東京ネクロマンサー -ゾンビのふーこは愛を集めたい-

神夜帳

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第2章 最後の良心

第11話 嫌いな香り

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 ①

「ふーこちゃん、こんなのはどうっすか?」

 俺達は、拠点にしているマンションから歩いて20分程度の場所にある安売りを売りにした5階建ての雑貨屋の3階の化粧品や衣料品フロアに来ていた。
 ここに来る際、ゾンビが建物の入り口付近に何匹かいたが、瀕死だったので難なく中に入れた。
 中は以前の戦闘で一回制圧したことがあるからか、ゾンビは一匹もおらず安心したのか、千鶴が香水をいくらか手に取って順々に試していた。
 マニキュアでも嬉しそうだったふーこのことだから、香水も好きだとは思うのだが、それに関しては全くの門外漢であるため、千鶴に任せるしかない。
 何種類かをムエットに吹きかけてふーこに嗅がせている。
 ふーこの表情は変わらず無表情ではあったが、嫌がっているようには見えなかった。
 愛はふーこのそばでおどおどしている。
 どうも千鶴よりふーこの方が安心するらしく、二人が来てから3日が経ったが段々とふーこのそばから離れなくなってきた。
 夜寝る時も今はふーこのそばで寝ようとするため、今はふーこと寝るのは諦めて4人で寝ている。俺とふーこがベッドで、千鶴と愛が布団で寝ている。

 バシッ!

「あっ、ごめん。苦手だったっすか?」

 突然ふーこがムエットを千鶴の手から払いのけた。表情も無表情ではあるが、眉が少し困り眉な気もする。

「まぁ、これ苦手な人もいるっすからね」

 払いのけられたムエットを試しに嗅いでみる。ちょっとツンとしたスパイシーな香りだ。

「ごめんっす!洋服を見に行きましょう!」

 千鶴がふ―この手を引いて衣料品コーナーへ連れていく。
 その際に、千鶴が一瞬びくっと何もない空間でびっくりしたがすぐに平静を取り戻して歩いていく。
 一緒に寝るようになってわかったが、この2日間はろくに眠れていないように見える。
 うなされるまではいかないが、ふと目を覚まして千鶴をみるとタンスとタンスの隙間やカーテンと窓の隙間等をじっと見てはびくっとしている様子が見られるときがある。

 亡霊でも見えているのだろうか?

 自分が殺してしまった人への罪悪感が、心に余裕ができてきた今何かを見せているのかもしれない。

「あーもう!ろくな服がないっす!」

 千鶴の怒鳴り声が聞こえてきた。
 これは、近いうちにデパートクラスの売り場にでも連れていかなければ毎日文句を言われかねない。


 ②

「良かった。本当に通電している」

 多田が安堵する。
 あれからゾンビ達の追跡を振り切って、金森地区に到着し大きめの郊外型の3階建てのスーパーに一旦居を構えた。

「まぁ、当たり前だけどよぉ。食料は大分持ってかれちまってるなぁ。ほとんど残ってねーわ」
 平野がカップ麺の麺をそのままバリバリ食べながら言った。

 2Fのストレージらしき保管庫に一行10人が集まっている。
 疲れ切ったのか床に段ボールをひいて寝転がっている者たちがほとんどだ。

「ある程度休憩したら、拠点にできそうなマンションや家を探しましょう。こういったスーパーより普通の家の中の方があるかもしれません」

「あとはタカクラデパートかなぁ」

「タカクラデパート?」

「こっから東京方面に5㎞くらいいったとこにあるデパートだよ。まぁ、そんな大きくはないがね。ここらで大規模な戦闘があったとき、うちらの派閥が色々物資をためこんだんよなぁ」

「まだ残ってますかね?」

「あの野郎が生きてればある程度使われちまってるだろうけどなぁ。でもあいつでもそうそう近づかねーんじゃねーかな。あの辺はゾンビが多かったからなぁ」

 平野の言葉から戦闘になるのが目に見えたからか、残りのメンバー達が口々に「もういやだぁ…ゾンビと戦うのはぁ…」「ばか!このままじゃどうにもならんぞ!」「うちの子まだ小さいんで、食糧優先的にもらえませんか?」「女まで戦えって言うんじゃないでしょうね!?」等口々に多田に言い放つ。

「皆さん、僕が不甲斐ないばかりに申し訳ございません。もちろん女性やお子様には戦闘に巻き込まれないように、安全な場所を確保しながら進んでいきたいと思います。男性の方々はごめんなさい。私達だけではどうにもなりません。力を…貸してください」

 多田が頭を深々と下げると、男たちは「まぁ、しょうがないよなぁ。ゾンビも嫌だけど餓死も嫌だし」「多田さんばっかりに戦わせるわけにはいきませんよ」等好意的な反応を返した。多田がリーダーとして慕われている何よりの証明だった。

