異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第二百五十六話

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 増えるサキュバス、踊る相棒。千切っては投げ、投げては千切り、突き刺しては、引き抜き。愛は……  愛は……  この部屋には無かった。
 
 
 「レヒニタちゃん、大丈夫?」
 
 他にも声を掛けなければならない程、この部屋の惨状は凄まじい傷痕を残していた。サキュバスが暴れ出せば部屋が一つダメになると、改めて考えさせられた。
 
 幸いな事に僕は元気だ、相棒も元気だ。レヒニタちゃんは突き刺されたまま、コクコクと頷いているの腰の動きに合わせているだけなのか、声を掛けても返事がない。
 
 リアは最後に言っていた。「当分、使い物にならないよぅ」と。仕事に支障が出なければいいのだが、シンちゃん、とても、心配。
 
 身も心も、腰以外は軽くなって着替えていても、誰一人として起き出して来ない寝坊助さん達。「朝食を食べに行こう」と誘っても反応が無い。みんなダイエット中なのかな?    仕方がないので城まで行ってご馳走になった。
 
 
 
 「問題は無く、順調です」
 
 城内の一室でマノンさんは書類と格闘中だった。ハルモニア国内、アシュタール、ケイベック、ハスハント商会から送られて来る、膨大な物資の調整を一人でやっているからか、少し痩せた様にも見えた。
 
 もしかしてバストのサイズも!?    その心配は無用だった。目の前に見える谷間は深く美しく、世界絶景百選に選びたくなる程だった。
 
 「ハスハントから傭兵を補充出来ませんか?    殲滅旅団の被害が大きいので。それと白百合団にも補充を……」
 
 「女性ですか?」
 
 「あ……  殲滅旅団は構わないんですけど、白百合団は入団規則がありまして……」
 
 「……それで、女性ですか?」
 
 だって、だってなんだもん。白百合団に男を入れたら、みんな殺されちゃうんだもん。本当ならハスハントの傭兵も白百合団に入れて、超振動の武器を与えたいくらいなんだもん。
 
 「はぁ……  まぁ……」
 
 「……怒ってませんよ。女性となるとかなり人数が絞られますので、すぐにとは参りませんね。ハスハントからの傭兵は逐次こちらに来る手筈になっていますので、殲滅旅団を優先に補充いたしますね」
 
 怒った顔を綺麗だが、マノンさんの笑顔は僕を癒してくれるよ。僕もマノンさんを癒してあげたいが、まだ雰囲気の良いお店も開いてないだろう。この戦が終わったら、ゆっくりと食事でもしたいね。
 
 「それとですね……」
 
 食事もいいけど、終わった後のデザートはマノンさんがいいなぁ。なんて言える筈も無い、二人は仕事上の関係。それなら仕事をしよう。僕の妄想の中で……
 
 「アシュタールの……」
 
 脳内妄想、ゴー!
 
 
 
 「武田先輩、何で僕も行くんですか?    先輩の契約でしょ?」
 
 「硬い事を言うなよ。硬くするのはここだけにしておけ」
 
 そう言って人の股間を握ろうとする武田先輩に、本気のワン・ツーパンチを喰らわせてもビクともしない強靭さも、部長の一声で心もとろける。
 
 「早く出ますよ」
 
 「早く出ますよ先輩。車の鍵は何処ですか?」
 
 「運転なら俺がするから、お前はギーユ部長と後ろに座ってろよ」
 
 「いいですって。後輩の僕が運転しますから」
 
 「お前はこの車、幾らか知ってるか?」
 
 「国産のワンボックスでしょ。高くても五百万くらいですかね」
 
 「バカ!    二千五百万だよ。中を見てみろ、こんなに大きくても四人乗りで、後ろのシートなんかファーストクラスの席だぜ」
 
 「それで二千五百万もするんですか!?」
 
 「いや。運転手の宮さんが改造したんだよ。それで一千万以上は使ったらしいぜ。その車を運転する自信があるのか?」
 
 「お断りします。  ……この会社、大丈夫ですか?」
 
 「さっさと乗って部長の機嫌でも取っておけよ。早く乗れ!」
 
 本来なら運転をする筈だが、武田先輩が代わってくれる事もあり、せめて僕は助手席に座るものだと思っていたら「俺が本気を出すときは助手席に人は乗せねぇ」と訳の分からない事を言われ、僕はギーユ部長の隣でファーストクラスを楽しんだ。
 
