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第1部 勇者と狼の王女
第5話 言の葉
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①
あの後、バタバタして家から飛び出してからローズマリーに着いたのはちょうど10時だった。
片田舎の町にしては、びっくりするくらいお洒落な喫茶店で、敷地内のいたるところにバラという茎にトゲトゲしたものを生やしながらも、なんだか気品を感じる赤い花が咲き誇っていた。
なんでも、この花も旦那様がイルルーシヤ様と言う方と一緒に開発した植物らしい。
お店の入り口のアーチをくぐって、店外席を見渡すと、クラシカルなメイド服に身を包んだメーシェが席に座っていた。
「メーシェ…メーシェ…」と私は半泣きになりながら、メーシェのいるテーブルの席に走り寄る。
「姫様、どうなさいました?勇者に何か嫌なことをされましたか?もしそうならば、私が殺しに行きますね。あぁ、そりゃ敵わないとはわかっております。しかし、何かしらの爪痕は残して見せます」
私が席に着こうとすると、メーシェが慌てて涙目の私の様子を見て、何かを勘違いしたようで、ただでさえ釣り目で鋭い目つきなのに、それを更に釣り上げて物騒なことを言い始めた。
「ごめん。違うの。旦那様はとっても優しくして下さったわ」
「さようですか…。それはよかったです」
そう言って、メーシェが恐らく目つきの鋭さを気にしてかけているであろう、大きな丸眼鏡の位置をくいっと直す。
「では、どうなさいましたか?」
「わからないの…」
「はぁ?」
「殿方はどのようなことをすれば、喜ぶのかしら?」
「ふむ…なるほど」
そう言うとメーシェは、周りを見渡す。
周りの席には、色々な年齢層の女性たちが楽しそうにお話をしていたが、勇者と結婚した私が珍しいのだろう、ちらちらとこちらを時折眺めていた。これは、有名税のようなものだから仕方がない。でも周りの御仁は決してこちらに話しかけようとはしないのだから、マナーは心得ているらしい。それだけでも救われる。
「姫様…お耳を拝借…」
そう言って、メーシェがひそひそ話をしようと口を近づけてきたので、私も耳をメーシェの口元に近づけた。
あれ?似たような光景をついさっきやったような…。
「簡単です姫様…つまりですね…」
メーシェが秘技を教えてくれるが…。
あっ、これ忍びから聞いたやつと同じ内容だぁぁぁああ…!
「メーシェ!それはだめよ!だめだめ!忍びからも聞いたけど、無理!恥ずかしくて無理よ無理!」
私が顔を真っ赤にして両手をバッテンマークにクロスさせる。
尻尾と耳はぴーんっと天に向かって反り立ってしまう。
「ふむぅ…そうですかぁ。これが一番手っ取り早いのですがぁ」
メーシェが心底残念そうな顔をする。
「メーシェ、旦那様は未だに帰れない故郷に想いを馳せているわ。私は、そんな旦那様を故郷のことを思い出す暇がないくらい甘やかしたいの」
「ですから、これをすれば…」
「だめー!だめです!しかも、それは夜のお話でしょぉ!昼はどうするのです?」
「昼は、働くのですから会う暇無くないですか?」
「働く…そうか…」
至極当たり前のことをつきつけられる。
旦那様は、今植物の研究をされていて、自分の故郷に合ったものを再現されようしている。この喫茶店にその完成品があるように、出来上がったものはどこかに販売するのだろう。
つまりは、勇者の今の仕事は、花の研究・開発、そして販売である…。
「あれ?そうすると私は?」
「専業主婦じゃないですか?」
「え?そうなるの?もう公務はいいのかしら?」
「公務なんて元々そんななかったじゃないですか?」
「確かに…」
「王子や姫の主な公務は外交かと思うのですが、我が一族は森林から出ませんから…」
「たしかにぃ」
「ちょいちょい侵入してくる他種族との戦闘がありますが、王族が最前線に立つほどの大きな戦いはこのところありませんからねぇ」
「つまり…?」
「勇者様の専業主婦でいいんじゃないですか?」
「…でもね、聞いて、メーシェ」
「はい?」
「旦那様の作ったご飯はね…とっても美味しかったのよ…黒狼族のものと作り方からして違うようで…私では勝てそうにないわ…」
