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第百三十九話
しおりを挟む「くすぐったいです~」
「オラ、オラ、オラ!」
掛け声は違えどオーガの死体が増えてくれるのは、いい傾向だ。
僕達、城壁外軍はオーガに取り付くまでサンドドラゴンからの魔岩を四度喰らい、防御魔法で防げるだけ防いだ。
「オリエッタ! 魔岩は飛んでくる物だと思って注意しておけよ」
「オーガちゃんがいるのに飛んで来るんですか~ 先にポイントを取られないようにしないと~」
そう言う事では無いのだけどね。味方を巻き込んで魔岩を射つなんて造作もないことだろう。防ぐこちらとしては、オーガはいるし岩は飛んでくるしで忙しくて大変だよ。僕はアンデッドを先にやってアラナの元へ向かった。
「ソフィアさん、プラチナレーザーは撃てますか!?」
「撃てます。撃てますけどもう少し近付いてからの方がいいと思いますし魔法防御されたらどうしましょう」
ヤバい。失念していた。どうしても「レーザー」と名前が付くと現代兵器と考えてしまうけど魔法の一種なんだっけ。
「今は何発くらい撃てますか!?」
「八発は撃てます」
「補足します。射程内に入って「行ける」と思ったら前方横方向へ薙ぎはらうように一発撃ってください。それで魔法使いの有無を調べます。もし防御されたら、さらに近付いてから撃ちます。防御されなかったら続けざまに五発を扇状に!」
「わかりました」
「クリスティンさんは…… クリスティンさん大丈夫ですか!?」
クリスティンさんから滝のように流れる汗が美しいシルバーゴールドの髪を濡らす。こんなに汗をかいてるクリスティンさんなんて見たことがない。 ……ベッドではある。
「……大丈夫。 ……大丈夫です」
クリスティンさんは傭兵と思えないほど体力が無いが、こんなに疲れている姿をベッド以外では、見たことがない。サンドドラゴンの心臓を止めるには厳しいのか。
「アラナ、手を貸してあげて。クリスティンさん、苦しい時に悪いけれどもう少し頑張って下さい」
「……大丈夫。 ……大丈夫です」
やはり大き過ぎなのか、サンドドラゴンの心臓は。僕は後を任せて前線に戻った。ルフィナは…… 放っておいても大丈夫だろう。下手に近付いて首筋を噛まれるのは嫌だ。ここでブラックアウトさせられたら、どうなることか。
「団長~。見てください~」
前線に戻った僕に壁のなるほど大きなスパイク付きの大盾を見せるオリエッタ。
「オリちゃんは赤よりピンクが好きです~。見てください~。お気に入りの盾が真っ赤になっちゃったです~」
まあ、盾で殴り殺しているんだから仕方がないよ。尖ったスパイクには破れた服やオーガの頭や肉片が絡まって、真っ赤に染まってグロテスク。
「ミカエルぅ~。あたいのハルバートも真っ赤に染まっちゃったの~」
余裕だなプリシラ! ちゃんと働けよ。オーガの隊列の西側に寄っていた部隊は僕達を無視する様に西門を進んで行ったし、これはサンドドラゴンまで届くかもしれない。
「魔岩が来ます~」
昼日中でも輝くサンドドラゴンの周りで魔岩が作られ、トンを越える重さの岩が僕達に向かって飛ばされた。
「防御! 魔法防御だ!」
オーガを巻き込みショットガンの弾の様に撃ち込まれた魔岩は、直撃すれば形も残らぬ肉塊になってしまう。当たらなくても、転がって来た魔岩に潰された者も多い。
隊列が長く移動しながらの魔法防御ではどうしても端の方が守りきれない。傭兵を前から包み込む様に左右に別れたアンデッドの被害は、既に半数にまで上がっている。
ここまで来て引き返せるものか! 傭兵はほぼ無傷、魔法使いの魔力も健在だ。何よりも前衛の三人が強い。オリエッタは装甲服の巨大さで目立つが、全身を通る超振動のお陰でキズ一つ付いてない。
プリシラさんに関しては語る必要も無いくらい楽しんでる。僕の方も負けてない! 中古でボロボロの剣を、折らない様にチクチクと地味に……
「光った! 魔岩がくるぞ!」
サンドドラゴンに「仲間を大切に」と言う言葉を教えてあげたい。同族では無いが味方だろうが! 仲間を犠牲にしてどうする!
