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第二百八十一話
しおりを挟む二番目、ショート、クリスティン。背番号六。
二番バッター、クリスティンさん。見えないバットを振り回し心臓を止める強打者。その美しさは女神さえも逃げ出すほど……
そのクリスティンさんが僕の手を離すと、鎧を取り服を脱ぎ捨て下着姿で立ち尽くす。ピンクで統一したブラとパンティは、クリスティンさんの美しさを邪魔するだけにしか見えない。
「…………綺麗ですか……」
「と、とても……」
クリスティンさんは美しい…… 美しいという形容詞さえ許されないほど美しい。見ている者の心を捉え、孫の代まで語り尽くせぬ美しさは、一人のものにする事さえ許されないだろう。
そのクリスティンさんが、僕の前で下着姿になっている。それはこの国で…… いや、この大陸、この世界で僕にだけ許された一時。
だが、僕は…… 僕にとってクリスティンさんは美しすぎる。クリスティンさんは非の打ち所の無い、それより完璧と言ってもいい。国と交換しても手に入れたいと言う国王だっているだろう。
だが、僕は…… 男として人としてクリスティンさんに向ける想いは一番では無い。完璧過ぎる存在は、僕の着エロリストとしての存在を否定する。
着エロは常に進化、変化する物だと考えている。着エロに究極や至高はあっても完璧は無い。服の一つ一つ、場所やシチュエーション、アクセサリーや雰囲気。全てが合わさっての着エロなんだ。
完璧なクリスティンさんは、その存在が正義であって、他の何を着けようと、どんな場所や自然でさえも、クリスティンさんの美しさには敵わない。それではダメなんだよ。着エロリストとしては!
僕は着エロリスト。完璧な存在は着エロを否定する。クリスティンさんは美しいが故に僕の存在を否定する。
僕はクリスティンさんが見せたかった下着を剥ぎ取った。どんな綺麗な下着でもクリスティンさんには汚点にしか映らない。
僕さえも汚点に見えてしまうクリスティンさんの中に白い汚点を残したのは、悔しさからか、僕の存在を肯定する為か。クリスティンさんは受け入れてくれた。
「…………来ました」
服を着ているクリスティンさんが、浜辺の方を見て言った。僕はもう少し着替えを見ていたかったが、何が来たなら広域心眼で確認しないと。
来たのは馬に乗ったソフィアさん。おかしい? 上陸順序はどうなっているのだろう? そんなに時間を掛けたつもりは無いのに、二発出すのに時間をかけたかな?
「交代で~す」
軽やかに馬から舞い降り、身に付けたマントがふわりと風になびく姿は天女を思わせる。神の如く光るレーザーは全てを射抜き、被害の大きさは身を持って知っている。
「ソフィアさん!? もう馬の移動は済んだんですか!?」
「大丈夫です。任せて下さい」
根拠の無い大丈夫に任せ、クリスティンさんは馬に乗って去って行った。僕も帰ろうと着替えを始める手を止められた。
「団長。ここがノルトランドなんですね。もっと魔物がいるかと思ってました」
「そ、そうですね。うっ…… ま、魔物は戦争に駆り出されたのかも…… うっく……」
「魔物も大変ですね。ラウエンシュタインにはいっぱい居るのでしょうか?」
「そ、それなりに…… あぁ…… それなりに居ると思います……」
「私達は魔王と戦えるのでしょうか? 少し怖い気もします」
と、ソフィアさんの言葉を翻訳するとこんな感じの話をしていたんだと思う。 手を止められて、咥えられ最初の言葉の「団長」も「たんひょう」と言ってたくらいだ。
たぶん会話は成り立っていたんだろう。ソフィアさんは満足するまで相棒を咥えて離さず、僕は出して満足した。ウィン・ウィンの関係なのだろうか。
僕達は腕を組んで上陸地点まで向かった。もちろん途中でアラナが馬に乗って来た。ソフィアさんが来た時点で庄野流れが分かってはいたものの、アラナは間違った大人の恋愛を望むから困るよ。
アラナは僕に気を使ってくれたのか斬馬刀は持っていなかった。物騒なノルトランドでもと思ったが、今一番に物騒な集団は白百合団くらいだろう。
「大人の恋愛ッス」
そう言って自前の爪を伸ばし構えるアラナに、僕は「大人の恋愛って違うんだよ」といってやれなかった。気を抜く暇などないからだ。
アラナは構えると二人に別れた。アラナ得意の残像を使ったトリッキーな攻撃方法。それは普通の人には通じるだろう。僕は神速でそれを見破れる。
端から見たら気持ち悪いだろう神速で眼球を動かす姿。これを使えば残像ぐらいは見破れるが、アラナは最大で四体くらいは出せる筈なのに今日は一体だけ…… もしかして舐められているのかな?
