異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第二百四十一話

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 「てめぇは、まだ寝てんのか!?」
 
 朝から後頭部に喰らう回し蹴り。目ん玉と一緒に下半身からは白い物が……
 
 
 朝も元気に……    いや、朝かだからこそ元気な相棒は、ソフィアさんを後ろから貫いていた。それもノックもせずに入ってくるし、問答無用の蹴りは勇者に対する行いとは、とても思えない。
 
 「あぁ……    もうおしまい?」
 
 「終わりだソフィア!    こいつは会議があるんだよ。怪我は治したんだろうな!?」
 
 「もう残念です……    怪我は見ての通りですよ」
 
 見ての通り元気に朝からヤりました。清々しくもスッキリした朝だ。半殺しにあった事も忘れて、今日も仕事を頑張ろう。    ……そして二度目の蹴りは僕とソフィアさんを引き剥がし、僕をベッドの外まで飛ばした。
 
 
 
 「お待たせ致しました」
 
 連合軍の偉い人を待たせて、僕は遅れて会議室に入った。てっきりアンネリーゼ女王を中心に玉座で会議を開くかと思ったのに、アシュタールから横槍が入った事をマノンさんが教えてくれた。
 
 「遅いぞ、シン伯爵!」
 
 清々しい朝も、アシュタール遠征軍司令官ユリシーズ・ファウラー侯爵の怒声で気分が落ちる。もっと労って欲しいよ、せっかくクリンシュベルバッハを取り返したんだからさ。
 
 他に偉そうな二人とメリッサ・マロリー侯爵が座り、ロースファーからは第三王子のマークバイマー・ロースファーと部下が一人。ケイベックからは僕の婚約者のメレディス・マクレガー侯爵様が……    何故か身体を小刻みに震わせているような。
 
 ハルモニアからは我らが美しき女王陛下と僕とマノンさんと……    後はユーマ君とか言った人が一人。
 
 「では、始めましょう。被害報告の続きですが……」
 
 仕切り始めたユーマバシャール君。何で君は僕とアンネリーゼ女王陛下の間に座っているのかな?    ケツを蹴り上げてアンハイムの街まで飛ばしてやろうか!?
 
 「続きまして、各国の軍団の再編成ですが……」
 
 周りを見渡せば可愛いメリッサ嬢はこちらに向かって手を振ってくるが、メレディス嬢に関しては目も合わせてくれない。
 
 プリシラさんが上手く話を婚約破棄に持ち込んでくれたのかな。ケイベックに協力するのはいいとしても、結婚になったら黙っていない人が多数いるからね。
 
 「物資の件に関してはハスハントのマノン・ギーユ殿から……」
 
 そう言えば、この会議もアシュタールの横槍が入ったって。アシュタールとしてはハルモニアに主導権を握られたくないからかな。
 
 ハスハントはロースファー寄りだし、アシュタールは主導権を握りたいし、ケイベックは壊滅的な被害を受け帰国したがってるしで、なかなか一枚岩にはなれないみたいだ。
 
 だからこそ、僕の様な優秀な男が勇者として連合軍をまとめなければいけない。アシュタール帝国の伯爵でもあるし、アンネリーゼ女王陛下の信用も熱く、ケイベックとの絆もある。ハスハントもマノンさんなら僕の力になってくれるし、ロースファーはそのうち滅ぼす。
 
 「最後になりますが、勇者ミカエル・シン殿の弾劾を求める声があります」
 
 「えっ!?」
 
 ちなみに「えっ!?」と、驚いてくれたのは僕では無い。だって話を聞いて無かったから。先にアンネリーゼ嬢に驚かれちゃったから、声に出して驚く暇が無かったよ。
 
 「クリンシュベルバッハを攻め込んだ時、勇者シン殿は城に攻め込まず一人の女性と戦線を離脱したそうです。魔王の首も取れず、連合軍に多大な被害を与えた責任を求める声が上がっております」
 
 誰だ!    僕の出世街道を邪魔するヤツは!?    誰だよ、僕とアンネリーゼの仲を裂こうとする嫉妬男は!?
 
 確かに城まで行ってクリスティンさんと逃げたのは本当だ。でもクリスティンさんを連れ出さなかったら殲滅旅団が本当に殲滅させられちゃってるし、魔王軍が死に物狂いで戦ったのは、あの魔族が最後に面倒な指示を出したからで僕の責任は三分の一くらいしかない。と、思う……
 
 「ミカエル……    本当なの……」
 
 女性と戦線を離脱した話に、理由はあるが嘘ではない。魔王に関しても居なかったから首を取れなかったので、居たら白百合団が相手に勝てる訳がない。それを全部言った所で言い訳にしか聞こえないだろう。
 
 「事実です。部下を連れ、戦線を離脱した件に関しては間違いありません」
 
 へへん!    それに付いては後悔はしてないぜ。それで勇者を辞めろと言うならいつでも……    働いていた期間分の給料をもらってから、いつでも辞めてやるぜ。
 
 「アシュタールの貴族ともあろう貴様が、女一人に情けない!」
 
 喧しい!    クリスティンさんと魔王の首を天秤にかけたら、どちらが重いかなんて決まってるだろ!
 
 「アシュタールなんて、そんなもんだろ……」
 
 てめぇも、喧しい!    ロースファーはそのうち地図から消してやるから覚悟しておけ!   
 
