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第二百三十五話
しおりを挟む見た目的には僕も怪我人だ。左手の義手の付け根からは血が滴り落ちている。
「オリエッタ姐さん、団長ッスよ」
久しぶりに見るオリエッタはゴスロリにフリルの着いたエプロン姿で、錬金術を駆使して義手を作っていた。周りには義手もあれば義足も、中には目玉さえもあった。
「団長~。元気そうで何よりです~」
元気ではあるけど、怪我人だからね。アラナは僕の残った左手を引いて走り出し、途中からは左手を持って走って行った。片手が無いと以外とバランスを崩す物だと血を撒き散らしながら追いかけた。
「左手の義手を…… それとゼブラを折ってしまいました。ごめんなさい……」
クリスティンさんに刺さった魔剣ゼブラは、三分の一を残して消え去った。あれで良かったのだろうか。クリスティンさんの心臓はもう自分の力では動いていない。具現化した心臓を僕に埋め込んで、僕の心臓が止まればクリスティンさんも死んでしまう。
「あら~。折れちゃいましたか~。硬度は強すぎるくらいだったんです~。今度は粘りも加えないといけないです~」
「剣より義手ッスよ。 ……これなんかどうッスか?」
僕に放って来たのを受け止めれば、美しい肌の女性の腕だった。誰かのだろうけど、腕さえ見ればその人がどれだけ美しい人か容易に想像はつく。
「ダメだよ、アラナ。この腕には持ち主がいるんでしょ?」
「そうです~。アシュタールのウィビィちゃんのです~」
「そうッスか…… これならどうッスか? これは男の腕ッスよ」
アラナが差し出す剛腕はとてもじゃないがサイズが合ってない。誰かのだろうけど、腕さえ見ればその人がどれだけ剛の者か容易に想像はつく。そして毛深過ぎて着けたく無い。
「それもアシュタールのダロン男爵ちゃんのです~。それに右手です~。団長は右手も義手にするんですか~」
しませんからね。有る物は大事に最後まで使いたい派なんですよ。何でオリエッタさんはナイフを取り出してるのかな?
「アラナ、他の人の義手を取るつもりはないよ。順番を待つから大丈夫だよ。 ……順番待ちってどれくらいかな?」
「今なら半年待ちです~。待つんですか~」
勇者特権として割り込ませてもらおう。半年も片腕が無いなんて戦いが待ってる僕には無理だよ。片方の手は胸を、片方の手はアソコを。
「割り込ませてもらっていいですか?」
「大丈夫です~。それに団長の左手の義手の予備はあるんです~。ただ超振動は付いて無いです~」
電動バイブの代わりにもなる超振動が付いて無いのは、ある意味で痛いが、それは神速でカバーしよう。今ならモード・シックスも出せるしね。
「それで構わないのでお願いします。後でいいので着けて下さい」
「分かりました~。今日の分が終わったら旅団に戻ります~」
「それとゼブラの方ですが……」
「あれは直せないです~。構造が……」
三十分も意味の分からない説明を受け、アラナは義手と共に眠り僕の左手からは完全に血が止まった。結論は最初の通りで、直すのは無理だそうだ。こればかりは予備も無いので当分は中古の剣に逆戻りだ。
「ハルバートならプリシラさんの予備があるです~。それにお爺ちゃんが作ってる筈です~」
確か白百合団に回した分しか財力的に作れなかった筈では…… また何処かに借金したのかよ。返せる宛をどこで見付ければいいんだ
「ハルバートはさすがに重いので白百合団の在庫の剣で何とかしますよ。時間が出来たら作って下さい」
「はい、は~い。今度はもっと凄いのを作るです~」
僕の命に関わらないのを作って欲しいと、切に願うばかりだ。後はソフィアさんとルフィナが気になる所だが、何をしているか分かってるし後回しにしても構わないだろ。
「そう言えばリヒャルダちゃんはどうしてます? プリシラさんと一緒では無かったようですが……」
「死んじゃいました~」
「えっ!?」
「嘘です~。今頃なら城壁を直してます~」
ひっぱたいても、いいですか? 人の死さえも冗談に出来る貴女は何様ですか? 取り敢えずは聞くべき事は聞いたし、残った新白百合団のメンバーのお見舞いには後で行こう。今はアンネリーゼ女王陛下に会わなくては。
「団長~。武器が無いならチョウヤ・キキを使いますか~。突いて良し殴っても良しの万能拷問……」