 「ギーユ部長、この車ワインセラーが付いてるんですけど……」
 
 「そうね」
 
 あれ?    ちょっとトゲのある感じ。誰かさんが失敗でもしたのかな。確か今日は本契約の書類にサインするだけだったよな。武田先輩、何かミスでもしたのか?    だから僕も連れて行かれるのか?
 
 それとも僕のミスか?    最近は小さな契約を取ったばかりで順風満帆。新しく出来た後輩とも軽い打ち上げをして酒の失敗も無い。
 
 ミスと言えば……    ゴムを買い忘れた事か!?    あの最初の契約を取ってから僕とギーユ部長との関係は続いていた。僕にはこれ程の才色兼備な女性は勿体無いが、「好きだ」と告白した事もある。
 
 だけど「ふふふっ」と笑って返されて返事はもらえなかった。それでも関係は続いている。うちの会社は社内恋愛禁止となっているが、部長様の朝の訓示で、その事を言った時には関係を持つ合図になっているのは、上司としてどうだろう。
 
 しかもホテルになんか行った事が無い。いつも仕事中か残業中か部長の個室か給湯室か屋上か階段か、関係を持つのは心が高ぶる。いや、高ぶらないから。バレたらクビの方で高ぶるよ。
 
 それでこの前の時にゴムを忘れた。結局はしてしまったし、中で出してもした。「中で出して」って言葉を信じちゃったのが不味かったかな。
 
 「武田君、眩しいわ。カーテンを閉めて」
 
 「了解です。もうすぐ高速に乗ります」
 
 自動で閉まるカーテンに今の車って凄いと感心してしまうよ。横も後ろも、運転席との間のカーテンが閉まり、まるで動く密室のようだ。
 
 「打ち上げは楽しかったかしら……」
 
 えっと、話はどこまで戻ればいいんだ。  ……契約の打ち上げの話か?   小さな契約を取って課長と僕とチームのみんなで居酒屋で飲んだ事か?
 
 「は、はい。種子島から飛んだロケットが打ち上がる姿は、感動的な……」
 
 言葉で言うなら「ギン!」  そんな感じで振り向くギーユ部長の眼差しは、ドアを開けて高速に飛び降りたい気分にさせる。
 
 「契約の後のウ・チ・ア・ゲ!」
 
 冗談を冗談と取ってくれない……    やっぱり中出しが不味かったかぁ。それともテクニック不足にご不満ですか?
 
 「はい。楽しかったです」
 
 満面の笑顔に射殺す眼差しは、僕にドアを開けて出て行けというサインなのか。さすがに、このスピードで降りたら死ねますね。
 
 「高木さんていたわよね。楽しかったんだ……」
 
 タカギ、高木、後輩で入った女子社員の事か。確か帰国子女で英語とフランス語が流暢で性格は明るく社交的、目鼻が整っていて美人系、そして胸のサイズはストライク、バッターアウトの女性だね。
 
 「き、来てましたね。同じチームですから……」
 
 もしかして、嫉妬か?  まさか、マノンさんクラスの、しかもその中でも頭一つ抜けた美人が嫉妬か?  スタイルも良く、頭脳明晰、テクニック抜群の人が嫉妬するの?
 
 「やっぱり……  やっぱりミカエルも若い娘がいいんだ……」
 
 若さへの嫉妬か!?   こればかりはタイムマシーンがあっても無理だよ。マノンさんには若さに負けないくらいの輝きがあるのを僕は知っているよ。もし、高木さんかマノンさんか、どちらかを選べと言われたら……、  ……、  ……マノンさんだよ。
 
 「そんな事は無いです。僕はマノンさん一筋です」
 
 見つめ合う瞳と瞳。と、言うより「蛇とカエル」「猫とネズミ」、「嫉妬の炎に燃え上がる瞳と後ろめたい事は無いけど高木さんの若さに一瞬でも引かれた男の瞳」勝つのはどっちだ!
 
