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第二百五十一話
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「イリスは…… いるよね」
「はい、良き人。いつもお側に……」
シュレイアシュバルツの領主の執務室。部屋は安全の為に確認したし、天井の隅まで見た。カーテンの後ろも見た筈なのに、何で僕の後ろから現れるのだろうか。
「かくれんぼは、得意でしょ」
「カクレンボですか? 良く分かりません……」
知らなくてもいいや。今は大事な仕事が任せたいんだから。せっかく取った二都市の防衛を兼ねながら、北の三都市の調査もしなければならない。
特にアシュタールの増援が来てから攻める、エトバァールタバウルの街の情報は必須だ。情報を制する者が勝利を制する。戦の常道だね。
イリス姉妹は六人いるから、三都市の情報収集には充分だろう。ささっと、行って、怪我をしないくらいで調べて来て欲しい。
「……そんな感じで、三都市の情報収集をよろしくね」
「分かりました。さっそく……」
さっそくと言ってドアをくぐり、三都市に向かうイリスでは無い。さっそくと言って服を脱ぎ始めるイリス。
今日は、このイリスの番か…… 思い返せばイリスには苦労をかけてるね。この戦が終わったら必ず自由にしてあげるからね。
……一人、増えてるし…… 情報の収集には時間がかかりそうだ。
少し頑張り過ぎたのか、名残惜しかったのか、昼までかかってしまったイリスとの時間。触手義手を使うのを忘れるほど激しかったイリスとの時間。
別れのキスをした後に、見計らっていたのかサキュバスの調整官、リアが勢い良く部屋に入って来て、挨拶も無しに脱ぎ始めた。
「しようよぅ~」
しません! 今はイリスの余韻に酔っていたい気分なの! イリス姉妹の裸体を思い出し、イリス姉妹の乱れたベッドでの姿を思い出すだけで、僕も相棒も満足さ。
「ほら、したがってるよぅ」
相棒は満足してないようだ。お前はどうしたら満足するんだ? もう少し節度のある大人になれよ。
「ほら、ほら、しようよぅ」
もはや、僕とは別の意思で勃ち上がる相棒。それを咥えるサキュバスのリア。
「はむっ、ううぅん……」
僕の悪いエスっ気が相棒とは別の意思で立ち上がる。たまにはいいよね。僕は膝を着いて咥えているリアの頭を押さえて、そのままピストン運動会をした。
「ンチュ… ジュパ… ングッ… ジュパ…」
ゴールが見えて来た。フィニッシュは喉の奥の奥へ。
「…ん…ん… んぐ、んんん……ぁ、はぁ…」
満足してくれたかな? 僕は満足だ。相棒も満足だ。後は綺麗に舐めてくれると嬉しい。
「やっぱり凄いよぅ。それがリアの中に入るんだよぅ」
パンツも脱ぎ始めるリアに、今の僕には無駄だという心持ちも、相棒には届いていないようだった。不満足な相棒はリアの中へと消えて行った。
「アンネリーゼ女王が呼んでるよぅ」
最初に会った時に言え! もう夕方だぞ! サキュバスの魅力に取り付かれてしまった相棒は、あの後から一度も顔を出さずにリアの中に隠れていたり、少し顔を出したり、ずっとカクレンボをしていた。
「今!? 今頃言う話かよ!」
きっとドゥイシュノムハルトの報告を待ってるに違いない。たぶんアシュタールから報告は上がっているだろうから、僕からベッドの中で詳しい話を聞きたいのか?
