異世界に来たって楽じゃない

コウ

文字の大きさ
151 / 292

第百五十一話

しおりを挟む

 「プリシラさんは何処に行きました!?」
 
 
 僕が独立遊撃部隊の所に行くとクリスティンさんの指揮の元、皆が懸命に動いていた。
 
 「……プリシラならあそこ……」
 
 プリシラさんは城壁の上で仁王立ち。まだライカンスロープになって無い所を見ると余裕がありそうだ。その側にはアラナとロッサまで、ルフィナのサンドドラゴンはどうした?
 
 「クリスティンさん状況の説明を……」
 
 敵のサンドドラゴンからはオリエッタのレールガンを警戒して離れた所で防御魔法を常時展開して待機。トロールからの投石が終わってルフィナはサンドドラゴンを引っ込めロッサを出した。
 
 ロッサは遊撃部隊の方に来たがルフィナは不明。北門付近で派手な炎が上がっていたのでそちらに向かったのではないかと。
 
 プリシラさんとアラナは城壁の上にあがったが、ロッサの魔法で暇を持て余しているらしく、今は座り込んでしまっている。
 
 僕が城壁に上がるのと同じくしてロッサが消えた。ルフィナの魔力の限界で戻ったと思うが、そうなると魔力切れのルフィナの方が心配になってくる。
 
 「おう、遅かったな。だいぶスコアを稼いでくれたようだな」
 
 誉められてる気がしない口調が、プリシラさんの不機嫌さを物語っていた。城壁の上にはオーガの死体どころか血の一滴も流れていない。ここはロッサの魔法で城壁にさえ取り付けなかったみたいだ。
 
 「てめえは、こんなつまんねえ戦をやらせたかったのか」
 
 安全で良かったじゃないですか。遠距離から魔法攻撃による殲滅。怪我もしないで敵を倒せるなら、それに越したことは無い。
 
 「無事で何よりです。……こちらの敵は引き気味なんですね」
 
 「ロッサのアホが派手に魔法を使って出番無しよ。中央じゃあ、ルフィナの炎だか毒煙だかが上がってるしよ、あたいが降りようとしたらクリスティンのヤツが心臓発作をかましてくれて、この狭い城壁の上をのたうち回ったぜ」
 
 かなり大変みたいだったね。アラナは暴れるプリシラさんのお目付け役だったのかな。ご苦労さまでした。僕がプリシラさんの話をしっかり聞いた後にアラナの頭を撫でてやった。
 
 とても喜ぶアラナ、純粋でいいねえ。それを見てか、プリシラさんは僕の胸ぐらを掴んで引き寄せる様に顔を近付けた。
 
 「あたいは、こんな戦をしに来たんじゃねえだ。一回死ぬか、てめえ」
 
 プリシラさんとの身長差から僕は爪先立ちになり、よろよろと城壁の端の方まで追いやられ今にも落とされようとしていた。盾もハルバートも持って来なかった僕を、血に飢えたオーガの群れに落とそうと言うのですか。
 
 「ち、ちょっと待ってプリシラさん。プ、プリシラさんの為にちゃんと考えてありますから……」
 
 「ああん!?    何を考えているってぇぇ!」
 
 いえ、何も考えていません。ただの言い逃れですから。でも、本当に考えないと武器も無しに落とされそうだ。
 
 「い、今は言えません、秘密です。チュ」
 
 僕は最後にプリシラさんの手にキスをしたのだが、こんな冗談は通用せず、さらに一歩前に進んだプリシラさんのお陰で今やエビ反り状態で立たされた。
 
 「落ちるか……」
 
 もう、冗談だったのに本気にしちゃダメ。
 
 「ア、アラナが聞いてます。二人だけの秘密なんです」
 
 「二人だけ……」
 
 そこまで言って城壁の内側に投げ落とされた。城壁と言っても二階建ての民家を土魔法で補強した物だが、受け身を取っても地面とキスするのは嫌なものだ。
 
 「てめえ、忘れるなよ!」
 
 城壁の上で仁王立ちになり大声で威圧するプリシラさんの敵は僕なのだろうか。こっちに向かって叫ぶのは止めてね。敵が壁を登ったのかと勘違いする人が出そうだよ。
 
 間もなくして敵は後退していった。巨人が全滅、サンドドラゴンもオリエッタのレールガンを防ぐために防御魔法のせいで魔岩が撃てず、ソフィアさんのプラチナレーザーで多数が爆炎に飲み込まれ、今もルフィナ、ロッサの魔法で壁にさえ取り付けない。
 
