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第二百五十話
しおりを挟む王城クリンシュベルバッハを守る為の全線都市としてシュレイアシュバルツとドゥイシュノムハルトの街を取り返したが、最近になってやっと舌を噛まずに最後まで言える様になった。
ドゥイシュノムハルトの街を取り返す為、多大な被害を受けたアシュタール帝国騎士団と白百合団、殲滅旅団。
最初から完全破壊でやってもいいのなら、ソフィアさんとルフィナとオリエッタを出せば、魔王軍も街も跡形も無く消えていただろう。
それをやってしまったら、ハルモニアの復興が遠くなる。勇者としてそれをやったら後世の歴史家に指を指される。
被害を少なく敵に勝つ。言うのは簡単だけどやるのは大変だ。しかも人数的には同数でも戦力的には五倍以上の差があるんだ。それを覆してるんだから、もっと誉めて欲しい。給料、上げて欲しい。
「何か欲しい物はない?」
初めての給料は親に何かを買ってあげたいが、この世界に親はいないし、使うなら白百合団に使いたい。勇者になっての初任給の明細を見た時、僕は心の中でガッツポーズを取った。
ベッドに裸で横たわるミッキーさんに聞いてみた。もちろん他の人にも聞くよ。ただ近くにいたから聞いただけで他意はないんだよ。プリシラさん、首を締めてますよ。
「何か買ってくれんのか?」
買ってやるよ! シースルーのネグリジェを。それともガーターベルトにしてやろうか。それはマノンさんの方が似合いそうだけど。
「買い物ですか? 私も欲しい物があるんです」
ソフィアさんは紅茶とか珍しい食べ物なんじゃないかな。平和な時にピクニックとか行きたいね。戦場で食べるサンドイッチは喉が詰まりそうだから。
「買ってもらえるッスか!?」
アラナには上等な櫛なんてどうかな。その毛並みの美しさに磨きがかかるよ。その後はベッドで乱れちゃうけどね。
「…………」
何か花でも買ってきましょう。クリスティンさんの前では、どんな花も影を落としてしまうけれどね。お風呂に薔薇の花びらを浮かべて一緒に入りたいな。
さて、死ぬ前にプリシラさんを投げ飛ばすか。それとも押し倒すか、プリシラさんの揺れる胸を見てると迷っちゃうぅぅ。
「うぅぅっ……」
「プリシラさん! 団長が死んじゃいます!」
「おじいちゃん!」
三途の川の向こう側で、女の子をナンパしていた。確か八十二歳で死んだんだよな。そんな風に、僕も歳を取りたい。
「じい様がどうした?」
居たんだよ! 見たんだよ! ナンパしてたんだよ! お持ち帰りしてたんだよ! そんな風に、僕も歳を取りたい。
「何でもないです…… 全員、そろそろ起きましょうか。部屋の臭いが……」
ドゥイシュノムハルトを奪還する為に流れた血を、補給するがの如く求められ、求めに応じて白い液体を補充しちゃった、えへっ。
「そうだな、何か買いに行くか。店屋は開いてるのか?」
それは無理かな。まだドゥイシュノムハルトの街を落として二日目だからね。落としたその日は残務処理に追われ、次の日に帰ってから今までベッドで戦っていたからね。
まだ安全とは言えない街に人は集まらないよ。お陰でラブホの選び放題だったけど、掃除はこっちでやらないとね。
「買い物は王都に帰ってからにしましょう。僕もアシュタールの偉い人と会わないと……」
黄色いブーイング! 「えー!」だの「酷い!」だの「もっとしましょう」だのと、ここは合唱団か!? ウィーンかここは!?
「後片付けも終っただろうし、次の戦略も練らないといけませんからね。遊んでいる時間は終わりです」
僕は短い後ろ髪を引かれながら白百合団と別れた。アシュタールやロースファーと会合をして、今後の事を話し合わなければならない。本当に髪の毛を引くのは止めてね。
「遅くなりました…… か?」
僕はアシュタール帝国、遠征軍総司令官、ユリシーズ・ファウラー侯爵の所に出向いた。そこにはロースファーの第三王子、マークバイマー・ロースファー様もいた。さて、さっそくクレーマーになるか。
「遅いぞ、シン伯爵!」
予定の時間より十分は早い筈なのに、先に怒られるとは出鼻を挫かれる。でも勇者なんだもん。連合軍で一番偉いの! 伯爵だけど、侯爵に命令出来るの!
