東京ネクロマンサー -ゾンビのふーこは愛を集めたい-

神夜帳

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第3章 星に願いを

第27話 澪

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 ①

 宮本がソファに寝ころびながら、ゆらゆらと揺れる二人の男と話をしている。

「それから?」

 宮本は話しつかれたので一回休みたかったが、サラリーマン風の男が続きを促してくる。
 なんとなく今、全てを吐き出さなくてはいけないような気もして宮本の口は動いた。

「……僕は、千鶴に会うために、監視の目が緩んでいた獣道を通ったり、崖を登ったりして小川のテリトリーに侵入したんだ……」

 そう、そこで見たのは、千鶴が……。

「あれ?」
「どうしました?」
「うまく思い出せない……。僕の次の記憶は……」
「構いませんよ。思い出せるものからで……」
「そうか……僕は……」

 僕は、千鶴の家に向かったんだ。
 家からは複数の男達の声が聞こえて、1階の掃き出し窓が開いていたからそこからそっと中に入った。
 台所から喧騒が聞こえてきたから、足音が鳴らないようにそっと忍び足で近づいて物陰から中を覗き見たんだ。

 裸の千鶴を、小川と二人の手下らしき男たちが嬲っていたんだ。
 一人のスキンヘッドの細身の男が自分のイチモツを、床に押し付けられ足を開かされた千鶴の膣に突き入れて腰を振っている。

 


「ふざけんな! なんで私が!?」
「今まで贅沢したつけがきたな。みんなから恨まれてる。お前を助けたい女はいないし、男はお前を犯せればそれでいい。因果応報だったな」
「ちきしょー! 殺してやる! 殺してやるからなぁ!」

 千鶴が殺意むき出しで顔を歪ませる。可愛かった顔が眉間の皺、鋭い憎しみの瞳で般若のような顔になっている。
 すると、スキンヘッドの男がその顔に一発拳を叩きこんだ。
 短い悲鳴と共に、千鶴の鼻から真っ赤な血が滴って、般若だった顔は弱気な女の子の顔になり、目には涙を浮かべていた。

「痛い! 痛いっす! やめて欲しいっす!」
「なんだその言葉遣い? 妖しい魔女のような女も拳一つで、こうも仮面が剥がれるものか」
「やだぁ! 痛いのやだぁ! 顔はやめて! 顔は!」

 そんな彼女を見て、僕は自分のモノがこんな時にも関わらず固くなっていき、それに従って抑えようのない怒りがふつふつと湧いてきた。
 あれだけ尽くしてきた僕ですらまだやっていないというのに、何もしていないあいつらが何故千鶴を抱けるのか!?

「ふざけるなぁ!」

 僕が急に叫んだためか、びくっと怯んだ3人。
 まずは、千鶴に乗っかっているスキンヘッドに飛びついて、床にマウントしたところで、ガムシャラに千鶴と同じように鼻を殴った。殴って殴りまくった。
 後ろから別のやつに羽交い絞めにされそうになったが、必死に暴れて抵抗する。
 何発かいいところに打撃がクリーンヒットして、お腹の中の物を吐き出させたが、3対1では勝てるはずもなかった。
 気がついたら制圧されていて、僕が床に転がされて3人から蹴られまくった。

 どれくらいやられていたのか、3人の男も疲れたのか息を切らしながら段々と攻撃をやめていく。

「お前……はぁはぁ……宮本か……。こんなところまで入り込んできやがって! 一人か!? 他にもいるのか!?」
「……僕、一人だ……」

 小川が顔を真っ赤にしながら僕に怒鳴りつける。僕の答えに納得がいかないのか、手下の二人に目配せして外に様子を見に行かせた。

「そうか。一人か? 本当に? だとしたら大馬鹿野郎だな。こんなクソ女を助けにきたのか? あぁ、そうか。お前まだこの女とやってないのか……」

 小川はそう言うと、千鶴のお腹を蹴り飛ばした。
 短く低い唸り声をあげると、口からいくらか嘔吐する。

「やめろ!」
「哀れだな……。良いように奴隷にされて、良い想いもさせてもらえないで、痛い目に合わされて。同情するよ! 奴隷君!」
「おがわぁああああ!!」
「そんな可哀そうな奴隷君に提案がある」
「提案?」
「お前、これからスパイをやれ。多田達の動向を逐一報告しろ。それ用の端末もくれてやる」
「スパイをしないと千鶴を殺すとでもいうのか!?」
「あぁ? いや……千鶴を……」


