異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百五十四話

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 「おのれぇぇ!」
 
 自分の思い通りに行かないからと言って、キレてはいけません。特にヘビのようにウネウネする巨木が三軒目の民家を壊してますからね。誰が弁償するの?   僕は嫌だよ。
 
 
 さすがにルフィナの魔法は容赦がない。本当に殺す勢いで巨木をふるってくる。僕は出来るだけ被害が少なくなる様にしているけれど、近付けばトゲが一斉に延びてくる。
 
 「ルフィナ!    いい加減にしろ!    家の修理代はお前の給料から出すからな!」
 
 静まるルフィナ。巨木も動きを止めてスルスルと縮んでルフィナの足元に消えていく。やっと我に返ってくれたのか。回りにも人だかりが出来ているし、この後始末をどうしよう。
 
 「ならば全てを滅ぼすのみ!」
 
 あれ?    もしかして、この世界の法則の一つ、「火に油を注ぐ」をやってしまったのか。そんなつもりは無かったのに。
 
 「全てを消し去る!    ■■■■、滅びの大風」
 
 僕はルフィナが詠唱を終わる前に神速のモード・スリーで駆け寄った。すぐに口を抑え、手近な家のドアを破って床に押し倒す。
 
 「お前、バカか!?    家はもちろん、人だって居たんだぞ。広域魔法を使ったらどうなるか考えてみろよ!」
 
 正直、かなり怒っているのだが伝わっただろうか?    口を抑えれば詠唱は出来ないし、それでも唱えるなら自滅の覚悟をしなければならない。この狭い家に飛び込んだのだって、滅びの大風がルフィナ自身を傷付けるかもと思ったからだ。
 
 さあ、どうする?    今、謝れば乳を揉むくらいで許してやるぞ……    いや、パンツの中に手を入れるだけで済ませてやるぞ。僕は落ち着いたと見てルフィナを抑えている手を口から離した。
 
 「本当に甘いである。我らがこれしきの事で参るわけはないのである。    ……そうだな、ロッサ」
 
 「イエス、マイ・ロード。本当に甘いです。■■■■、滅び大風」
 
 振り向けばドアの側に立っていた真っ赤なドレス姿のロッサが外に向かって広域殲滅魔法を唱えていた。
 
 神速モード・スリー!
 
 僕は背中を向けているロッサに後ろから心臓を目掛けてナイフを突き刺した。ビクッと体を震わせ、滅びの大風が止まる。外の被害は……    無い事にしよう。
 
 「誰が甘いって言うんだロッサ」
 
 僕は突き刺したナイフで心臓を抉って空いている手で乳を揉んでやった。少しは団長様の怒りを知れ。
 
 「それが甘いと言うのですよ、ミカエルさま。このようなナイフでは死にません、むしろ心地よい」
 
 死なないのは分かってる。死ぬようなら心臓を突き刺すなんて真似は出来ないよ。ただ発動した殲滅魔法を止めたかっただけ。
 
 「ガハァ!」
 
 床から伸びる無数のトゲ。それらが全て足から腹にかけて突き刺さり、僕の動きを封じた。最初からこれが目的だったのか。
 
 「ご苦労、ロッサ。他愛も無いである。こうも簡単に引っ掛かるとは団長も甘いである」
 
 「てめぇ、ルフィナ。やりやがったな……」
 
 心臓に刺したナイフを、自ら前に進む事で抜き取ったロッサは振り返って僕の手を両手で持ち、自分から胸にナイフを押し込んだ。
 
 「はあぁ、心地よい……    ミカエルさまに貫かれるのは今生の幸せ……」
 
 僕にそんな趣味は無いと何度言ったら分かってくれるのか。ロッサとはいつかちゃんと話し合おう。
 
 僕の体に刺さる無数のトゲの痛みが引いてくる。「引く」と言うより感覚が無くなって来ているみたいだ。ロッサの心臓を刺している手に力も入らなくなってきた。
 
 「ルフィナ!    なにほ、ひ、は……」
 
 口さえ回らなくなってきた。きっとあのトゲには麻痺の効果でもあったのだろう。体を貫いたトゲが抜かれると、僕は力もなく倒れた。
 
 「昨日の戦果からの褒美をもらうのである。しかも朝から血を流すなど言語道断である。貴様の血肉は全て我の物と知るのである」
 
 それから二時間、ソフィアさんが敵襲を教えてくれるまで二人に好き放題ヤられた。
 
 
 
