248 / 292
第二百四十八話
しおりを挟むドゥイシュノムハルトの街攻略。どこかに攻略本でも売ってないかな。
アシュタール帝国とロースファー王国の連合軍は、魔王軍が占領している街に攻撃を仕掛けた。ロースファーには攻城兵器があり、今は全力で投石中。
「下手だな……」
「難しいんじゃないですか? あれだけ大きい石を投げてるんだし…… あっ! 今のは惜しい!」
オーガはドゥイシュノムハルトの街に立て籠り引き籠り、一向に討って出ようとしなかった。それは僕達の攻めたシュレイアの街と同じだが、連合軍にはクリスティンさんがいない。
「らちが開かねぇな。クリスティンを突っ込ませるか?」
それは絶対に反対です。クリスティンさんにあんな苦労はさせられない。あそこまで疲弊していたクリスティンさんを、また同じ目に合わせる事なんて出来ないよ。夜通し、僕が看病してもいいなら考えるけど。
「オーガは出て来ないし、ロースファーの投石機があるから、時間をかければ大丈夫だと思いますよ。それに今は秘密兵器を待ってますからね」
「リヒャルダか?」
土魔法使いリヒャルダ。トロール級の大型ゴーレムを作れただけで一流と言われるなか、それを三体も作り出し、それをまた合わせて巨人級のゴーレムを作った天才魔導師。まだまだ戦場に慣れていないと思うが、お父さんは将来が楽しみです。
「シュレイアシュバルツを落とした後でケイベックに走らせた二次伝令に攻城兵器を断る事と、ハルモニアにリヒャルダちゃんを貸してもらえる様に伝えたんです。良くリヒャルダちゃんて分かりましたね」
伊達に白百合団の副団長じゃないね。たまに頭の回転が早いプリシラさんが好きだ。毎度、早ければもっといい。
「ドゥイシュノムハルトを攻める事は頭に入ってましたから。被害が多かったのは誤算ですが、攻城兵器の無い僕達には土魔法のリヒャルダちゃんが必要です」
「役に立つのか?」
「城壁と言っても土壁ですからね。それに巨人ゴーレムで城門を破ってもらえるかも知れません」
「……そうか」
プリシラさんとしては、リヒャルダちゃんを前に出したくないのだろうね。母性本能なのかな…… それなら僕が父親でプリシラさんが母親、娘にはリヒャルダちゃんか!? みんなで幸せな家族を作りたいね。
「いつ来るんだ?」
「間に合うかと思ったんですけどね。もうすぐ来ると思いますよ。戻りましょうか?」
「そうだな。どれくらい乳がデカくなったか見てやろう」
プリシラさんに似ればきっと大きくなるよ。まぁ、不純目的の男が近付いたら真っ二つになるだろうけどね。 ……僕も入るのかな?
白百合団の元に帰ると遠くから馬が六騎、走って来るのが見えた。プリシラさんとアラナには誰が来たのか見えた様だが、視力一・五の僕が見ても分からなかったのは老眼が始まったせいなのだろうか。
「メレディス・マクレガー侯爵旗下、エテルナ・ウェールズだ。リヒャルダ・シェーンハイド殿をお連れした」
何故にケイベックの護衛なの? リヒャルダちゃんはハルモニア軍の所属なのに。ユーマ君が裏で悪い方に手を回したのか? それとも良い方に回したのか?
複雑な事情があるのだろうが、ユーマ君にしてはなかなか良い手を打ったね。このエテルナ・ウェールズさん、メレディス嬢に負けないくらいに若くて美しい。
「勇者ミカエル・シンです。ケイベックがなぜ護衛を?」
それに詳しい所属と年齢、スリーサイズ、彼氏有り無し、この後の予定は? 僕って勇者なんだけど君のストライクゾーンに入っている?
「マクレガー侯爵の命により、シェーンハイド殿を護衛した。ハルモニアは女も守れぬ腰抜けとみえる」
ユーマ君…… 後で死刑。気の強い人をメレディス嬢は送ってくれたものだ。可愛いんだけどね、気の強い人は白百合団で見飽きてるよ。それとも慣れたかな。
「ハルモニアにも事情があるのです、ウェールズ殿」
何故に僕が弁明しなければならん。まぁ、リヒャルダちゃんを無事に連れて来てくれたから、いいけどね。仕事は終わった。さっさと帰れ。
「遅れて申し訳ありません、団長。いえ、勇者さま」
そこは、お父さまと呼ばれたい父性心。
そこは、お兄ちゃんと呼ばれたい兄弟心。
そこは、ご主人さまと呼ばれたいエロ……
「おとう…… 待ってましたよ。早速ですが、白百合団に入って下さい。ウェールズ殿達はどうされますか?」
帰れ! 気の強い女は間に合ってるんだ。もちろんベッドは空けてやるけど、帰れ!
