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第1章 ふーこ
第3話 ふわふわする気持ち Ver.3.0
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①
ネクロ野郎と呼ばれる男がゾンビ少女を連れ去った後の火災現場。
鴉が一匹、地面に落ちている本をつっついている。
砂利のまじった風に吹かれてページがめくられていく。
そのほとんどのページが焼けて黒く変色していたが、風が気まぐれに開いたページは損傷が見られない。
鴉は、じっとそのページを見つめる。
人間の文字がわかるのか? わからないとしても、まるで読んでいるかのように首を時折捻りながら見つめていた。
ある日神様は人がいがみあうことなく愛し合うにはどうしたら良いか4人の使徒に相談しました。
狼の使徒が言いました。
「愛を育むには時間がかかります。」
鴉の使徒が言いました。
「愛を育むには健全な精神と肉体が必要です。」
狐の使徒が言いました。
「優れた知性と知能は、猜疑心を呼び愛を育む邪魔となるでしょう。」
兎の使徒が言いました。
「愛を確認するには、優れた観測者が必要です。」
4人の使徒から意見を聞いた神様は光あれと口にし世界は光に包まれました。
鴉は、それを読んで理解したのかしないのか、しばらくページを見つめた後、空に向かって飛び立つ。残された本は、ゆらりと身体を前傾させながら息も絶え絶えに歩くゾンビに踏まれていった。
②
ネクロ野郎と呼ばれる男が、ゾンビ少女を拠点としているマンションへ連れ帰った。
山を切り崩して開発された町なだけあって、高低差がある坂道が多い。
男のマンションは、坂道を登り切って現れるしばらく続く平坦の道の途中にあった。
10階建てで、男は5階に居を構えていた。
勿論、元々の男の住居ではない。色々探索した結果、快適な家がここだったというわけだ。
元々、コンシェルジュが常時いるような富裕層向けのマンションのようで、1階はエントランスになっていて、高級ホテルのような作りが広がっている。金森町は未だに電気が生きていることから、エレベーターを呼び出して車椅子を押してのせる。
男は、囚われの身だというのに全く暴れる気配どころか、動きもせずぼわっと虚ろな赤い瞳で正面を見続ける女ゾンビを見ながら、自分の階に着くのを待った。
男の脳裏に昔のある光景が呼び覚まされる。
団地の裏側にある舗装されていない私道の真ん中を、途切れ途切れに白いコンクリートのブロックが道を作っていた。
歩行者が泥を踏まないように、とりあえず置いただけのただの白いコンクリートブロック。
ブロックの大きさは、赤ん坊が寝そべれる程度。
それが、公道に出る向こう側にまで点々と続いており、両端を木々の枝がまるでアーチのようにフェンスを超えて伸びていて、枝葉の隙間からは、夏の強い日差しが差し込んでくる。
ブロックの下はただの土なので、蟻が巣をつくっているのだろう。
ブロックを見つめていると、蟻がちょろちょろと次から次へとブロックの下から這い出してきて、白いブロックの上を縦横無尽に歩いている。
幼い子供の足がそれを踏んだ。
踏まれた蟻はぺちゃんこに潰れて白いブロックに死骸を黒く張り付かせる。
蟻はそれでも潰れた仲間のことなどお構いなしに下から次々と湧き出て、わらわらと白いブロックの上を歩いている。
幼い子供の足がまたそれを踏んだ。
白いブロックに2つ目の小さい黒い点が生まれる。
幼い子供は、さらに踏む。
踏んで、踏んで、踏んで、踏んで、踏んで……。
どれくらいの時間それに費やしていたのか……白いブロックはまだらに面積の半分を黒く染め上げると子供はしゃがみこんで蟻を観察する。
歩いてくる蟻を指でつまんでじっと見つめると、蟻は自分から脱出しようと必死に指を噛んでくる。
友達によっては蟻に噛まれると痛がってすぐに離してしまったが、自分は全然痛くなかったので蟻が噛みついてくるそれをされるがままに見つめていた。
