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第二百六十九話
しおりを挟むアルマを拉致し、魔王の情報を聞き出す。その為に誘拐して来たのだから。身代金を奪おうとか、アルマに復讐しようとか、そんな事は……
「最高さ、ミカエルは……」
どうして、こうなるのだろう。どこで間違ったのだろう。人は間違いをおかしながらも成長する生き物だと、僕の成長を待つより速く、相棒が成長した。
「あぁあは…ん…!はぁあ…ふ…!」
僕達は無事にシュレイアシュバルツの街にたどり着いた。魔族を連れて歩く訳にもいかず、極秘作戦ゆえに白百合団や殲滅旅団に話す訳にもいかず。
「あぁ… 激しいさ… すごいぃ…… あぁぁ……」
アルマから魔王の情報を聞く為に僕達は無人の家に入り込んだ。僕はそこで有らん限りの力を振り絞り、アルマから情報を聞き出した。
「な、中でグリグリするさ… ど、どうなって…… あぁん…」
力は振り絞ってる。アルマも観念したのかポツリ、ポツリと話を始めてはいるが、質問に対して違う事を話し過ぎだ。
「あぁ… またイクさ… ィグう……」
この会話も何度目だろう。それに何時間たったのか。十分の様にも感じるし四時間半にも感じるし…… そろそろ疲れちゃったよ。
「話せ、アルマ! 話さないと止めるぞ!」
「ああん… もう少しさ… 止めないでほしいさ…」
四時間半の拷問の末に分かった事がいくつかあった。まず、アルマは淫乱の度を越え過ぎている事。これは僕が捕虜になった時に分かっていたつもりだったが、分かってはいなかった様だ。
次にアルマの性感帯は…… また今度として、魔王の所在が分かった。魔王はこの戦が始まってラウエンシュタインを落とし、そこから動いていなかった。
クリンシュベルバッハを攻めた時も他の都市を攻めてからも、その後もラウエンシュタインから動いていない事を、アルマを三回イカして、やっと喋った。
「あぁ… イッてしまったさ…」
これが何回目かは数えていないが、魔王の居場所が分かった事は僕達の作戦を有利にする。それに魔王の個人情報も聞き出せた。
「もっと、もっと、してほしいさ……」
魔王は結婚をしていない。僕と同じ独身らしいが、世継ぎがいない事が分かったのは大きな事だ。これで魔王さえ始末すれば戦争は終わる。例え終わらなくても、一枚岩では無い魔王軍は瓦解するだろう。
「あうっ… い、いきなり奥まで… ミカエルも分かってきたさ…」
それと、もう一つ。魔王は魔族では珍しく逆角が着いているらしい。普通の魔族なら角の先端が前を向くのに、魔王は小さな角が髪の毛の流れに合わせて後ろに向いている。
これは有益な情報だよ。魔王の顔が分からないが、角の向きさえ合っていれば、それが魔王だ。指紋やDNAを調べなくても本人と分かる。
これだけの事に四時間半もかかってしまったが、知り得た情報はとても価値があるものだ。アルマの身体の隅々まで知り得た情報はそれを凌駕するが、今は黙っていよう。
「お、奥は嫌さ… 頭が真っ白に… あっ、あぁ」
必要な情報は得た。この女は用無しだ。後は連合軍の戦意高揚の為に、首を跳ねて死んでもらうだけだ。楽しかったが、最後に役に立って死んでもらおう。
「これで最後だ。モード・シックス!」
モード・シックスの神速をアルマに叩き込み、僕は果てた。五時間の拷問に耐えたアルマも最後は白目を向いていった。
僕もさすがに疲れたよ。少し眠りたい。このままアルマを抱きながら…… このまま相棒を刺し込んだままで……
顔に冷たくも柔らかい感触で僕は目を覚ました。アルマは眠ったままだった。せめて苦しまずに殺してやろうと、僕はまだ刺さったままの相棒でとを引き抜き、オリエッタナイフを取ろうと窓際のテーブルに手を伸ばした。
「ぐへへへっ、離さないさ! もう離れないさ!」
遅れた僕に後ろから羽交い締めに抱き付いてくるアルマ。胸の感触が気持ちいいが、腕が首に入ってる! このままじゃ締まる、殺される!