 攻め手を欠いた魔王軍は後退を余儀なくされた。これはもう白百合団の大活躍と言っても過言ではない。これで少しは借金返済の足しになっただろう。
 
 「てめえら、逃げてんじゃねえ!」
 
 活躍出来なかった人が城壁の上で鬼の様に騒いでいるが、その怒りが僕の方に向くのも時間の問題だ。その前に逃げよう……    いや、周囲の状況を確認しよう。僕はクリスティンさん周りの状況を確認してもらい僕自身は逃げるようにオリエッタの元へ走った。
 
 神速を使えば「鬼ごっこ」だって負けません。僕は誰にも捕まる事も無くオリエッタの砲台に向かえた。
 
 砲台にはオリエッタの前面を半包囲するように土の壁が出来て、近くには破損箇所も多い六メートル級のゴーレムも二体が立ち、オリエッタは伏せ撃ちの射撃姿勢のままで、リヒャルダちゃんは砲台の後ろの方で隠れていた。
 
 「オリエッタ、リヒャルダちゃん、怪我はありませんか?   戦闘は終結ですよ、そんなに身構えてなくて大丈夫です。敵は逃げたしましたから」
 
 そこまで言うとオリエッタは装甲服のまま立ち上がりリヒャルダちゃんはフラフラと歩み寄って来た。
 
 「リヒャルダちゃん、怪我はありませんか?    大丈夫ですか?」
 
 リヒャルダちゃんは「はい」と、しっかりした口調で返事をしたけれど、初陣の緊張感が足元に現れている。
 
 「オリエッタ、状況の説明を……    最後の方でかなり外していたように見えましたが」
 
 立ち上がったオリエッタは装甲服の前面を開け飛び降りて来た。白のスク水が眩しいねぇ。
 
 「リヒャルダちゃんのゴーレムが一体破壊されました~。    でもお陰さまでオリちゃんは無傷です~」
 
 凶悪な巨人を薙ぎ倒したと思えないほど可憐なスク水少女はいつもの口調で答えてくれた。本当に似合うね、その白のスク水は。
 
 「ご苦労さまでした。レールガンの残弾はどれくらいです?」
 
 「レールガンに関しては問題ありです~。弾は六十発ほどありますが、レールガンの砲身が曲がってしまったようです~」
 
 当たらなかった理由がこれか。しかも二万ゴールド分も撃ったなんて派手に散財したものだ。巨人の分で幾らもらえるかな。
 
 「レールガンは使えなくなってしまったのですか」
 
 「予備の砲身に交換すれば大丈夫です~。予備は一本しかないです~。新しく作るにはお金と時間が欲しいです~」
 
 お金の事は何とかなっても時間はどうにもならないよ。でもレールガンは強力な武器だけにどうしても欲しい。出来れば弾を安く作ってくれたら嬉しい。
 
 「わかりました。交換を急いで下さい。次の時にも必要になりますし、予備の製作も続けて行って下さい」
 
 「了解です~」
 
 オリエッタは敬礼をするように右手を額の所へ持っていった。うむ、白いスク水に敬礼姿は可愛くて良し。
 
 「リヒャルダちゃんはどうでしたか?   怪我はしてないようですが初の実戦は?」
 
 「わた、わたしも大丈夫です……    緊張しましたが大丈夫です」
 
 初陣だからこんなものかな。砲台の回りには魔岩も飛んで岩のオブジェが芸術的な形を彩っている。ゴーレムも一体が殺られ激しさを物語っていたいるが、オリエッタが無傷な所を見るとリヒャルダちゃんがどれほど優秀だったかが分かった。
 
 「お疲れさまでした。この後は遊撃隊の方に行って報告して下さい。夕御飯が出るのでオリエッタの分も受け取って戻って待機していて……    ぐわっ!    痛てえ!    何だこれ!」
 
 僕がリヒャルダちゃんに今後の事を話していると後ろから抱き締められる様に両腕を捕まれた。何で装甲服が動くんだ!?
 
