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第4章 主人公
第36話 ふたりのふーこ
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①
バイクの単気筒エンジンの軽快でリズミカルな音が荒れ果てた街に響き渡る。
ネクロ野郎と呼ばれる男と後ろにふーこを乗せたオフロードバイクが、瓦礫や放置された車を軽快に躱しながら走っていく。
男の視界の端を凄い勢いで荒れた街並みが流れていく。
俺は、生前のふーこがどんな女の子だったのかを知るべく、ある場所へ向かった。
ふーこと出会った火災によって燃え尽きた地区と、ふーこを運ぶために車椅子を持ち出した診療所が風景の一つとして視界の端で後ろへと流れていくのを捉えながら、オフロードバイクを走らせる。
突然穴の開いた道路や、瓦礫にまみれ放置自動車も幾重にも折り重なっている道路に悪戦苦闘しながらもふーこと出会った場所から30分ほど進む。
やがて、見えてきた大きな建物。
金森中等学校――
という看板が門に掲げられたその場所は、校門は学習机やいす、車、あらゆる資材を使ってなんとかバリケードを設置した様子が見て取れるが……。一部は大きく破壊されゾンビ達が中に雪崩れ込んだことは容易に想像できた。
その破壊されひしゃげた鉄の門をくぐりぬけ、中を探索する。
恐らく、あそこだろう……。
体育館であろう建物に入ると、ゾンビが数体うつ伏せ上体になって床に転がっていて、俺に気づくと急にスイッチが入ったかのように這いずりながら近づいてくる。
それを、ふーこが無表情のまま頭を踏むと、ふーこに履かせたブーツが踏み抜き防止の鉄板が仕込まれていたためか、ふーこの圧倒的脚力によって、それこそ文字通り頭が弾けた。
俺が何かを言う間もなく、ふーこがさくさくと残りのゾンビの頭も潰していく。
体育館の床に、真っ赤な血の彼岸花模様が咲いた。
ふーこは、じっと自分が潰したゾンビを見ていたかと思うと、しゃがみこんで脳みそを手ですくって食べ始めた。
口周りがどす黒い血で染まり、ぽたぽたと垂れたそれがふーこのレインコートの上でまん丸な雫となって滑って床に垂れる。
あぁ、今回もレインコートを着せてきて良かったなと安堵しながら、俺は体育館の壁に近づき視線を走らせる。
そこには、行方不明者の情報を求める紙がびっしりと貼られていて、ところどころ赤黒いもので染まっていることから、ここで激しい戦闘が……いや、もしかしたら一方的な虐殺かもしれないが……があったことがうかがい知れる。
この探し人求むの張り紙の中に、ふーこのことが書かれたものがないか見に来たのだ。
手書きの文字情報しか書かれていないものから、似顔絵が添えられたもの、学校のPCとプリンターで作ったのか写真が印刷されたものも数多くあった。
ふーこの本名がわからない以上、文字情報しか書かれていないものは見ても仕方がない。
似顔絵や写真が載っているものだけを、必死に目を凝らして見ていく。
しかし――
いない。
ふーこらしき人物は見当たらない。
「ふーこ。こっち来て」
俺がふーこを呼ぶと、ふーこは食事で血に染まった口元をぐいっと腕で拭うとすくっと立ち上がって、無表情のままこちらにパタパタと駆け寄ってくる。
無表情ではあるが、呼んだらすぐ駆け寄ってくる姿に、なんとなく気まぐれに餌を与えている野良の柴犬が思い出される。
ふーこにも尻尾があれば、もっと感情がわかるのに。
俺にたどり着いたふーこはぴったりと俺の傍にくっつく。
昨夜洗ったふーこの髪から甘いシャンプーとリンスの香りが鼻をくすぐる。
俺は、壁の無数の張り紙を指さす。
「ふーこ。この中に自分のことを書いてると思うものはないか?」
正直、自分で言っておきながら意味ないだろうなとは思った。
今のふーこは、ここまで複雑な指示は理解できるとは思っていない。
ただ、美容院で立ち止まったように、自分に関係するものを見れば何かしらのリアクションを示すのではないかと思っては見たものの……。
じっと壁の張り紙を見つめるふーこを見て思った。
そもそも文字が読めないのではないかと……。
ダチョウ以下の知能のゾンビ。
ふーこはいくらか人間性を取り戻しているとはいえ……。
恐らく委縮しているであろう脳が元に戻るとは思えない。
「ふーこ。友達の顔とか見当たらないか?」
せめて、ふーこの関係者がいれば、関係者の名前から色々調べることができそうだが果たして……。