「行くかよぅ。明日にしようよぅ。暗くなったらする事は一つだよぅ」
今から急いで行っても、着くのは明日の朝ぐらいか。夜道は危ないし、襲われたりしたら大変だ。で、それで行かない訳にはいかない。まさか女の子と、いちゃラブしてたから遅くなりましたなんて、もっとマズい。
「プリシラさんに話をしておけ。指揮は任すって。僕はクリンシュベルバッハに行ってくる」
僕はリアの胸をもう一度、揉みっとしてから部屋を出た。
「お待ち下さい!」
夜道で馬を走らせてる僕に、追い付く黒い影が五つ。途中で蹄の音が増えて分かってたけど、待てと言われて待つ勇者はいない。特に気の強い女性が後ろから来てると思うと、馬速も速くなる。
「勇者殿! エテルナ・ウェールズです! 勇者殿!」
急いでいる僕の前に出るなんて、どれだけ馬の扱いが上手いんだよ。「うま」だけに…… 今日は疲れてるのかな。
「ウェールズ殿でしたか。申し訳ありません。急いでいたので気が付きませんでした」
「いや、問題ありません。それよりプリシラ殿より、勇者殿の護衛を言いつかりまして……」
「クリンシュベルバッハに帰る「ついで」にですか。護衛なら要りませんよ。皆さんは一度戻って、明日に出ても構いませんよ」
「それでは護衛になりません。勇者殿を一人で行かせるなど…… 危険です」
安心して下さい。僕のコマンドの一番上は「命を大事に」ですから、危なくなったら神速を使って逃げますよ。むしろ貴女方がいる方が面倒なんだよね。
「僕は夜通し走るつもりなんですよ。休んでもいられないんです」
「望むところ。ケイベックの女を甘くみられるな!」
この気の強さは、どこからくるのだろう。ケイベックの女性はこんな感じなんだろうか。美しく気高く、気が強い。移住したいような…… バカンスだけで行きたいような……
「では、お願いします……」
六騎は僕を真ん中に闇夜を駆け出した。約、二時間も走った所で先頭が落馬。怪我は大した事は無かったが、暗闇でこれ以上は危険と判断して僕達は夜営をする事になった。
「申し訳ない……」
「仕方がないですよ。それより怪我が少なくて良かった」
「申し訳ない……」
明るいライトが有ればまだしも、ランタンくらいで夜の街道を走ったのだから、障害物も避けられないよ。とにかく、怪我が大した事が無く良かった。今から魔法使いを探す時間なんて無いからね。
「とりあえず休みましょう。明るくなってから出発します」
テントも張らない野宿は久しぶりだ。この当たりなら見張りに立つ必要も無いから、朝までぐっすり眠れる。いや、それより久しぶりに星空でも見ようか。今日は雲も月も無く、天体観察にはちょうどいい。僕は少しして、皆から離れて夜空を眺めた。
夜空は満天の星が煌めき、遠くの山の輪郭さえも写し出している。天の川はあるのだろうか? 地球はどこ? 地球があるなら異世界じゃなくて、同じ宇宙の仲間かな。そうすると僕は宇宙人か……
どこの世界か知らないが、僕はここで頑張って生きている。明日も明後日も頑張って生きていこう。いつか神様の望むエンディングを見る為に。僕は満天の星空に抱かれながら眠った。
「勇者殿……」
まだ眠らない。いや、眠ったフリをしようかな。疲れているし、明日も急いでクリンシュベルバッハに向かわないと。
「勇者殿……」
近付いて、近付いて、目を開けなくても分かるくらい顔が近付いて、吐息がかかるくらい近付いて、これ以上は我慢出来ないと僕は目を覚ます事にした。
「起きました! 起きましたよぉ。顔が近いですねぇ、もう少し離れましょうか」
僕はエテルナさんの肩を押すように引き剥がした。唇が触れるくらい近付くなんて、もしかして夜這いか? そんな間柄ではないよね?
「し、失礼した。勇者殿には少し聞きたい事があってな……」
政治と野球と色恋話し以外なら何でも来い! やっぱり無理にでも帰して、一人で来れば良かったよ。睡眠前の難しい話はシンちゃん嫌いです。
「マクレガー侯爵様との結婚の話。破談になったのは本当か?」
ダメと思った事の二つを、いきなりするのか。確かにメレディス・マクレガー侯爵との話はダメになったけど、エテルナさんに関係があるのかな?
