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保護されてから一か月。僕は保護された日からリカルドさんの屋敷にお世話になっている。
痴態をさらした翌日、改めて屋敷の広さと大勢の使用人の存在に驚き、リカルドさんの公爵様という立場に驚愕した。
異世界転生とはいえ元々社会人。なにか仕事、せめて雑用でもさせてほしいとリカルドさんにお願いしたけど、あっさり却下された。ポメガバースがポメラニアンになった後は状態が不安定になるから、ゆっくり休んでほしいと言われている。
社畜にはありえなかった三食昼寝付きな生活を送っているだけど──。
「きゅうん……(まただ……)」
今日は、リカルドさんが騎士団のお仕事中にポメラニアンになってしまった。僕のポメガバースは落ち着くどころか日に日に不安定になっている。
「……くぅんくぅん(……もうすぐ帰ってくるはず)」
窓から差し込む茜色の夕日を見てつぶやく。
リカルドさん以外に撫でられると、鳥肌……いや、犬肌がぞわりと立つ。僕のポメガバースを直すのは、いつもリカルドさん。誰も知らない異世界でいつもとろとろに甘やかしてくれるリカルドさんを好きになってしまった。
もちろんリカルドさんは保護したから、僕の面倒を見ているとわかっている。でも、甘い言葉と愛しげなまなざしに見つめられると勘違いしてしまいそうになる。
僕のポメガバースが落ち着き、異世界でできそうな仕事を紹介してもらったら、ここを出ていくと決めているから──それまでは、このまま好きでいてもいいよね……?
「くうん……(遅いな……)」
すっかり空は暗くなり、二つの月が顔を出す。
「きゅうんきゅうん(リカルドさんまだかな)」
リカルドさんの部屋のソファで待っていたけど、寂しさがどんどん増してくる。あの優しい声で「いい子」「可愛い」と甘やかされて、柔らかな手つきで僕の全てを撫でてほしい。
「きゅうん……きゅうん……(リカルドさん……リカルドさん……)」
はっ、はっ、と息が浅くなる。
リカルドさんを少しでも感じたくて僕はソファを降りた。いつものようにベッドに飛び上がる。枕に鼻先を押し付けてリカルドさんの匂いを吸い込む。
「わっふぅ……(いい匂い……)」
男らしいのに爽やかで甘い大好きな匂い。何度も深呼吸を繰り返していれば、いつもは満足できるはずなのに。
「わん、わんわん!(だめ、全然足りないよ!)」
胸にぽっかり穴が空いたみたいに満足できない。苛立ちで思わず大声で鳴いてしまえば、家令のセバスチャンが慌ててやってきた。
「きゅうん……わふ、わふわふっ!(大きな声を出してごめんなさい……あの、大丈夫なんでっ!)」
「ユーマ様、なにか物足りないと思われていますか?」
「わっふ? わっふぅ……?(えっ? どうしてわかるんですか……?)」
エスパーみたいに僕の状況を見抜くセバスチャンに驚きながらうなずいた。
「今すぐリカルド様に連絡を入れて、ユーマ様に必要なものをお持ちしますからご安心ください」
「きゅうん……?(必要なもの……?)」
僕の疑問には答えてくれないままセバスチャンが部屋を立ち去る。身体が熱っぽくて、呼吸が荒い。リカルドさんの匂いを探して鼻先をシーツに押し付ける。きっと時間にしたら数十分だと思うけど、何時間も経ったみたいな感覚の中、扉が開いた。
「わっふ!(リカルドさん!)」
「…………申し訳ありません、ユーマ様。リカルド様が戻られるまでもう少しかかります──巣作りに必要なものをお持ちしました」
「わふう、わふう(リカルドさん、リカルドさん)」
セバスチャンの言葉は耳に入らなくて、リカルドさんの匂いが染み込んだ洋服たちが入った籠に釘付けになる。セバスチャンと使用人達が籠を置いたのを見て、駆け寄って鼻先を突っ込む。いい匂い、大好きな匂いに本能が求めてしまう。
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