異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第二百八十三話

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 腕を組んで歩くのは好きだ。例え喋り方が変でも凶悪な魔法を使っても血を啜るヤツでも、笑った顔は可愛いルフィナだ。
 
 
 「最後はあたしさ……」
 
 やっとの事で上陸地点に戻れば第一声がこれだ。正直な所、アルマと事を成す気は欠片も無い。貴女には事故死を起こして欲しいくらいだ。
 
 「貴様は砂でも入れてればいいのである」
 
 何処に入れるかは隣に置いておいて、アルマさんには縛られてその辺りに放っておけばいい。関わり合いになりたくない。
 
 「団長はどうするですか~」
 
 オリエッタがアルマを追い抜く様に話し掛けて来た。どうもこうも、上陸地点を見ても馬の数が足りない。そんなに速かったのか?  それとも時間が掛かってるのか?
 
 「馬がまだみたいですね。上陸を急がせないと。アルマは任せます」
 
 その言葉でオリエッタのスカートがふわりと捲れ、アルマの鳩尾に後ろ回し蹴りが決まった。アルマはクの字になって倒れ込み、オリエッタは追い討ちをかける様にキスをした。
 
 羨ましい……  キスの所だけが。オリエッタの回し蹴りは喰らいたく無い。丈夫な魔族だからいいものの、僕なら内蔵が口から飛び出る。
 
 「け、蹴る必要は……」
 
 ニッコリ微笑むオリエッタ。君の笑顔を見れるのなら、シンちゃん何でも許しちゃう。訳がねぇだろ!  アルマには魔王の面通しの仕事が残っているんだ!  殺すならそれからにしろ!
 
 「な、何を飲ませたさ!」
 
 吐き出す様に咳をしながら、お腹を押さえるアルマ。少し外れたのかな?  鳩尾なら呼吸も出来なくなるのに。
 
 「団長~。少し貰ってもいいですか~」
 
 貰うとは、アルマの事なんだろうが何をする気なんだ?  キスなら代わるけど、プリシラさんが怖いしオリエッタに任せた方がいいのかな?
 
 「いいですけど……  何か飲ませたんですか?」
 
 「はい~。人間なら致死量になるくらいの催淫剤です~。魔族なら大丈夫だと思って~」
 
 「まだ……  足りないとか……」
 
 先ほど、オリエッタとはエスエムをやらせてもらった。もちろん僕がエスだったが、オリエッタはエスもエムもいけるんだ。
 
 「少しだけです~」
 
 オリエッタはアルマの髪の毛を掴み、海岸に線を引きながら連行して行った。哀れアルマ。トラウマになるような事をされて来い。
 
 「夕食までには戻ってね」
 
 片手を上げて返事をするオリエッタ。「エス」も「エム」も「立ち」も「受け」も、ついでに錬金術も出来るスーパー才女は僕の想像力を掻き立てて静かに森の中に入って行った。
 
 
 「静かにしやがれ!」
 
 暴れる馬の横っ面を殴打するのは、動物虐待で訴えられるから止めて欲しい。プリシラさんは一人で帰ったと思ったら、ちゃんと仕事をしているみたいだ。暴れる馬を力で捩じ伏せている。
 
 「ご苦労さま~」
 
 声を「上げた」訳では無い。声を「掛けた」だけで、僕に殴り掛かるのは止めてね。ルフィナが珍しく、僕の腕に絡み付いて離さないのだから。本当に珍しい。僕の右手は無事かな?
 
 ロッサと同一化したルフィナは感覚も同一化していたらしく、ロッサの中に果てた時には四つん這いになって倒れていた。
 
 ロッサはそれで消えてしまったが、感覚の同一化とはどんなものなのか興味が出てきた。入っていないのに入っているのと同じ感覚。それなら本当に入れた時と感覚が違ってくるのだろうか。
 
 例えば二人分で感覚が半分になる。それとも二人分で倍になる。僕は疑問に思ったら解決したくてたまらない。真実は一つ、ルフィナで真実を確かめてみた。
 
 結果は僕と腕を組んでいるルフィナが証明してくれたのだろう。完全な同一化はいつになるのか、とても楽しみだ。
 
 殴り掛かるプリシラさんのラッシュを左手一本で受け、ルフィナに想いを馳せる。それにしても、こんな格好いい馬がいる訳がないだろうに。もしかして馬に見えたかな?  もしかして僕は馬面か!?
 