「申し訳ありません(女の子が離してくれなくて)」
大人だから…… 位のうえでは伯爵の方が下だからね。大人しく大人の態度を取ろう。話を円滑に流す為にも。
「女の子でも引っ掻けてたかな?」
てめぇ、ロースファー! 当たりだ! 当たりだけど賞品はねぇ! その代わり苦情の電話を業務妨害になるくらい掛けてやる。
「そうですね。 ……それより、我が旅団が南門を開門してからも投石を続けた理由を説明願いたい。連絡はいっていた筈だ!」
あれで二度も突撃しなければならなかったんだ。一度目はいいさ、上手く行ってたし怪我人くらいで済んだのだから。
二度目では殲滅旅団が崩壊するかと思ったし、白百合団にも怪我人が出たんだ! 次の日にはベッドを共にするくらいの怪我だったけど。
ギリギリだったけれど、内側から門を開ける連絡はしていたんだ。旗だって振ったし、マニュアル通りの行動だったろ。
「連絡は来てないし、ゴーレムも敵かと思ったよ。遠かったしね」
「なっ!」
何を言ってんだ!? 殲滅旅団でクリスティンさんの命令に叛くヤツなんて一人もいないぞ! ゴーレムだって、ゴーレムが旗を振る話だったじゃないか!? 見えてないならメガネかコンタクトを着けやがれ!
「シン伯爵、もう良いではないか。ドゥイシュノムハルトは取り返したのだから」
こいつもグルか? アシュタールだって門を閉められて被害が出ただろうに! 怒ってるのは僕だけかよ。ミスをしたのはロースファーなのに…… まさか本当に繋がっているとか? 二人がそんな男男の関係だったとか?
二人の関係に水を差してはいけないかと、退席したいが、今後の事を話し合わなければならないので、そうもいかない。
これから北にある三都市のどれから攻めるかだが、それは簡単に決まった。ルネリウスファイーンはラウエンシュタインに行くのに一番大きな街で東はエトバァールタバウル、西には僕達が通ってきたアンハイムオーフェンがある。
攻めるなら東にあるエトバァールタバウルだ。ここを攻めればドワーフ領のルンベルグザッハや、ハルモニアの有力貴族クノール領と繋がれる。
特にクノール伯爵は領地に妻子をおいて来ているから、道が繋がれば安心して戦ってもらえるだろう。補給も出来れば言う事が無い。
「フリューゲン女王陛下がいない時に決めてしまったが問題はなかろう。だが、アシュタールはこれ以上は進めん。今回の戦やクリンシュベルバッハを攻めた時の被害が大きい。これ以上の進軍は本国からの援軍を待ってからにしたい」
アシュタールは超振動の武具を押し出して、戦場では活躍もしたが、被害は他国と比べて大きい。クリンシュベルバッハを落としてからの会議で援軍を送ってもらった話は聞いてるが、それまでは二都市の防衛が任務になるのかな。
「援軍はどのくらいで着くのでしょう」
「およそ一ヶ月。それまでは情報の収集と魔王の居場所を探したいものだ」
一ヶ月の有給休暇! まだ正社員になったばかりの勇者なのに、一ヶ月も休みがもらえるなんて! しかも給料が入ったばかりで懐は暖かい。クリンシュベルバッハに戻って買い物デートをしよう。
「分かりました。白百合団と殲滅旅団はシュレイアシュバルツで待機します。情報収集にはこちらからも人員を割きましょう」
「うん。頑張ってねぇ~」
お前にはイタ電かけてやるからな。夜も眠らせねぇぜ。それとも痛車みたいな痛馬車にペイントしてやろうか。
「ロースファー様には投石の練習でもして頂きたい。では、失礼します」
せめて、これくらいは言い返してやらないと。勇者を舐めるなよ。藁があったら丑の刻参りをしてやりてぇ。
「あの勇者、ミカエル・シンをどう思う?」
「強いです。さほど優秀な男とは思えませんが、調べている戦では負け無しです」
「それは困ったね。連合軍は優勢に進めているし、突出した力を持つ個人の存在は…… ねぇ」
「彼の率いる白百合団。これもまた人外な力を持った者達です」
「それもミカエル・シンあっての事だろ」
「……いかがなされますか?」
「将来の禍根は摘んでおかないと…… 囚人部隊を呼んでおこうか」
「あれ…… で、ございますか? あれは、アシュタールへの対抗かと……」
「人外の者には人外を当てないとね。それにサンドリーヌで狩り取った魔物も順調だろ。死に場所を与えてあげようじゃないか」
「……分かりました。決行日はいつ頃にいたしますか?」
「アシュタールが集結する前にしておこう。新しい勇者を出さないと、連合軍の指揮に影響するからね」
「御意」
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