しかし、残念ながらふーこが反応を示すものはなかった。
「まぁ、初回から引き当てられるとは思ってないさ。他にも避難所として使われた建物はたくさんある。学校の他にも、大きな老人ホームや区役所、その他、デパートやショッピングモールもそうだ。焦る必要はない」
自分でも口に出しながら奮い立たせる。
そうさ、別に今すぐ見つけなくてはいけないというわけではない。
期限があるわけでもない。
ふーことのんびり暮らしながら趣味のような感覚で探していけばいいのさ……。
体育館を出て学校の中を探索してみたが、特段これといって有用そうな物資はなかった。
学校のPCがインターネットには繋がってはいなかったが、姉妹校と思わしき別の学校のLANと繋がっていた。
ふーこがもし学生であったならば、その学校のLANから何かしらの情報が見つかるかもしれない。
とはいえ、それにしても本名がわからないことにはどうしようもない。
「次へ行くか」
校舎を出て校庭に出る。
5月の陽ざしにしては、まるで真夏のように感じる陽気。
プロテクターを内蔵した風通しの悪いジャケットのせいで、中に着ているTシャツが汗でビショビショになっているのがわかる。
「ふーこも暑いだろう。レインコート脱いでいいぞ」
今日は暑い。ゾンビが出そうなところでだけ着せることにしよう。
ふーこは、俺の指示を聞くと自分でレインコートを脱いでその場に落とした。
そう、あれ以来、服を着たり脱いだりは、自分でできるようになったのだ。
しかも、睡眠をとるようになってから、必要カロリーが大幅に激減したように思う。
まぁ、そりゃ、今までは24時間起きて活動していたわけで、それが11時間睡眠をとるようになったのだから、ご飯事情は一気に改善した。
なんて、家庭に優しいゾンビになったんだ。ふーこ。
地面に雑に脱ぎ捨てられたレインコートを拾い上げると、ふーこの優しい甘い匂いがふわっと香り立った。
ふーこの身体を見れば、汗で中に着ていたブラウスが身体にはりついて、ふーこのセクシーな体つきを際立たせている。
なんとなく、むらっとして、ふーこの胸を揉もうかと手を伸ばしそうになるが、なんとかそれを制止させる。
「厄介だ。うん」
俺は自分を落ち着かせるために適当なことを呟く。
いや、実際、厄介だ。
終末世界。
明日生きているかもわからない極限の状態で、可愛くて美しい身体の女ゾンビが傍にいる。
当然、性欲は湧いてくる。
今までだったら構わず抱いて、自分のモノをふ―この中に押し入れていただろう。
しかし、今はどうだ。
短く単純な問いかけだけとはいえ、ふーこと明確に意思疎通ができるようになった。
すると、途端に迷いが生じた。
このふーこを、ゾンビとしてのふーことして扱うのか、人間としてのふーことして扱うのか……。
まず、間違いなく言えるのは、身体はゾンビなのだ。
人間が、しかもスレンダーな女が、コンクリートブロックを易々と粉々に粉砕したり、素手で人間の身体に穴をあけたり、地上から5階までジャンプで飛び乗ったりすることは絶対にできない。
傷だってエネルギーさえあればすぐに回復するし、何よりこんなに瞳が赤々と輝くことはない。
しかし、人間とはなんだろう……。
いや、そんな哲学的な問題なんかどうでもいい。
俺はびびっているのだ。
人間に近くなっていくふーこに。
ゾンビらしければらしいほど、それはものとして扱える。
だって、あの日、ゾンビから人権は取り上げられたのだ。
でなければ、人間はゾンビを殺すことは殺人となり人間の心に重い十字架を縛り付けたことだろう。
ゾンビに仲間をたくさん殺され、喰われた。
ゾンビはモンスターなのだ。
倒すべき憎い敵なのだ。
生物学的にも人間とは別種なのだ。
だから、ゾンビには何をしてもいいんだ。
なのに、ふーこはレアアイテムにしか過ぎなかったのに、今となっては大切な存在になっている。
ふーこが俺を愛していないと知った時、とても哀しい気持ちになった。
自分が玩具として見ていたというのに。人間ではないというのに。
そもそも、生殖能力すらなく、エネルギーがある限り永遠に生きる可能性があるのならば、もう男女で睦み合って命を繋ぐ概念すらないわけで、男女の愛は必要ないわけで……。
蟻とアブラムシの共存関係のように、ふーこにとって俺は生存に都合の良い存在でしかない……。
ならば、その報酬としてふーこを性的に好きにしてもいいはずだ。
本当に?
