異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第二百四十六話

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 暖かい布団にくるまれて寝るのは気持ちいい。少し早く起きたかな?    二度寝をしたいけど、一人だけ起こしておくと、どこまでするか分からない。
 
 
 「おはようございます、ソフィアさん。気持ちのいい朝とお口ですね」
 
 昨日の夜、殲滅旅団の前でクリスティンさんは涙を流して助けてくれた事の感謝の言葉を伝え、シュレイアシュバルツの街に全員で消えて行った。
 
 入れ替わるようにソフィアさんが駆け付け、僕の斬られた足を痛みも無く三分で元に戻してくれた。やっぱりプロのやる仕事は違うと思ったのも束の間、僕はソフィアさんのライト・エイト・ボールに追われる様にベッドに追いやられた。
 
 身体の傷が全て癒えた僕に、手を抜くなんて出来る筈も無く、僕はソフィアさんに全身全霊を込めてモード・シックスをぶち込んだ。
 
 モード・シックス、バスターソード、これらの武器は対ライカンスロープのプリシラさん用なのに、一度たりとも失神させられなかったのは僕の調子が悪いからなのだろうか。
 
 結局、寝れたのは僕が疲れたからで、ソフィアさんは、ずっと起きていたらしい。さすがハレー彗星を落とすだけの魔術師は体力も違うねぇ。
 
 「おはようございます、団長。もういいんですか?」
 
 「あっ、大丈夫です。今日はもう、出そうにありませんから」
 
 「いつでも言って下さいね。いつでも、どこでも構いませんから」
 
 すっごいエロ話なんだけど、こっちは死に物狂いで腰を振ってたんだ。モード・シックスだぞ!    世界最速の腰だぞ!    それをなんだ!    何で落としきれない!?
 
 「昼にはドゥイシュノムハルトの街に出発しますので用意をしておいて下さいね」
 
 「はい、分かりました」
 
 僕はソフィアさんの着替えを手伝い、良い着エロ状態の時にもう一戦挑み、敗退した。何故だ!
 
 
 
 「本当に行くのか?    ドムドムの街に?」
 
 「ドゥイシュノムハルトの街ですよ。明日には連合軍がクリンシュベルバッハを出発するそうで、僕達は援軍として参戦します」
 
 朝からの一戦に手こずり、時間がかかってしまった遅い朝食に、白百合団のメンバーが集まって今後の事を協議してるのに、朝から酒を飲むな!
 
 僕達に下された命令はシュレイアシュバルツの街を白百合団と殲滅旅団で落とすこと。その命令は完遂され、後はドゥイシュノムハルトの街を落とすのを待つばかりだか、言われた事をするだけなんて凡人だ。出来る男、ミカエル・シンは違うのだよ。
 
 「全員で行くッスか?」
 
 「ううん。シュレイアの街にはクリスティンさんと殲滅旅団、それとオリエッタに残ってもらうよ。    ……それと、そこの酔っぱらい!    お前も残るか!?」
 
 「ううん、いやだぁ。プリちゃんもイクのぉ」
 
 大きな胸を両腕で挟むように体をくねらし、イヤイヤポーズ。絶対わざとだろ!    朝からの飲み過ぎなんだよ!    揉ませろ、乳!
 
 「…………わたしも残るのですか?」
 
 「クリスティンさんはシュレイアの街を攻めた疲れも残っているでしょ。それに、ここを空にする訳には行きませんからね」
 
 「オリちゃんも残るのですか~」
 
 「オリエッタには怪我をした人の義手や義足を作って下さい。それとレールガンの弾の補充と僕の剣も作って欲しいんです」
 
 「弾は何とかなるのです~。剣はどんなのがいいですか~」
 
 「丈夫で折れなくて、良く斬れて、変な呪文を唱え無いで済む剣が欲しいです」
 
 「へ、変な呪文とはなんであるか!?」
 
 ルフィナよ。居たんだね、気付きたくなかったよ。元気になって良かったのかな?    オリエッタが作ってくれた魔剣ゼブラは最高の切れ味と最凶の人権侵害を施した自慢の剣だった。
 
 不幸にして折れて直す事が出来なくなってしまったが、あれほどの剣は勇者にこそ相応しい。最凶の方は勇者として使ってはいけない気もするが……
 
 「取り敢えず、今回はアラナの超振動の斬馬刀の予備を借りますね。アラナ、構わないかな?」
 
 「いいッスよ。お揃いッスね」
 
 「ミカエルぅ、あたいのハルバート……」
 
 「重くて無理です」
 
 「てめぇ、死なすぞゴルァァ!」
 
  さっきまで色気を振り撒いていた女とは思えないその口調に、僕はたまにはキレてもいいかなって何故か思ってしまったので……    キレてみた。
 
 「やかましい!    ハルバートは重くて……    うげっ!」
 
 人として簡単に逆上してはいけません。
 人として無闇に感情に流されてはいけません。
 人として人の心臓を潰してはいけません。
 般若心境、南無阿弥陀仏。
 
 「ク、クリスティンさん……」
 
 「………食事は静かに」
 
 左手にはフォーク、右手にはナイフ、膝にはナプキンをかけ、一人だけ傭兵らしからぬ雰囲気を漂わせ、口に運ぶスクランブルエッグさえ上等な物に見えてしまうクリスティンさんは、いつか着エロで犯す。
 