「…うーん。やっぱりさっきお伝えしたことをやったほうが…」
「だめ!だめぇ!」
「姫様…」
メーシェがなんだか、困った可哀そうな子のような憐れんだ目で見てくる。
「やめて!可哀そうな子みたいに見ないで!」
「なかなか、いきなり難題を持って来ましたね姫様…」
「うん。私、男友達すらいなかったじゃない…だからよくわからなくて…メーシェは結婚してるじゃない?どうしてるのかなって…」
「あぁ、夫のゲッツァですか?あんなやつさっき耳打ちしたことしてあげれば、2週間は上機嫌ですよ」
「簡単…!簡単すぎる…!」
「男なんてそんなものですよ」
「違うわ!うちの旦那様は違うもん!」
「それは、姫様の願望にしかすぎません…」
「やめて!可哀そうな子を見るような目やめて!」
「姫様…では、一つ当たり前のことをお伝えします」
メーシェが丸い眼鏡の奥から凄まじい圧を飛ばしている。まるで今にも目がギラリと光りそうだ。
私は、ごくりと生唾を飲み込んで次の言葉を待った。
そうすると、メーシェはテーブルの上の私の手をそっと握ると。
「旦那様…今日もありがとうございます。…愛しています」
とやや芝居がかった口調で、潤んだ瞳で私の瞳をじっと見ていった。
メーシェの艶やかなその様子に、女の私もどきっとする。
「メ、メーシェ!?」
「姫様、今夜、夕食の後、それをやってみてください」
「愛しています…ですか…」
「はい」
「そういえば、私って…」
「どうせ、式での宣誓と決闘の時の吐き捨てたようなあのセリフの時にしか言ってないのでしょう?」
「…言ってない!私、確かにあの時以外、旦那様に好意を伝えてないわ!」
私の脳天を電撃が走ったようだった。
「そうだと思いました」
「でも待って。メーシェ。私まだ旦那様をちゃんと愛せているかわからないの」
「まぁ、スピード結婚でしたからねぇ。気持ちが追い付かなくても仕方がないとは思いますが」
「好きなのは間違いないと思うの!だって、尻尾を撫でられたら…」
そう言って、あまりに恥ずかしいことを言おうとしていることに気が付いて、顔をまっかにしてうつむいてしまった。
「それはようございました。気持ちの無い結婚生活程苦痛なことはありませんから」
「でも…でも…これが恋なのか、愛なのか…わからないの」
「そりゃ、そうでしょうよ」
「どうしたらいいと思う!?」
「毎日愛を伝えてください。そして相手のことを知ろうとして下さい。なによりよく観察してください。いずれそれは本物の愛になりますよ」
「そうなの!?メーシェは最初そうだった?」
「うちのゲッツァはさっき言ったことやれば上機嫌ですから…でも、そうですね。私もゲッツァを愛していると確信するまでは、なんだか手間のかかるガキだなぁくらいにしか思いませんでしたね。それが、段々と…憎めないやつだなぁに変わって…」
「ふむふむ」
気が付けば周りの女性陣もメーシェに注目している。
「身体を重ねていくうちに、まぁいいかに変わって…」
『ほぅほぅ』
私と周りの女性たちの声がハモる。
「気がついたら、いないと嫌になってましたね」
『あっらぁあああ』
私も女性陣と一緒に悶えながら、黄色い悲鳴を上げる。
そのうち、女性陣のうちのひとり、いかにもマダムといった、やや迫力のある妙齢の女性が口を出した。
「いいわねぇ。うちの亭主もそんな感じだったかしらねぇ!お見合いだったから私達!いきなりは愛なんて実感なかったわぁ。なんか誠実そうな人ねぇ…くらいよ!」
「そ、そうなんですね!」
気が付けば、奥様方何人もと交えて井戸端会議が始まってしまったが、有益な情報も十分にあり、有意義な一日だったと思える。
②
僕が植物の研究を切り上げて、夕方の5時頃帰宅すると、すでにマリーは帰ってきていて、ピンクのエプロンをして台所に立っていた。
「お、なにか作ってるの?」
僕がそう言うと、マリーは嬉しそうににこっと笑って、尻尾をゆるやかに左右に揺らすと。
「おかえりなさいませ。旦那様…夜…ごめんなさい。私が作ってもよろしいでしょうか?」
「うん。いいよ。ハンバーグは明日にしようか」
「はい。ありがとうございます。もうすぐできますので…どうぞ座ってお待ちください」
なんだか懐かしい匂いがする気がする。
