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第3章 星に願いを
第21話 悪くない
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拠点にしているマンションのリビングで、愛が台所で一生懸命に俺のククリナイフを研いでいる。
「あんまり無理すんなよ。てか、指切るなよ。頼むから」
俺が不慣れな手つきで研いでいる愛に声をかけると、愛は汗ばむ額を服の袖で拭いながら
「だい…じょうぶ…これくらいは…やら‥せて…」と笑顔で言った。
暖かい日差しが照り付けているベランダには、俺の先日着たジャケットが風に揺られている。
愛が、手伝いを自分から申し出たのだ。
恐らく、ただ飯喰らいしている状況が心苦しくなったのだろう。
何か、作業があった方が心も晴れるだろうと、武具のメンテナンスをお願いした。
このただ飯喰らいをどうしようかと思ってしまったことがあるのも確かだ。
ちなみに、千鶴はあまりに不器用だったために、ふーこの世話だけをお願いした。
「結局、洋服見れなかったから、また取りに行きたいっすねぇ」
千鶴がふ―この爪にあらためてマニキュアを塗っている。
ふーこの爪の剥がれた指先は、3日もしないであっさり新しい爪が元通り生えてきた。
完全体のゾンビの回復力の凄さよ…。
「今日はやめておいた方がいいかもしれない」
「今日も?もう何日も外に出してくれないじゃないっすか?」
「気になることがある」
「気になること?」
「ここ数日、俺たち以外の人間がこの近くに潜んでいる痕跡がある」
「え、どんな?」
「雑貨を取りに街を散策したときに、俺が回収していないはずのものがなかった。これが天国のやつらなら侵犯行為だからわからせないとだめだが、あれだけ友好関係を求めた多田がそれを許すのは疑問だ。全く関係ない別の生存者が流れ着いた可能性もなくはないが、正直、今だと俺にはあいつの姿しか頭に浮かばない」
「…宮本っすか?」
「そうだ。千鶴に対して随分とお熱だったな。あいつがタカクラデパート以来姿を見せていない」
「その辺でゾンビに喰われて死んでないっすかね…?」
「いつだって、死んでいて欲しいと思う人間ほど死なないものだ」
「うわぁ…すっごいわかるっすぅ…」
「宮本を殺すまで、千鶴はここから出るな」
「ふーこちゃん連れてもだめっすか?」
「ふーこは、男は襲わなかったぞ。大体、ふーこは人間の争いに使うつもりはない」
「俺とふーこがお前らを襲うぞ…ってあいつらに言ってなかったっすか?」
「あんなものただの脅しだ」
「あーあ!愛されてていいっすねぇ!ふーこちゃんはぁ!」
千鶴が妬ましそうに目を細めて、ふーこを睨んでいる。本気ではないだろうが、まぁまぁな圧を感じる。
睨まれているふーこはきょとんとしていて動じない。
「ふーこにあたるな。大体、俺が普通の女にも興奮するようなやつなら、そもそもお前ら無事じゃないんだぞ」
「あーあ!ネクロ野郎のお陰で無事かと思うとやるせないなー!…せめて、可愛い服を取ってきて欲しいっす!」
「俺のセンスでいいのか?解釈違いが生まれそうだが」
「あーあ!ストレスがたまるっす!」
そう言いながらも、千鶴はせっせとふーこの爪をいじっている。
右手の人差し指以外が赤くきらきらしていて、人差し指だけ…。
「なんでスイカ?」
小さくスイカが描かれていた。
不器用なんだか…器用なんだか…自分に興味があることだけ力を発揮するんだろうな…。
「食べたいっす」
「まだ季節じゃないだろうし…今となっては自分たちで種から育てるしかないぞ」
「うぇぇうあぁうえあぁああ」
千鶴は謎の悲鳴を上げながら、座っていたソファに溶けるようにうなだれて寝転がった。
しなやかなその動きと連動してわずかに揺れる胸に、ちょっとセクシーさを感じてしまう。
「今、おっぱい見たでしょ」
「見たけど?」
「なんで見るっすか?勃たないなら見る必要ないっすよね?」
「綺麗なものは見たいよ」
「綺麗っすか…」
「あぁ、千鶴はこう言った方がいいんだっけ?千鶴は可愛いよ。綺麗で可愛い」
「うぇぇうあぁうえあぁああ…ありがとう…」
千鶴がまた謎の悲鳴をあげながら、最後にぽつりと言った。
「けど、どうせ言うなら、もっと感情をこめて言って欲しいっす!」
「可愛い」
「もっとぉ!」
「かわいい」
「もっともっとぉ!」
「か わ い い」
ふと横を見ると、ふーこがムクれた顔をしながら俺を見つめている。
そんなふーこに千鶴が勝ち誇ったような顔をしている。
くそ、なんか利用された気分だ。
「でも、ふーこが一番可愛いぞ」
ふーこを抱きしめて頭を撫でてやる。嫉妬のあまり俺をバラバラにされては困る。
「なーんか、ペットに言うみたいで、いまいちっすねぇ…」
なんだか千鶴もむくれている。
バツが悪いような感じがして台所を見ると、愛が微笑ましそうに見つめている。
まぁ、悪くない。
誰かと生活するというのは、平野たちと別れてから想像もしなかった。