 「と、とにかく、斬馬刀でドムドムの……    残りのメンバーと白百合団でドゥイシュノムハルトの街に行きます」
 
 「…………いつ、お戻りになりますか?」
 
 「待っていてくれますか……    僕は必ず帰ってきま……    ぶぅっ!」
 
 直下からの棘の蔦は、僕の両太ももを貫いて天井に刺さった。こんな太くて新しい柱が出来て、これで地震が来ても大丈夫さ。
 
 「ルフィナ、さ、ん……    こ、殺されたいんで……    す……    か……」
 
 「これから戦が始まるのに、死んでる暇は無いのである。さっさと行って戦時報酬をもらうのである」
 
 死んでる暇は無くても、刺す時間はあるのか!?    ここに串刺しにされて、どうやってドムドムの街まで行く!?    建設会社に就職しろよ。高給で雇ってくれるよ!
 
 「あっ!?」
 
 なに、なに、なに?    オリエッタがビックリするなんて、痛みも忘れてビックリにビックリしたよ。 
 
 「新しい義手が出来たんです~」

 おぉ、それはいい話だ。ずっと左手が無くて困っていたんだよ。片手ではどうも戦いにくい。バランス良く両手が無いと不便だからね。右手は下へ左手は上へが僕の攻め方の一つだ。
 
 そして、みんな、そろそろ、この状態に何とか言おうよ。シンちゃんの両足が大変な事になってるんだよぅ。
 
 「さっそく付けるんです~」
 
 分からんです。この状況で何で話がそのまま進むの?    僕の足から木が生えてるんだよ。天井まで届いて血も出ちゃってるんだよ。
 
 オリエッタは魔方陣から義手を取り出し僕に取り付け始め、プリシラさんは酒を飲み、クリスティンさんはナプキンで口を拭き、ソフィアさんはアラナに向けてパンを投げ、アラナは斬馬刀で空中にあるパンを斬り、ルフィナは拍手していた……    おかしくない、これ?
 
 「ル、ルフィナさん……    ホント、マジ、ムリ……    何とかしてくれ。    ……してください」
 
 ルフィナの拍手が消えると同時に、僕の両太ももを貫いていた棘の蔦は消え去った。ソフィアさんが呪文を詠唱し、みるみるうちに傷口が塞がり血が止まった。
 
 僕は豆腐の角に頭をぶつけて死にたいと思った。
 
 「出来ました~。完成です~」
 
 普通の左手。どこにでもある、ありふれた左手。腕の繋ぎ目も肌の色も腕の毛も違和感無く、貰っておいて「わぁ、すごい」と感想の言いにくい左手。
 
 「わぁ、すごい」
 
 一応ね、大人だから、ね。確か超振動は付いて無かったと聞いていたような。あの超振動は以外な程に役に立ったのに惜しいね。オーガなら体勢を崩せるくらいの威力を発揮したし、盾に通せば普通以上の防御力を発揮したのに。
 
 「団長の記憶を頼りに作ったんです~」
 
 なんだろう。この良い感じのしない言葉は。僕の記憶を頼りに作ったのなら、僕の記憶を辿れば思い出せるのか。う~ん?    一週間前の朝御飯さえ思い出せない。
 
 「超振動は無いんです~。その代わりに面白い物を付けたんです~。魔力を流して欲しいです~」
 
 「良い感じがしない」から、「悪い感じしかしない」に変更して、僕は静かに魔力を流し始めると、ゆっくりと左手の五指が延び始めた。
 
 五本の指はスルスルと二メートルくらいまで伸び、「グー」以外のジャンケンなら迫力だけで勝てそうな気にさせた。    ……何の役にたつんだよ!?
 
 「オリエッタさん、これは……」
 
 僕の記憶の中に指が伸びる記憶があっただろうか。伸びるで思い出すなら、やっぱり海賊王を目指している、あの人だろうか。今頃は海賊王になれたのかな。
 
 「伸びるんです~。伸ばした時には間接も自由自在です~」
 
 やっぱりあの人か。でも伸びるのは指だけで二メートルだけ?    食卓に並んだ遠くの調味料も自分でとれそうだね。傭兵王に俺はなる!
 
 「団長の記憶の中に「触手プレイ」があったです~。それを頼りに作ったです~」
 
 触手王に俺はなる!    いや、ならねぇって!    いったい何の役に立つの?    触手プレイの記憶なんて本当にあったのか?
 
 「おもしれぇモンを仕込んだじゃねぇか!    どうなってんだこれ?」
 
 興味を持つな!    人様の指に!    本当に役に立つのか?    傭兵として役に立つのか?    どう使えばいいんだよ。
 
 「面白そうなんで付けたんです~。気に入ってもらたです~」
 
 伸びた指は宙を漂い、プリシラさんは面白そうに触り始めたので、オリエッタの記憶が正しいのか、僕はプリシラさんを握り締めて確かめた。
 
 なるほど!    プリシラさんはロープならぬ、指で縛られた状態になって、今まで以上に胸を強調する形に僕は満足した。使える!    使えるぞ、触手プレイは!
 
 その後、プリシラさんは僕の指を切断して逃げ出したが、伸ばした時は魔力で復元するのが分かり、今度は二人きりになった時に使ってみようと思った。
 
 
 普通の、普通の朝の白百合団の食事風景だ。
 
  
    
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