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第二百七十四話
しおりを挟む僕達の航海の目的。ラウエンシュタインに巣食う魔王を倒し、世界に平和とフリーラブを広げるのは第三目標だ。
「オリエッタ。頼んでいた物は出来たかな?」
「少し厳しいです~。 どうしても魔石の方が~」
「まだ時間があるから頑張ってみてね」
オリエッタに頼んでいた物をついに公開する時が来たか。航海中に公開。僕がプリシラさんにした事は後悔…… ラップなんて踏まねえよ!
船旅も一日が過ぎ、岸から離れたクルージングで青い海が僕の心だけを癒し、半殺しに合った傷口の方はソフィアさんに断られた。
それにより僕は戦える状態にありません。どのくらいの怪我を負ったかと言えば、自動車に轢かれたくらいだ。清潔なベッドと綺麗なナースが欲しい所だね。
ナースの事は横に置いておいて、綺麗なベッドは欲しい。ケイベックに頼んだ船だから軍船か貴族の船かと思ったのに、元貴族の船で今は払い下げられ、漁船に改修されて魚臭い。絆の深さが足りなかったのだろうか。今度はもっと奥底に……
「皆さんが集まった所で、今回の目的を発表しますが、その前に! このギロチン首輪に自分のお茶を置かないで下さいソフィアさん!」
オリエッタにプレゼントし、プリシラさんに着けたギロチン首輪。今の使用者は僕だ。ソフィアさんには、お茶を置く場所にでも見えたのだろうか。不思議な事もあるものだ。
「丁度いい所にあったから……」
テーブルに置いた方がいいだろ。元は貴族の船で無駄に部屋があるんだから。それと溢すなよ。熱いお茶が素肌に垂れると火傷する。ギロチン首輪に裸の怪我人。それが今の僕だ。
「それでは発表します」
ドラムロールはいいかな? スポットライトはこっちね。下半身には当てないで、放送出来ないから。
「僕達はこれより魔王の国、ノルトランドに上陸します。上陸後、馬で移動しハルモニアとノルトランドを繋ぐネーブル橋の中央に、オリエッタが作った化学兵器噴霧器を設置するのが第一目標です!」
決まった! 勇者の高らかな宣言に割れんばかりの声援と拍手が会場を静まり返す。 ……何故だ!
「あっ、そのジャムくれ」
食事中だからだ! 楽しく食事をしようよ。ウイットにとんだ会話と美味しい食べ物。戦争の話しと魚とパンと豆。そろそろ僕に暖かい食事と服をくれ。それと怪我を治してくれ……
「聞いてますか? みなさん……」
「聞いてるよ。魔王を殺すんだろ」
聞いてねぇなぁ、聞いてねぇ。魔王は化学兵器の次なの。無理に狙わなくても構わないの。兵糧攻めが第一目的。魔王は二番目。フリーラブが三番目。
「団長も食べるッス」
右手に手渡されたサンドイッチ。ギロチン首輪が見えませんか? 口まで手が届くと思いますか? 右の鎖骨は折れてるんですよ。
左手の触手義手を伸ばし、右手で掴んだサンドイッチを左手で掴み直して口に持って行く。意外と食べれるものだね。出来れば食べさせて欲しかったけど。
「魔王が逃げられない様にノルトランド側から上陸します。ネーブル橋の中央に化学兵器を仕掛け噴霧するのは、ハルモニアとノルトランドの行き来を絶ち、補給線を絶つのが目的です。その上で魔王を倒せるなら倒します。あくまで補給線を絶つのが目的なので勘違いしないように!」
ここに来て、やっと会場が盛り上がって来た!? 勇者に贈られる歓喜の渦が「つまんねぇ」「面白くない」「血が見れない」「早漏」と僕を包み込んでいった……