澪との戦闘でふーこは身を挺して俺をかばってくれた。
愛は、ふーこは俺に弟のような感覚で接しているという。
恐らく、俺の方が年上だけどな……。
ふーこと向き合うと決めて行動している今、俺は……。
「ふーことセックスしたい。でも、なんだか卑怯に感じてしまうこの感覚はなんなんだ」
こんなことをふーこに言ったところで、ふーこは理解できないだろう。
現にほら、ふーこが無表情のまま首をかしげている。
②
夜8時50分。
夕食を終え、みんなでリビングで今日の収穫を話し合っていると、ふーこがうとうとと首を上下に振りだした。
俺はふーこの手を取って、寝室へ誘う。
しっとりとそれでいて少し冷たい手を握りながら寝室へ入り、ベッドにふーこを横たえる。
ふーこが目をぱちくりと閉じたり開いたりして、眠ることに抵抗しているようなそぶりをみせながらも、やがて、夜9時。その二つの瞼は閉じられた。
「おやすみ。ふーこ」
眠っているふーこの唇に自分の唇を短く重ねた。
ふーこの長いまつ毛に可愛い唇、大人びているようでよくよく見れば幼さも少し感じる可愛い顔立ち、それらをじっと見つめてじんわりとした何かが胸に広がるのを感じる。
ふーこの頬を右手で撫でて、そのままその手をふーこの存在をスキャンするように、するすると下へと撫でていく。
あの力をどうやって出しているのかどう見ても不思議な華奢な鎖骨、ふわりと柔らかくそれでいて凛と張りのある胸、やや引き締まったお腹、そしてスカートからのぞかせている透き通るように白い太ももを触ったところで、意を決して、スカートの中に手を入れショーツ越しにクリトリスを撫でる。
何も反応を示さないふーこ。
ショーツを降ろして、その膣の中へ指を入れたくなる衝動に身を任せてしまおうかと思ったが、やはり……と、思い直してスカートから手を抜く。
「これは……何か違う。違うよな」
呟いたのちに、ふーこにかけ布団をかけ、俺はというとベッドの端に座ってふーこの寝顔を眺めていた。
寝室のドア越しに、千鶴のケラケラと明るい笑い声が聞こえてくる。
愛と何を話しているのやら。
やがて、夜10時、唐突に寝室のドアがノックされる。
千鶴か? 愛か?
俺がベッドから腰を浮かせると、わずかにベッドからきしむ音が響く。
ガチャ
ドアを開けてみれば……。
ふーこがいた。
「は?」
俺は、思わず後ろを振り返ってベッドに横になっているふーこを見る。
確かに、ふーこはベッドで寝息を立てている。
じゃあ、今ドアを開けて現れたこのふーこは!?
