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第百六十二話
しおりを挟む僕とアンネリーゼ嬢は王都を離れ一路シュレイアシュバルツの街に向かった。過度な期待はしなかったけれど、馬の扱いは充分だった。ヒップの形も……
シュレイアの街までは少しばかり遠く、今から早駆けで行ったとしても夜中に付いてしまう。僕は明日の午前中に着くように、夜は野宿に決めていた。
フリートヘルムの用意したテントは二人用の小さな物で、食事も二人分があった。寝袋は無く、大きく可愛らしいブランケットが一つだけがあった。
フリートヘルムもなかなか、気遣ってくれたのだろうか。これからの事を想像してもいいのだろうか。想像だけならしてもいいのだろうか。
もちろん僕は外で見張りだ。広域心眼を最大まで広げ、何かあれば直ぐに分かるようにした。僕はフリートヘルムに試されているのかも知れないからね。
食事も済み、アンネリーゼ嬢にテントに入って中で休むように言われたが、僕の事を健全な男子として見てくれて無いようで、手を出す事さえ考えていないのだろう。本当は親交を深めたいのだけれど……
彼女にはゆっくり休んでもらうとして、明日はオーガを見付けたら直ぐ帰ろう。少しでも見れたら満足してくれるはずだから……
「おはよう、ミカエル。気持ちのいい朝ですね」
清々しい朝に綺麗な女性。それが下着姿なら今日一日、いい事がありそうな予感もする。
「アンネリーゼ様、下着姿ですよ」
「あらら、ごめんなさい」
顔を赤らめてテントの中に戻ってしまったが、アンネリーゼ嬢の下着姿を見ても、どうと言う事はない。なにせ、この世界の下着なんてTシャツに短パンみたいな物で、ブラジャーやパンティがある日本人には手軽な外出着にしか見えん。
もっとこう、透け透けのネグリジェとか、寝る時には香水しか着けないとかあるだろうに。まあ、公爵様が野宿するなんて事はないのだから、良いものを見たと心に刻んでおこう。
「ミカエル、手伝って下さい」
テントから出てくるアンネリーゼ嬢はフルアーマーメイルを着けようと、よろよろ歩きながら背中に手を回していた。
いつもなら周りの人が着けてくれるのだろうけど、今は健全な男子の僕しかいない。もちろん普通に着けた。手が滑ったり、手が大きく滑ったりはしない。僕は健全な紳士だからね。
プリシラさんには言えないが、滑らせたいとは思った。それは我慢したけれど、アンネリーゼ嬢には不思議な魅力があるようだ。
白百合団の中では、飛び抜けてクリスティンさんは綺麗な人だ。ソフィアさんは肉欲的に抱き締めたくなる。プリシラさんは機能美的な美しさでは群を抜く。
アラナ、ルフィナ、オリエッタにも良い所はあるが、アンネリーゼ嬢は各トップと比べると二番手、三番手にしか見えない。それなのに引かれる魅力とはいったい何なのだろうか。
「参りましょう、ミカエル」
アンネリーゼ嬢の着替えが終わるとスタスタと馬まで歩いて行ってしまった。
お~い~。僕はまだ着替えて無いし朝食は一日の力の源だよ。僕は急いでテントを片付け昨日の残りで朝食をまとめ着替えた。やっぱり魅力的なのは幻想か? それにいつの間にか僕の事をミカエルと呼ぶ様になったんだ?
僕達は戦の戦略的な事を話ながら、シュレイアの街の城壁代わりの街並みが見える前で馬を降り、そこからはドロンを持って徒歩で移動した。
目星を付けていた小さな林の中に身を隠すと、僕はアンネリーゼ嬢の文句を黙らせ、ドロンの映像が見える水晶を持たせた。
以前までは熱源しか分からなかったドロンも、今では映像が送られて来る。技術の進歩って凄いんだね。それをやってのけるオリエッタが凄い。帰ったら誉めてあげないと。
ドロンの高度を上げ、シュレイアの街の中を見ればオーガやトロール達の軍勢が援軍を得て、大軍勢に膨れ上がっていた。
その様子はアンネリーゼ嬢も確認し、これで仕事も終わった。帰ってから誰と、いちゃラブしようかの予定を妄想すると、やはり邪魔をされる。
「中に入りましょう」
こいつバカ!? バカだろ! 見たら帰るっていったじゃん、嘘つき! 中に入ってどうするの? オーガとダンスでも踊るのか!? 話し合いなんて出来る相手じゃないんだよ。公爵だからって何をやってもいいと思うなよ!