 「いつまでもイチャ付いてるんじゃねぇ!  馬が暴れて遅れてるんだ!」
 
 そんな理由があって遅れてたのか。てっきり僕が早漏なので早く帰って来たのかと思ったよ。良かった……  まだ薬や魔法に頼らなくても済みそうだ。
 
 「後、三頭もいるぞ。ここにいる馬もクリスティンとソフィアが、なだめていて手が足りねぇ」
 
 仕事しろプリシラ!  お前には馬係を命ずる。僕は食事係ね。火が炊けないから、簡易食料になるけど、エールは出すから。
 
 「頑張って下さい」
 
 僕はルフィナと食事の用意をするべく、足早に立ち去ろうとすれば心臓が痛む。馬面の僕には馬係があってるのだろうか。夕食はルフィナに任せ、僕もプリシラさん達と馬をなだめた。
 
 
 皆で食べる食事はいい。それが例え上手くも無い簡易食料でもだ。特に両手の華がいい。クリスティンさんの香りが食欲を増してくれるし、ソフィアさんは食べさせてくれるし……  そしてアルマ!  どうしてお前が後ろから抱き付く!  その事に誰も何も言わないのか!?
 
 アルマは白百合団の一人として暗黙のうちにメンバーになった。誰も文句は言わない、それだけの覚悟を見せたから。
 
 「これでミカエルといつまでも一緒さ」
 
 アルマはオリエッタに連れられて森の中に入った時に、オリエッタに懇願した。「自分の角を折って欲しい」と。
 
 魔族にとって角は命の次に大事な物だ。角は魔族の生き方を示す物として見られる。それを折ると言う事は魔族を辞める、魔族と共に生きる事を拒否する事だ。
 
 アルマは僕と生きる為に、今までの生き方を捨てた。そんな覚悟を持った女に白百合団のメンバーは何も言えないのだろう。
 
 「いつまでもイチャついてんじゃねぇ!」
 
 言える人もいる。しかも二度目だし、もしかして焼いてるのかな?  モテる男はこれだからツラい。飛んでくるナイフもツラい。
 
 「ま、まだ催淫剤が解けてないのかも……  アハハはっ……」
 
 背中に当たる柔らかい胸の感触と、競り合う様に身体を寄せてくるソフィアさんの胸と、今日の食事はフォークとナイフが進みそうだ。楽しい食事も美しい白百合も話が明日の事になると、急に黙り初めた。
 
 
 「明日はどうするッスか?」
 
 「では、明日の予定を改めて説明しますね」
 
 僕はナイフをプリシラさんに投げ返して説明を始める前に、前に回り込んで来たアルマをそのまま一回転させて後ろに回した。
 
 「明日は六時起床。七時出発。海岸線を通ってネーブル橋へ。ノルトランド側の橋の付近に砦がある様ですが、殲滅魔法で丸ごと粉砕、橋を渡ります」
 
 「早いな。もう少し寝て……」
 
 「橋の中央で化学兵器散布装置を設置します。アルマの話だと橋の長さは五キロほどだそうです。装置を発動後、ラウエンシュタイン城を襲います。敵の数は不明。アルマも分からないと言ってますし、イリスもここまで調べられませんでした」
 
 「適当に置けばいいんじゃね」
 
 「僕達の目的は化学兵器散布装置を設置、発動させる事です。魔王の首もラウエンシュタインの戦力を見極めてからになると思って下さい」
 
 「敵が多かったらどうする?」
 
 「多くても少なくても、ソフィアさんとルフィナの魔法で前面の敵を駆逐します。その時はクリスティンさんは二人の護衛に付いて下さい。そのまま退路を確保して待機。その陽動の間に僕とプリシラさん、アラナとオリエッタとアルマで城に潜入します」
 
