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第百五十一話
しおりを挟む「プリシラさんは何処に行きました!?」
僕が独立遊撃部隊の所に行くとクリスティンさんの指揮の元、皆が懸命に動いていた。
「……プリシラならあそこ……」
プリシラさんは城壁の上で仁王立ち。まだライカンスロープになって無い所を見ると余裕がありそうだ。その側にはアラナとロッサまで、ルフィナのサンドドラゴンはどうした?
「クリスティンさん状況の説明を……」
敵のサンドドラゴンからはオリエッタのレールガンを警戒して離れた所で防御魔法を常時展開して待機。トロールからの投石が終わってルフィナはサンドドラゴンを引っ込めロッサを出した。
ロッサは遊撃部隊の方に来たがルフィナは不明。北門付近で派手な炎が上がっていたのでそちらに向かったのではないかと。
プリシラさんとアラナは城壁の上にあがったが、ロッサの魔法で暇を持て余しているらしく、今は座り込んでしまっている。
僕が城壁に上がるのと同じくしてロッサが消えた。ルフィナの魔力の限界で戻ったと思うが、そうなると魔力切れのルフィナの方が心配になってくる。
「おう、遅かったな。だいぶスコアを稼いでくれたようだな」
誉められてる気がしない口調が、プリシラさんの不機嫌さを物語っていた。城壁の上にはオーガの死体どころか血の一滴も流れていない。ここはロッサの魔法で城壁にさえ取り付けなかったみたいだ。
「てめえは、こんなつまんねえ戦をやらせたかったのか」
安全で良かったじゃないですか。遠距離から魔法攻撃による殲滅。怪我もしないで敵を倒せるなら、それに越したことは無い。
「無事で何よりです。……こちらの敵は引き気味なんですね」
「ロッサのアホが派手に魔法を使って出番無しよ。中央じゃあ、ルフィナの炎だか毒煙だかが上がってるしよ、あたいが降りようとしたらクリスティンのヤツが心臓発作をかましてくれて、この狭い城壁の上をのたうち回ったぜ」
かなり大変みたいだったね。アラナは暴れるプリシラさんのお目付け役だったのかな。ご苦労さまでした。僕がプリシラさんの話をしっかり聞いた後にアラナの頭を撫でてやった。
とても喜ぶアラナ、純粋でいいねえ。それを見てか、プリシラさんは僕の胸ぐらを掴んで引き寄せる様に顔を近付けた。
「あたいは、こんな戦をしに来たんじゃねえだ。一回死ぬか、てめえ」
プリシラさんとの身長差から僕は爪先立ちになり、よろよろと城壁の端の方まで追いやられ今にも落とされようとしていた。盾もハルバートも持って来なかった僕を、血に飢えたオーガの群れに落とそうと言うのですか。
「ち、ちょっと待ってプリシラさん。プ、プリシラさんの為にちゃんと考えてありますから……」
「ああん!? 何を考えているってぇぇ!」
いえ、何も考えていません。ただの言い逃れですから。でも、本当に考えないと武器も無しに落とされそうだ。
「い、今は言えません、秘密です。チュ」
僕は最後にプリシラさんの手にキスをしたのだが、こんな冗談は通用せず、さらに一歩前に進んだプリシラさんのお陰で今やエビ反り状態で立たされた。
「落ちるか……」
もう、冗談だったのに本気にしちゃダメ。
「ア、アラナが聞いてます。二人だけの秘密なんです」
「二人だけ……」
そこまで言って城壁の内側に投げ落とされた。城壁と言っても二階建ての民家を土魔法で補強した物だが、受け身を取っても地面とキスするのは嫌なものだ。
「てめえ、忘れるなよ!」
城壁の上で仁王立ちになり大声で威圧するプリシラさんの敵は僕なのだろうか。こっちに向かって叫ぶのは止めてね。敵が壁を登ったのかと勘違いする人が出そうだよ。
間もなくして敵は後退していった。巨人が全滅、サンドドラゴンもオリエッタのレールガンを防ぐために防御魔法のせいで魔岩が撃てず、ソフィアさんのプラチナレーザーで多数が爆炎に飲み込まれ、今もルフィナ、ロッサの魔法で壁にさえ取り付けない。
攻め手を欠いた魔王軍は後退を余儀なくされた。これはもう白百合団の大活躍と言っても過言ではない。これで少しは借金返済の足しになっただろう。
「てめえら、逃げてんじゃねえ!」
活躍出来なかった人が城壁の上で鬼の様に騒いでいるが、その怒りが僕の方に向くのも時間の問題だ。その前に逃げよう…… いや、周囲の状況を確認しよう。僕はクリスティンさん周りの状況を確認してもらい僕自身は逃げるようにオリエッタの元へ走った。
神速を使えば「鬼ごっこ」だって負けません。僕は誰にも捕まる事も無くオリエッタの砲台に向かえた。
砲台にはオリエッタの前面を半包囲するように土の壁が出来て、近くには破損箇所も多い六メートル級のゴーレムも二体が立ち、オリエッタは伏せ撃ちの射撃姿勢のままで、リヒャルダちゃんは砲台の後ろの方で隠れていた。
「オリエッタ、リヒャルダちゃん、怪我はありませんか? 戦闘は終結ですよ、そんなに身構えてなくて大丈夫です。敵は逃げたしましたから」
そこまで言うとオリエッタは装甲服のまま立ち上がりリヒャルダちゃんはフラフラと歩み寄って来た。
「リヒャルダちゃん、怪我はありませんか? 大丈夫ですか?」
リヒャルダちゃんは「はい」と、しっかりした口調で返事をしたけれど、初陣の緊張感が足元に現れている。