「このまま護衛に付ければいいんじゃねぇか?」
今日の頭の回転はどぅしたぁ!? 飲んで無いと、そんなに頭が冴えるのか? それとも飲んでるから速いのか?
「残らせてもらいたい。ケイベックの実力を白百合団どもに見せ付けてくれよう」
何故にそんなに好戦的なんですか? 笑えばもっと可愛いのに。ケイベックは魔王軍にボロ負けしたのを忘れたんですか?
「ボロ負けした軍に期待はしねぇよ」
何度も心の中で言うけれど…… それ言ったらダメね! 二人は至近距離で睨み合い、行司がいたら「はっけよい、のこった!」と言いたくなるだろうね。
「待って、待って! プリシラさんは白百合団に戻って。ウェールズさんはリヒャルダちゃんの護衛をお願いします。これから重要な役目がありますから」
割って入るほどの隙間も無く、むしろ割って入りたいその隙間。二人は上から下から睨み合い一触即発の状態はいつものアレで終わった。
「…………仕事です」
僕もなんですね……
「ドゥイシュノムハルトの城壁に取り付き、その間に城壁を破る! ウェールズ殿はシェーンハイドを死守して城門までたどり着け!」
白百合団、殲滅旅団はドゥイシュノムハルトの西門を攻める。南門を攻めている連合軍は制球が甘いのかストライクゾーンに入って無いようだ。
「アラナ、西門付近の敵は?」
「オーガが五十くらいッスね。楽勝っす」
「敵は南門に集中してるんだろ? 北門の方が良く無いか?」
「北と南門は城壁が厚いんです。リヒャルダちゃんの魔法は未知数なので、出来るだけ薄い所で魔法を使ってもらいたいんですよ。もし失敗したらゴーレムで城門を直接狙ってもらいます」
「じゃ、それまでは暇だな」
「そうでもないです。攻めればオーガは城壁から弓を射ってくるでしょう。僕とプリシラさんの舞台はそこです」
「じゃ、それまでは暇だな」
「そうでもないですって。城壁に取り付く前に見つかるでしょうからね。白百合団はハルバート持ちで充分な盾を持てません。僕とプリシラさんとアラナで先陣を切って守らないと」
「あたいを働かす気か!?」
「……当たり前だろ! 働け!」
不毛な議論を終わらせ、僕達はドゥイシュノムハルトの城壁に取り付いた。途中で飛んで来た無数の矢も、二人の鉄壁のチームワークで切り抜け、城壁に登れば今日の仕事の三割は終わる。
「プリシラ! 飛べ!」
やっと自分の番かと、打ち上げ花火の様に舞い上がるプリシラさん。僕も斬馬刀を片手に勝利を確信して飛び上がった。
どうしても二メートルは城壁の縁まで届かないのが分かる、確信から生まれる余裕。慣れない斬馬刀と重さで、いつもの様に飛び出せば、それは届きもしないよね。
最初から全力モード・シックスで飛び上がれば余裕で飛び越せるのは分かっていたが、飛んでどうする? その後は降りるんだよ、何十メートルも下に。
この一瞬の間に考える。一回は諦めてカエルみたいにもう一度、飛び上がる。白百合団にダイブ出来る得点があるが、ハルバートの矛先がこちらを向いていたら串刺しだ。僕はもう一つの方、触手義手を伸ばして城壁に登った。
「気持ちわりぃぞ、それ!」
そう言うなよ、意外と便利道具かもしれないだろ。オーガもいきなり城壁に上がった人間に驚いたのか、触手義手が気持ち悪いのか簡単には近寄らなかった。
「いくぞ! 叩き落とせ!」
猛威を振るうハルバートと斬馬刀と斬馬刀…… あれ? アラナはいつの間に上がったんだ? アラナには無理な距離だと思ったのに。
「お揃いッス」
プリシラさんは放っておいて、アラナとの初めての共同作業は三人で乱交パーティーになっていった。
「アラナ、 ……残像?」
「いつの間にか出来るようになったッス。もう一人くらい出せるくらい速いッスよ」
二人も残像が見えるなんてモード・スリーは出てるんじゃねぇ? しかも、いきなり出せるなんて、瞬発力では負けそうだよ。
神速使いが三人も居れば城壁に登ったオーガなど容易いものだ。制圧した事を教えようと白百合団の方を覗き見ると、僕の足元から城壁が崩れた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる