異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第二百四十九話

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 ドゥイシュノムハルト西門制圧。城壁を破壊し、それに巻き込まれた僕を誰も助けてくれる人はいない。
 
 
 「団長、大丈夫ッスか?」
 
 遥か上の方から聞こえて来る、僕を心配する声と嘲笑する声。笑ったヤツに落ちていた石を神速で投げ付けてやったら、強烈なピッチャー返しが返って来た。今度はシュートを覚えてからにしよう。
 
 「立てますか?」
 
 あ、貴女は僕に一欠片のパンを恵んでくれたミッキーさん。痩せめでDカップ、セミロングで茶髪、優しくて彼氏無しのお姉さん系。外角高め、引っ張って打たない外野には飛ばない、それとも流し打ちか?
 
 「ありがとう」
 
 崩れ散る城壁の真ん中で、僕はミッキーの手を取り立ち上がる。その脇を駆け抜ける白百合団の勇猛な騎馬は、通り過ぎる度に僕の頭を叩いて行くのは何故?    そんなに僕がミッキーさんを抱き締めていたらダメなのか?    お尻くらい触っててもいいじゃないか。
 
 最後の一発はミッキーさんの唇を奪うまで、一センチの所で僕だけを吹き飛ばした。低出力のプラチナレーザーは、人を貫通する事は無く触られた程度。それが人を吹き飛ばす程の数が飛んで来たんだから、その数は数十万を越えるのだろう。
 
 光に包まれ、飛ばされた先には馬の後ろ足が。目を開ければ、茶色い固形物と液体が見えてくるのをモード・シックスで避け、何事も無かった大人の対応で、服に着いた土を払った。

 「もう大丈夫ですよミッキーさん」
 
 白百合団と殲滅旅団は西門内にいたオーガを駆逐して行き、僕の仕事の四割は終わった。この後は領主の館か南門に攻めるだけで終わる。夕御飯には間に合いそうだし、今日のデザートはミッキーさんにしようと思うと、誰かがトラブルを持って来やがる。
 
 「あれは、なんだ?」
 
 北門の方から空を飛んでやって来る、黒い三つの影。羽ばたかせているが、ハービィよりかなり大きい。
 
 殲滅旅団の男達を踏みつけて舞い降りた、獅子の顔を持ち翼の生えた野獣、キマイラ。押さえ付けた馬の首に噛み千切り一緒に潰された男を血塗れにした。
 
 「プリシラ!    アラナ!    一人一体だ!」

 僕達はキマイラの前に立った。相手は大した大きさでも無い、たったの十メートルくらいで、口を開けたら僕を丸飲み出来るくらいの、翼の生えた可愛いライオンだ。捕まえてサーカスにでも売り飛ばすか。
 
 心に余裕がある事はいい。リラックスが出来て、余計な力が入らないから。僕は猫派だから、出来る事なら殺さないで野生に返してあげたい。人間は怖いものだよと、思わせれれば充分だろう。
 
 斬馬刀を後ろ下段に構え、キマイラの顔に半円を描くよう上段から討ち落とす。鼻先でも痛めたら野生にお帰り。もう里山を降りてはいけないよ。僕の心内は分かる筈も無く、前に対峙したキマイラが巨大な炎が吹き出した。
 
 忘れてた。ちょっと調子に乗る魔物は炎を吹き出す異世界の法則を。モード・シックスで交わして懐に、超振動を全開にしてキマイラの心臓目掛けて突き刺した。
 
 驚くほど滑らかにキマイラに突き刺さった斬馬刀。野生に返すつもりが、殺してしまうなんて……    絶滅危惧種に指定されてなければいいけど。残りの二頭も炎を吹き出し自己アピールの最中だ。僕は涙を飲んでキマイラに襲いかかった。
 
 終わってみれば動物虐待も甚だしい。白百合団に炎がかからない為に全力を出せば、跡形も無いキマイラの骸。調子に乗ったのは僕のほうかな。
 
 今日はカッコいい所を白百合団に見せられるかも知れないと思い、殲滅旅団から何人か残して僕達は先に急いだ。
 
 領主の館は静なもので、誰も居る様には見えなかった。そうなると全軍で南門を守っているのか?    このまま南門まで行って開城すれば連合軍が流れ込む。僕のスポットライトは南門だ。
 
 俺様を先頭に白百合団と殲滅旅団が続き、俺様の引き締まった肉体を白百合団に見せ付けて南門に進む。俺様の勇姿を見せ付ける為に、俺様の……    もういいか。
 
 領主の館からほぼ一直線の道で南門に進んだ僕達は、難なくと魔王軍の後ろを取る事が出来た。これで後は南門を開ければ連合軍が雪崩れ込む。
 
 「白百合団!    城門に取り付け!    リヒャルダちゃんはゴーレムを使って門を開けろ!    殲滅旅団は敵を城門に近寄らすな!    いけ!」
 
 僕を左右を割って駆け出す白百合団の騎兵。僕はその中心で女の子の優しい香りに包まれて満足だ。そして続く殲滅旅団の重騎兵。僕はその中心で汗臭い匂いに包まれて不満足だ。
 
 戦え!    全ての人類の存亡の為に。
 戦え!    僕の、勇者の給料の為に。
 誰だ!    最後に頭を叩いて行ったヤツは!
 
 ソフィアさんでしたか……
 
 
 
 ソフィアさんの後を追い掛ける様に城門に付けば、トロール級のゴーレムが優しく城門を開けていた。こんな時にも、操っているリヒャルダちゃんの育ちの良さが分かるのか?    お父さんは嬉しいです。
 
 「ゴーレムに白百合団の旗を持たせて連合軍を招き入れるように!」
 
 ちょっと内股歩きのゴーレムが旗を持って城外に出た。これで連合軍は入って来る。僕の仕事の七割が終わった。三割は残しておこう。白百合団の為に……
 
 「一旦、中央まで引くぞ!    後は連合軍に……」
 
 目の前に落ちてくる巨石は僕を吹き飛ばした。飛ばされながらも考えた。今日はミッキーさんのお尻しか触ってないのに、メテオストライク喰らう謂れは無い!
 
 地面に転がり、立ち上がりながらソフィアさんの方を見れば「ううん」と首を横に振っている。ソフィアさんじゃなければ、ロースファーの投石か!?    旗を振って教えたのに!
 
 城外を見れば白百合団の旗を持ったゴーレムが、投石の直撃を受けて爆散していく所だった。空を見上げれば黒い塊も落ちてくる。  
 
 「引け!    後退!    後退だ!」
 
 タイミングが悪かったのか、旗が見えて無かったのか、旗が見えて撃ったのかは分からないが、ここにいたらメテオストライクを喰らうのと一緒だ。
 
 「…………殲滅旅団。    …………白百合団が後退するまで踏み留まりなさい」
 
 なんて無慈悲な命令だろうか。上から降ってくる巨石を避けながら白百合団を援護するなんて自殺行為だ。だが命令を下したのはクリスティンさんで受けるのは殲滅旅団。
 
 「戦え!    クリスティンさまの為に!」
 ──僕の為では無いのね。
 
 「我らに撤退は無い!」
 ──撤退していいんだよ。
 
 「クリスティン、これが終わったら結婚してくれ」
 ──馬で轢くのは止めようね。
 
 白百合団が後退するまで、僕と殲滅旅団は戦った。プリシラさんは白百合団を連れて逃げた。アラナは残りそうだったので馬の尻にムチを入れた。ソフィアさんはリヒャルダちゃんを守って下がった。クリスティンさんは微動だにしないが、巨石も弓矢も当たらなければ、近付くオーガは心臓麻痺だ。
 
 「引くぞ!    いけ!    いけ!」
 
 僕を殿に南門から撤退する殲滅旅団。半分は殺られた。オーガに殺られたのは仕方がないとも思うが、投石に殺られたのも多数いる。ロースファーのバカどもに苦情の電話をかけてやらないと気が済まん。クレーマーになってやる。
 
 
 
 スマホはどこだと、アラナに聞いたら不思議な顔をされてドロンからの報告を聞いた。南門は再び閉じられ、アシュタールは南門に殺到し、ロースファーの投石は止まった。
 
 「ヤバいッスね。オーガの弓がヤバいッス」
 
 あんなもの避ければいいじゃんと、言えるのは僕達三人くらいだろう。アラナが動かすドロンの水晶を覗かせてもらうと同時に、アラナの服の襟口から見える……
 
 「一方的じゃないか!?    オーガの弓ってそんなに威力があったの!?」
 
 南門上空を飛ぶドロンから見えたオーガ弓は、一本の弓で二人は貫いていった。殺られているのがロースファーだったら、お茶でも飲んでスマホをさがすけど、そうもいかない。
 
 「再度、南門を開く!    隊列を整えていくぞ!」
 
 黄色い声援ならぬ、清みきった肯定の言葉。さすがは白百合団だ。僕の言葉に反応してくれる。だけど殲滅旅団から罵倒さえ無かったが、それは仕方がないか。今の攻撃で半数近くが殺られてる。怪我人多数、ここで待機もやむを得ない。
 
 「…………返事は?」
 
 「うおぉ!    戦え!    クリスティンさまの為に!」
 ──やっぱり僕の為では無いのね。
 
 「やるぞ!    クリスティンさまのご命令だ!」
 ──あんたは、左手ブラブラじゃん。強制的に居残り!
 