自分と全く違う仕組みで動くものがわちゃわちゃと動いている、それがなんだかとっても不思議で面白かった。
ふと自分を噛んでいる蟻の頭をもぎとって放ってみる。
もぎとられた頭はすぐに動かなくなったが、体はしばらく手足をバタバタと動かし、駒のようにその場でグルグル回っていた。
道の向こうから同じくらいの年齢の子供がやってくると、同じようにしゃがみこんで、今度は二人で一緒に無言で蟻を捕まえては頭をもぎとって放りはじめた。
白いブロックはどんどん黒く染まっていく。
また一人、また一人と幼い子供が集まってくる。
皆一心不乱に蟻を踏んだり、頭をもぎとったり、ペットボトルを持っていた子は蟻を入れて溺れる蟻を観察していた。
その様子を通りかかった母親が、なんて残酷なことをするのと咎める。
なぜ残酷なことなのか? ただ、自分たちは知りたいだけだ。
母親のあとから父親がやってきて、男の子なら誰もが通る道だと母親を諫めた。
父が自分に共感してくれたのが嬉しかった。
別に自分は残酷なことをしているつもりはない。
この自分とは全く違う仕組みの存在を知り尽くしたいのだ。
知り尽くすには、出来ることを全てやりたいのだ。
だけど、それと同時に命を無惨に踏みにじれることが楽しかった。
白いブロックの黒い無数の点が、輝かしい戦績のようで興奮したのだ。
この瞬間だけ、黒い点は世界中のどんな宝石より価値のある輝く星だったのだ。
だが、それに気が付いたのは大人になってからだった。
あの時、なんであんなに蟻を潰すのが楽しかったのかと自問自答するときに気づくのだ。
「そうさ……」
俺は、マンションの自分の居室にゾンビを持ち帰ると、車椅子のガムテープを切って拘束を解く。
すると、ゾンビ少女は、俺に視線を送ることなく、立ち上がってふらふらと玄関の方へ歩いていくと、ドアをカリカリと爪でひっかく。鍵とチェーンをかけられたドア、それらを外す知能はゾンビには無い。
その様子をしばらく横目で見ながら、車椅子を畳んでその辺にしまう。
ゾンビ少女は、それから、廊下やリビング、各部屋をふらふらと歩き回る。
その度に、身体についた返り血がぽたりぽたりと床を赤く汚したから、俺は早く風呂場に突っ込んでしまいたかったが、何がきっかけで襲い掛かってくるのかがわからない。
「そうはいっても、持って帰ってきておいて今さらびびっても仕方がない。別の居室で弱るまで閉じ込めておいてもいいが……おい」
ふらふらとゆっくり歩き回るゾンビ少女の肩をつかんで揺さぶると、俺にされるがままゾンビ少女は身体を揺らし、頭を前後左右に揺らした。
しかし、それでも、俺を捉えることはなく、無防備だ。
「……こっちに来い!」
それの手をとって、浴室まで引っ張って歩く。
物凄い力でがんとして動かないかと思いきや、普通の女と変わらない力で引っ張られ、あっさりと浴室に押し込めることができた。
電気が生きているのはありがたい。
なぜか、金森町はこんな事態になっても電気や水道、ガスといったライフラインが生きている。まぁ、そのせいで、この区画を巡って人間同士の戦争ごっこがあったわけだが……、いやぁ、まぁ、本当に鬱陶しかったのは、自分の嘘を自分で信じてしまう糞野郎が、そういうのに限って嘘が上手で、区画内にカルト宗教を立ち上げて教祖の地位につき、あんなことやこんなことをやり始めたことだ……。お陰で、ゾンビと戦いながら俺達レジンスタンスは教祖もどきの勢力とも戦わなくてはいけなかった。全く。
ライフラインが何故生きているのか、発電所なんかを覗きに行ってみたいところではあるが、結局のところ、減ってきたとはいえゾンビはまだまだいるし、それなりに距離があるせいで簡単にはいけないまま、今に至ってしまった。
ある日突然この文明的な生活が終わる可能性も大きい。そうしたら、いよいよ原始時代のサバイバル生活だ。いや、まだ簡単な発電機とかどっかにあるだろうし、なんとかなるかな?
ビリッ!
ビリーッ!