 「オリエッタ、装甲服が動いたよ!」
 
 二の腕を捕まれて身動きが取れない。しかもかなり力が入っている様で身動き一つ取れないでいた。
 
 「簡単な動きなら自動で動くんです~」
 
 なるほど、そんな事も出来るんだね。自動人形、オートマタかな?    これが量産の暁には魔王軍も倒せそうだね。それで……    何でアザが出来そうなくらい捕まれているのかな?
 
 「オリエッタ、痛い、痛いですよ。何でこんな事するの」
 
 自分で言って分かった。いつものパターンか。オリエッタがこんなに強引だったなんて、成長したんだねオリエッタ、僕は嬉しくて悲しいよ。
 
 「もちろん、ご褒美をもらうためです~。オリちゃん頑張ったです~。ご褒美をもらう権利を主張します~」
 
 やっぱりね。本当ならこの後にルフィナの所で報告を聞かないといけないしプリシラさんの事もある。オリエッタだってレールガンの砲身の交換をしないといけないだろ。
 
 「リヒャルダちゃんも白百合団のメンバーです~    一緒にご褒美をもらうです~」
 
 余計な事を言うな。臨時で借り受けているだけで、白百合団のメンバーじゃないよ。まだ「つぼみ」のリヒャルダちゃんに、なんて事を言い出すんだ!
 
 「報酬ならギルドからもらえるのでは?」
 
 そう、その通り!    貴女への報酬は傭兵ギルドが支払います。白百合団、僕からの報酬は無いんですよ。メンバーにのみ強制的に支払わされる僕の身にもなって。
 
 「リヒャルダちゃんはクリスティンさんの所へ報告に行って!   早く行っ……     ぐぐぅっ」
 
 さらに圧迫を強め装甲服が僕を体ごと締め付けあげる。装甲服はオリエッタの力を増大させるだけじゃないのか。これが勝手に動き出したらどうやって止める。服自体に超振動が流れて防御力も相当なものだ。
 
 「リヒャルダちゃん、団長からの報酬はそれは素晴らしい物なんです~。リヒャルダちゃんも経験しておくといいです~」
 
 オリエッタの甘い言葉に一歩前に踏み出そうとしたリヒャルダちゃんに僕は最後の力を込めて言った。
 
 「行け!」
 
 リヒャルダちゃんは我に返った様に階段に向けて走り出した。僕の形相が怖かったからかもしれない。
 
 「良かったんですか~。リヒャルダちゃんも美味しそうです~」
 
 「ぐっ、ぐはっ」
 
 さらに話も出来ないように力が入る装甲服。呼吸もキツイ、体がきしむ。
 
 「オリちゃんが独り占めしちゃいます~。いただきます~」
 
 
 二時間が過ぎたころ、僕は砲台の上から、ポイッと穴の空いた靴下をゴミ箱に棄てるように投げ落とされ解放された。砲台の下にはリヒャルダちゃんが膝を抱えて顔を伏せて座っていた。
 
 「あ、あの、わたし……    わたしは……」
 
 目が合った僕に掛ける言葉は何だったのだろう。僕は言葉を遮る様に静かに言った。
 
 「リヒャルダちゃんは砲台で待機。継続して任務にあたって下さい」
 
 僕はそれだけを言って砲台を離れた。リヒャルダちゃんが「華」を咲かせるにはまだ早いよ。今はまだ可愛い「つぼみ」でいてね。いつか綺麗な華を咲かせてくれる人が見付かるといいね。
 
 
 ボロボロにされた団長の言葉に、どれほどの重みがあるのだろうか。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...