「それは危険です。敵は狂暴で直ぐに襲い掛かってきます。とても一人では公爵様を守りきれません」
それは、ちょっと嘘。予定ではドロンから魔物を見せて帰るだけだった。見付かって追われても馬で逃げるし最悪の場合は神速で抱き上げて逃げ切る。
例え敵と殺り合う事になったとしても何百と言う追っ手が来る訳でもなし、二、三十程度ならモード・スリーで余裕だ。魔族さえ出なければ何とかなるものを、何故に中に入りたいのか。
「ミカエルは不思議に思いませんか? 彼らの行動理念は何でしょう。これだけの数の食事や物資はどこから来ますか? 揃えた武器はどうやって作ったのでしょう? 指揮命令系統はどうなっていますか? 彼らの強さはどれくらい? 知らなければいけない事がわたしには沢山あるのです」
確かに分からない事ばかり。これだけの軍を支える物資は何処から来るのか。サンドドラゴン一頭を養うのにどれだけの食料が必要だ? 第一、何を食べるのだろう。
武器も誰が作る? 鍛冶屋でもいるのかな。異世界の鍛冶屋と言えばドワーフを思い出すけど、ドワーフは敵側なのだろうか。
僕も知らなければいけない事が沢山あるのを思い出す。僕は目の前の敵を倒す事だけに集中してきたけれど、公爵ともなればもっと全体の事を知らなければならないのか。
「中には入れません、危険です。ここで我慢して下さい」
「しかし……」
「僕が行って来ます。アンネリーゼ様はここで待っていて下さい」
「でも……」
「公爵様が一人で何でもやろうとは思わないで下さい。前に言ってましたよね、部下を死地に送らなければならないと…… それが今です」
「わたしも戦えます!」
「必要なのは戦う事ではありません。貴女にとって必要な事を考えて下さい」
それは僕自身に言っている様な気がする。白百合団だけならともかく、今は第一旅団の団長だ。一人で神速を使って好き勝手に暴れる時は終わったのかな。
「ドロンは自動周回するようにしました。アンネリーゼ様はここから敵を探って下さい」
僕は返事を待たずにモード・スリーで街に向かった。アンネリーゼ嬢は戦えると言ってたが、あれは売り言葉に買い言葉だ。僕もやっぱり火に油を注いでしまうようだ。それだけこの世界に馴染んで来たのかな。 ……巨乳になるのだろうか。
本来なら夜にこっそりと入りたい所だが、夜まで待つとアンネリーゼ嬢がクエストを増やしそうで今すぐにした。
まったく戦術的に間違っているのに、行くのは僕としても興味が頭を持ち上げたからだ。それは魔物の、特にサンドドラゴン程の大きさがある者の物資はどうしているかだ。
ゴブリンやオーガは人間に近い食料が必要だろう。トロールも大きいだけで量が多いだけだろう。だがサンドドラゴンはどうだ?
あの巨体を維持す食事の量はどのくらいだ? 毎日、ローストオーガや煮込みトロールがテーブルに並んでくれたら、こちらとしても助かるんだけどね。
そこまで考えているうちに、シュレイアの街の外壁になった民家に着いた。窓から覗くと中は土で埋め尽くされ城壁代わりにされていたのは、以前と同じだった。
西門付近まで行ってみたが敵は見当たらず、僕はそっと城壁の上まで飛んで身を隠した。城壁の上から中を覗くと、気持ち悪いくらいのオーガがひしめき合って巨人数体が北門付近で膝を抱えて座っていた。
「こりゃダメだ……」
とても中を探る余裕なんて無い。入れば必ず見付かるし、見付かれば二、三十どころか、数百に追われかねない。僕は探求心を押さえつつ撤退を考え始めた時に、西門からウォードックに乗ったホブゴブリンが疾走を始めた。
偵察か? 僕は様子を見ようと壁の端の方まで行くとウォードックは、鼻をひくひくさせて一直線にアンネリーゼ嬢の方に向かって行った。
臭いでバレたのかな。僕には気が付かない様に行ってしまったけど、僕は人の臭いより普段からの野宿で着いた臭いの方が勝ったのか。
今度から出来るだけお風呂に入って身支度を整えよう。出来れば石鹸を使って泡風呂にして、いちゃラブしながらお風呂に入ろう。そう決めてから僕はウォードックの後を神速で追いかけた。
神速で走ればウォードックくらい直ぐに追い付く。モード・ツーで追い抜いてアンネリーゼ嬢を抱き上げて逃げる事だって楽勝だ。
だが僕は追い付かないし、追い抜かない。。ウォードックと一定の距離を保ったままアンネリーゼ嬢がいる林まで走った。
林に入ればウォードックのスピードは落ちたが依然としてアンネリーゼ嬢を定めて一直線に走って行った。
ウォードックの雄叫びで、やっと自分が危ない立場に立たされている事に気付いたアンネリーゼ嬢は、水晶を置いて剣を抜く。
大丈夫だ。全て広域心眼で僕は見ている。アンネリーゼ嬢が剣を構えた姿まで見えているが、その辺りの農民だってもう少しちゃんとした構えを取れるだろう。アンネリーゼ嬢の「戦える」は、その程度か。
僕は決してアンネリーゼ嬢がピンチになって僕の名前を呼んでから出るつもりは無い! ヒーローの様に最後まで後ろに居るつもりも無い!
アンネリーゼ嬢がウォードックやホブゴブリンに服をビリビリと破かれ着エロの極みを見てから出るつもりも無いんだ! ……と、思う。
僕はこの戦いを知ってもらいたいだけ。戦いとは命のやり取りだ。机の上で作戦を練るのとは違う。アンネリーゼ嬢は知らないから知りたいと言った。
それは、いいんだ。敵を知り己を知ればって言うし、敵の動向を調べるのも必要な事だから。アンネリーゼ嬢は知らないから知りたいと言った。それなら教えて上げるよ、命のやり取りを。
「ミカエル!」
「……ここにいますよ」
へっぴり腰で剣もまともに振れないだろうアンネリーゼ嬢は、ウォードックに囲まれていたが戦う意思はあるようだ。
アンネリーゼ嬢は後ろから掛けられた声の主を見る。その目は安堵と愛情のこもった瞳。あれ? 失敗したかな? 愛情の方は要らなかったのに…… くれると言うならもらうけど、その瞳は最後まで開けていられますか?
僕はアンネリーゼ嬢の剣を持った右手を、上から添えるように握り、左手は腰から前の方に回した。僕達は二人で一人の様に迫り来る敵に刃を振るった。
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