 ②

 サラリーマン風の男が宮本をじっと見つめている。
 宮本は、ふと自分の記憶に穴があることに気が付いた。

「あれ? なんて言われたんだっけ?」
「PTSDというやつでしょうか? 極限状態でしたでしょうから、心に負担がかかる記憶は封じ込めているのかもしれませんね」
「いや、僕は……。あぁ、そうだ。それから、千鶴を助けるために、多田達の動向を小川に……。いや、なんでこんなことをお前たちに話しているんだ!? これでは、余計僕の立場が悪くなる!!」
「心配しないでください。私達は、あなたの味方ですから」
「味方? 本当に?」

 ガンガンガン!

 ドアや窓枠をゾンビ達が外から叩く音が聞こえてくる。

「くそ。うるさいな。僕たちを食べたいっていうのか!? ……なぁ。お前たちどっから入ってきたんだ?」

 宮本がふと自分はドアを施錠しなかっただろうか? と思い当たったところで、もう一人のスポーツマン風の男の声が聞こえてきた。

「おぉーーい! なんかこっち気にならねぇか?」

「くそ……」

 スポーツマン風の男の声にイライラしながらも宮本は、気怠く重たい自分の身体をソファから起き上がらせると、ふらふらと声のする方へ歩いて行く。
 この家に、このリビングに入った時から感じた違和感の元へ行くと、地下へ通じる階段があった。

「この家、地下があるのか……」

 宮本が階段を一段一段降りていくたび、ギシギシときしむ音がする。
 外見はお金のかかった豪華な洋風の一軒家で、中も造りがしっかりとしていたが、地下へ通じる階段だけはとってつけたような作りで、随分と安っぽい。

「ははは。まるで怪物の口だ」

 階段の先は真っ暗で、まるで大きな怪物が口を開けて獲物を待っているかのようだった。
 階段を一段降りていくたび、自分を闇が飲み込んでいくようで、闇に溶け込んでいくようで、少しひやっとした感覚が背中を襲うが、1階になかった食料があるのではないか? という希望が足を進ませる。

 真っ暗で何も見えないため、まだ次の段があると思って足を進めたら何もなかったために、やや姿勢を崩しながら周りを目にやる。

 何も見えない。
 何も聞こえない。

 テレビの音も。
 あの二人の男の声も。
 子供の声も。

 真っ暗な世界にひとりぼっち。
 壁を探して手を突き出してアンテナにしながら、よたよたと進むと、右手に冷たいコンクリートの感触。
 触れた壁のまわりをぐるぐると手のひらを動かし触っていくと、スイッチらしきものが手に触れた。

 パチッ。

 スイッチを入れると、地下に光があふれた。

「なんだここ?」

 壁紙すら貼られていないうちっぱなしのコンクリートの壁に囲まれた20畳以上はありそうな広い空間。
 床もフローリングではなく、ただのコンクリートだ。
 天井は太いパイプ類が縦横無尽に走り回っていて、パイプとパイプの隙間から照明が光を差し込ませている。
 一番奥には、業務用と思える冷蔵庫らしきものが二つ。
 左側の壁際には、無地の段ボールの箱がたくさん積まれていた。

 宮本が段ボールを開けると、箱の中にぎっしりと詰められた保存食、もう一つ開けてみるとミネラルウォーターがぎっしりと詰まっていた。
 宮本は無言で、保存食の缶のプルタブを引っ張って開けると中のものを口いっぱいに詰め込む。
 ふわっと鼻腔をくすぐる鯖の匂い。
 口に入れたものを、ミネラルウォーターで腹の中に流し込んでいく。
 食べたからすぐにエネルギーになるというわけでもないはずだが、途端に力が漲ってきた。
 ぼわっとした頭がクリアになっていく。