 「クリスティン、これが終わったら結婚してくれ」
 ──ブレ無い。ブレ無いねぇ。殴るのは止めようね。
 
 殲滅旅団の重傷者をソフィアさんに任せて、僕達はもう一度駆け出した。今度は門を開ければすぐにアシュタールが入ってくる。
 
 「リヒャルダちゃん。ゴーレムはまだ出せるかな?」
 
 思った以上に疲労しているみたいだ。額に浮かぶ汗を拭いてあげたい。もちろん、父として……
 
 「あ、後、一回はいけます。トロール級のを一回はいけます」
 
 いい返事だ。守ってやりたい親心だが、全ての白百合を守れる訳にもいかない。
 
 「ウェールズ殿!    シェーンハイドは要だ!    しっかり守れ!」
 
 「ハルモニアの腐った男になど負けはせん!    我が働きを刮目してみよ!」
 
 いい返事だけど、「腐れ」扱いですか?    最近は「バカタレ」扱いですけど。
 
 「見えてきたぞ、 バカタレ!    相手は構えているぞ!」
 
 バカタレで~す。グレてやろうか?    僕とプリシラさんを先頭に突撃陣をくみ、白百合団が突き進む。多分、大丈夫だ。白百合団には超振動の武器と馬具がある。僕には速さが、プリシラさんには狂暴さがあるんだ。オーガは二列横隊、突き破るぜ!
 
 「…………進みなさい、殲滅旅団」
 
 白百合団の、左右の両端から前に出て来た殲滅旅団。その暑苦しい汗の臭いが清楚な白百合を包む。
 
 「バカ!    前、退け!」
 
 団長様である僕の前を走るな!    超振動も無しに突撃したら死ぬぞ。こいつら分かってやってるのか!?
 
 「へへっ、クリスティンさまの命令でさ……」
 
 笑ってんじゃねぇよ。僕達の前に出た殲滅旅団はスピードを落とし、白百合団の馬速を落とした。さらに左右から抜き出る殲滅旅団は、陣形を整え突撃して行く。
 
 二列横隊で槍を構えるオーガに対し、超振動の武器も馬具も無く突撃する殲滅旅団。
 
 「突っ込め!    全てはクリスティンさまの為に!」
 
 たかだか二列横隊、槍を構えていたとしても殲滅旅団の腕利きなら突破出来る。それが普通の騎士団が相手なら。
 
 止まる殲滅旅団。馬速を活かしての突撃もオーガの前では止まってしまう。これでも相手が人間なら、止まってからも下半身に刃を受け、馬上の者は相手の頭を叩けるからまだ有利だ。
 
 オーガの体格で振り上げた剣は、用意に馬上の人間の急所に当てられる。止まってしまっては、逆に不利になるのが騎兵だ。
 
 「プリシラ!    頃合いを見て突っ込め!」
 
 僕は馬を捨て、全力で飛び跳ねた。モード・シックス。先陣で怪我さえしてないオーガの首を跳ねる超振動の斬馬刀。
 
 込み上げる怒り。クリスティンは何故、殲滅旅団を先に行かせた?    女を守る為にか!?    僕には全員を守る義務がある!
 
 「一人で行かせる訳はねぇだろ」
 
 僕の背中を守る様に立つプリシラ。まったく……    誰よりもお前を守りたいんだよ。
 
 「白百合団の指揮はどうした!?」
 
 「アラナに任せときゃいいさ……    楽しもうぜ!」
 
 荒れ狂うハルバートと斬馬刀。どれほど遠くにいてもお互いを助け合い、どんなに近くで討ち合っていても二人には当たらない刃。
 
 「アラナ!    いけ!」
 
 頃合い良しとみて合図を送れば、僕達の周りを凄まじい速さで駆け抜けていく白百合団。最後に頭を叩いたのは誰だよ。
 
 「楽勝だぜ……」
 
 「楽勝ですね……    後は門を開いて終わりです」
 
 
 リヒャルダちゃんは南門は開きアシュタール軍は雪崩れ込んだ。守備隊のオーガは全滅し、ドゥイシュノムハルトの街を取り返した。
 

 
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