「オリエッタ、状況の説明を…… 最後の方でかなり外していたように見えましたが」
立ち上がったオリエッタは装甲服の前面を開け飛び降りて来た。白のスク水が眩しいねぇ。
「リヒャルダちゃんのゴーレムが一体破壊されました~。 でもお陰さまでオリちゃんは無傷です~」
凶悪な巨人を薙ぎ倒したと思えないほど可憐なスク水少女はいつもの口調で答えてくれた。本当に似合うね、その白のスク水は。
「ご苦労さまでした。レールガンの残弾はどれくらいです?」
「レールガンに関しては問題ありです~。弾は六十発ほどありますが、レールガンの砲身が曲がってしまったようです~」
当たらなかった理由がこれか。しかも二万ゴールド分も撃ったなんて派手に散財したものだ。巨人の分で幾らもらえるかな。
「レールガンは使えなくなってしまったのですか」
「予備の砲身に交換すれば大丈夫です~。予備は一本しかないです~。新しく作るにはお金と時間が欲しいです~」
お金の事は何とかなっても時間はどうにもならないよ。でもレールガンは強力な武器だけにどうしても欲しい。出来れば弾を安く作ってくれたら嬉しい。
「わかりました。交換を急いで下さい。次の時にも必要になりますし、予備の製作も続けて行って下さい」
「了解です~」
オリエッタは敬礼をするように右手を額の所へ持っていった。うむ、白いスク水に敬礼姿は可愛くて良し。
「リヒャルダちゃんはどうでしたか? 怪我はしてないようですが初の実戦は?」
「わた、わたしも大丈夫です…… 緊張しましたが大丈夫です」
初陣だからこんなものかな。砲台の回りには魔岩も飛んで岩のオブジェが芸術的な形を彩っている。ゴーレムも一体が殺られ激しさを物語っていたいるが、オリエッタが無傷な所を見るとリヒャルダちゃんがどれほど優秀だったかが分かった。
「お疲れさまでした。この後は遊撃隊の方に行って報告して下さい。夕御飯が出るのでオリエッタの分も受け取って戻って待機していて…… ぐわっ! 痛てえ! 何だこれ!」
僕がリヒャルダちゃんに今後の事を話していると後ろから抱き締められる様に両腕を捕まれた。何で装甲服が動くんだ!?
「オリエッタ、装甲服が動いたよ!」
二の腕を捕まれて身動きが取れない。しかもかなり力が入っている様で身動き一つ取れないでいた。
「簡単な動きなら自動で動くんです~」
なるほど、そんな事も出来るんだね。自動人形、オートマタかな? これが量産の暁には魔王軍も倒せそうだね。それで…… 何でアザが出来そうなくらい捕まれているのかな?
「オリエッタ、痛い、痛いですよ。何でこんな事するの」
自分で言って分かった。いつものパターンか。オリエッタがこんなに強引だったなんて、成長したんだねオリエッタ、僕は嬉しくて悲しいよ。
「もちろん、ご褒美をもらうためです~。オリちゃん頑張ったです~。ご褒美をもらう権利を主張します~」
やっぱりね。本当ならこの後にルフィナの所で報告を聞かないといけないしプリシラさんの事もある。オリエッタだってレールガンの砲身の交換をしないといけないだろ。
「リヒャルダちゃんも白百合団のメンバーです~ 一緒にご褒美をもらうです~」
余計な事を言うな。臨時で借り受けているだけで、白百合団のメンバーじゃないよ。まだ「つぼみ」のリヒャルダちゃんに、なんて事を言い出すんだ!
「報酬ならギルドからもらえるのでは?」
そう、その通り! 貴女への報酬は傭兵ギルドが支払います。白百合団、僕からの報酬は無いんですよ。メンバーにのみ強制的に支払わされる僕の身にもなって。
「リヒャルダちゃんはクリスティンさんの所へ報告に行って! 早く行っ…… ぐぐぅっ」
さらに圧迫を強め装甲服が僕を体ごと締め付けあげる。装甲服はオリエッタの力を増大させるだけじゃないのか。これが勝手に動き出したらどうやって止める。服自体に超振動が流れて防御力も相当なものだ。
「リヒャルダちゃん、団長からの報酬はそれは素晴らしい物なんです~。リヒャルダちゃんも経験しておくといいです~」
オリエッタの甘い言葉に一歩前に踏み出そうとしたリヒャルダちゃんに僕は最後の力を込めて言った。
「行け!」
リヒャルダちゃんは我に返った様に階段に向けて走り出した。僕の形相が怖かったからかもしれない。
「良かったんですか~。リヒャルダちゃんも美味しそうです~」
「ぐっ、ぐはっ」
さらに話も出来ないように力が入る装甲服。呼吸もキツイ、体がきしむ。
「オリちゃんが独り占めしちゃいます~。いただきます~」
二時間が過ぎたころ、僕は砲台の上から、ポイッと穴の空いた靴下をゴミ箱に棄てるように投げ落とされ解放された。砲台の下にはリヒャルダちゃんが膝を抱えて顔を伏せて座っていた。
「あ、あの、わたし…… わたしは……」
目が合った僕に掛ける言葉は何だったのだろう。僕は言葉を遮る様に静かに言った。
「リヒャルダちゃんは砲台で待機。継続して任務にあたって下さい」
僕はそれだけを言って砲台を離れた。リヒャルダちゃんが「華」を咲かせるにはまだ早いよ。今はまだ可愛い「つぼみ」でいてね。いつか綺麗な華を咲かせてくれる人が見付かるといいね。
ボロボロにされた団長の言葉に、どれほどの重みがあるのだろうか。
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