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第二百七話
しおりを挟む魔王軍の再侵攻が始まった。僕達はシャイデンザッハから北を目指す。
クノール領を目掛けて進んでいる魔王軍の目的はシャイデンザッハ自治領の飛地、ルンベルグザッハで間違いないとオリエッタのお爺様も言ってらっしゃる。
「頼まれていた物、三十本、三十馬分だ」
「えっ!? もう出来たんですか? しかも騎馬の分までもなんて」
「ドワーフを舐めるなよ。一本、出来ちまえば後は簡単だ、ガハハハハ!」
僕はアシュタール帝国と白百合団にだけ許された、超振動のハルバートと馬の武具を頼んでいた。オリエッタが研究費を捻出するべく借りたお金の条件がそれだった。
問題が二つ。これ以上の生産は僕達の資産では無理と言うこと。オリエッタの顔で格安にしてもらった上でツケ払いだ。老後の資金が心配になる。
もう一つは白百合団で使う人がいない。馬の方は使いたいが、武器の方では使う予定が無い。プリシラさんは元から超振動のハルバートだしアラナは最新の超振動の斬馬刀、クリスティンさんにハルバートは重くて持てない。
この三十本のハルバートは新しく白百合団に入団した人に使ってもらう。もちろんハローワークに募集要項を載せる訳にもいかず、旅団や騎士団から引き抜きたい所だが……
「……入るのは団では無く、棺桶ですね」
男性を入れる事を頑なに拒否してくれるだけなら、いざ知らず。入れる先が棺桶なんて、入りたい人がいると思いますか!? クリスティンさん!
「どうしても…… ダメですね」
僕の命で済むのならと、軽々しく言えば軽々しく心臓を止めるだろうクリスティンさんに、もうこれ以上は言えない。何処かに強い女性はいないか、ハローワークを探してみよう。
「それは、そうと魔王軍の狙いはルンベルグザッハに間違いないな。あそこには魔導砲があるからな、ガハハハハ!」
ネーブル橋の魔物の侵攻をも止める破壊力抜群の大砲が、ルンベルグザッハにもあるなんて。これは魔王軍の主力と言えども、止められるかもしれない。
行く必要も無いかな。ルンベルグザッハもシャイデンザッハも作りは同じで、大きな洞窟の中に城がある。正面からしか攻撃が出来ない以上、魔導砲の餌食になって全滅だ。
「ルンベルグザッハが落ちる事は無さそうですね。これでアシュタールの騎士団が来るまで時間が稼げそうです。」
「それがそうもいかん。ルンベルグザッハには魔導砲はあっても砲弾が無い。砲弾はシャイデンザッハでしか作られておらんのだ」
弾が無ければ鉄屑じゃん。普通、弾もセットで置いておくものでしょうに。効率が悪くないですか。
「魔導砲は全部で六門作られた。試作機がシャイデンザッハで二門作られ、それを元にルンベルグザッハで二門だ」
ここにもあるのか魔導砲! それならハルモニア軍が来た時に使えば良かったのに。使われても困るけど…… それに試作機だって!? 機械物は試作機が最強と相場が決まってる。
「ルンベルグザッハで作られた二門の魔導砲は威力はあるのだが連射性能が悪くてな、ネーブル橋に向いてないと言う事で威力を落とし、連射性能を上げたのがネーブル橋に備えられておった」
「砲弾はどうしてるんですか?」
「うむ、ネーブル橋の魔導砲の砲弾はルンベルグザッハで作られ送っているのじゃが、口径の大きい二門に付いてはシャイデンザッハで作って保管しておる。時のハルモニア王の命令で別々に置くよう言われておる」
確かにネーブル橋よりも威力がある魔導砲があるなら、何かあった時に攻めにくいよね。その時の王様の折衷案かな、面倒な案を出してくれたものだ。
「シャイデンザッハで試作した魔導砲は使えるんですか?」
「コケが生えておる」
物は大事に取っておこうね。今時の博物館だってエンジンのかかる車を置いてるのに、作ったドワーフが泣くぞ。
「ルンベルグザッハの魔導砲は使える?」
「砲弾があればの」
「その砲弾の話を知っている人は?」
「ごく一部のドワーフとハルモニア国王くらいじゃ」
何となく…… 何となく繋がった感じがする。今までの魔王軍の不可解な行動の理由が……
魔王軍が王都のクリンシュベルバッハまで陣を構える事も無く進めて来た。通常なら味方の被害を少なくするために防御柵を立てるがそれは無かった。
全てはクリンシュベルバッハを素早く落とし、補給を早く少なくする為だと思っていた。王都を落とす為の切り札であるレッドドラゴンは、白百合団が倒してしまったのが計算外だったろうが、それを見たハルモニア国王は早々に城を明け渡した。
追い討ちをかける事も無く、シャイデンザッハに逃げ込ましたのは魔導砲を恐れての事だろう。いや、少し違うか……
魔導砲があっても落とす自信があったはずだ。だからこそルンベルグザッハに魔導砲があっても主力を向かわせてる。砲弾が無いのも知らずに。
