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第二百七十三話
しおりを挟むエスレーベンの村。ケイベックから借り受けた船が停泊する予定の村。僕達はクリンシュベルバッハを出て一路急いだ。
「その村までどれくらいだぁ?」
「二日半の予定です。馬だけなら二日もかからないんですけどね!」
馬だけなら早い。それなのに何故か馬車を引き、急いではいるが時間がかかる。重い酒樽を捨てればもう少し早く着くんだ。
「そんなに急ぐ事もねぇだろ。アシュタールはノンビリ屋さんだぁ」
酔っぱらいの言葉を鵜呑みにしてはいけないが、プリシラさんの言うとおり時間には少しばかり余裕がある。
アシュタール帝国遠征軍が到着するまで、およそ十日あまり。簡単に軍を動かせないだろうから、五日を足して十五日くらい。僕達が、ここから村に向かい船に乗ってラウエンシュタインに着くまで七日くらい。
納期には間に合う余裕の仕事。心配事があるとすればオリエッタに頼んでいる最終兵器が完成していない事だか、ラウエンシュタインに着くまでには完成させると言っていた。
これについては船に乗るまでは秘密だ。どこで聞かれているか分からないし、魔族の女アルマがいつ裏切るかも分からないからだ。情報を聞き出して逃げられたら連合軍は崩壊しかねない。
「ミカエルぅ、せっかく二人でいるんだから拷問の続きをするさ」
馬車を操車する僕を、後ろから抱き付く魔族に何で縛られていないかと自問自答する。なんでコイツはフリーダムなの? みんなはフリーラブを推奨してるのかな?
「危ないですよ、座って下さい」
注意一生、怪我レーザー。アルマを貫いたレーザーは僕をも貫き遠くのお空に消えて行った…… バイバイ、俺の命。
「何をするさ!」
元気だな、アルマは。逆らわない方がいいよ。「ゴメン」て言えば許してくれる、大きな心の持ち主だから、ソフィアさんは。
「ミカエルと私は夫婦の……」
哀れアルマ…… 喉をレーザーで焼かれ死んでしまったとさ、おしまい。
「…………最後に何か言ってましたね」
ソフィアさんは最後の一言が聞こえなかったのか、気になったのか治癒の魔法をかけた。僕としては、このまま安らかに天国か地獄か旅立ってもらいたかったので、ソフィアさんの治療をを止めようと立ち上がり、荷台に移った時に一片の紙切れが落ちた。
僕の血で汚れてしまった紙切れは、どこかで見覚えのある物でヒラヒラとソフィアさんの柔らかい太腿の上に……
神速、モード・シックス!
神如き我が神速は、ソフィアさんより遅かった様で、先に取って見たのはソフィアさん。神速で逃げ出したのは僕。
読みきる前に逃げる。が、途中までで内容が分かったのか、背中に感じる圧力とプラチナレーザーが踊り狂う。
「何が書いてあんだ?」
「見てください、これ……」
僕が落とした紙切れは、アルマを誘拐する時に置き手紙として書いた物。内容は「結婚式を挙げる」とか空想的絵空事を書いてある物だ。
彼女にそんな物を見られたら「バカだなぁ、友達の悪戯だよ」と言い訳の一つも出来るだろう。僕も言い訳が出来るが、それは彼女達が満足してからだ。
「追え!」
手綱を取るソフィアさん。荷台で仁王立ちのプリシラさん。手紙を回し読みしているメンバー。広域心眼でそのくらいは見えるよ。
心眼のギリギリの所まで神速で逃げたのに、追い付こうとする六頭立ての馬車と、迫り来る僕の愛馬に乗ったアラナ。
今回は馬車を変えている。いつもなら愛馬に引かせた一頭立ての馬車だが、皆が馬より馬車がいいとエスレーベンの村までは馬車で移動だ。
全員分の馬が必要という事で愛馬にアラナを乗せ、馬車は六頭で牽いている。その迫力とパワーは一頭で牽いている馬車とは全く違った。
六頭立ての重低音を響かせ、ソフィアさんのエイト・ライトニング・ボールのペンライトが輝き、「轢け! 殺せ!」の声援が会場を包んだ。
二日半の行程を一日で進み、僕達はエスレーベンの村に入った。
「皆さんにプレゼントがあるんです」
これを言えたのはエスレーベンの村に入って二日目の朝だった。いや、三日目だったかな? 日にちの感覚が薄まる濃厚な日々は僕の白髪を増やした。
「何をくれるって言うんだぁ?」
朝から飲むなよ、船酔いするぞ。今日から楽しい船旅が始まるんだからね。せっかくの船の旅。ドレスコードをビシッと決めて楽しいクルージングにしたいね。