最後のは神速で腰を振っているから早いの! 前後運動の回数なら世界一だ! それは置いておいて…… ここまで不評が出る作戦だとは思わなかった。出来るだけ負担を少なくして勝ちたいという親心が分からないものか。
「も、もちろん、魔王を倒せるなら倒しますよ。アルマを連れて来たのは魔王の見分をする為でもありますから」
魔王の特徴は掴んでいる。素顔は仮面を着けていて分からないが、魔族で唯一の逆角らしい。せめて顔さえ分かれば似顔絵を書いて、全国一斉指名手配だ。
「会えば分かるさ。魔王は魔王さ」
根拠の無い言葉と自由に一緒になって食事をしているアルマにムカつく。僕はギロチン首輪に裸族だぞ。せめてパンツは履かせて欲しい。
「……だ、そうです。倒せたら倒すで納得して下さい」
皆が納得してくれたか、イマイチ不安が残るライブだが、これで終了だ。アンコールは受け付けない。早く帰らないと終電に間に合わないぞ。
「さて……、話も飯も終わったな。次の輪番は誰だ?」
「僕ッス。ギロチン首輪なんて初めてッス」
良かったね。アラナの処女をもらえるなんて僕は嬉しいよ。その首輪をしてるのは僕だけどね。アラナにも着けてあげようか?
今は移動中にて輪番続行。アンコールはベッドで……
潮風が気持ちいい。下に見えるのはイルカかな? 一緒にならんで気持ち良さそうに泳いでいるよ。これぞ特等席の特権だね。しかも、上等な裸の女神と抱き合っているなんて、ここは極楽浄土か地獄の一丁目か?
「勇者殿。少しお話があるんじゃ。上がって来てはくれんかの?」
僕は船首の特等席でイルカの泳ぎを見ているのに、不粋な船長だ。この漁船の船長オリバーさんは初老の海の男。日に焼けた肌に、筋肉は僕より凄い。しかも豪快な酒飲みだからプリシラさんと気が合う。
僕は映画に出てくる船首で女性の腰を抱き、「まるで飛んでるみたい」と言ったリア充の船首にいる訳では無い。
船首は船首だが、それより先の船首像の女神に縛り付けられて潮風と時折来る高い波を一身に受けている最中だ。だから「降りて来い」では無く「上がって来い」と言っている。
それで上がれるならロープをほどいている。何が悲しくて波を被りながらイルカウォッチングをしなければならないのか。
「うちのメンバーのオリエッタを呼んで来てもらえますか? そしたら直ぐに上がりますから……」
縛った本人なら簡単に外してくれるだろう。それに僕の体重を支えるのにソフィアさんやアラナやでは力不足だ。海に落とされては困る。
「上がるか……」
「いえ! 結構です! 僕はこのままでいい!」
船長の野郎、選りにも選ってプリシラを連れて来たのか!? 一番ダメな人じゃないか。きっと、まだ怒ってるに違いない。ギロチン首輪の事は許してくれたのに。
僕がアラナとのアンコールの後、ギロチン首輪は外されソフィアさんにも自動車に轢かれたくらいの怪我を治してもらった。
僕は船長との挨拶もそこそこに、せっかく海で船に乗っているのだから船尾でトローリングを始めた。道具はある。僕は異世界フィッシャーマンとしてデビューした。
三十分ほどルアーを流したが魚は釣れなかった。初めての釣りなんてこんな物さと思いきや、僕が釣りたくも無い魚が僕に食い付いて来た。
アルマ・ロンベルグ。僕の嫁さんを公言している魔族の女。「魚より、あたしを釣りなさ」と迫るアルマに「お前をエサにトローリングしてやろうか!」と言い返す僕の後ろで「エサになるさ」と言って服を脱ぎ始めた。
そりゃ、エサが服なんて着てはないだろうが、白百合団や他の船員が少し離れた所にいるのに、大胆不敵と言うより頭とネジか角が外れているんじゃないか?