僕は、装備を2Fの私室へ置きに行ったあと、食席に座って待った。
まもなくして、テーブルに料理が運ばれる。
大きめの陶器のボウルのような容器に、この世界で言うジャガイモと豚肉らしきもの、タマネギらしきもの…。
そうか…これは肉じゃがだ…。
「町の奥様方から聞いて作りました。メーシェも手伝ってくれました…なんでも、勇者様がこの町に伝えた名物料理らしいですね。勇者様の故郷の味なのでしょうか?」
「うん…そうだね。マリーからこの料理が出たのはびっくりしたけど…そうかぁ。早速町の人達ともうまくいっているのか…良かった」
町の人間たちに溶け込めるか心配だったが、うまくやっていけそうだ。安心して顔がほころびる。
「早速!召し上がってみてください!」
マリーが小皿に取り分けて、渡してくれる。
ご飯も欲しいところだが、この世界にはまだ米がない…早く開発したいところだ。
ジャガイモと肉を一緒に口に頬張る。
懐かしくて、甘くて、じゅわっとした肉のうまみが口に広がって…。
「うまい…うまいよ…マリー…ありがとう」
僕がそう言うと、マリーはすっと左隣の席に座って、僕の左手をそっと握った。
何度味わっても飽きない、マリーのしっとりとしたきめ細やかな肌の感触に包まれる。
なんだか、心がほっとする。
そして、マリーが潤んだ瞳で僕の目を見ると…。
「旦那様…」
「はい…」
だんだんとマリーの顔が真っ赤になっていき…。
「旦那様…」
やがて、意を決したかのような表情になったかと思うと。
「旦那様…愛しています」
とろんとした瞳で、穏やかな微笑みで、僕にそう言った。
かわいい。
僕の奥さん、とっても可愛い。
「マリー…」
「はい…」
「参りました…」
僕は降参した。勝負ではないというのに、何かに決定的に敗北した感じがした。
にやにやしてしまいそうな頬を口元を…強引に筋力で抑え込んでから…。
「マリー、僕も君を愛している」
なんとかきりっとした顔をして伝えた。
今夜は…。
満月ではないが…がんばろうと思った。
あの後、バタバタして家から飛び出してからローズマリーに着いたのはちょうど10時だった。
片田舎の町にしては、びっくりするくらいお洒落な喫茶店で、敷地内のいたるところにバラという茎にトゲトゲしたものを生やしながらも、なんだか気品を感じる赤い花が咲き誇っていた。
なんでも、この花も旦那様がイルルーシヤ様と言う方と一緒に開発した植物らしい。
お店の入り口のアーチをくぐって、店外席を見渡すと、クラシカルなメイド服に身を包んだメーシェが席に座っていた。
「メーシェ…メーシェ…」と私は半泣きになりながら、メーシェのいるテーブルの席に走り寄る。
「姫様、どうなさいました?勇者に何か嫌なことをされましたか?もしそうならば、私が殺しに行きますね。あぁ、そりゃ敵わないとはわかっております。しかし、何かしらの爪痕は残して見せます」
私が席に着こうとすると、メーシェが慌てて涙目の私の様子を見て、何かを勘違いしたようで、ただでさえ釣り目で鋭い目つきなのに、それを更に釣り上げて物騒なことを言い始めた。
「ごめん。違うの。旦那様はとっても優しくして下さったわ」
「さようですか…。それはよかったです」
そう言って、メーシェが恐らく目つきの鋭さを気にしてかけているであろう、大きな丸眼鏡の位置をくいっと直す。
「では、どうなさいましたか?」
「わからないの…」
「はぁ?」
「殿方はどのようなことをすれば、喜ぶのかしら?」
「ふむ…なるほど」
そう言うとメーシェは、周りを見渡す。
周りの席には、色々な年齢層の女性たちが楽しそうにお話をしていたが、勇者と結婚した私が珍しいのだろう、ちらちらとこちらを時折眺めていた。これは、有名税のようなものだから仕方がない。でも周りの御仁は決してこちらに話しかけようとはしないのだから、マナーは心得ているらしい。それだけでも救われる。
「姫様…お耳を拝借…」
そう言って、メーシェがひそひそ話をしようと口を近づけてきたので、私も耳をメーシェの口元に近づけた。
あれ?似たような光景をついさっきやったような…。
「簡単です姫様…つまりですね…」
メーシェが秘技を教えてくれるが…。
あっ、これ忍びから聞いたやつと同じ内容だぁぁぁああ…!