本体と残像の距離が開く。このくらい開けば残像で二体は出るのに出しては来ない。いきなり、もう一体を出して本体を含めて三体で攻撃するつもりかな?
それとも速さを重視して本体と残像一体だけで攻撃するつもりか? なんにせよ神速を使えば見破れる。僕はもう一体増えるのを予測してモード・スリーで迎え撃った。
見破れません。消えると思った残像は消えずに左右から襲い掛かって来た。やっぱり残像の数をいきなり増やして数で勝負してくる気だな! このトリックスターめ! 僕はスピードキングだ!
間に合えモード・フォー! なお消えない残像。四体を出すと思ってた残像をさらに上げてくる気だな! だけど本物は一体アラナのみ。スピードはこちらが上、腕を掴んで組伏せる。掴んで消えたら逃げる。
左のアラナに集中し残像が増えるのを予測して捕まえた。こっちが本体、残像は消える! 勝利を確信して痛む背中! 何故だ!?
振り返るより先に掴んだ腕を離して距離を取る。二体のアラナは追い討ちをかける様に迫って来た。残念、アラナ。安定のモード・フォーと機先の心眼!
見える未来は三秒先まで。ズタボロになる僕の未来に抵抗すべく、全力回避。消えない残像に逃げの一手。残像は残像だろ! 何故、見えないんだ!?
残像のくせに連携プレイが上手い。避けた方向から次の一手が迫り、それを避ければ先回りしてアラナの鋭い爪が襲う。
何だか避けるのを予測して攻撃をしているような。残像ではそれは出来ない。本体が一つなのだから…… 一つじゃないのか!?
「アラナ! なんだそれ! 二人いるのか!?」
「あれ? 言ってなかったッスか? 分身ッスよ」
お前はいつから忍者になったんだ!? 分身は自分と同じ実体だ。神速で見たって消える訳が無い。だって本当にそこにいるのだから。
「……ま、魔法?」
「僕は魔法は使えないッスよ。努力ッス」
努力で分身が出来るなら、僕はクロールの息継ぎが出来るようになっている! 練習したら溺れてるの? って言われたよ…… それにしてもアラナが二人は厄介だ。一人でも可愛いのに、それが二人もいるなんて…… とりあえず実力で押し倒すか。
「お父さんやお母さんも、分身が出来るの?」
「お父ちゃんは僕と同じ一人出せるッス。お母ちゃんは三人ッス」
二人は農民、分身なんて働き手に必要だからか? 少なくとも戦闘用じゃないだろうね、そう祈るよ。さて、こっちは祈ってばかりもいられない。
アラナはお父さん似なのか、一人分しか出せないみたいだし、お母さん似だったら勝機は無い。有るうちに倒しておかないと助長する。
プリシラさんやクリスティンさん、ソフィアさんなら「ごめん」が効くけど、残りの三人には効くどころか、調子に乗る。乗るのが誰か教えてやる!
「凄いんだねアラナは。今度から先に教えてね」
「了解ッス!」
言葉も交わした。僕達は静かにお互いの間を取り合った。アラナは左右に別れ始め、僕は触手義手を伸ばした。
神速、モード・スリーの鞭!