 ……勝った。マノンさんの方から目線を外した。僕の真摯な目差しがマノンさんの凍った心を溶かしてくれたんだ。僕は満足だ。僕はこれからもマノンさん一筋に……    一筋に……    何で僕のベルトを外すの?
 
 ファーストクラスに座っている僕の足と足の間に滑り込み、無造作にベルトを外しにかかるマノンさん。凄いなぁ、足を伸ばしても一人分も入れるくらい広いなんて……    そうじゃねぇ!
 
 「マ、マノンさん、何を……」
 
 何をって、ナニをするんですよね、分かってます……    分かってますか!?    カーテン一枚で仕切られた運転席には、武田先輩が運転してるんですよ。音はともかく臭いが……
 
 「若い娘には、負けない……」
 
 負けてませんよ!    一舐めで大きくなった相棒はすでにマノンさんの口の中に。あぁ、暖かくて気持ちいい。
 
 「んちゅ…  んちゅ…  んちゅ…」
 
 さすが高級車。外の音が聞こえない代わりに中の音は響きそうだ。臭いより先に音を何とかしないと……  その前に「止めてもらう」の選択肢は僕には無い。
 
 「せ、先輩、音楽をかけて下さい。何でもいいから!」
 
 「音楽かぁ?    ラジオでいいか?」
 
 この音を消してくれるなら、何でも構わないから鳴らしてくれ。出来るだけ大きな音で!
 
 「……今週の第四位は「ハゲ鷹が飛んだ」でした。それでは少し趣を変えて、こんな曲はどうでしょう」
 
 流れて来たのはラップでもなければ演歌でも無い。とても朝から聞くような曲では無いムード漂う大人の音楽。これが夜なら、車の中でなければ、武田先輩がいなければ、マノンさんに続けて欲しくなる曲が車内に響いた。
 
 「じゅぽ…  じゅぽ…  じゅぽ…」
 
 気分に乗って来てしまったのか、激しくなるマノンさんの動きに、僕はどうやってブレーキをかければいいのか分からない。
 
 むしろ出してしまうか。早目に終わらせてしまうか。この後は契約先との話し合いがあるのに、タバコ臭いなら我慢もしてもらえるだろうが、栗の花の臭いをさせる訳にもいかない。ここは我慢だ!
 
 「部長、高速からずっと後ろをつけて来る車がいますよ。もうすぐ峠道に入りますが、どうします?」
 
 いつの間に高速を降りた?    峠道だって?    池袋から高速に乗って十分と経ってないし、それで峠があるなんて、ここはどこだよ。
 
 「イキなさい……」
 
 それは僕に言ったんですか?  我慢したのが不味かったか?   イッてもいいなら、イキますけど、この後の商談はどうなります。
 
 「任せて下さい部長。宮さんがカスタムしたこの車の実力を見せますよ」
 
 アホか!  ワンボックスの何をカスタムするんだよ!   ……おっ!  このシート自動でリクライニングするじゃないか。それにマッサージも付いてるなんて凄いよ。宮さんは乗り心地をカスタムしたんじゃないか?
 
 「車重三トン、ブレーキや足回り強化済み、防弾ガラスに九百馬力にカスタムアップした社用車の実力を見せてやる!」
 
 日本で見せる場所なんてあるか!  いつの間に下着を脱いだ!  脱ぐ所を見せろ!  揺れる車内で僕の前に立ちながらショーツをクルクルと回すマノンさん。それ、ください。
 
 「硬くして……」
 
 驚きの展開にスライムになった相棒。この状態でどうやって硬くすればいいんだ。
 
 「了解です」
 
 何が了解なんだよ武田!    お前が硬くしてどうする!?    硬くするのは僕の相棒の方だ!
 
 「足回り、硬くしました。少し跳ねます。シートベルトをして下さい」
 
 足回りの方か。自動で車高の調整が出来るんだね。宮さんも無駄遣いをしてないか。
 
 スライムの上に乗るマノンさん。相棒は暖かいと喜んで大きくなるよ。それよりシートベルトしないと!   本当に峠でバトルするのか!?
 