僕は城にいる女王陛下の元に急いだ。
「ミカエル無事でしたか!」
そう! この反応がいい。心配して潤む瞳の中に写る僕。王座から駆け降りてきたアンネリーゼ女王と僕は抱き合い、お互いの無事を確めて熱いキスをする。
「今まで何をやっていたか!」
潤む瞳の後から邪魔をしてくれるユーマバシャール君。死んで来いよ、激戦だったんだろ、手間が省けるんだよ、何で生き残っているんだよ。
「遅れまして申し訳ありません。女王陛下」
無視。嫌いだから絡みたくない。リヒャルダちゃんに言って城壁の人柱にしてあげたい。ただユーマ君も怪我をしているみたいだし、今回は見逃してあげるよ。
「とにかく無事で何よりです。魔王の件は聞いていますか? クリンシュベルバッハに居なかったとか……」
そうなんだよね。シンちゃん不思議。一応は調べさせてはいたけれど、調べきれなかったのも事実だ。なにせ、魔王本人を見た人間がいない。イリスもそれらしい人物を見付けられなかった報告は受けているけど、普通なら拠点になるクリンシュベルバッハで指揮を取っていた方が士気も上がるってもんだ。
「はい。北西の壊れた城壁から突入した白百合団、殲滅旅団は直ぐに北門へ通じる道にも人をやり、そのまま城に向かいました。また、僕は白百合団と共に西門を制圧後、何人かを西門に残して城に向かいました」
包囲としての手際は悪く無かったと思う。四ヶ所の街の門のうち、二ヶ所は直ぐに監視と制圧が出来たし、他の門の前には連合軍がいるんだから逃げられないだろ。
空を飛ぶ、秘密の抜け穴を使う、何処にでも行ける便利ドアを使う、転送の魔法を使う。考えてみればいくらでも逃げ出す方法はあるんだよな。
「城に着いてからは、城の堀伝いに騎兵を走らせ城からは抜け出せない様にしてあります。魔王が白百合団や殲滅旅団を突破しようとすれば、必ず見つかります。おそらく見付からないうちに、魔法を使って転送したのかも知れません」
「転送の魔法など聞いた事はありませんが、魔王なら出来るのかも知れませんね。今はヒンメル宰相が秘密の抜け穴を確認していますが、空を飛んだ可能性は考慮に入れないと……」
クリンシュベルバッハ城も混乱しているみたいだ。敵は捕虜にならないくらい討ち死にし、味方も巻き込まれるくらいで多数の死傷者が出ている。
この王座にも多数の血の跡が残っているのを見れば、プリシラさん達はここまで上がって来たのだろう。それでも魔王が見付からないなんて、本当に居なかったんだね。
「私達は勝ったんですよね……」
女王陛下のみならず、ここで決着が付くと思っていたのに魔王がいない。魔王を殺すか、和平の交渉をするかだが、相手が居ないと話にならない。
「勝ちました! 城は我々の手に戻り、魔王軍も姿さえ見えないでは無いですか!」
アンネちゃんは僕に聞いたんだから、僕に答えさせて欲しいんだけどね。確かにユーマ君の言うとおりだ。だけど城を取り返しただけで、ここから北は魔王の支配下にあると言ってもいい。ただ次の言葉を言うと面倒な事になりそうだから言わない。
「部隊を再編成して、追撃をかけましょう。魔王の首を取れば戦も終わりです!」
言ったな…… 言ってしまったね、ユーマバシャール君。追撃は君に任せるよ。いや、勇者権限において、お前が行って来い。そして怪我人の君は追撃戦の最中に、敵の弓に当たって命を落とすのであった…… 南無。
「今は、事態の収拾に努めましょう。死傷者の報告は少しずつですが報告にありますし、物資の搬入、城壁の補修等、やる事は一杯です」
行って来いよ、ユーマ君。こっちの事はアンネちゃんと二人でやるからさ。後顧の憂い無く死んで来いよ。
そして改めて王座に座るアンネリーゼ女王陛下を見ると、その横に…… いや、そこに座る自分が見えて来そうだよ。ハルモニア国王も悪くない。
「事態の収拾については、ハスハント商会のマノン・ギーユ、今は白百合団のメンバーですが、尽力してくれるでしょう。それと今後の戦については各国の騎士団と相談の上に作戦を立案いたします」
「頼みます…… シン勇者様……」
最後に言った僕の名前。「ミカエル」では無く「シン」と言った事に僕は少し他人行儀に聞こえた。
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