「はぁ……。生き返った……」

 宮本は段ボール群を背もたれに、冷たいコンクリートの床に座り込んで、お腹がいっぱいになるまでひたすら食べつづけた。
 ある程度腹が満たされていったところで、ぼけーっと反対の壁側を見つめる。
 天井からビニールシートらしきものが垂れ下がっていたのだろうか? よくみると床に残骸となったビニールのようなものが打ち捨てられていて、いくつもの鉢植えのようなものが転がっていた。

「なんか……。かたぎの家じゃなさそうだな……」

 やたら豪華に作られた造りのしっかりしている洋風の家。
 そして、殺風景な地下に、転がっている鉢植えとビニールシートらしきもの。
 宮本は、なんとなく大麻栽培を思い起こさせられた。

「じゃあ、あそこに入ってるのは死体だったりしてな……はは……」

 目についた二つの業務用冷蔵庫らしきもの。
 ゆっくり体を立たせて、それに近づく。

 真っ白い自分の身長より大きな業務用冷蔵庫らしきものには、取手の上に小さな液晶ディスプレイがついていて、温度が表示され、真ん中にはポストイットでメモが張られていた。

「マイナス18度。あぁ、これ冷蔵庫じゃなくて冷凍庫か」

 宮本は、貼られていたメモを読んでみる。

『澪がいます』

 メモの内容はそれだけだった。
 それは、お腹が膨れて少し心に余裕ができた宮本の首筋をぞくっとさせた。

 そこに、後ろからサラリーマン風の男が声をかける

「開けてみましょうよ」

 スポーツマン風の男も続く。

「開けてみようぜ。ゾンビが入ってたとしてもよぉ。解凍されなきゃさすがに動かねーよ」

 宮本は、取手を掴むとぐっと腰に力をいれてドアを開ける。
 マイナス18度らしい冷たい風がふわりと身体をかけぬけていく。

 そして、目が合った。
 真っ赤な瞳と。

 


 そこには、美しい女のゾンビが立ったまま目を見開いて凍っていた。

 宮本がゴクリと喉を鳴らす。
 お腹が満たされ少し余裕の生まれた今、ゾンビとはいえ美しい女の裸体を前に、腰が熱くなる想いが湧き上がる。
 勝ち気そうなやや釣り目でゾンビであることを示した真っ赤な瞳、黒いぼさぼさの長い髪、豊かな胸に、きゅっと引き締まったくびれのある腰。モデルだったのか? と思わせるくらい全体的にバランスの良い程よい肉付きの女ゾンビ。

 自分の股間が熱く固くなっていくのを感じながら、女ゾンビの各部位の造形を一つ一つ貪るように見つめていると、わずかに女ゾンビの口元が動いたように見えた。

「うわぁあ!」

 宮本はバタンと慌てて冷凍庫のドアを閉めた。
 恐ろしいほど美しい女ゾンビ、しかし、ゾンビはゾンビ。
 冷凍され弱っているとはいえ、解けていけば自分に襲いかかってくる可能性は大きい。

 スポーツマン風の男が言う。

「はは。すげーいい女じゃん。抱いちまうか? なぁ?」

 宮本はじろりとスポーツマン風の男を睨むと、その場をあとにした。
 どこかで拘束具になるものを探そう。
 冷凍庫から出して動きだす前にガチガチに拘束すれば、もしかしたら……。

 上の階に戻ろうとする宮本にサラリーマン風の男が声をかける。

「千鶴さんにメッセージを送りましょう」
「どうやって?」
「夜中、相手が眠っているであろう時間にあのマンションに近づいて衛生端末のwifi圏内で送ればいいのでは?」
「千鶴は僕の呼びかけに応えるだろうか……?」

 スポーツマン風の男が宮本の方をポンポンと叩きながら言う。

「だーいじょうぶだって。あいつもお前のこと待ってるよ。絶対」

「そうか……。待ってるか……」

 そもそもこいつら誰だっけ……。
 まぁいいか……。
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