 九百馬力の咆哮が唸りを上げて加速する。シートに押し付けられる僕は振り落とされない様にしがみついた。
 
 「はあんっ!」
 
 一馬力くらいの唸りを上げてそそり立つ相棒は、振り落とされない様にとマノンさんに突き刺さる。
 
 そして急ブレーキ!  前方に投げ出される程の重力加速を足で踏ん張り止めれば、マノンさんは宙を浮く様に抜けおち、前方に向かって飛んで行く。
 
 宙を浮く両手を握り引き戻そうとすれば、また一馬力の相棒に突き刺さって押さえた。
 
 「あぁ…  こんなに激しいの…」
 
 こういうプレイですか!?  車重三トンの加速と急停車に合わせたグラインドプレイ!  危な過ぎるだろ!  
 
 「付いて来やがる!  見てろよ!」
 
 張りきるバカ先輩。止めないと、みんなで谷底に落ちるんじゃないか!?  そうなったら無重力プレイ?  ……バカな!
 
 「せ、先輩!  もう止めましょう!  危ないです!」
 
 僕の言葉はマノンさんの人差し指を口に当てられ止められた。その人差し指は口からシートの脇に向かいボタンを押す。
 
 シートベルトでも締めてくれるかと思ったけど違った。押したボタンはマッサージ強。路面の凹凸がタイヤからシートに、シートからマッサージ強で増幅されて背中に、背中から人体の先の相棒に伝わり、フルパワーを持ってマノンさんの秘部を貫き通した。
 
 「ああぁ…  凄い!  凄すぎるぅ…」
 
 ファーストクラスの席でも伝わる振動は背中が痛くなる程だ。それが一点に集中して伝わっているマノンさんには、口から流れるヨダレが凄さを物語っていた。
 
 もう腰を振る事が出来ないほど、陶酔しきっているマノンさんに追い討ちをかけるべく、車がコーナーを曲がって車体を振った。ワンボックスでドリフトかよ!
 
 斜め横から襲いかかる重力加速は、右コーナーでマノンさんの肉壁の左側に、左コーナーでは右の肉壁に押し当てられ、車体の挙動の全てが相棒からマノンさんに伝わった。
 
 「も、もう…  むり…」
 
 僕も限界が近い。ゴールはまだか!?  こんな運転をして事故を起こしたらどうする!?  下半身丸出しで死ぬのは嫌だ。
 
 「最後だ!  五連続ヘアピンで勝負を決めてやる!」
 
 一人、ノリノリの武田は放っておいて……  乗っているのは二人はだけど、僕はマノンさんをきつく抱き締めコーナーに耐えた!
 
 フィニッシュ!
 
 社用車のワンボックスはスピードを落とし速度制限を守り始めた。マノンさんは、今までに見た事の無い、テレビではモザイクが掛かる顔で僕の方を見てるのかピクピクしている。僕もマノンさんの中でフィニッシュを決めてしまい、相棒をピクピクさせ残りも出しきった。
 
 「やったぜ!  舐めんなよ!」
 
 一人で勝鬨を上げている暴走野郎は放っておいて、僕はゆっくりと車の窓を開けた。カーテン越しに流れて来る風は、車内の熱気を冷やすには充分だった。
 
 「近くに栗の花でもあるのかな?」
 
 暴走野郎は無視しよう。それよりも、この汚れてしまったファーストクラスのシートをどうすればいいか考えないと。
 
 「ミ、ミカエル……」
 
 未だに下半身だけはピクピクと快楽の中に漂っているマノンさんは力無く続けた。
 
 「もう……  離しません……」
 
 
 その後、マノン・ギーユは新しく会社をフランスで立ち上げ、ミカエル・ギーユとの間に双子の姉妹をもうける。クリスティンとソフィア、二人はとても美しく誰からも愛される女性に育った。
 
 プリシラという女性が現れるのは、また別のお話……
 
 
 他人の妄想に、勝手にナレーションを入れてるんじゃねぇ!
 
 
 
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