「ホームランバッターです~」
久しぶりに聞くオリエッタのホームラン予告。二メートルをも越える魔岩を迎え撃つオリエッタ。
「ふん!!」
オリエッタの間延びしない声と共に、殴られ打ち砕かれ飛散する魔岩。散らばった岩の欠片がオーガを襲い、手足をもがれ頭を粉砕される者まで阿鼻叫喚。
「最初からこうすれば良かったです~。もう一丁こい~」
無敵かこいつは! 何だか速さだけの僕が恥ずかしくなってくるよ。地味にチクチク刺すだけなんて派手さが無いよ。
「いいぞ、オリエッタ! あたいもやるか!」
お前は止めとけ。質量が違うんだよ。オリエッタは装甲服全面に超振動を流しているし、重量だけならオーガ数体分はあるんだ。
プリシラさんはハルバートに超振動を流しているとは言え、体重が……
「危なっ! プリシラ! オーガの首をこっちに飛ばすな!」
「知るか! てめえの仕事をしろ!」
たまに野性の勘が働くから手に追えない。速さだけでオーガくらいは対象出来るのに、心眼も使っていた方が良さそうだ、対プリシラさん用に。
体重はいつかバラしてやるぞ。クリスティンさんなんかは体型がモデルだから、僕的にはもう少し肉を付けてくれた方がいいね。
その次と言えばソフィアさんかな。もちろん太っている訳では無い。ふくよかな訳でも無く僕としてはジャストな肉付きなんだよね。痩せすぎず、太っている訳でも……
心眼! 神速モード・ツー!
全力で下げた頭の上をプラチナ色の光が敵を薙ぎ払う。イヤ、マジ、クビ、トビマス。
「ソフィアさん?……」
「団長が射程に入ったら撃てって……」
本当か!? 本当に射程に入ったから撃ったんだよね!? 信じていいんですか。首はさすがにヤバいです。
「端の方で防御魔法を使った者がいました。もう一度、撃てば防がれるかもしれません」
戦闘中と運転中のよそ見はいけないが、僕は思わずソフィアさんを見てしまっていた。
「後、四発は撃てます。うふふ……」
「ぐふっ……」
オーガの剣が脇腹に刺さる。僕はオーガの腕を切り落とし剣を抜いた。よそ見はダメだ。注意一生、怪我一秒と言う古い標語を思いだし、ソフィアさんの怒れる顔を見た。
「クソ野郎がぁ!」
怒れるソフィアさんのプラチナレーザーがオーガを味方のアンデッドごと薙ぎ払う。魔法を防ぐ綺麗な虹色も見えたけど終わった後には下半身の畑が立っていた。
「まだ三発ありますから。うふふ……」
「まだ」と考えるポジティブシンキング、見習おう。「後」三発、僕はそう考えてしまうネガティブさは腹に空いたキズのせいか。
まだ戦える、ポジティブシンキングで剣を振るう。だが血が止まらないどころか溢れ出してるようだ。悪魔の血の治癒力さえ上回るキズ、このままなら、いずれ終わる。その前にルフィナが寄って来る。
ソフィアさんに治してもらおうか。僕が離れて前線が崩れるのはマズい。アンデッドの穴を他の傭兵が埋めているのに僕が逃げたら左翼から崩れる。
ソフィアさんもそれが分かってるから治しには来ない…… と、思う。だが、それでいい。残り三発、出来るだけ近付いてサンドドラゴンの心臓を抉れ。
みんな頑張ってるのに一人だけ泣き言を言えるものか! ここが根性を見せるところだろ。僕は剣を振るう、無我夢中で。
剣が重い、盾も鎧も、まるで水の中にいるように体が動かない。神速は出てるのか、心眼は? 隣にいるオリエッタの装甲服を目印に前に進んだ。
「射程です」
「……いけます」
ソフィアさんとクリスティンさんの必殺の力を見せてくれ。
「殺せ!」
プラチナ色の光と見えない力がサンドドラゴンを射ぬく。
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