異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第二百七十二話

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 神速、モード・セブンの為に心臓を振るわされ、心臓をライカンスロープの爪で刺され、レーザーで射ぬかれても死なない僕は、宝くじを買ったら億万長者になれる程の「幸運」の持ち主か……
 
 
 「とても……  良かったです……」
 
 ソフィアさんの生け贄として捧げられた僕は、夜通しの祭りに、途中で部屋に入って来たクリスティンさんを引かせるほど激しく踊りまくった。
 
 それは血みどろの祭り。ソフィアさんのお姉さんの仇を討ったとはいえ、感謝の気持ちが痛いほど……  本当に痛く感じて、癖になりそうだよ。
 
 「ソフィアさん……  身体が寒いです」
 
 あれだけ血を流したんだ。出血多量で死んでもおかしくないが、悪魔の血のお陰か死んではいない。でも、死にそう……
 
 「暖めますね……」
 
 裸で抱かないで!  必要なのは肌の温もりより「治療」だよ。あんたの治癒魔法で、さっさと治してくれ。本当に死んでやろうか!
 
 「冗談ですよ。■■■■、治癒」
 
 あら不思議。死にかけた人さえ瞬時に治る治癒魔法。さっさと治せや!  その前にレーザー打つなや!
 
 「ありがとう、ソフィアさん。僕はこれからもアンネリーゼ女王陛下の所に行ってこれからの事を話して来ます。白百合団は最後の英気を養って下さい。明日から忙しくなりますから」
 
 アンネリーゼ女王陛下と会うのはこれが最後かもしれない……  魔王の首を取る。取れればまた会えるが、失敗したら会える事はないかもしれない。
 
 ヤバくなったら逃げよう。神速は伊達じゃないし、一番の目的は魔王の首では無いのだから。まだオリエッタにしか話していない本当の目的。
 
 殺る気を出してる所に水を指すのも悪いから話していないが、魔王の首は二番目だ。ついでに取ってやろう、出来れば取りたいな、取れたらいいな、くらいの気持ちでいこう。張り切ると失敗するからね。
 
 「英気を下さい……」
 
 もちろんソフィアさんと英気を養ってから、アンネリーゼ女王陛下と謁見した。
 
 
 
 「なりません!」
 
 美人に怒られると癖になりそうだ。癖になりそうな事が多くて、自分がエムなのかと思い始めるよ。僕はノーマル……  ちょっとエス気がある普通の人だと思っていたのに。
 
 アンネリーゼ女王は執務室でご多忙中。挨拶を早々にユーマバシャールを引き戻し、アンハイムオーフェンで死んだと思っていた妹のセリーナ嬢とも引き合わせた事を告げた。
 
 これには感謝のキス以外の感謝をされ、僕としては不満足だったが、アンネリーゼ女王陛下の笑顔を見れただけでも良しとしよう。
 
 そして本題。魔王の首を取る為に、ラウエンシュタインに白百合団で乗り込む事を告げたら怒られた。無謀だとか、勇者としての責務とか、真っ当な正論を直球で投げて来たので打ち返してみた。
 
 「北の三都市にはサンダードラゴンがおります。このドラゴンに対して我々は無力です」
 
 「それは聞きました!  稲妻を武器に使う魔物なんて初めてですが、時間をかければ倒せない事はありません」
 
 「その時間が無いのです。アシュタールの遠征軍は早々に到着するでしょう。そうなれば突撃は必至。巨大なアシュタール軍や連合軍の補給が続かないのです。ラウエンシュタインまで後一歩、短期戦で攻める事になりましょう」
 
 「それを止めるのも勇者の仕事です!  長期戦に持ち込んでサンダードラゴンの対策を練りましょう!」
 
 だ・か・ら、補給線が長いの!  一番、多く騎士団を出している所が、一番と長い補給線なんだよ!  しかも魔王軍が攻めて来ない事が前提だろ。サンダードラゴンを筆頭に攻め寄せて来たらどうするんだよ、バカタレ!
 
 と、言う事をオブラートに包み込み丸め込み、女王陛下の威厳を損なわない様に伝えたが、相変わらず僕の話は通らない。一応、僕、勇者ッス。
 
 通らないのも無理はない。僕はお伽噺に出てくる勇者と違って連合軍の総司令官なのだから、勝手に魔王の所に行き、死なれても困るのだろう。
 
 面倒臭い社会の鎖が僕を縛って喘ぎ声を出させる。どうせ縛るならアンネリーゼ嬢をと思うが、女王には女王の鎖があるのだろうね。是非、一度縛ってみたいです。
 
 「女王陛下、これしか魔王に勝つチャンスはありません。考えた末での結論です。どうかご了承ください……」
 
 巡航ミサイルでもあればラウエンシュタインに撃ち込むのに、残念だがオリエッタでも作れない。特殊部隊でも空挺降下させたいが、それは僕達になるのだろう。
 
 アンネリーゼ女王陛下には最後まで反対をされた。喧嘩別れみたいになってしまったが仕方の無い事だ。最後になるかもしれないのに、お別れのキスも無いなんて寂しいから、絶対に生きて帰って来よう。ベッドを暖めて待っていな……
 
 僕はクリンシュベルバッハ城を離れ、一人で久しぶりの孤独を味わった。
 
 
 