「まぁ、安心しろよ。この辺のゾンビは天国のゾンビと違って、瀕死な奴の方が多そうだ。だけど、急がねーとなんかの拍子に天国からのゾンビがこっちにも雪崩れ込んでくるかもしれねぇ。デパートと周辺の家々を制圧して拠点化するぞ」

 瀕死な奴ばかりでどうにかなるという平野の言葉に、男たちはやれやれと腕を回したり首をまわしたりしながら立ち上がる。

「すいません。もう誰も死なせません」

 多田が力強く言った。


 ③

「そんなずんぐりむっくりで動けるんすか?」

 早朝から俺の姿を見て千鶴が呆れたように言う。
 今俺たちは今いるマンションから東京方面へ5㎞ほど行ったところにあるタカクラデパートを目指して歩いている。

「まぁ、ちょっと重いけどな。俺は臆病なんだ。お前らの分もあるけど本当に着なくていいのか?」

 今俺は、持っている装備の中で考えられうる最高の装備を身に着けた。
 普段は柔らかいが力が加わるとそれに合わせて硬化し身を守るプロテクターをふんだんに内蔵した上下のボディースーツに、左腰にはククリナイフを下げ、腰には金槌。右のベルトポーチにはちゃんと使えるのか疑問ではあるが、昔この辺で大規模戦闘があったとき貰った誰かのお手製手榴弾が3つ入っている。
 また、ジャケットのポケットにはマニキュアが空になったケースに毒を入れたものが3本入れてある。対人かつ接近戦になりそうなときは、この毒をナイフに塗って使用する予定だ。
 ただ、自分が調合したわけではないので毒の内容は知らないし、解毒剤はもう持っていないので、自分を切らないようにかつ敵に武器を奪われないようにしなければならない。

「なんだかゲームに出てきそうな悪役の雑魚キャラっぽいっす。一周回って可愛く感じなくもないっすけど、遠慮しとくっす。私じゃすぐバテそうだし。」

「だろうな」

 自分の格好がお世辞にも格好がいいものとは言えないが、先日見た男ゾンビがウロウロしているかもしれないし、天国からの流入者とうっかり戦闘になるかもしれないのだから備えるに越したことはない。

「目当てのものを見つけたらすぐ帰るぞ」

 千鶴たちが転がり込んでから4日、簡単な世界情勢を教えてくれたところで、これ以上の情報はデパートに連れてかないと言わないと言われてしまった。
 化粧品や洋服が欲しいらしい。正直先日見た男ゾンビのこともあるうえに元々デパート周辺はゾンビが多いことから、俺としてはなるべく行きたくなかったのだが、ただ、ふーこが嬉しいと思うことを経験させるとレベルアップする可能性があることから、いつかは行かなければならないとは思っていた。

「香水や化粧品、洋服が残ってたらいいっすけどねぇ」

「最後に行ったのは、戦闘の生き残りが天国へ出発する時だからな…。あれ以来この町には俺しかいないと思うし、結構物資は残っているとは思うが」

 そう言いながら、ふーこや愛に視線を向ける。
 ふーこは相変わらずの無表情でてくてくと俺についてきている、そのふーこのすぐ横を愛がとぼとぼと歩いている。

 
 

「あぅうああ」

 愛が小さく呻く。
 曲がり角からゾンビの腕が見えている。

「なかなか感度の良いセンサーだな」

 愛の様子を見ていればゾンビが近くにいるかどうかがわかって助かった。
 曲がり角から現れた女ゾンビはよろよろと愛の方へ向かっていく。

「愛の声にはゾンビを引き付ける何かがあるのか?」

「あの時は大量のゾンビから逃げてたからずっと叫びっぱなしだったっす。確かに映画のゾンビみたいに特別耳が良いわけではないわりに、随分と集まってきた印象があったっすねぇ」

 俺が足払いをしようと女ゾンビに近づくと、さっとふーこが近づいて両手で女ゾンビの首をへし折った。そのまま膝をけって足を折って転倒させると何度も何度も蹴りを入れる。女ゾンビの足はあらぬ方向へ折れ曲がり、腹には穴が空いて臓物が零れ落ちた。

「ひぃぃ」

 愛が短い悲鳴を上げる。
 無表情かつ無言で蹴り続けるふーこはちょっと怖かった。

 天国からの脱出者たちはこの地区にやはり流れてきているのだろうか?
 それともどこか別の場所に散り散りになっただろうか?
 もしかしたら、どこか近くの家やマンションを占拠している可能性もある。千鶴がこちらにいる以上、敵対する可能性が高いだろう。その場合は…。


 容赦をするつもりは一切ない。
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