そして、もう一人のふーこは、にこっと見たこともない慈愛に満ちた優しい笑顔を見せると、俺の首筋に頭を預け密着する。
本物のふーこに負けないくらい柔らかなはりのある胸の弾力が密着された身体を通して伝わり、ふわりと安らぐ優しい甘い匂いが色めき立った。
バイクの単気筒エンジンの軽快でリズミカルな音が荒れ果てた街に響き渡る。
ネクロ野郎と呼ばれる男と後ろにふーこを乗せたオフロードバイクが、瓦礫や放置された車を軽快に躱しながら走っていく。
男の視界の端を凄い勢いで荒れた街並みが流れていく。
俺は、生前のふーこがどんな女の子だったのかを知るべく、ある場所へ向かった。
ふーこと出会った火災によって燃え尽きた地区と、ふーこを運ぶために車椅子を持ち出した診療所が風景の一つとして視界の端で後ろへと流れていくのを捉えながら、オフロードバイクを走らせる。
突然穴の開いた道路や、瓦礫にまみれ放置自動車も幾重にも折り重なっている道路に悪戦苦闘しながらもふーこと出会った場所から30分ほど進む。
やがて、見えてきた大きな建物。
金森中等学校――
という看板が門に掲げられたその場所は、校門は学習机やいす、車、あらゆる資材を使ってなんとかバリケードを設置した様子が見て取れるが……。一部は大きく破壊されゾンビ達が中に雪崩れ込んだことは容易に想像できた。
その破壊されひしゃげた鉄の門をくぐりぬけ、中を探索する。
恐らく、あそこだろう……。
体育館であろう建物に入ると、ゾンビが数体うつ伏せ上体になって床に転がっていて、俺に気づくと急にスイッチが入ったかのように這いずりながら近づいてくる。
それを、ふーこが無表情のまま頭を踏むと、ふーこに履かせたブーツが踏み抜き防止の鉄板が仕込まれていたためか、ふーこの圧倒的脚力によって、それこそ文字通り頭が弾けた。
俺が何かを言う間もなく、ふーこがさくさくと残りのゾンビの頭も潰していく。
体育館の床に、真っ赤な血の彼岸花模様が咲いた。
ふーこは、じっと自分が潰したゾンビを見ていたかと思うと、しゃがみこんで脳みそを手ですくって食べ始めた。
口周りがどす黒い血で染まり、ぽたぽたと垂れたそれがふーこのレインコートの上でまん丸な雫となって滑って床に垂れる。
あぁ、今回もレインコートを着せてきて良かったなと安堵しながら、俺は体育館の壁に近づき視線を走らせる。
そこには、行方不明者の情報を求める紙がびっしりと貼られていて、ところどころ赤黒いもので染まっていることから、ここで激しい戦闘が……いや、もしかしたら一方的な虐殺かもしれないが……があったことがうかがい知れる。
この探し人求むの張り紙の中に、ふーこのことが書かれたものがないか見に来たのだ。
手書きの文字情報しか書かれていないものから、似顔絵が添えられたもの、学校のPCとプリンターで作ったのか写真が印刷されたものも数多くあった。
ふーこの本名がわからない以上、文字情報しか書かれていないものは見ても仕方がない。
似顔絵や写真が載っているものだけを、必死に目を凝らして見ていく。
しかし――
いない。
ふーこらしき人物は見当たらない。
「ふーこ。こっち来て」
俺がふーこを呼ぶと、ふーこは食事で血に染まった口元をぐいっと腕で拭うとすくっと立ち上がって、無表情のままこちらにパタパタと駆け寄ってくる。
無表情ではあるが、呼んだらすぐ駆け寄ってくる姿に、なんとなく気まぐれに餌を与えている野良の柴犬が思い出される。
ふーこにも尻尾があれば、もっと感情がわかるのに。
俺にたどり着いたふーこはぴったりと俺の傍にくっつく。
昨夜洗ったふーこの髪から甘いシャンプーとリンスの香りが鼻をくすぐる。
俺は、壁の無数の張り紙を指さす。
「ふーこ。この中に自分のことを書いてると思うものはないか?」
正直、自分で言っておきながら意味ないだろうなとは思った。
今のふーこは、ここまで複雑な指示は理解できるとは思っていない。
ただ、美容院で立ち止まったように、自分に関係するものを見れば何かしらのリアクションを示すのではないかと思っては見たものの……。
じっと壁の張り紙を見つめるふーこを見て思った。
そもそも文字が読めないのではないかと……。
ダチョウ以下の知能のゾンビ。
ふーこはいくらか人間性を取り戻しているとはいえ……。
恐らく委縮しているであろう脳が元に戻るとは思えない。
「ふーこ。友達の顔とか見当たらないか?」
せめて、ふーこの関係者がいれば、関係者の名前から色々調べることができそうだが果たして……。