「アルマ! 離せ!」
離さないと言ってる人に、離せと言っても聞いてはくれない。僕は何とか首とアルマの腕の間に指を入れ、窒息死を免れようと暴れた。
「もう、ずっと一緒さ。離れられないさ」
「黙れ魔族! お前は人間の敵だ!」
「人間の敵でもミカエルの妻さ。婚姻の儀式は終わったさ」
婚姻? 何をしたっけ? 拷問はしていたけれど、それは以前にアルマが僕とした事と変わりがなかった筈だ。それが今回になって婚姻だと!? 特別な事をしたっけ?
「そんな儀式なんてしていない! 離せ!」
アルマが締めていた腕の力が弱まる。そのチャンスを見逃さず、僕は腕を取ってベッドに投げ飛ばした。すかさずナイフに手を伸ばしアルマを追従した。僕はアルマの上に乗り、心臓目掛けてナイフを振り下ろす。
「なんでさ……」
ピタリと止まったナイフ。アルマが涙を流していた。そんな殊勝な女じゃないと思っていただけに、僕の力はそれ以上進まなかった。
押し込め! このまま押し込んで心臓を突き破れ! 絶対に面倒な事になる! 何も聞かずに、このまま刺し込めば全てが終わる。
「なんで…… 僕が何をしたって言うんだ……」
聞かなければいいのに…… 空気を読めない自分が恨めしい。いや、むしろ読んだからこそ、聞いたのかな。涙を流して、悲しそうな目をした女に……
「さっき…… ミカエルは自分の精液を私の角に着けたさ。あれは婚姻の証さ……」
相棒に手を当てて考える…… 胸に手を当てて考える。そんな事をしたような気もするが、それは不可抗力じゃない? たまたま発射先に角があっただけじゃない?
ん~? 確かにしたかな? 魔族にとって角は大切そうだったから、汚したくなる男心。誰だってあるじゃないか、そんな優越感に浸りたい時も。クリンシュベルバッハでもあったじゃないか!? ……あったかな?
「そんな…… そんなの知らないよ……」
無責任男の代名詞とは僕の事か!? ヤるだけヤッて、ハイ、サヨウナラ。 僕の胸に罪悪感の剣が刺さる。
相手は魔族だ、約束なんて関係ない。
相手は女だ、泣かすなんて男じゃない。
相手は女だ、鳴かす事こそ男だ。
ボク、キョウカラ、オンナニ、ナリマス。
「責任…… 取ってね。マイ・ダーリン」
泣きながらも笑う、器用なアルマに、かける言葉より駆けて逃げ出す方を選びたいミカエル・シンです。どうしろって言うの!?
「こ、この話はまた後で…… とにかく、とにかく! お前は捕虜なんだからな!」
殺す事より、白百合団に殺される事を心配しないといけない。さっき胸に刺さった罪悪感の剣は、プリシラさんのハルバートか、ソフィアさんのプラチナレーザーか…… 嗚呼、楽しくなってきたよ……
胸に突き刺さる痛みを堪えて僕はベッドに寝転がった。まさか本当に魔族と結婚なんてね、愛は種族を越えるんだ。親族への挨拶、地方の風習、食べ物の好み…… どれか合う物があるのだろうか?