 クリンシュベルバッハの街は少しずつ活気を取り戻している。騎士や傭兵が街中を徘徊しているが、あちらこちらで商売を始める人もいた。
 
 僕はせっかくの一人の時間を買い物に使う事にした。これから頑張ってもらう白百合に、何か小さくてもプレゼントを買いたかった。
 
 改めて思う。僕は女の子にプレゼントをした事が無い事を。お金は充分にあるのだが、気の利いたプレゼントを思い付かない。
 
 個人的な趣味を前面に出した物をプレゼントしたら、間違い無く引かれる。これは相手に添った物を買うのが一番なのだろう。
 
 ふと思い付いて入ったお店に並んでいた「手鏡」と「櫛」と「ガラスの小瓶」はソフィアさんとアラナとルフィナにプレゼントしよう。ソフィアさんなら身だしなみに使うだろうし、アラナには毛並みを整えてもらい、ルフィナには血の補充用として喜んでくれるに違いない。
 
 オリエッタには「ギロチン首輪」がいいかな。きっと使ってくれるだろう。使う時には僕以外でお願いしたい。
 
 クリスティンさんには少し奮発して「ネックレス」を買った。モード・セブンを出す協力もしてくれたし、これくらいはしないとね。
 
 プリシラさんには「小物」を。あいつは僕の物になったんだから、これくらいでいい。釣った魚に餌はやらねえ。
 
 僕が白百合団の所に戻ると、縛られていると思った魔族の女、アルマ・ロンベルグは皆と一緒に談笑し、見知らぬ女の人が一人縛られて床に寝ていた。  ……誘拐はダメね。
 
 「その人はどちら様でしょう?」
 
 普通に手足の自由を奪えばいいだけを、ご苦労な事に亀甲縛りで寝転んでいる女性のバストは合格ラインを遥かに越えていた。
 
 「見て分からねぇか?」
 
 分かるのは縛らなければならないアルマがエールを皆と酌み交わし、知らない女性が縛られている。まさか……  僕へのプレゼントとか!?
 
 「分かりませんね。盗賊さんとかですか?」
 
 「そんな訳がねぇだろ。ライカンスロープだ。お前が生かしておいたろ」
 
 そうでした。一人だけ女性と知って当て身で気絶させたんだっけ。すっかり忘れてたよ、死にかけていたからね。ナイスだ、プリシラ!  これは僕へのプレゼントだね。
 
 「…………わたしとオリエッタが運びました」
 
 お前も忘れてたろ、プリシラ!  プレゼントは無しだ!  後で白い物をくれてやる。  ……で、連れてきてどうするの?  ジェイコブの情報は聞き出したみたいだし、縛ってどうするの?  解放した方が良いんじゃない?  本当に僕へのプレゼントかな?
 
 「ご苦労さまはいいとして……  どうするんですか?  この人」
 
 「決まってるだろ。てめぇが何とかしろ!」
 
 なんだよ、丸投げか!?  お前は大手のゼネコンかよ!?  僕は零細企業の下請けか!?  でも、何とかしろと言うなら、何とかしよう。相手は身動きも取れない亀甲縛り。胸の張り出し具合が心地よい。
 
 「聞くことは、聞いたんですか?」
 
   「聞いた。 後は任す。  ──それでよ、」
 
 皆さんで話とお酒に夢中な様で……  このライカンスロープをどうするか興味が無いんですかね?  この人と二人きりになってもいいんですかね?  期待に答えましょうかね。
 
 僕は縛られて寝転がる今は人型のライカンスロープに寄った。見事なくらいの亀甲縛り。きっとオリエッタの怪力で縛り上げたのだろう。服の上からでも食い込むロープの跡が、残りそうで可哀想でエロっぽい。
 
 僕は無慈悲にナイフを突き立てる。もちろん縛っているロープに。切れるロープに弾ける肉。胸のサイズが一ランク上がった様にも感じる。ロープをほどいてあげると、ライカンスロープは僕に抱き付いて来た。
 
 このまま倒されてマウントを取られるのかと、一瞬だけ焦り踏み止まる。変身される前に倒そうと、顔面に目掛けてナイフを突き刺そうとすると……
 
 僕を見上げる瞳が敵意では無く、好意の瞳に見えたのは僕が色男だからか。抱き付く力は押し倒す感じでは無い。むしろ抱き締める感じ。これって……
 
 「あのぉ……」
 
 「一生ついて行きます……」
 
 白い疾風がライカンスロープの顔面を蹴り飛ばし、入れ替わる様に抱き付き潤んだ瞳で僕を締め上げる。
 
 「殺しますか?」
 
 「殺しません。それよりはもう少し力を抜いてくれないと、僕が死にます」
 
 たまに思う。団内の最速、最強の力持ちはソフィアさんではないかと……  怒らせるとヤバいタイプの筆頭だからね。
 
 力を抜いてくれるのを待っていたら、呼吸が止まるか背骨が折れる。僕は早く力を抜いてもらう為に、ソフィアさんのお尻をモミモミしながらプリシラさんに聞いてみた。
 
 「どういう事でしょう?  僕について来るんですか?」
 
 「ああ、ライカンスロープは強い者に従う「性」があるからな。ジェイコブを倒して、お前がトップだ」
 
   強いと言われて悪い気はしないが、それで背骨を折られるのは嫌だ。ソフィアさんのお尻の感触はいいが、折られるのが先かソフィアさんが折れてくれるのが先か、勝負するほど背骨に余裕は無いよ。
 
 「こ、この人は白百合団で預かります!  ぼ、僕達じゃなくて新しい方ので!」
 
 軋む背中が伊勢海老の気持ちを教えてくれる。僕の場合は逆に曲がっているけど……  ソフィアさんも納得してくれたようで、僕の背骨は守られた。きっと今ならブリッジが出来るくらい柔らかくなっているだろう。
 
 
 その日は無し崩し的に休日となった。買ったプレゼントを渡す余裕も無く、休日となる。休日となると輪番だ……
 

 
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