を聞いた騎士団長の焦りは隠せなかった。一人でブツブツと言ってると思ったら身振り手振りが大きくなるし、そう言うのは一人きりの時にやってくれ。不安が広がる。
 
 「よ、傭兵ども、壁外で陣を組め!   お、おまえ!   そこの亜人!   お前が指揮を取るんだ!」
 
 アラナに指差して指揮官の使命だと!?    アラナは白百合団のメンバーだぞ。そしてアラナの指揮官は僕なのに……    なんだか置いてきぼりばかり喰らってる感じ。
 
 「団長、どうするッスか」
 
 どうするって言われても反論する前に消えちまったからなあ。それに騎士の皆さんが僕達を城壁外に出そうと取り囲んで抜刀してるし、こりゃ逃げる事を考えた方がいいかな。
 
 「アラナは全体の指揮を取って。やり方は教えるから。白百合団、行くぞ!   城壁外で陣を貼る」
 
 だからさ、ここは僕がカッコ付ける所なんだから僕より先に門をくぐるなよ、プリシラ!    百人の傭兵を引き連れて勇ましく出る所なんだから。   ……音楽が欲しいね。
 
 音楽は無いがライトアップならあった。城壁外で陣を張ろうとしている僕達にサンドドラゴンからの魔岩の超特急が打ち込まれた。
 
 「ソフィア!   防御魔法!」
 
 僕達の頭上に虹色の薄い膜が広がり魔岩の激突で歪みながらも持ちこたえた。傭兵百人の上に張られた防御魔法の膜の上では、二十ほどの魔岩が防御魔法の膜をしならせ耐えきっている。
 
 「重い~!」
 
 防御は出来ても重さは感じるのか。魔法のお陰だろうけど、なんて怪力ソフィアさん。
 
 「岩の真下にいるヤツは退けろ!   魔法を解くぞ!」
 
 慌てて逃げる傭兵達を見計らって魔法を解除する。陣は崩れ逃げ惑う傭兵。こんなの何発ももらっていたら耐えきれるものじゃない。
 
 「団長どうするッスか!?   退却でいいッスよね?」
 
 そうしたいよ。魔岩が飛んで来たのを見た壁内の騎士が城門を閉じてしまったし、ここにいたら良い的にしかならない。
 
 ただ……   見てしまったのだよアラナさん。僕が振り返ってアラナを見た時に東門から出たであろうアンハイムの騎兵を。
 
 おそらく僕達をエサに迂回して、サンドドラゴンを仕留める気だ。サンドドラゴンさえいなければ持ちこたえると考えたのだろう。
 
 確かにあんな長距離砲撃を浴びていたら城壁なんて持ちこたえられない。アンハイムの騎士は命を掛けてサンドドラゴンを倒す気だ。もしくは、ただ逃げる気だ。
 
 どうする?   最初は逃げようと思っていたけどエサが逃げたら釣りは出来ない。かと言って、このままソフィアさんや他の魔法使いの防御魔法が続くとも限らない。
 
 魔王軍は西よりに多く配置した陣形だ。おそらく西門を攻める部隊と、サンドドラゴンを要した中央は僕達のいる北門を攻めるはずだろう。
 
 北門にはこのまま砲撃を加えて僕達や城壁を破壊してから、ゆっくり攻めるのかな。僕達が持ち堪えられないのを知って。
 
 「オリエッタ、右手のハンマーを無くして両手に盾を持てますか?」
 
 「持てますけど、オリちゃんはハンマーでプチっと潰したいです~」
 
 「盾に変えてください。ソフィアさん、クリスティンさん、サンドドラゴンの心臓を潰せますか?」
 
 「……時間があれば」
 
 「時間はあげます。ソフィアさんは?」
 
 「プラチナレーザーなら……   でも負傷した人を治したいし……」
 
 「五発分だけ残して残りの魔力は負傷した人に使って下さい。ルフィナ、ルフィナはどこ行った!?」
 
 「お前、何を考えてる……」
 
 「先ほどから団長の後ろで首筋を……」
 
 「血を狙うのは後にして下さい。溜め込んでいるアンデッドとゾンビ、全部出して下さい」
 
 「嫌である。アンデッドもゾンビも我の観賞用である。戦わせたりしたらキズが付くである」
 
 どこぞの世界にゾンビを観賞するヤツがいるんだよ。気持ち悪いから捨てちまえ。僕はルフィナの耳元に顔を寄せて魅惑の言葉を吐いた。
 
 「サンドドラゴンのアンデッド、欲しくないか?」
 
 「なに!?」
 
 驚いているのを隠す事も出来ないルフィナは顔を赤らめて言った。
 
 「ルフィナの父上であるラトランド侯爵だって持って無いんじゃないか?   サンドドラゴンのアンデッドだよ。滅多な事で手に入るものじゃない。アンデッドとゾンビを全部戦列に加えてくれたらサンドドラゴンをあげるよ」
 
 「サ、サンドドラゴン……   アンデッド……」
 
 恍惚の表情とはこの事なんだろう。僕だって初めて見るのに、アンデッドってそんなにいいのか?
 
 「わかったである。サンドドラゴンのアンデッド、夢々、忘れぬである!」
 
 価値観が違うってこんな時に役に立つ。僕にとってサンドドラゴンなんていらない、出来れば戦場で会いたくもない。
 
 「お前、どうするつもりだ……」
 
 「傭兵団、聞け!   これよりサンドドラゴンに突撃を掛ける。このまま居てもサンドドラゴンの魔岩に潰されてお仕舞いだ。あの魔岩を何とかすればアンハイムを守りきれる。全員、突撃陣形。中央に魔法使い。その両翼に傭兵団、アンデッドは前面に、ゾンビは足が遅いから後陣に付けろ」
 
 「お前、本気か!?」
 
 「本気ですよ。中央先陣はオリエッタ、倒すより進む事に集中しろ。プリシラさんはオリエッタの右に僕は左。アラナは中央後方で指揮を取りつつ三人を守れ、守り切れなかったらサンドドラゴンに着いても意味がない」
 
 「てめぇ、勝手に決めてんじゃねえ」
 
 「他に手がありますか?   逃げたいなら早めに言って下さい」
 
 「誰がそんな事を言った!」
 
 僕は聞き分けのないプリシラさんに近付いて他の人が聞こえない様に耳元でささやく。
 
 「スコアの上げ放題ですよ、プリシラさん。サンドドラゴンを殺ったらヤリたい放題です」
 
 「……た、たしかに。ヤりたい放題だな……」
 
 わからん。なぜ、そこで顔を赤らめながら「殺る」と聞こえたのは気のせいですか?    「ヤる」と言ったのですかプリシラさん。
 
 価値観が同じってこんな時に役立つ。殺ってやる。殺ってヤるぜ。
 
 
 
 「全軍前進。目標サンドドラゴン!」
 
 やっと主役らしくなってきた。僕達、城壁外軍はクサビ陣形でオーガの隊列に風穴をあけた。
 
 
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