ゾンビ少女の身体に張り付いていた赤黒く染まってボロボロな服のようななにかを力づくで破いて捨てる。
全裸になった身体にシャワーをぶっかけて血を洗い流す。
その間も、ゾンビ少女は、あちらこちらと視線を泳がし風呂場から抜け出そうとふらふらと動き出す。
「言葉を発することができるのなら、俺の言う事も少しは聞くか? おい、動くな。動くなって!」
しかし、こちらの言うことが理解できている様子はない。所詮は、ゾンビかと思ったところで、イライラしてきて、乱暴に胸を押して浴室の壁に叩きつける。
その拍子にゾンビ少女の頭がガクンと一回バウンドするように上下に動き、そして、俺とぴったりと目が合った。
真っ赤に煌めく艶のある瞳が、俺の瞳を捉えている。
「う・ご・く・な」
ゾンビ少女に脅しをかけるように声に圧を忍ばせて、目を見ながらゆっくりと命令した。
すると、途端にぴたりと動きを止めるゾンビ少女。
「おっ?」
手に石鹼をつけて、身体を洗っていく。
ゾンビ特有のひやりとした体温、しかし、瑞々しくも張りのある肌は、水滴が玉のように丸々と弾かれて重力に引かれて滴り落ちていく。
首から鎖骨、肩甲骨、二の腕と上から順々に洗っていき、そして、Dカップ程度ある胸を揉んだ。
柔らかく、それでいてしっかりと張りのある弾力。
ゾンビだから遠慮なく、ぎゅっと力をこめ、揉むたびに歪に変形する胸、そして、ムラムラしてくる気持ち良さが手のひらから突き抜けていく。
それを、ゾンビ少女は無表情でぼーっと見つめている。リアクションは何もない。
何か言葉を話すかと思ったが、何も言わずただただされるがままだ。
「ゾンビはゾンビか」
胸を揉み洗い、そのまま手は腰へと滑らせていく。
きゅっと引き締まった男受けしそうな腰を撫で洗い、小ぶりなお尻を揉み洗う。
筋肉のためか、胸よりしたたかな弾力を楽しませてくれる。
それから、すらっとした足を楽しみ、全身状態を観察した。
「小さな傷はあるものの、特段大きな傷はないか」
変なゾンビだ。
これだけ状態がいいゾンビなら俺のことなど簡単に身体をバラバラにできるだろうに、まるで襲う素振りはなく、それどころか、目を見ながら命令すれば指示に従う……。
長いウェーブがかった栗毛に触れると、ゾンビ少女は一瞬びくっと身体を震わせた。
「なんだ?」
途端に、またふらふらと、しかし、今度はゆっくりながら慌てるような素振りで浴室から出ようとするゾンビ少女。
俺は、髪の毛を掴みぐいっと引っ張って顔をこちらに向かせる。
表情は何も変わっていないが、明らかに違った反応をみせるソレの赤い目をしっかりと見つめ命令した。
「そこのシャワーチェアに座れ」
表情もないというのに、まるでシブシブというのが伝わってくるような空気をまとって、ゾンビ少女はゆっくりと浴室のシャワーチェアに腰かけた。
「こういう命令が通るということは、やっぱり、普通のゾンビより知能があるな」
目の前まで髪の毛の一束を掴んで観察する。
特段、これといって他のゾンビと違う髪の毛というわけではなさそうだ。
そういうパーマをしているのか、元々くせっけなのか……。しかし、あの日から1年は経過する。パーマだったら自然ともう落ちていそうだ。
綺麗な髪の毛からは、洗っていない犬のような匂いと、焼けた炭やモルタルの匂いがふわっと匂う。
俺は、無言でシャワーのお湯をゾンビ少女の頭からぶっかけると、シャンプーで洗ってやった。
「せっかくのレアアイテムとヤるんだ。この匂いがついたままはもったいない」
この居室を接収した時から浴室に置いてある、前の住民のものであろう女もののシャンプーを使って、揉みこむように洗い、長い髪の毛のせいで泡立たないシャンプーに苦戦しながら何度も何度も洗った。
不意に歌うように女の声が聞こえた。
『フワ…‥フワ……フワフワ……』
「お、やっと喋った。ふわふわ? 気持ちいってことか?」
俺の問いかけに返答はなく、洗っている間中ずっと、聞き取れない何かをつぶやいていた。
ネクロ野郎と呼ばれる男がゾンビ少女を連れ去った後の火災現場。
鴉が一匹、地面に落ちている本をつっついている。
砂利のまじった風に吹かれてページがめくられていく。
そのほとんどのページが焼けて黒く変色していたが、風が気まぐれに開いたページは損傷が見られない。
鴉は、じっとそのページを見つめる。
人間の文字がわかるのか? わからないとしても、まるで読んでいるかのように首を時折捻りながら見つめていた。
ある日神様は人がいがみあうことなく愛し合うにはどうしたら良いか4人の使徒に相談しました。
狼の使徒が言いました。
「愛を育むには時間がかかります。」
鴉の使徒が言いました。
「愛を育むには健全な精神と肉体が必要です。」
狐の使徒が言いました。