 「そして魔王の首を取ると……」
 
 「取れればです。少なくとも顔の確認だけでもしたいですね。魔王という未確認の存在の恐怖より、実際にいるという恐怖の方が心理的に負担は少ないと思います」
 
 「確かに。見えねぇ敵は怖いねぇ」
 
 「魔王は常時、マスクを付けている様なので顔の判断は難しいでしょうが、出来る範囲でやりましょう。それに魔王は特別な力を持っているかも不明です」
 
 「魔王って言うくらいだ。何かあるだろ」
 
 「アルマは見た事が無いそうです。ただこれだけの魔族や魔物を従えているんですから、特別な力はあると思って下さい」
 
 僕は前世で魔王と戦った。相討ちでしかも隙を突いたからか、魔王の力を見る前に終わってしまった。あの時、見れるくらいの余裕が無かった事が悔やまれる。
 
 「その後は?」
 
 「その後は王都クリンシュベルバッハに向かいます。事の子細を説明しなければなりませんので。もし、ラウエンシュタインを抜けられなければノルトランドに戻ります。この上陸地点に五日後、船長達が迎えに来てくれる予定になってます。ただ海岸に一匹でも魔物がいたら帰る様に伝えてありますので、期待はしないで下さい」
 
 「プリ姉、団長は何を言ってるッスか?」
 
 「分からねぇのか、アラナ。要は魔王の首を取っちまえって事だ!」
 
 「それならそう言えばいいッスよ。団長は話が長いッスね」
 
 「面倒くせえヤツだからな」
 
 お前らの墓標には「アホが眠る」って刻んでやるからな。ちゃんと聞いてくれよ。魔王がいるなら敵も多いに決まってるだろ。色々な手段を今から決めておかないとピンチになった時に生き抜けないぞ。
 
 「プリシラさん、僕達の第一目的を教えて下さい」
 
 「魔王の首だろ」
 
 不正解者は地獄への片道切符を差し上げます。それでは二番目に押されたアラナさん、答えをどうぞ。
 
 「違うッスよ。……せ、殲滅ッスよね」
 
 もう一度……  もう三十回くらい説明をした方がいいのか。紙に書いて図解入りで説明してやろうか。それとも手取り足取り乳取りの方がいいのか!
 
 「ふ、二人とも……」
 
 「団長~。出来ました~」
 
 フワリと飛んで渡された僕の木刀。貸してくれと言うから貸したのだけれど、今はこのバカ二人に説明をくれてやらなければならないんだよ。
 
 「魔族の角をコーティングしてます~。切れ味は上がりませんが、強度は格段に上がったと思います~。突きだったら騎士の盾を五枚は抜けます~」
 
 「あっ、えっ、あ、ありがとう」
 
 そんな事をしてくれてたのか。アルマの折った角で僕の木刀を強化してくれてたなんて、オリエッタは本当に白百合団の要だね。
 
 「アルマもありがとう。使ってしまっても良かったの?」
 
 「もう必要は無いさ。それよりミカエルが使ってくれるなら、いつも一緒さ」
 
 少し重いがありがたい。木刀の重さは変わらないけどね。僕は少し振って、近くの石を斬り付けたら、見事に石はくだけ木刀は傷一つ付いて無かった。
 
 「ありがとう二人とも。いい剣だ」
 
 僕は二人にガッツポーズをして、この剣の素晴らしさをアピールした。そしてアルマの頭を見ると折れた角の所が痛々しく、後でヤスリで磨いてあげようと思った。
 
 「話は終わりだな。最後に白百合団、副団長として言わなければならない事がある!」
 
 プリシラさんはそう言って立ち上がり胸を張った。これでこの戦が終わるかも知れない一大事に、流石はプリシラさんだと思った僕がバカでした。
 
 
 「この戦の戦功一番はミカエルを「もの」とする!」
 
 僕は商品に祭り上げられた。
 
 
   
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