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第二百四十七話
しおりを挟む「出発!」
僕達、白百合団七十名と殲滅旅団百名は一路ドゥイシュノムハルトの街に進む。連合軍が攻めるのと同時に僕達も攻めるのが作戦だ。
本当ならシュレイアシュバルツでのんびり酒でも酌み交わし、女の子のお尻でも追っ掛けていたいところだが、そこは勇者だから、働かないと。
予定通りなら、夜遅くになるが決めている野営地に着いてパーティー。オールで騒いでハッピーな感じぃ。 ……徹夜は止めよう、もう歳だから。
クリスティンさんには殲滅旅団と残る様に指示を出したのだが、朝には選りすぐりの百名を連れて来ていた。連合軍総司令官の僕の命令に背くなんて軍法会議ものだが、綺麗な人だから許す。
いや、許さない、許さない。危うく流される所をグッと引き止め、僕はクリスティンさんの仕事の重要性を唱えたが、聞く耳をもってくれる筈も無く今に至る。
もちろん軍法会議では死刑も適用されるのだが、美しいクリスティンさんにそんな事を出来る筈も無く、機会があったら触手プレイしたいと言ったら「?」の顔をされた。この世界で触手プレイはマイナーなようだ。
仕方がないのでルフィナを置いてくる事にした。正気に戻ったルフィナのアンデッドオーガには血を分けても、良いくらい期待していたがシュレイアシュバルツを空にする訳にはいかない。
野営地までは何事も無く、僕は怪我の一つも負う事も無く、死人もでず、何時もとは様子の違う、そんな行軍で着いたのが、別の意味で僕を不安にさせた。
「プリシラさん、ちょっと付き合ってもらっていいですか?」
僕は野営地に着いて、間もなくしてからプリシラさんを夜のデートに誘った。せっかくもらった左手の触手義手を試してみたい訳では無く、アラナから借りている、使いなれない斬馬刀を試してみたいからだ。
「ミカエルに誘われちゃった、うふっ」
全白百合団の冷たい視線を浴びながら、僕の後ろで「うげぇぇ!」と吐いて付いて来るプリシラさん。酔っぱらいだって容赦はしねぇぞ。容赦して勝てるなら着エロだ。
冷たい視線が薄くなると、今度は熱い殺気で見られ始めた。プリシラさんも本気モードに入って来たらしい。それでこそプリシラさんだ。
頃合い良しと見て、僕は背負っていた斬馬刀を抜い…… 長い、長いよこれ。半分までしか抜けないじゃないか。アラナはどうやって抜いているんだ。
「鞘を下に引け、バカタレ!」
そうか! 鞘を左手で下に引き、右手を大きく振りかぶる感じでやっと抜ける斬馬刀。やっぱりショートソードに慣れている僕には長すぎる。
「抜けました、抜けました。やっぱり大きいですね、斬馬刀。アラナはたいしたもん……」
「久しぶりだな。こんなのは……」
「……そうですね。久しぶりです……」
静かに流れる時の中で、思い出す数々のプリシラさんとの殺し愛。久しぶりに思い出す、心地よい緊張感とライカンスロープとヤる絶望感。
刃を下がらせ、下段から上段に向けて切り上げる斬馬刀を討ち下ろして相殺するハルバート。お互い超振動は無し、楽しくなって来た。
二合、三合と討ち合い、神速をモード・ツーからスリーへ。こいつで決まったと思った一刀もプリシラさんは軽々と避けた。
重い斬馬刀とは言えモード・スリーなんですけどね。人型のプリシラさんにスリーでも敵わないのか。だけど上には、まだ三つある。モード・フォー!
押し気味に進める殺し愛。だけど後一歩が届かない。ファイブまで必要なのかと思いかけた時、先にキレたのはプリシラさんの方だった。
「ライカンスロープの姿も久しぶりです。戦場では使ってませんでしたね」
「この力を使う相手がいねぇんだよ。あたいを受け止めてくれる男は、お前だけだ!」
僕はどんな姿の貴女でも受け止めますよ。これからもずっと、ずっと受け止めてみせますよ。神速、モード・シックス!
