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第二百八十四話
しおりを挟むテレビを見ながら家族団らんの食事。ふと、娘が言った「レイプっなあに?」 静まる食卓、返答に困る親。僕はそんな気分だ……
「それってどういう意味ですか?」
食い付くな、ソフィア! この会話は沈黙が正解なのに、抉る様に答えを知りたがる貴女が嫌いだ。
「そのまんまの意味だぜ。戦功一番の報酬はミカエルだ!」
「報酬が団長って……」
「プ、プリシラさん……」
「いいか、良く聞け。この戦は戦争が終る大事な戦だ。魔王の首を取れば戦争も終る。そうなれば誰がこの戦争を終らせた事になる? 魔王の首を取った者が戦争を終らせるんだぜ。最大限の報酬を貰っても構わないだろ」
「そ、そうッスね!」
「それにだ! 戦争が終らなくても、あたいら傭兵はお役御免と来る。報酬を得るチャンスが無くなる」
「何でですか~」
「お前の仕掛けたカガクヘイキがそうだ。魔物はノルトランドに帰れねえ。そうなればラウエンシュタインに陣を貼るだろ。連合軍は包囲して自滅を待てばいいだけだ。そうなれば傭兵はいらねぇ」
「ちょっと待って下さい! 包囲にはかなりの人手がいります。傭兵を解雇するとは思えない」
「アシュタールから援軍が来てるんだろ。そいつらに武功を上げさせるには傭兵は邪魔だ」
こいつ以外と考えているな! だが、僕だって考えているのさ。殲滅旅団と新白百合団は解散して…… 殲滅旅団は解散させて、僕の直属の部隊として白百合団を残す。
「騎士に武功をあげさせる為に傭兵は邪魔。これは分かりました。おそらく、そうなるでしょう。ですが、僕は連合軍の総司令官、勇者ですよ! それにアシュタール帝国の伯爵でもある」
「それでもだ! お前は何で勇者になった? 何で伯爵になった?」
「それは……」
何か、なし崩し的に勇者に選ばれた様な…… 伯爵だって勇者に男爵の爵位が合わないから臨時的になった気もするし…… 正確には領地を持たない、しかも一代限りの「準伯爵」だからね。
「それは…… 僕が格好いいから……」
飛んでくるナイフを避ける。真面目な時にジョークは禁止ね。ナイフくらいで怖がるなアルマ! 背中に当たる圧力が下半身で反応しそうだ。
「お前が勇者だろうと伯爵だろうと、包囲が始まれば解任されるぜ。高給取りの領地無しを飼う余裕なんて、どの国にもねぇ」
ここまでは僕も予想している。僕は男爵に戻り、傭兵としてアシュタールに逆らわない形で仕事をこなしていく。魔王軍が侵攻する前の姿に戻るんだ。
「ここが最後の儲け口と言う事であるか?」
「儲ける事は出来るさ。ただ、これ以上の武功を上げる場所がねぇって事だ」
静まり返って考え始める白百合達。一人、遊んでいるアラナと、左手に強くしがみつき胸の膨らみを当てるソフィアさん。アルマに至っては僕の頬にキスを始めて、全く話を聞いてねぇ。
「……やる事は一つです。 ……やった以上、貰うものも一つです」
おや? 「間」が少し減ったかな? クリスティンさんの言葉で殺気立つ白百合団。これ、拒否、無いなぁ~。
「待って下さい!」
僕の左から救いの手が離れた。もう少し感触を楽しんでいたいが、助け船なら大歓迎さ。ソフィアさんの考えている事を皆に言ってくれ。
「報酬が一つなら早い者勝ちですか!?」
助け船は沈んだ。きっと氷山にでも当たったのだろう。助けは来ない。海上保安庁は何をやってるんだ。
「当たり前だ。魔王は一人、ミカエルも一人だ」
「それなら……」
「待ちな!」
立ち上がろうとするソフィアさんをプリシラさんが制した。僕も待って欲しい。僕が報酬になる件を僕はまだ了承していない。
「抜け駆けは無しだ。正々堂々といこうぜ。明日、オリエッタがカガクヘイキを動かしてからスタートってのはどうだ?」
「それは少し不公平である。橋の距離を考えればプリシラやアラナが有利となるのである。スタートはラウエンシュタイン城に着いてからである」
「ん…… まあ、そうなるか。ラウエンシュタインに入ってからでいいか?」
「で、でもラウエンシュタインには魔王軍がいるかも……」
「だから? 辞めるか?」
「まさかでしょ。魔王も魔王軍も城事、切り裂けばいい事ですから……」
「決まりだな。魔王の首を取ったヤツがミカエルの首も取る!」
僕は明日、絞首台に登ります。
僕は盛り上がる白百合団を後にした。背中の方では僕との甘い未来に心を寄せる言葉を子守唄に、時折感じる殺気に身を振るわせながら眠った。
寝たりしねぇし。考え事がバーゲンセールに来るオバチャンの様に打ち寄せ、僕は考える。今までの事を静かに、僕が握ったセール品は離さずに。
ここまで来たか…… 魔王を倒す前日まで…… 日本で生まれ死に、異世界に飛ばされ日々を戦い魔王とは相討ち。結果に納得がいかない神様に再び過去に飛ばされもう一度勇者として戦って来た。
白百合団と共に神様が納得するエンディングを。これが神様が望み、僕が今を生きる目的だ。今度はチートの「神速」をもらってきた。
前世では最後の切り札として、一回だけ使える神速で相討ちだったが、今は常時発動出来るしモード・シックスまで速さは上がっている。
使い慣れた神速。魔王の力がどんな物か知らないが、不意を突けば確実に勝てる自信がある。それだけの修羅場もくぐって来たつもりだ。