「クリンシュベルバッハで時間があったから買っておいたんです。もっと早く渡せれば良かったのですが……」
逃げるのに精一杯で渡せなかった。先に神速でエスレーベンの村に来ても良かったのだけど、僕の事を見失うほど先に進むと、勝手に帰ろうとしやがって。
だから見失うほど先には行かず、物騒な物が飛んで来ないほど近づかずでエスレーベンの村までやって来た。
ゴールのテープカットの寸前で幾千ものレーザーを喰らい、左足が切り落とされるまでは勝利を確信していたものだ。
そして二日間は白百合団と濃厚な日々を過ごし…… 今日は三日目の朝か! 濃厚な白い液体も最後には薄まっていった。
僕はマジックポーチに入る物や馬車に積んでいた物、大事にポケットにしまっていた物を一つずつ出していった。
「これはソフィアさんに、手鏡です。持っていたの、割れてましたよね」
「あら、知っていたんですか。ありがとうございます」
良し! 掴みはオッケーだ。続いてアラナには「櫛」を、ルフィナには「ガラスの小瓶」を渡し、オリエッタには「ギロチン首輪」を渡した。
さすがに「ギロチン首輪」は引かれるかと思ったが、早速自分に着けていたから大丈夫だろう。アラナも「櫛」で毛並みを整えているし女心を鷲掴みしたプレゼントと言っても過言じゃない。
「中味は無いのであるか?」
「この前、割ってしまったでしょ。予備として持っていて下さい」
「瓶より中味の方が重要である」
その中味って僕の血だろ。切り落とされた左足に食い付いていたのを見てるんだよ。自分の足に食い付かれるのって意外と恐怖を感じるんだよ。
ここまでは…… ここまでは、冗談をいれても、まあまあ許される範囲だ。ここからが厳しくなってくる。クリスティンさんへのネックレス。女の子なら宝飾品が欲しいだろうしね。
「ク、クリスティンさんには、これを……」
クリスティンさんの前に出した長方形の箱。なんだと身を乗り出すメンバー。この大きさで、この形。クリスティンさんも大体は想像が付いていると思う。期待に胸が高鳴っているのが、僕の心臓を通して伝わる。
箱を開けて「ワァッ!」と驚いた反応を見せてくれたのはアラナ。結構なお値段の物に、値段以上のリアクションに僕も嬉しいが、クリスティンさんは「にこり」とも笑わない。
「…………着けて下さい」
髪をかき上げ漂う香り、「うなじ」の綺麗さには見とれてしまう。僕は少し手を震わせながらクリスティンさんにネックレスを着けた。
「…………似合いますか?」
クリスティンさんの美しさの前にはどんな宝石も色褪せてしまう。少し微笑んでくれた、その顔を見れただけでも買って良かったと本当に思った。
「とても似合いますよ」
微かな微笑みと、心臓が止まるくらいの喜びと、それに反比例なクリスティンさんは美しさ故に全てが許される。
「最後は、あたいか!?」
てめぇだ! 釣った魚には何もやらん。が、ここで言わずに、いつ言うのか。出来れば皆のいる前で。この後の惨劇も二人で乗り切りたい。
僕はポケットに手を入れ、すぐに出した。目の前のエールが入った木のコップを飲み干し、ナイフを出して「愛している」と素早く彫って渡した。
そのコップはプリシラさんに渡ると、窓のガラスを突き破り外に消えていった。きっと海まで飛んで行ったに違いない。
「何のつもりだ、てめぇ!」
何のつもりもなにも…… ポケットに穴が空いていたんだよぅ。まさか大事にしまっておいたのに、穴から落ちて無くすとは思わなかったんだよぅ。
「あっ、えっと…… お酒好きなプリシラさんには丁度いいかと思って……」
「……そうか、そうか…… そうか!!」
テーブルに並んだ各自のコップは素早く自分の手で持ち、何も無くなったテーブルはプリシラさんのハルバートで、真っ二つになった。
「プ、プリシラさん……」
弾けるスパークが朝の光をもかき消し、黄金のライカンスロープが降臨した。その美しさと狂暴さは世界最強。僕だってビビってしまう。
「こ、こ、こ……」
こけっこー。ニワトリの鳴き真似をしたいみたいじゃ無い。どうやら怒っている様だね。木で出来たコップには「愛している」と彫ったのに、伝わらなかったみたいだ。気持ちを伝えるって難しいね。
「…………うるさい」
はい、ご臨終。クリスティンさんは僕達に一瞥もくれる事も無く、胸に輝くネックレスに触れながら心臓に響かせる様な声で制した。プリシラさんは倒れ、僕も倒れ…… いや、倒れない!