「メーシェ!それはだめよ!だめだめ!忍びからも聞いたけど、無理!恥ずかしくて無理よ無理!」
私が顔を真っ赤にして両手をバッテンマークにクロスさせる。
尻尾と耳はぴーんっと天に向かって反り立ってしまう。
「ふむぅ…そうですかぁ。これが一番手っ取り早いのですがぁ」
メーシェが心底残念そうな顔をする。
「メーシェ、旦那様は未だに帰れない故郷に想いを馳せているわ。私は、そんな旦那様を故郷のことを思い出す暇がないくらい甘やかしたいの」
「ですから、これをすれば…」
「だめー!だめです!しかも、それは夜のお話でしょぉ!昼はどうするのです?」
「昼は、働くのですから会う暇無くないですか?」
「働く…そうか…」
至極当たり前のことをつきつけられる。
旦那様は、今植物の研究をされていて、自分の故郷に合ったものを再現されようしている。この喫茶店にその完成品があるように、出来上がったものはどこかに販売するのだろう。
つまりは、勇者の今の仕事は、花の研究・開発、そして販売である…。
「あれ?そうすると私は?」
「専業主婦じゃないですか?」
「え?そうなるの?もう公務はいいのかしら?」
「公務なんて元々そんななかったじゃないですか?」
「確かに…」
「王子や姫の主な公務は外交かと思うのですが、我が一族は森林から出ませんから…」
「たしかにぃ」
「ちょいちょい侵入してくる他種族との戦闘がありますが、王族が最前線に立つほどの大きな戦いはこのところありませんからねぇ」
「つまり…?」
「勇者様の専業主婦でいいんじゃないですか?」
「…でもね、聞いて、メーシェ」
「はい?」
「旦那様の作ったご飯はね…とっても美味しかったのよ…黒狼族のものと作り方からして違うようで…私では勝てそうにないわ…」
「…うーん。やっぱりさっきお伝えしたことをやったほうが…」
「だめ!だめぇ!」
「姫様…」
メーシェがなんだか、困った可哀そうな子のような憐れんだ目で見てくる。
「やめて!可哀そうな子みたいに見ないで!」
「なかなか、いきなり難題を持って来ましたね姫様…」
「うん。私、男友達すらいなかったじゃない…だからよくわからなくて…メーシェは結婚してるじゃない?どうしてるのかなって…」
「あぁ、夫のゲッツァですか?あんなやつさっき耳打ちしたことしてあげれば、2週間は上機嫌ですよ」
「簡単…!簡単すぎる…!」
「男なんてそんなものですよ」
「違うわ!うちの旦那様は違うもん!」
「それは、姫様の願望にしかすぎません…」
「やめて!可哀そうな子を見るような目やめて!」
「姫様…では、一つ当たり前のことをお伝えします」
メーシェが丸い眼鏡の奥から凄まじい圧を飛ばしている。まるで今にも目がギラリと光りそうだ。
私は、ごくりと生唾を飲み込んで次の言葉を待った。
そうすると、メーシェはテーブルの上の私の手をそっと握ると。
「旦那様…今日もありがとうございます。…愛しています」
とやや芝居がかった口調で、潤んだ瞳で私の瞳をじっと見ていった。
メーシェの艶やかなその様子に、女の私もどきっとする。
「メ、メーシェ!?」
「姫様、今夜、夕食の後、それをやってみてください」
「愛しています…ですか…」
「はい」
「そういえば、私って…」
「どうせ、式での宣誓と決闘の時の吐き捨てたようなあのセリフの時にしか言ってないのでしょう?」
「…言ってない!私、確かにあの時以外、旦那様に好意を伝えてないわ!」
私の脳天を電撃が走ったようだった。
「そうだと思いました」
「でも待って。メーシェ。私まだ旦那様をちゃんと愛せているかわからないの」
「まぁ、スピード結婚でしたからねぇ。気持ちが追い付かなくても仕方がないとは思いますが」
「好きなのは間違いないと思うの!だって、尻尾を撫でられたら…」
そう言って、あまりに恥ずかしいことを言おうとしていることに気が付いて、顔をまっかにしてうつむいてしまった。
「それはようございました。気持ちの無い結婚生活程苦痛なことはありませんから」
「でも…でも…これが恋なのか、愛なのか…わからないの」
「そりゃ、そうでしょうよ」