 「団長、敵襲です。あら、まだヤってたんですか?    敵が来ましたよ」
 
 ソフィアさん、こいつらをレーザーで撃ってくれ。いや、もう僕ごと撃ってくれ。
 
 「敵襲であるか。名残惜しいがここまでである。ところでロッサ、気づいたであるか?」
 
 「イエス、マイ・ロード。味の変化でございますね」
 
 「そのおとりである。血肉に毒や麻痺、腐れをながすと血や体液に変化があったである」
 
 「イエス、マイ・ロード。ロッサは腐れが良かったです。全身が腐り落ちる感覚が身を奮わせるようでした」
 
 「我は麻痺が良かったである。ピリピリする感覚は何物にも代えられないのである。今後も続けていくのである」
 
 「イエス、マイ・ロード。いろいろ試してみたいです。今度は致死量ギリギリまで」
 
 毒や痺れは調味料ですか!?    「今日は腐れが隠し味が決めて」と、でも言うんですか!?    なんで普通に出来ないのか!?    
 
 普通がいいよぉ。普通が!    死ぬ思いもしなくて済むし何より楽しいでしょ。楽しいのは大切だよ。この二人にとって「楽しい」のポイントがだいぶ違うような気もするけど。
 
 「いつまで乗ってるんですか。敵襲ですよ!    早く降りてください。ロッサも早く、息が出来ない」
 
 二人は満足しきって部屋を出ていった。僕はもう立ち上がる気力さえもないよ。大の字になって寝ている僕にソフィアさんが歩み寄って治癒の魔法をかけてくれた。
 
 「わたしは終わってからでいいですから、うふふ」
 
 この戦、長引かないかなぁ。
 
 
 
 
 「遅いぞ!    向こうは待ってくれねぇぞ!」
 
 僕はオリエッタの所に寄ってハルバートと新しい服を出してもらってから遊撃隊のいる場所に向かった。
 
 「遅くなりました。状況はどうなってますか?」
 
 これでも急いだんだ。神速もモード・スリーが使える様になったから試してみたいじゃないか。オリエッタから借りたハルバートを背負い、途中でソフィアさんを抱き上げて、走ってキスして乳揉んで、この速さなら満足だ。
 
 「敵はサンドドラゴンを前面に出して防御魔法を展開中。オーガやトロールはその後ろに広がってるな。あれじゃ、投石機も届かねえ。進軍待ちってところか」
 
 サンドドラゴンを前に出すのはいいとして、防御魔法を使っていたら魔岩も撃てない。魔法を解けばオリエッタのレールガンの餌食だし接近戦に持ち込むつもりか。
 
 「サイクロプスは見えますか?」
 
 サイクロプスはトロールより小さいし、オーガの中に混ざると見えにくいかも知れないが特徴的な肌の色。薄い青みがかった岩のような色なら探せば見付かる。
 
 「サイクロプスは見当たらねぇな」
 
 プリシラさんやアラナの視力で見付からないなら居ないのかな。もしかして昨日のパーティーで疲れて眠ってしまっていたらいいなあ。
 
 「団長、なんか飛んで来るッス」
 
 アラナが見つけた「何か」は僕の視力では捉えられない。その示す方向は正面北より僕らよりの北西だった。もし飛んで来る者があるとすればハーピィか。今度は空爆もありなのかよ。
 