生きた人間とはもう関わるつもりはなかった。
だが、思ったより悪くない。
悪くないから…。
※ またマイペース更新に戻ります
「あんまり無理すんなよ。てか、指切るなよ。頼むから」
俺が不慣れな手つきで研いでいる愛に声をかけると、愛は汗ばむ額を服の袖で拭いながら
「だい…じょうぶ…これくらいは…やら‥せて…」と笑顔で言った。
暖かい日差しが照り付けているベランダには、俺の先日着たジャケットが風に揺られている。
愛が、手伝いを自分から申し出たのだ。
恐らく、ただ飯喰らいしている状況が心苦しくなったのだろう。
何か、作業があった方が心も晴れるだろうと、武具のメンテナンスをお願いした。
このただ飯喰らいをどうしようかと思ってしまったことがあるのも確かだ。
ちなみに、千鶴はあまりに不器用だったために、ふーこの世話だけをお願いした。
「結局、洋服見れなかったから、また取りに行きたいっすねぇ」
千鶴がふ―この爪にあらためてマニキュアを塗っている。
ふーこの爪の剥がれた指先は、3日もしないであっさり新しい爪が元通り生えてきた。
完全体のゾンビの回復力の凄さよ…。
「今日はやめておいた方がいいかもしれない」
「今日も?もう何日も外に出してくれないじゃないっすか?」
「気になることがある」
「気になること?」
「ここ数日、俺たち以外の人間がこの近くに潜んでいる痕跡がある」
「え、どんな?」
「雑貨を取りに街を散策したときに、俺が回収していないはずのものがなかった。これが天国のやつらなら侵犯行為だからわからせないとだめだが、あれだけ友好関係を求めた多田がそれを許すのは疑問だ。全く関係ない別の生存者が流れ着いた可能性もなくはないが、正直、今だと俺にはあいつの姿しか頭に浮かばない」
「…宮本っすか?」
「そうだ。千鶴に対して随分とお熱だったな。あいつがタカクラデパート以来姿を見せていない」
「その辺でゾンビに喰われて死んでないっすかね…?」
「いつだって、死んでいて欲しいと思う人間ほど死なないものだ」
「うわぁ…すっごいわかるっすぅ…」
「宮本を殺すまで、千鶴はここから出るな」
「ふーこちゃん連れてもだめっすか?」
「ふーこは、男は襲わなかったぞ。大体、ふーこは人間の争いに使うつもりはない」
「俺とふーこがお前らを襲うぞ…ってあいつらに言ってなかったっすか?」
「あんなものただの脅しだ」
「あーあ!愛されてていいっすねぇ!ふーこちゃんはぁ!」
千鶴が妬ましそうに目を細めて、ふーこを睨んでいる。本気ではないだろうが、まぁまぁな圧を感じる。
睨まれているふーこはきょとんとしていて動じない。
「ふーこにあたるな。大体、俺が普通の女にも興奮するようなやつなら、そもそもお前ら無事じゃないんだぞ」
「あーあ!ネクロ野郎のお陰で無事かと思うとやるせないなー!…せめて、可愛い服を取ってきて欲しいっす!」
「俺のセンスでいいのか?解釈違いが生まれそうだが」
「あーあ!ストレスがたまるっす!」
そう言いながらも、千鶴はせっせとふーこの爪をいじっている。
右手の人差し指以外が赤くきらきらしていて、人差し指だけ…。
「なんでスイカ?」
小さくスイカが描かれていた。
不器用なんだか…器用なんだか…自分に興味があることだけ力を発揮するんだろうな…。
「食べたいっす」
「まだ季節じゃないだろうし…今となっては自分たちで種から育てるしかないぞ」
「うぇぇうあぁうえあぁああ」
千鶴は謎の悲鳴を上げながら、座っていたソファに溶けるようにうなだれて寝転がった。
しなやかなその動きと連動してわずかに揺れる胸に、ちょっとセクシーさを感じてしまう。
「今、おっぱい見たでしょ」
「見たけど?」
「なんで見るっすか?勃たないなら見る必要ないっすよね?」
「綺麗なものは見たいよ」
「綺麗っすか…」
「あぁ、千鶴はこう言った方がいいんだっけ?千鶴は可愛いよ。綺麗で可愛い」
「うぇぇうあぁうえあぁああ…ありがとう…」
千鶴がまた謎の悲鳴をあげながら、最後にぽつりと言った。
「けど、どうせ言うなら、もっと感情をこめて言って欲しいっす!」
「可愛い」
「もっとぉ!」
「かわいい」
「もっともっとぉ!」
「か わ い い」
ふと横を見ると、ふーこがムクれた顔をしながら俺を見つめている。
そんなふーこに千鶴が勝ち誇ったような顔をしている。
くそ、なんか利用された気分だ。
「でも、ふーこが一番可愛いぞ」
ふーこを抱きしめて頭を撫でてやる。嫉妬のあまり俺をバラバラにされては困る。
「なーんか、ペットに言うみたいで、いまいちっすねぇ…」
なんだか千鶴もむくれている。
バツが悪いような感じがして台所を見ると、愛が微笑ましそうに見つめている。
まぁ、悪くない。
誰かと生活するというのは、平野たちと別れてから想像もしなかった。
生きた人間とはもう関わるつもりはなかった。
だが、思ったより悪くない。
悪くないから…。
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