「ええ、まぁ……」
濁して返そう。細かく話すと長くなるし、ソフィアさんのメテオストライクの話も出さなければならないしね。プリシラさんが上手く言ってくれたみたいだし、詳細を知らない僕は、破談した事だけ知ってればいいだろ。
「勇者殿はロースファーに付くつもりなのか!?」
そんな事は絶対にありません。それに突くならアンネリーゼちゃんに突きたいなぁ。もう朝から晩まで……
「その様な事はありませんよ。ケイベックは良き友人としてこれからも付き合って行きたいですね」
「良き友人!? 裏切る友もいるのに友人とな!」
顔が近い…… 僕は怒られているんですかね。星空で眠って起こされて、怒られて…… 何だか長い夜になりそうだよ。
「その様な事はしませんよ。マクレガー侯爵様とは懇意にさせてもらってますし、裏切るなんて事はいたしません」
懇意よりも深い絆を深い所で交わしてしまったからね。メレディスちゃんの困った顔は見たくない。イキ顔は…… 見たい!
「ロースファーはケイベックを狙っているのをご存じであろう。戦が終わればハルモニアはロースファーの物となる。そうなれば太刀打ち出来ん」
「ア、アシュタール帝国があるじゃないですか。それに、僕はアシュタール帝国の伯爵ですよ。ケイベックに何かあればアシュタールが動きます」
アシュタールの北の三か国、パワーバランスを崩されるのは帝国にとっても良くない事だ。おそらくだか、アンネリーゼ嬢とロースファーが結婚する事だって邪魔してくれると踏んでるんだけどね。
「アシュタールが動いた時にはケイベックは無くなっているかもしれん。それよりも早く動ける、力の持った者がケイベックは欲しいのだ! 何故、婚約を破棄した!」
メテオストライクが怖いからです。後、他の白百合団が黙って見てる筈が無いからです。シンちゃん、臆病なの。臆病な触手義手と神速持ちの勇者なの。それを言わないのは臆病だからか、白百合団の秘密を躊躇ったからか、僕は無言をつき通した。
「勇者殿には是が非でもケイベックに来てもらわないと……」
言いながら項垂れるエテルナさん。言葉だけで、打つ手が無いんだね。でも、心配しなくてもいいんだよ。ロースファーとハルモニアが付く事は僕が邪魔をするからね。安心してそのナイフをしまってね。 ……ナイフ!
自らの喉元に当てたナイフは星明かりで煌めいていた。美しいと思うより、危ないから止めなさいが先だ。ケイベックの女はみんなナイフを持ってるのか?
「エ、エテルナさん……」
「勇者殿……」
何か決意がこもった目は、鋭く美しく儚い。神速のモード・シックスなら突き刺す前に届くかな? 彼女は声を震わせ言葉を続けた。
「もし、このまま喉を突き刺したらどうなると思う」
血がいっぱい吹き出して、この世から美人が一人いなくなる! それは、もったいないから全力で止めるけどね。一人くらいなら訳ないよ。 ……て、いつの間に五人に増えた!
四人の護衛は暗闇から現れるとエテルナと同じように、自らの喉にナイフをあてがっていた。ケイベックの女はナイフが好きなのか!? 刺したら痛いよ、死んじゃうよ。
「勇者殿は女も守れなかった「腰抜け」と言われる!」
気にしない! 僕は腰抜け呼ばわりされても気にしないよ。痛いの嫌いだし、死ぬのはもっと嫌いだし。それに貴女たちは僕の護衛でしょ。自害でしょ。僕のせいじゃないも~ん。
「ウェールズ殿。死んだらケイベックを守れませんよ。覚悟は痛いほど感じました。マクレガー侯爵様との絆もありますし、僕がケイベックを見限る事はありません」
次の言葉次第でモード・シックスだ。不意をつけば、三人までなら無傷でナイフを落とせる自信がある。後の二人は気合いと根性と乳のデカい方を優先……
「マクレガー侯爵様との絆か…… 勇者殿には侯爵様との絆があると言うのか?」
はい! 深い絆を深い所で結んできました。あれは素晴らしかったですね。日本で結んだら確実に捕まりますから。
「……はい」
「そうか!」
メレディス嬢との記憶を片隅まで辿っていた僕の一瞬の隙をついて、ナイフは振り下ろされた。
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