前世でも今世でも魔王を倒す前日に同じ話が出た。前世では結婚を、今世では僕の首を、たぶん同じ目的だと思う。本当に首を取られるとは思ってないよ。
あの時、前世で僕は一人で先走り魔王を倒した。結婚の話にビビった訳では無いが、それは神様の望むエンディングでは無かったから、もう一度、今の世界にいる。
このまま白百合団と共に魔王を倒す事が神様の望むエンディングなのだろうか。僕達には生きていれば明日がある。明後日も一年後もある。僕は人生のエンディングは死ぬ時だと思っている。
魔王を倒して大きな戦争は終わっても、その後には包囲戦が待っているし、僕の立場もどうなるか分からない。神様がエンディングと言っても僕のエンドでは無いんだ。
もし、死ぬ事がエンディングなら、明日は白百合団と共に死ぬのだろうか。それが神様の望むエンディングなら、僕は命を掛けて抵抗したい。少なくとも白百合が一輪でさえ散る事は、僕は許さない。そんなエンディングなら、いらない。
神が望むエンディングと僕が思うエンディングは違うかもしれない。ただ、僕がここにいるのは神様の望むエンディングを成し遂げる為にいる。
魔王を倒し、全員が生き延びる。これが正しいエンディングなんじゃないかな。それが違っていたら…… 僕達は魔王の生け贄になって、魔王が世界を支配する。
神様は「神の望むエンディング」を希望している。その「望む」って何だろう。勇者が勝ってゲームは終る。主役が負けて終るゲームはあるのだろうか。
そんなゲームなら売れないんじゃないか。作りたいゲームを作る事なんて出来ない。作るなら売れるゲームじゃないと会社は倒産する。ただ、うちの社長は売れるゲームより作りたいゲームを選ぶ気がしてしょうがない。
もし、そうなら……
考えているうちに白百合団も眠りに入った。僕も休もう。明日は長い一日になりそうだから……
起床六時。出発七時。今の時間は四時半。予定通りに起きれたのは眠りが浅かったからか。僕は決めた。白百合団に…… 神様に抗ってみせると。
何がエンディングかは分からない、生き残れば僕のゲームは死ぬまで続く。それは一人なのかも知れないし、白百合団と共になのかも知れない。
僕は白百合団と共に互いの白髪が生えるまで一緒にいたい…… いや、少し違うか。共に最後の一時までいたい人は……
魔王を倒す。一人で。前世と同じ結果にはならない。僕には神速モード・シックス、機先の心眼があるのだから。
「団長、起きたみたいッスよ」
「あぁん。トドメを刺して寝かせておけ!」
「でも、何か話したいみたいッスよ」
僕は起きた時から身体が痺れて動けない。動くのはデキのいい頭と目の動きだけ。白百合団の着替えを見れたのは眼福だけど、アラナはやっぱりスポーツブラだった。
「ソフィア、頭だけ治しておけ。他のヤツは装備を急げよ」
ソフィアさんが治癒の魔法を唱えると、頭の痺れだけが取れて口が動くようになった。
「プリシラ! なんの真似だ!」
無言で足早に忍び寄るプリシラさんには、安全安心鉄板入りの靴が。容赦もなく蹴り上げ、宙を舞い、重力に従って地面に叩き付けられた。
へへん。痛くないよ。身体が痺れて麻痺してるからね。頭をぶつけた所は痛いけど大丈夫さ。内蔵が破裂してないか心配だけど。
「てめぇ、起きてたな!? 何を刷るつもりだったか言ってみろ!」
「……ト、トイレ」
「ソフィア、パンツを脱がして転がしておけ」
「ウソ、ウソ! 冗談ですよプリシラさん。ソフィアさん止めて! ウソだから!」
こんな時に冗談は禁止だったね。冗談を軽く流してくれないプリシラさんと、真に受けてパンツを脱がそうとするソフィアさん。中間て難しい。
「お前、抜け駆けするつもりだったろ。一人で魔王を倒して勇者気取りか? 報酬が動くんじゃねぇよ」
全員で魔王を倒すんじゃなかったのか? 最初から僕は置き去りにされるのか? 冗談じゃない! 魔王の力も分からないで倒すつもりか!? だけど、僕なら出来る。魔王が力を使う前に仕留められる。
「プ、プリシラさん……」
「ミカエルはここにいな。魔王を殺して、お前はあたいの物だ!」
プリシラさんはそう言うと、寝ている僕と別れを惜しむように情熱的なキスをした。
「あら、プリシラさんだけズルい。団長、これが終わったら二人で暮らしましょうね」
ソフィアさんは僕に優しいキスをした。
「僕もするッス。魔王を殺して団長と麦を育てるッス」
アラナは激しく牙を立てるキスをした。
「団長~。団長の身体を全部、取り換えます~」
オリエッタは左手の義手に触りながら軽いキスをした。
「この血が未来永劫に我の物になるとは心踊る」
ルフィナは唇を噛んで血を舐めた。
「……」
クリスティンさんは、僕の胸に手を当て軽い心臓麻痺をさせ、キスもしないで行ってしまった。
「わたしは、ここに残るさ」
「あぁん! お前がいなけりゃ魔王の顔なんて分からねぇだろ!」
「行けばわかるさ。それに誰が魔王様の首を取って報酬をもらっても関係無いさ」
「何を言ってやがる!?」
「わたしは一夫多妻制の信奉者さ。わたしはもうミカエルの物さ」
「ここで死にたくなかったら馬に乗れ! 話は魔王の首を取ってからだ! 全員騎乗! 行くぞ! 魔王の首を取れ! 報酬はミカエルだ!」
僕を置いて、七騎の白百合が闇に消えて行った。
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