 「クリスティンさん、伝令。空から爆弾を落とされる危険性あり。各軍団にも伝わるようにして下さい」
 
 クリスティンさんの側には若く綺麗な女の戦士が三人。それが伝令の為に散って行った。おそらくクリスティン軍団から選んできたのだろうけど、良く女性ばかり集めたものだ。きっと男を側に置きたくなかったんだろうね。いい事だ、僕も側に置く女の子を選びたいよ。ウエストが締まっていて胸が大きくて……
 
 「そんで、どうするんだ、あたい達は?」
 
 「ハーピィの爆撃をやり過ごす為に隠れましょう。一度、爆撃したら二度目までは時間が空くでしょうから……」
 
 「光った!」
 
 えっ!?    光るってサンドドラゴンの魔岩か?    防御魔法の中から撃てる訳が無いじゃん。内側からだけ撃てるなんて都合のいいものじゃないよ。
 
 サンドドラゴンを囲む防御魔法の中で光を放ち魔岩が生成されていくのを見た。魔岩は天高く打ち出され防御魔法の壁を越え、シュレイアの城壁さえも越えて雨のように降ってきた。
 
 「防御!    防御魔法!    隠れろ!」
 
 サンドドラゴンが作り出した魔岩は数百の細かい、細かいと言っても頭くらいの大きさの岩がシュレイアの防衛隊に降り注ぐ。
 
 「派手だな……」
 
 「派手ですね。この後、ハーピィの爆撃でもっと派手になりますよ」
 
 「オリエッタはサンドドラゴンみたいに撃てないのか?」
 
 オリエッタのレールガンは直進能力が高く、サンドドラゴンみたいに曲射をして当たる物じゃない。僕は「無理です」と言って、ソフィアさんが作った防御魔法の傘の下、円陣を組んでお茶を楽しんでいた。
 
 「ソフィアさんこの魔法は大丈夫なんですか?    いつもなら手を添えたりしてるのに……」
 
 ソフィアさんは僕達の為に紅茶を入れビスケットを用意してくれていた。これで魔法を同時進行しているんだから、よほどティーブレイクをしたいのか。上を見上げれば防御の傘の上にガンガンと岩が落ちてくる。
 
 「このくらいなら大丈夫ですよ」
 
 涼しい顔でお代わりの紅茶を入れてくれるが、次々と落ちてくる岩に思わず僕は頭を引っ込めてしまう。
 
 傘の中に入っているのは白百合団の五人だけ。他の遊撃隊は壁の陰や建物の中に入ってやり過ごす。魔岩を使うから城壁を狙って来る物だと思っていたが、先に中に人間を殺るつもりか。ハーピィの爆撃さえも壁内の人を狙うように落とされてきた。
 
 「さすがにちょっとキツいですね」
 
 涼しい顔で紅茶を飲んでいたソフィアさんは、防御魔法に手を当てるように僕達を守ってくれている。クリスティンさんにハーピィを始末してくれないかと、言うと「……距離が有り過ぎて無理」とのこと。
 
 爆撃も魔岩も一息付き僕が城壁の上ると、オーガの先方は城壁の直ぐ側まで来ていた。
 
 「プリシラさん!    スコアの稼ぎ時ですよ。茶なんかすすってないで働け!    遊撃隊!    前面に出ろ!」
 
 この遊撃隊、僕が隊長なのにクリスティンさんの命令ばかり聞くので困る。もう新生クリスティン軍団でいいよ。
 
 「……遊撃隊、死ぬまで戦いなさい」
 
 「ウオォォ!」
 「殺せ!    殺せ!」
 「クリスティン様の為に!」
 
 僕が隊長なんですけどね。
 
 「団長、もう一団が来るッス。今度は大きいッス」
 
 
 今度は僕にも見えた。グリフォンに捕まれたサイクロプスの姿を。空挺もありっすか。 
 
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