闇夜を切り裂き金色に輝くライカンスロープ。プラズマを走らせ美しさに磨きがかかる。
「いくぞ!」
「こいや!」
幾合と討ち合い、僕達は自分の力を確かめ合った。この勝負を見れた人はきっと後世に語り継ぐだろう。
全てが終わった後、触手義手を使ったら怒られた。毛沢山のライカンスロープに着エロ・触手プレイは似合わない。今度、論文に書いておこう。
「…………起きて下さい」
目覚ましはあれだな…… 蹴りか、心臓麻痺の二択で決定だ。僕とプリシラさんは裸で抱き合って暖を取っていた。いくら南国とは言え朝は寒いからね。
「おはようございます、クリスティンさん。プリシラさん、おはよう」
いつみても機能美を持ったプリシラさんの裸体は、惚れ惚れするほど見事だ。まさに天晴れ! ……天晴れ?
「起きてますか?」
いつもなら二人で心臓麻痺の激痛で起きるのに、プリシラさんは眠ったままだ。もしかして死んじゃった? 僕は肩を揺すって起こそうと、プリシラさんの胸の揺らめきに吸い込まれそうになる。
「えっ!?」
マジにヤバくない? ついに死んだかプリシラ。君の事は朝食の時間まで覚えておこう。さようなら、プリシラさん。
「ヤバいんじゃないですか? ……心臓マッサージをしないと!」
僕は慌ててプリシラさんの胸に手をおいて、その柔らかい感触を楽しみ、揉んだ…… いや、押した。
押しても、押しても心臓に届いている気がしない、その巨乳に僕は負けずに揉み続け…… 押し続けた!
「いつまで人の乳で遊んでやがる!」
ビックリ、シンちゃん驚いちゃった。良かった、死んだかと思ったよ。最近、クリスティンさんの翼賛の力がパワーアップしたから本当にヤバいと思ったよ。
「何のつもりだ、てめぇ!」
心臓マッサージだよ。人命救助だよ。見れば分かるだろ。胸に手を当てて押すことによって心臓に刺激を与えて活動を再開させる。自動車免許を取る時に教わるだろ。
「なんで両方の胸に手を置いてるか、聞いているんだ!」
どおりで! おかしいと思ったんだ。何度も押したのに、跳ね返される膨らみなんだもん。もしかして心臓が二つあったりしませんか?
「こ、これはシンゾウマッサージと言いまして。キュウメイ活動に必要な事なんです……」
「ほう、胸を揉むのがキュウメイ活動ってヤツなのか?」
「それ以外にもマウス・トゥ・マウスと言うのもあるんですよ」
「口が…… なにすんだ?」
電光石火、期待に応える男、ミカエル・シンはプリシラさんにマウス・トゥ・マウスを喰らわす。
疾風迅雷、期待通りの女、クリスティンさんはミカエルに心臓麻痺を喰らわす。
「少し、死なせとけ!」
光芒一閃、僕を置いて立ち去る女、プリシラさんの引き締まったお尻に僕は見とれる。
今日は長めなんですね、クリスティンさん。
遅れた戻った白百合団に、僕の朝食は用意もされて無く、せめてパンの一欠片でも頬張りながら角を曲がると、可愛いあの娘とぶつかって恋の華が咲く……
「行くぞ! 遅れたバカは置いていく!」
バカで~す。遺書を書くときは、お前にイジメられたって書いてやるからな。貴様にくれてやる遺産はねぇ!
「待って、すぐに行きます」
そんな僕を、くすりと笑う学習能力無い殲滅旅団の一部の人。仕方がないから、いつでも神速の心臓マッサージを準備をしても、平然と歩を進める僕を笑った人々…… 今回は無しですか!
偉い人は安全な後ろから行くもんだ。白百合団、殲滅旅団、補給部隊を先に行かせ、僕は悠々と後から着いていく。あぁ、のどかな天気だ、あの雲はクジラだね。
せめて白百合団の後ろに付きたかった。補給部隊は馬車でガタガタうるさいし、土煙を上げる時もある。そして女の子は居ない。
なんで連合軍総司令官勇者の僕が、朝食も取らずに男の尻を見ながら馬を歩かせるのか。大変な不公平感を浴びながら僕はアクビをする。
「あの…… 食事です」
隣に馬が並んだと思ったら、手渡された一欠片のパン。確か白百合団のミッキーさんだったかな? 最近、人が多くなって覚えきれなくなってきたよ。もちろん脱げば思い出します。後、あの時の顔をしてくれたら思い出します。
「……ありがとう」
はにかむミッキーさんの笑顔を見て、僕のやさぐれた心が癒される。やっぱり勇者はモテないと。その為の勇者なんだから。
差し伸ばした僕の触手義手を焼き千切って光る、プラチナ色のレーザーは後方の道を薙ぎ払った。
普通の、普通の白百合団の行軍風景だ。
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