「どうしたらいいと思う!?」
「毎日愛を伝えてください。そして相手のことを知ろうとして下さい。なによりよく観察してください。いずれそれは本物の愛になりますよ」
「そうなの!?メーシェは最初そうだった?」
「うちのゲッツァはさっき言ったことやれば上機嫌ですから…でも、そうですね。私もゲッツァを愛していると確信するまでは、なんだか手間のかかるガキだなぁくらいにしか思いませんでしたね。それが、段々と…憎めないやつだなぁに変わって…」
「ふむふむ」
気が付けば周りの女性陣もメーシェに注目している。
「身体を重ねていくうちに、まぁいいかに変わって…」
『ほぅほぅ』
私と周りの女性たちの声がハモる。
「気がついたら、いないと嫌になってましたね」
『あっらぁあああ』
私も女性陣と一緒に悶えながら、黄色い悲鳴を上げる。
そのうち、女性陣のうちのひとり、いかにもマダムといった、やや迫力のある妙齢の女性が口を出した。
「いいわねぇ。うちの亭主もそんな感じだったかしらねぇ!お見合いだったから私達!いきなりは愛なんて実感なかったわぁ。なんか誠実そうな人ねぇ…くらいよ!」
「そ、そうなんですね!」
気が付けば、奥様方何人もと交えて井戸端会議が始まってしまったが、有益な情報も十分にあり、有意義な一日だったと思える。
②
僕が植物の研究を切り上げて、夕方の5時頃帰宅すると、すでにマリーは帰ってきていて、ピンクのエプロンをして台所に立っていた。
「お、なにか作ってるの?」
僕がそう言うと、マリーは嬉しそうににこっと笑って、尻尾をゆるやかに左右に揺らすと。
「おかえりなさいませ。旦那様…夜…ごめんなさい。私が作ってもよろしいでしょうか?」
「うん。いいよ。ハンバーグは明日にしようか」
「はい。ありがとうございます。もうすぐできますので…どうぞ座ってお待ちください」
なんだか懐かしい匂いがする気がする。
僕は、装備を2Fの私室へ置きに行ったあと、食席に座って待った。
まもなくして、テーブルに料理が運ばれる。
大きめの陶器のボウルのような容器に、この世界で言うジャガイモと豚肉らしきもの、タマネギらしきもの…。
そうか…これは肉じゃがだ…。
「町の奥様方から聞いて作りました。メーシェも手伝ってくれました…なんでも、勇者様がこの町に伝えた名物料理らしいですね。勇者様の故郷の味なのでしょうか?」
「うん…そうだね。マリーからこの料理が出たのはびっくりしたけど…そうかぁ。早速町の人達ともうまくいっているのか…良かった」
町の人間たちに溶け込めるか心配だったが、うまくやっていけそうだ。安心して顔がほころびる。
「早速!召し上がってみてください!」
マリーが小皿に取り分けて、渡してくれる。
ご飯も欲しいところだが、この世界にはまだ米がない…早く開発したいところだ。
ジャガイモと肉を一緒に口に頬張る。
懐かしくて、甘くて、じゅわっとした肉のうまみが口に広がって…。
「うまい…うまいよ…マリー…ありがとう」
僕がそう言うと、マリーはすっと左隣の席に座って、僕の左手をそっと握った。
何度味わっても飽きない、マリーのしっとりとしたきめ細やかな肌の感触に包まれる。
なんだか、心がほっとする。
そして、マリーが潤んだ瞳で僕の目を見ると…。
「旦那様…」
「はい…」
だんだんとマリーの顔が真っ赤になっていき…。
「旦那様…」
やがて、意を決したかのような表情になったかと思うと。
「旦那様…愛しています」
とろんとした瞳で、穏やかな微笑みで、僕にそう言った。
かわいい。
僕の奥さん、とっても可愛い。
「マリー…」
「はい…」
「参りました…」
僕は降参した。勝負ではないというのに、何かに決定的に敗北した感じがした。
にやにやしてしまいそうな頬を口元を…強引に筋力で抑え込んでから…。
「マリー、僕も君を愛している」
なんとかきりっとした顔をして伝えた。
今夜は…。
満月ではないが…がんばろうと思った。
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