そして後ろから抱き付く、プリシラさんに見られる、船首に吊るされる、水遊びをする、プリシラさんが上げてくれると声を掛ける。
今がここだ。そしてもちろん、次の行動は落とされた。知らなかったが足首だけ違うロープで結んでいたらしい。
船首像と共に縛られたロープは切られ、船首を支点に足首のロープを伸ばされ、僕はトローリングのエサとなった。
「ざまあねぇな! 隠れてあんな事をやってるからだ!」
僕がしていたのは釣りだ、トローリングだ。脱いだのはアルマだし、勝手にやった事で僕は胸の膨らみを背中に受けただけで何もしていないんだ。
「プリシラちゃんよ、早く上げないと勇者殿が魚のエサになっちまうぞ」
「あぁん!? あの一緒に泳いでいるのか!?」
「あれはイルカと言ってな。肉食で獰猛なんじゃよ。群れで行動するしのぉ。早く上げんと骨しか残らん」
早く言ってね。可愛いイルカとスキンシップする所だったじゃねぇか!? また神様が動物図鑑に手を入れたろ。まるでピラニアじゃないか! 早く上げろ! プリシラ!
危うく僕の相棒が半分になる所をプリシラさんに引き上げられた。ここが無くなったら、僕の白百合団での存在意義が半減する。 ……半減くらいでいいですよね?
「やっと上がって来たようじゃな。勇者殿には話があるんじゃ」
まず心配して。ピラニアの群れに落とされたんだから。そして次に服をくれ。裸の男と、何を話たいんだよ。裸の付き合いは女の子としたい……
「悪いがこれ以上、北には進めん。もうすぐ人魚のテリトリーに入るからの」
来たかぁ~ 人魚! ファンタジー美形の代名詞の一つ人魚。エルフ、サキュバス等、美形の魔物はいるが、やっぱり人魚も外せない。
確か下半身は魚だけど、足が生えて普通の人にもなるんだよな。魚に興味は無いけれど、上半身には興味が多大にあります。僕と同じ裸族? それとも貝殻のビキニ?
「人魚がいるとダメなんですか?」
「お主達が何処まで北に進むか聞いておらんし、今は人魚の出産時期じゃ。それを追ってクラーケンが出おる」
僕達が何処に向かうか詳しい事は話していない。軍事機密だし北に向かってくれとしか言っていないから。ノルトランドまで片道一枚と言って、連れて行く度胸のある人がいるだろうか。
「人魚が出産するとクラーケンが出ると……」
「そうじゃ。狂暴なヤツでの。人魚の出産に合わせて、この時期に出るんじゃ」
人魚は分かる。人と魚を半分にして着けた感じだろ。だけど、クラーケンは分からない。聞いた事があるような気もするが、良くは覚えていないな。
要するに人魚のストーカーがクラーケンなのか。ストーカーは良くないね。良くないし船が北に進めないのはもっと良くない。
「人魚がおると、魚が集まっていい漁場になるんじゃよ。だが、今の時期はダメじゃな。クラーケンは船を沈めるほど狂暴じゃ」
「そんなら殺せばいいじゃねぇか」
プリシラさんと気が合う意見は、僕も命の軽さに慣れてしまったからだろうか。服も持って来ないで下半身をチラ見するなよ。恥ずかしいだろ。寒いから暖めてくれよ。
「そうですね。クラーケンには悪いですが死んでもらいましょう。それに漁場を荒らされては困るでしょ」
「うっ…… その通りなんじゃが……」
よほどクラーケンが怖いらしい。白百合団が出るんだから安心して北に船を向かわせてね。それにストーカーから美女を守るのは勇者の役目だ。
もちろん美女だからと言って命をかけて戦う為じゃない。「可愛い」と「綺麗」と「もしかしたらトップレスの人魚に感謝される」為に戦うんだ。
ノルトランドまでの最後の難関に僕はハーレムを夢見て戦う。
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