しかし、残念ながらふーこが反応を示すものはなかった。
「まぁ、初回から引き当てられるとは思ってないさ。他にも避難所として使われた建物はたくさんある。学校の他にも、大きな老人ホームや区役所、その他、デパートやショッピングモールもそうだ。焦る必要はない」
自分でも口に出しながら奮い立たせる。
そうさ、別に今すぐ見つけなくてはいけないというわけではない。
期限があるわけでもない。
ふーことのんびり暮らしながら趣味のような感覚で探していけばいいのさ……。
体育館を出て学校の中を探索してみたが、特段これといって有用そうな物資はなかった。
学校のPCがインターネットには繋がってはいなかったが、姉妹校と思わしき別の学校のLANと繋がっていた。
ふーこがもし学生であったならば、その学校のLANから何かしらの情報が見つかるかもしれない。
とはいえ、それにしても本名がわからないことにはどうしようもない。
「次へ行くか」
校舎を出て校庭に出る。
5月の陽ざしにしては、まるで真夏のように感じる陽気。
プロテクターを内蔵した風通しの悪いジャケットのせいで、中に着ているTシャツが汗でビショビショになっているのがわかる。
「ふーこも暑いだろう。レインコート脱いでいいぞ」
今日は暑い。ゾンビが出そうなところでだけ着せることにしよう。
ふーこは、俺の指示を聞くと自分でレインコートを脱いでその場に落とした。
そう、あれ以来、服を着たり脱いだりは、自分でできるようになったのだ。
しかも、睡眠をとるようになってから、必要カロリーが大幅に激減したように思う。
まぁ、そりゃ、今までは24時間起きて活動していたわけで、それが11時間睡眠をとるようになったのだから、ご飯事情は一気に改善した。
なんて、家庭に優しいゾンビになったんだ。ふーこ。
地面に雑に脱ぎ捨てられたレインコートを拾い上げると、ふーこの優しい甘い匂いがふわっと香り立った。
ふーこの身体を見れば、汗で中に着ていたブラウスが身体にはりついて、ふーこのセクシーな体つきを際立たせている。
なんとなく、むらっとして、ふーこの胸を揉もうかと手を伸ばしそうになるが、なんとかそれを制止させる。
「厄介だ。うん」
俺は自分を落ち着かせるために適当なことを呟く。
いや、実際、厄介だ。
終末世界。
明日生きているかもわからない極限の状態で、可愛くて美しい身体の女ゾンビが傍にいる。
当然、性欲は湧いてくる。
今までだったら構わず抱いて、自分のモノをふ―この中に押し入れていただろう。
しかし、今はどうだ。
短く単純な問いかけだけとはいえ、ふーこと明確に意思疎通ができるようになった。
すると、途端に迷いが生じた。
このふーこを、ゾンビとしてのふーことして扱うのか、人間としてのふーことして扱うのか……。
まず、間違いなく言えるのは、身体はゾンビなのだ。
人間が、しかもスレンダーな女が、コンクリートブロックを易々と粉々に粉砕したり、素手で人間の身体に穴をあけたり、地上から5階までジャンプで飛び乗ったりすることは絶対にできない。
傷だってエネルギーさえあればすぐに回復するし、何よりこんなに瞳が赤々と輝くことはない。
しかし、人間とはなんだろう……。
いや、そんな哲学的な問題なんかどうでもいい。
俺はびびっているのだ。
人間に近くなっていくふーこに。
ゾンビらしければらしいほど、それはものとして扱える。
だって、あの日、ゾンビから人権は取り上げられたのだ。
でなければ、人間はゾンビを殺すことは殺人となり人間の心に重い十字架を縛り付けたことだろう。
ゾンビに仲間をたくさん殺され、喰われた。
ゾンビはモンスターなのだ。
倒すべき憎い敵なのだ。
生物学的にも人間とは別種なのだ。
だから、ゾンビには何をしてもいいんだ。
なのに、ふーこはレアアイテムにしか過ぎなかったのに、今となっては大切な存在になっている。
ふーこが俺を愛していないと知った時、とても哀しい気持ちになった。
自分が玩具として見ていたというのに。人間ではないというのに。
そもそも、生殖能力すらなく、エネルギーがある限り永遠に生きる可能性があるのならば、もう男女で睦み合って命を繋ぐ概念すらないわけで、男女の愛は必要ないわけで……。
蟻とアブラムシの共存関係のように、ふーこにとって俺は生存に都合の良い存在でしかない……。
ならば、その報酬としてふーこを性的に好きにしてもいいはずだ。
本当に?