「拷問の時間は終わりさね」
拷問の時間は終わりでいいだろ。聞きたい事は聞いたし、やりたい事は必要に迫られて必要以上にヤったし…… そう思いながら嫌な予感と共に身体を跳ね上げたら、器用に引っくり返され後ろ手に押さえ始められる。
「今度は夫婦の営みさね。夫殿に尽くす嫁を見ておくれさ……」
彼女の望む夫婦生活とは、どんなのだろうか。夫を押さえ付け、決まった曜日にはゴミを出させ、家に帰ったらレンチンご飯が待っているのだろうか。やはり最初が肝心だ。男子たるもの舐められていいのはアソコだけ。
引っくり返された回転を足の回転で返し、クルリと足だけでベッドに押さえ付け上に乗る僕は、これでも神速持ちだ。
「拷問の時間は終わりだ。 ……拷問の方が楽だったと思わせてヤるぜ」
「それは期待しちゃうさ……」
僕は期待以上の働きを、アルマの身体に刻み込んだ。 ……刻み込んだら不味いんじゃね? 最後の方で何とか「婚約破棄」の言質は取ったが、聞いていたかどうか……
長い一日が終わりを告げる時には朝日が上り、僕は短い仮眠を取った。起きたら水や食料の確保をしてクリンシュベルバッハに向かわなければ。
船を調達し、白百合団は先に向かって待っている。アルマをローズさん達の新白百合団に任せてもいいが、何かあっても困るし、魔王の顔の確認をしてもらう為にも連れて行く事にした。
「何か余計な事を白百合団に話したら殺すぞ」と脅しをかけ、「余計な事を話さなければ、ずっと一緒さ」と返された。
これで良かったのか分からない。ただ魔王を始末出来た時にはアルマも用済みだ。その時には殺すか、解放するかにしよう。それまで気の休まる事も無い。
僕達は一頭の馬に二人で乗り、クリンシュベルバッハに向かった。馬の数ならあるのに、連れても来ているのに「逃げ出したら大変さ」と言われ、僕の前に向かい合う様に抱き合いながら馬を走らせた。
何とかクリンシュベルバッハに着いた僕達は、イリスの招きの元に白百合団のいる家に着いた。アルマは途中から気を失って静かに持たれ掛かって楽だったが、ずっと刺し込まれたアソコはどうなってしまったか心配だよ。 ……僕の相棒も頑張ったものだね。
「よっ! お久しぶり!」
僕はアルマの肩を抱き、引きずる様に白百合団に会わせたら、顔を引きずらせたのは皆の方だった。まさか、魔族を連れてここまで来るとは思って無かったのだろう。元気いっぱいの挨拶は、アラナ以外は沈黙で返してくれた。
「…………」
「え~、一身上の都合により、この魔族の女性には魔王の面通しをしてもらいます。最後まで一緒にいるので、皆さんには仲良く旅路を共にしてもらいたいです」
「……面通しですか……」
「はい、いくつか魔王の特徴等、厳しき拷問の末に吐いてもらいましたが、最終的な面通しは必要かと……」
「終わったら殺しますか~」
「その時は臨機応変に…… 魔王さえ殺れれば戦も終わるでしょうし、この女性の役目も終わりますからね」
「魔族の血…… 楽しみである」
物騒だね。もう少し、世界平和とか女性の地位向上とか考えられないものだろうか。何にせよ、アルマが変な事を話さなければ、生かしておいても構わない。
「……暴れん坊の姿が見えませんが、何処の酒場で飲んだくれているんですか?」
ハルバートを警戒しつつ部屋に入ったものの、肩透かしを喰らった様です。一番に騒ぎ立てるプリシラさんの姿は見えず、飲みに行ったと言ったけれど、お目付け役のクリスティンさんはここにいるし……
「プリ姉なら、デートみたいッスよ。さっき出掛けたッス」
打撲で痛む胸の高さからアラナが可愛く言って来たが、プリシラさんに客とは珍しい。きっと飲み代の「つけ」の催促にでも来たのだろうか。着いて行くとは、もっと珍しい。
「出発は直ぐにでもしたいので、呼びに行って来ます。皆さんの準備は終わってますか? ルフィナはこの魔族を縛って身動きも口も閉ざしておいて下さい」
「分かったである」
「…………団長。急いだ方がいいかも知れません」
確かに急いだ方がいいな。間違いなく逆ギレして半殺しするのが目に見える様だ。出発を目の前にして面倒事は避けなければ。
僕は白百合団と離れると、クリンシュベルバッハを覆うぐらいに広域心眼を伸ばしても見付けられず、特定広域心眼の片隅でやっと見付ける事が出来た。
街の外、少し離れてはいるが数は不明。プリシラさんの気配だけが分かったのは心眼のおかげか、二人の愛ゆえか。
僕は走った。せっかくの出発を血で染めたくは無かったから。
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