ルンベルグザッハは魔導砲があっても落とせる。そうなるとシャイデンザッハを先に攻めない理由は? おそらくは、兵糧攻めか。
シャイデンザッハには逃げ込んだハルモニア軍がいる。土地を失い、収穫は無に等しい。唯一の救いは逃げ出す時に持ち出した宝の山。金があっても食べる物が無ければ軍を維持出来ない。それよりも国を維持する事さえ出来ない。
ここまで見据えた戦略だったのか。魔王軍はここまで来れば、後はゆっくり攻めるだけ。無理にハルモニア軍と殺らなくても自滅するのを待つだけ。
そうは言っても魔導砲は怖いのだろう。ルンベルグザッハの魔導砲を抑え後顧の憂いを断つ。そしてクリンシュベルバッハはゆっくり煮込んでから食べるつもりだ。
手の込んだ調理法をしやがって。魔王は五ツ星のシェフか!? 銀座の寿司屋だって星持ちはあるんだ。要は素材をどう生かすかだ。
舐めるなよ、魔王! お前の敗因は僕と白百合団を計算に入れて無い事だ。レッドドラゴンを倒したのは僕達なんだ。お前は押し寿司にしてやるからな。
「我々、ドワーフはルンベルグザッハに魔導砲の砲弾を届け最後の一人まで戦う。貴様逹はどうするのだ」
心強いドワーフ王の言葉に殺る気が沸き上がる。いつか大トロを進呈しよう。ルンベルグザッハは魔導砲が無ければ落ちるのは必至だ。砲弾を運び魔王軍を倒せなくとも、アシュタール帝国が来るまで時間を稼げればいい。
「もちろん第一旅団もお供させて頂きます。共に魔王を倒しましょう」
僕達は慎重の差と、必要以上の髭を掻き分け抱き合った。これで敵の主力にデカいの一発お見舞いしてやるぜ。皆殺しの宴じゃ。
「どうやって砲弾を運ぼうかの……」
問題は山積みか……
一、砲弾の安全な運び方。
二、ドワーフの移動手段。
三、旅団、ドワーフの兵站。
四、白百合団の新規メンバー募集。
対策と傾向。
一、これに付いてはオリエッタがアイデアを出してくれた。馬車の荷台にハンモックを掛け、その上に砲弾を乗せる事で揺れを軽減して安全に運べる。砲弾は大きく一台の馬車に一発しか乗せられないのと、輸送用の馬車は十台しか確保出来なかった。
二、ドワーフは歩いてルンベルグザッハに行くつもりだった。残念ながらドワーフの歩幅では着いた頃にはルンベルグザッハが地図から消える。馬に乗せようとしても足の長さが足りず、ロバに変更したらロバが重さに耐えきれなかった。最終的に、馬車に押し込む形で移動してもらうが、全ての馬車で重量オーバーが行軍の妨げにならないか気になる所だ。
三、大切な兵站。食料や武器の予備、鎧や補修材等が必要だが、これにも馬車を使う。確認して良かった…… 食料の半分で以上が酒樽に変わって武具関係は捨てられていた。
四、ハローワークに電話をする前に、久しぶりに会うプリシラさんを一回り筋肉付けにしたゴリ…… 女性、白薔薇団のローズさん。彼女達の原隊が解散状態となり旅団に合流してくれた。
「久しぶりだな、シン団長。今は旅団長だったな」
「げ、元気そうで良かったです。み、皆さんもお元気ですか」
「あんまりだな。うちらの伯爵様は逃げ出すし騎士団なんかボロボロだぜ」
美女の抱擁は嬉しいものだ。例えローズさんと言えども、筋肉を落とせば充分にストライクゾーンに入るが、今はとても痛い抱擁だ。
人の不幸は蜜の味と誰かが言ってたっけ。白薔薇団の戦力はローズさんを筆頭になかなかの物だ。同じく剣や弓を使う副リーダーのリースさん、火系の魔術師ノーラさんと水系の魔術師ニコールさん。
それに王都クリンシュベルバッハでお世話になった新人剣士が五名。一人も欠ける事が無くて良かったよ。特にアメリーちゃんはお気に入りだったから。
「久しぶりですが、いきなり頼みがあるんです。白百合団に入りませんか?」
「……愛の告白かよ。照れるじゃねえか」
どれくらい遠回しに言っても、愛の告白には聞こえないだろ。僕の方が呆然としちゃうよ。なんて伝えれば入団して欲しい「だけ」に聞いてくれるのだろうか。
「顔を鏡で見てから言いやがれローズ」
「てめぇも、乳だけデカくなってねぇで少しは鍛えろプリシラ」
硬い抱擁で笑い合う二人。僕は少し羨ましく、解放感で胸がいっぱいだ。羨ましいと思ったのは、この世界に来て男友達を持った事がない。バカな話をしたり女の話をしたり、くだらない事で笑い合う男友達を僕は持っていない。
この二人の様に僕にも…… 少し考え、直ぐに諦めた。白百合団にいる限りそれは叶わぬ夢だ。それは仕方がないんだと自分に言い聞かせる。
「プリシラさん、任せてもいいですか?」
プリシラさんに勧誘は任せるとして、これで七人だ。後、二十三人は旅団とハルモニア軍から探したいが、探している時間が少ない。
準備に一日掛かってしまったが、全ては必要な事だ。魔王軍がルンベルグザッハに着くまで後、四日。僕達が着くまで五日。夜も走れば間に合うくらいだ。
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