澪との戦闘でふーこは身を挺して俺をかばってくれた。
愛は、ふーこは俺に弟のような感覚で接しているという。
恐らく、俺の方が年上だけどな……。
ふーこと向き合うと決めて行動している今、俺は……。
「ふーことセックスしたい。でも、なんだか卑怯に感じてしまうこの感覚はなんなんだ」
こんなことをふーこに言ったところで、ふーこは理解できないだろう。
現にほら、ふーこが無表情のまま首をかしげている。
②
夜8時50分。
夕食を終え、みんなでリビングで今日の収穫を話し合っていると、ふーこがうとうとと首を上下に振りだした。
俺はふーこの手を取って、寝室へ誘う。
しっとりとそれでいて少し冷たい手を握りながら寝室へ入り、ベッドにふーこを横たえる。
ふーこが目をぱちくりと閉じたり開いたりして、眠ることに抵抗しているようなそぶりをみせながらも、やがて、夜9時。その二つの瞼は閉じられた。
「おやすみ。ふーこ」
眠っているふーこの唇に自分の唇を短く重ねた。
ふーこの長いまつ毛に可愛い唇、大人びているようでよくよく見れば幼さも少し感じる可愛い顔立ち、それらをじっと見つめてじんわりとした何かが胸に広がるのを感じる。
ふーこの頬を右手で撫でて、そのままその手をふーこの存在をスキャンするように、するすると下へと撫でていく。
あの力をどうやって出しているのかどう見ても不思議な華奢な鎖骨、ふわりと柔らかくそれでいて凛と張りのある胸、やや引き締まったお腹、そしてスカートからのぞかせている透き通るように白い太ももを触ったところで、意を決して、スカートの中に手を入れショーツ越しにクリトリスを撫でる。
何も反応を示さないふーこ。
ショーツを降ろして、その膣の中へ指を入れたくなる衝動に身を任せてしまおうかと思ったが、やはり……と、思い直してスカートから手を抜く。
「これは……何か違う。違うよな」
呟いたのちに、ふーこにかけ布団をかけ、俺はというとベッドの端に座ってふーこの寝顔を眺めていた。
寝室のドア越しに、千鶴のケラケラと明るい笑い声が聞こえてくる。
愛と何を話しているのやら。
やがて、夜10時、唐突に寝室のドアがノックされる。
千鶴か? 愛か?
俺がベッドから腰を浮かせると、わずかにベッドからきしむ音が響く。
ガチャ
ドアを開けてみれば……。
ふーこがいた。
「は?」
俺は、思わず後ろを振り返ってベッドに横になっているふーこを見る。
確かに、ふーこはベッドで寝息を立てている。
じゃあ、今ドアを開けて現れたこのふーこは!?
そして、もう一人のふーこは、にこっと見たこともない慈愛に満ちた優しい笑顔を見せると、俺の首筋に頭を預け密着する。
本物のふーこに負けないくらい柔らかなはりのある胸の弾力が密着された身体を通して伝わり、ふわりと安らぐ優しい甘い匂いが色めき立った。
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