 「クリンシュベルバッハを取り戻したんだから、魔王と和睦してアシュタールで結婚式をあげようよ」
 
 メリッサ様、緊張感が無いですが……    それでもいいかぁ。戦争が終われば傭兵なんてお払い箱だし、早目に生涯設計を立てるのもいいね。
 
 「和睦など、ラウエンシュタインを取り戻すまで考えられません。魔王に橋頭堡を与える様な物です」
 
 アンネリーゼちゃんは僕の結婚よりラウエンシュタインの方が大事なのかな。シンちゃん悲しい……
 
 「お待ち下さい。弾劾の話は一部から上がっているだけですので、押さえ込む事は可能です。今は、シン殿は勇者として欠かせません」
 
 おっと、ユーマ君からの援護射撃が来るとは思ってもみなかった。「一部から上がってる」だなんて、その一部はユーマ君だけじゃないの?
 
 それに、あそこまで詳細に話す必要なんて無かったのでは?    落としてから持ち上げる戦法か。恩には着ねぇよ。
 
 「現に城までたどり着いたのは、シン殿が率いる殲滅旅団と白百合団だけです。また先日、攻めて来たオーガ二千を撃退したのもシン殿に違いありません」
 
 ずいぶんと持ち上げてくれるじゃないの。もしかして心変わり?    それとも僕に惚れたかな?    男は範囲外だけど部下としてなら使ってやろう。
 
 「勇者殿の汚名を晴らす為、シュレイアシュバルツを白百合団と殲滅旅団で落とす事を提案します」
 
 落としやがったなユーマの野郎。何で僕達だけで攻めないといけない!?    皆で少しずつ苦労を別け合おうよ。一人に押し付けちゃダメ!
 
 「先日のオーガは、おそらくシュレイアシュバルツからの援軍と思われます。今なら簡単に落とせるかと……」
 
 ラウエンシュタインに向かう為には、クリンシュベルバッハから二つの道がある。一つは僕達が通ってきたシュレイアシュバルツの街。その東側にはドゥイシュノムハルトの街。
 
 シュレイアシュバルツの街には城壁が無いから、攻城兵器を持ってない僕達には攻め易い街だが、一人で行くのはとても寂しい。誰か一緒に行ってくれる人が欲しいけど、なんだか攻めるの一択になってないか?
 
 「それは良い考えだ。我がアシュタールは再編成が終わり次第、ドゥイシュノムハルトの街に行こう」
 
 「ロースファーもそうするよ。あっちには攻城兵器がいるだろう。    ……ケイベックはどうするの?」
 
 「わ、我が軍団の被害は大きく編成に時間もかかる……」
 
 「それならばケイベックにはクリンシュベルバッハを守って頂きましょう。我がハルモニア軍は勇者様とシュレイアシュバルツに……」
 
 「なりません!」
 
 僕とアンネちゃんの仲を裂こうなんて、男の嫉妬は見苦しいよ、ユーマ君。僕達はこれから手を取り合ってシュレイアの街に入るのだから。
 
 「女王陛下はクリンシュベルバッハにて指揮をして頂かないとなりません!」
 
 あれ?    指揮をするのは僕の仕事でしょ。連合軍の総司令官はミカエル・シン伯爵だよ。それって僕の事……
 
 「女王陛下、シュレイアシュバルツは我が白百合団と殲滅旅団が落としてみせます。どうぞ、クリンシュベルバッハで吉報をお待ち下さい」
 
 今の僕が下手に反対意見を言おうものなら、女絡みの事を言われて薮蛇になりかねない。今度からもう少し真面目に会議に参加して発言力を高めないと、全部をユーマ君に持っていかれちゃったよ。
 
 「さすがアシュタールの男だ!    良く言った!    では、さっそく準備にかかろう」
 
 勇者の立場は別に気にしないけど、もう少し勇者扱いをして欲しいよ。これからは心を入れ換えて勇者らしい行いをしよう。まずはシュレイアシュバルツを落とす!
 
 「ミカエル……    大丈夫ですか……」
 
 二人きりになった会議室で、僕の心配をしてくれるアンネリーゼ女王陛下。任せて下さい、いずれ二人の王国と子供を作りましょう。
 
 「白百合団は最強の傭兵団です」
 
 「でも……    それでも、私はミカエルを死地に送らなければならないのですね……」
 
 大丈夫だよ、アンネちゃん。オーガもシュレイアから来たみたいだし、ユーマバシャールだって数が少なくなってるから言っただけさ。これで汚名を返上出来るように、以外と考えて言ったのかもしれない。
 
 「女王陛下……」
 
 「二人の時にはアンネリーゼと呼んで下さい……」
 
 軽々しく言ったつもりは無いが、僕はアンネリーゼに部下を死地に送り出す命令を告げろと、言った事がある。僕は白百合団と殲滅旅団に同じ事をした。その結果は死傷者が多数出た。
 
 僕はアンネリーゼに、また同じ事をさせなければならない。この心に残る傷は一生癒える事はないけれど、一緒に乗り越えていきたい。
 
 「アンネリーゼ、僕達は最強の傭兵です。特に僕は勇者ですからね。勇者が死んだら話が終わっちゃうでしょ。簡単には死にませんよ」
 
 「ですが……」
 
 
 僕は両肩に手を回し引き寄せると、アンネリーゼは静かに目を閉じた。そして城の中庭にハレー彗星が落ちてきた。
 
 
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