僕は痛みに苦しみながらも倒れなかった。きっと僕の方だけ手を抜いてくれたに違いない。やっぱりネックレスをプレゼントして良かった。賄賂は効く。
「どうしますか~ これ~」
倒れている人を物の様に指差したらいけません。でも、確かにどうしよう。意識を失っているだけで死んで無いし、顔に悪戯書きをするなら今だよな。
「とりあえず、クリスティンさんとソフィアさんは港に行って下さい。小さな港だし、大きな船が待っていればすぐに分かる筈です。アラナとルフィナでアルマを護送して船室に縛り上げておいて。オリエッタは運ぶの手伝って下さい」
いくら触り放題だと言っても重いプリシラさんを一人で運ぶのは嫌だ。馬車から馬は外してしまっているし、運のにもう一度付けるのも手間だ。
僕の指示でダラダラと移動するメンバー。それと違ってハキハキと動くオリエッタ。どうした!? そのやる気は!?
「さっそく使ってみるのです~」
心臓麻痺で気を失ってるプリシラさんに手際よく「ギロチン首輪」を付けるオリエッタ。貴女のその無謀なチャレンジに感嘆を禁じ得ないよ。どうした!? そのスピリットは!?
「オリエッタ。それはヤバくないですか? 起きたら間違い無く怒られますよ」
うつ伏せのままギロチン首輪を着けられると、喉が当たって呼吸がしずらいんですよね。経験者は語るよ。ちなみに仰向けだとやっぱり首の後ろが当たって痛いんだ。
「起きたら暴れます~。 今のうちに拘束しておきます~」
それなら手を縛るとかで済むのに、ギロチン首輪を使ってみたいだけだろ。起こさない様に、そっと運べばいいんじゃね?
オリエッタの手際の良さは錬金術師ならではだ。起こさない様にギロチン首輪を着け、丁寧に膝を曲げさせている姿は、まるで後ろから入れてくれと言わんばかりに、お尻を突き出していた。
もちろん、僕はそんな事をする様な男では無い。ギロチン首輪を着けられ、無抵抗に意識を失っている女性が、例え色っぽくお尻を突き出して誘っているように見えても、僕はそんな事をする男では……
「ん、んぅぅん……」
気が付いた様だ。何か事が起こる前に目を覚ましてくれて良かった。もし、このままだったら五分と我慢出来なかっただろう。それにオリエッタもいるしね。
僕が何かしようものなら、止めてくれだろうオリエッタは、プリシラさんの意識の回復を確認すると一人部屋を出た。このプリシラさんの状態で二人きりは不味いだろ。とても不味い……
「てめぇ、何だこれは!?」
「おはようございます。プリシラさん」
ギロチン首輪です。初めてですか? 僕は経験済みですけど、意外と動けますよ。首と手首は痛くなりますけどね。
「てめぇが、やったのか!?」
違います。オリエッタが自主的にやった事で僕は無関係です。関係があると言えばギロチン首輪をプレゼントしたくらいで「着けろ」なんて恐れ多い事を僕が言う筈が無いですよ。
「てめぇは、何をしてやがる!」
止めるも何も、気が付いた時にはギロチン首輪が着いた状態でして…… あっ!? 僕の事ですか? 僕はプリシラさんのお尻を撫でてます。
「なかなかのお尻様で……」
「死にてぇようだな……」
このお尻様を前にして死にたくなる人なんていないよ。もっと、撫でていたいくらいだ。でも、死ぬのは嫌だ。
「とんでもないです。でも、こちらはどうしましょう?」
僕の意思と無関係な相棒は、すでに収まりきらない程に膨張し、出してくれとの自己主張が僕のベルトを緩めさせる。
プリシラさんのパンツの上から擦り付けた相棒の準備は万端だ。もちろん足を閉じられない様に身体を入れている。
「てめぇ……」
船の出発を半日ほど遅らせ、僕達は船に乗り込んだ。僕は半殺しの目に合ったが、航海だけに後悔は無い。今、僕がギロチン首輪をしています……
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