左手の触手義手を伸ばし、鞭の様に振るう姿は野獣を調教するかの様だ。空を切り、唸りを上げて舞う鞭は当たれば肉が弾け飛ぶ。
当たらん! 動きが速く小柄なアラナが避けるのに専念すれば、モード・スリーで同じくらいなのか。左右に別れたアラナの一人は僕の正面から鞭を避け、もう一人は少しずつだが、後方に回ってきた。
いい判断だ。一人は正面から鞭を受ける分、ハードになるが、後ろに回った一人はその分、楽になる。楽になれば接近線に持ち込める。
モード・フォー。さらに速くなる鞭さばき。切り裂く空気の破裂音が大きくなって恐怖を誘う。これで火の輪があればサーカスになるよ。火の輪をくぐって僕に近寄れるかな?
余裕を持って避けていた鞭のしなりが、紙一重になって来た前方のアラナ。避け耐える事に我慢が出来なくなって来たのか、前後から同時に襲い掛かって来た。
僕は冷静に束ねた指をほどいて、前方のアラナに向かって五指を広げる形で触手鞭を振り下ろした。アラナは避けられないと観念したのか、足を止め腕を十字に交差させて耐える事を選んだ。
ぺちょ…… アラナに触れた鞭の感触はそんな物だろう。元々、触手義手を伸ばし鞭の様に振るった所で強度は無いんだ。
五指を束ねたとしても一緒だ。ただ派手に痛そうな音が欲しかったんだ。本当は鞭の様に振るった触手義手がいつ千切れるか不安だったんだ。
僕は触手義手を切り離し、再び指先で生成した。モード・スリー並みのアラナ二人とやり合うのは僕に不利だからね。僕がしたかった事はアラナとの一対一。
振り返り後方アラナと対峙する。モード・スリー並みのアラナと真の神速使いモード・シックス。全力で殺れば勝てない相手じゃない。
零距離での攻防は、僕の圧倒的なスピードの前にアラナは服を鎧を外され服を脱がされ舐められ触手義手で全身をくまなく愛撫され、鞭を受けたアラナが無傷だと気が付いた時には、攻防戦を繰り広げたアラナは腰砕けになっていた。
「あっ! ズルいッス!」
戦いにズルいなんてあるものか! 勝てばいいのだよアラナ君。腰砕け、ヨダレを垂らし、アソコも濡れちゃってるこっちのアラナと同じ目に会わせてあげよう。
アラナは戦い、そして負けた。いかに分身が出来ようとも、神速を持っている僕にはまだ敵わない。僕は二人の腰砕けを一人は後ろから、一人は抱き上げる様に本当の大人の恋愛を教えてあげた。
抱き締め会うアラナと僕は、二人分の爪痕を僕に残した。
そして両手にアラナ。可愛いアラナと両手で組み、上陸地点の半分も近付いた所で馬に乗って来たオリエッタ。もう分かっていただけに驚かないしぃ。
「エス・エムしたんですか~。オリちゃんも交ざりたかったです~」
これは大人の恋愛の格闘の後で、痛いを気持ちいいとかじゃないんです。本当に痛いんだよ! 血が出てるの! 肉が抉られたの!
「終わってしまって残念でしたね。さあ、帰りましょうか」
促す僕の腕を取り、「やりましょ~」と言って引きずられる僕を、哀れむ瞳でアラナは見ていた。とっとと、馬に乗って帰っちまったけどな!
「どっちしますか~」
オリエッタが言う「どっち」とはエスをするかエムをするのか選べと言う事だ。もちろん僕はエスを選ぶ。オリエッタ相手にエムを選んだ日にはトラウマになるか、そっちの道を進むかだ。
「エ、エスで……」
「頑張って下さい~」
オリエッタは何処からか持ってきた丈夫な蔦を僕に渡した。握った僕は痛みで手を離す。エスと言ったのにエムになったのか?
「これ…… 刺が付いてますけど……」
「はい~。ルフィナちゃんに言って棘の蔦を出してもらったんです~」
これで縛れって言うのか!? これは反則、ダメだろ! 血が出ちゃうんだよ、身体に穴が空いちゃうんだよ、痛いんだよ! これでオリエッタを縛るのか!? 僕が!?
「ムリ、ムリ、ムリィィ。大怪我するよ!」
「え~。他に無いです~」
僕は手を血まみれにしながら、棘を取った。
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