「優れた知性と知能は、猜疑心を呼び愛を育む邪魔となるでしょう。」
兎の使徒が言いました。
「愛を確認するには、優れた観測者が必要です。」
4人の使徒から意見を聞いた神様は光あれと口にし世界は光に包まれました。
鴉は、それを読んで理解したのかしないのか、しばらくページを見つめた後、空に向かって飛び立つ。残された本は、ゆらりと身体を前傾させながら息も絶え絶えに歩くゾンビに踏まれていった。
②
ネクロ野郎と呼ばれる男が、ゾンビ少女を拠点としているマンションへ連れ帰った。
山を切り崩して開発された町なだけあって、高低差がある坂道が多い。
男のマンションは、坂道を登り切って現れるしばらく続く平坦の道の途中にあった。
10階建てで、男は5階に居を構えていた。
勿論、元々の男の住居ではない。色々探索した結果、快適な家がここだったというわけだ。
元々、コンシェルジュが常時いるような富裕層向けのマンションのようで、1階はエントランスになっていて、高級ホテルのような作りが広がっている。金森町は未だに電気が生きていることから、エレベーターを呼び出して車椅子を押してのせる。
男は、囚われの身だというのに全く暴れる気配どころか、動きもせずぼわっと虚ろな赤い瞳で正面を見続ける女ゾンビを見ながら、自分の階に着くのを待った。
男の脳裏に昔のある光景が呼び覚まされる。
団地の裏側にある舗装されていない私道の真ん中を、途切れ途切れに白いコンクリートのブロックが道を作っていた。
歩行者が泥を踏まないように、とりあえず置いただけのただの白いコンクリートブロック。
ブロックの大きさは、赤ん坊が寝そべれる程度。
それが、公道に出る向こう側にまで点々と続いており、両端を木々の枝がまるでアーチのようにフェンスを超えて伸びていて、枝葉の隙間からは、夏の強い日差しが差し込んでくる。
ブロックの下はただの土なので、蟻が巣をつくっているのだろう。
ブロックを見つめていると、蟻がちょろちょろと次から次へとブロックの下から這い出してきて、白いブロックの上を縦横無尽に歩いている。
幼い子供の足がそれを踏んだ。
踏まれた蟻はぺちゃんこに潰れて白いブロックに死骸を黒く張り付かせる。
蟻はそれでも潰れた仲間のことなどお構いなしに下から次々と湧き出て、わらわらと白いブロックの上を歩いている。
幼い子供の足がまたそれを踏んだ。
白いブロックに2つ目の小さい黒い点が生まれる。
幼い子供は、さらに踏む。
踏んで、踏んで、踏んで、踏んで、踏んで……。
どれくらいの時間それに費やしていたのか……白いブロックはまだらに面積の半分を黒く染め上げると子供はしゃがみこんで蟻を観察する。
歩いてくる蟻を指でつまんでじっと見つめると、蟻は自分から脱出しようと必死に指を噛んでくる。
友達によっては蟻に噛まれると痛がってすぐに離してしまったが、自分は全然痛くなかったので蟻が噛みついてくるそれをされるがままに見つめていた。
自分と全く違う仕組みで動くものがわちゃわちゃと動いている、それがなんだかとっても不思議で面白かった。
ふと自分を噛んでいる蟻の頭をもぎとって放ってみる。
もぎとられた頭はすぐに動かなくなったが、体はしばらく手足をバタバタと動かし、駒のようにその場でグルグル回っていた。
道の向こうから同じくらいの年齢の子供がやってくると、同じようにしゃがみこんで、今度は二人で一緒に無言で蟻を捕まえては頭をもぎとって放りはじめた。
白いブロックはどんどん黒く染まっていく。
また一人、また一人と幼い子供が集まってくる。
皆一心不乱に蟻を踏んだり、頭をもぎとったり、ペットボトルを持っていた子は蟻を入れて溺れる蟻を観察していた。
その様子を通りかかった母親が、なんて残酷なことをするのと咎める。
なぜ残酷なことなのか? ただ、自分たちは知りたいだけだ。
母親のあとから父親がやってきて、男の子なら誰もが通る道だと母親を諫めた。
父が自分に共感してくれたのが嬉しかった。
別に自分は残酷なことをしているつもりはない。
この自分とは全く違う仕組みの存在を知り尽くしたいのだ。
知り尽くすには、出来ることを全てやりたいのだ。
だけど、それと同時に命を無惨に踏みにじれることが楽しかった。
白いブロックの黒い無数の点が、輝かしい戦績のようで興奮したのだ。
この瞬間だけ、黒い点は世界中のどんな宝石より価値のある輝く星だったのだ。
だが、それに気が付いたのは大人になってからだった。
あの時、なんであんなに蟻を潰すのが楽しかったのかと自問自答するときに気づくのだ。
「そうさ……」
俺は、マンションの自分の居室にゾンビを持ち帰ると、車椅子のガムテープを切って拘束を解く。
すると、ゾンビ少女は、俺に視線を送ることなく、立ち上がってふらふらと玄関の方へ歩いていくと、ドアをカリカリと爪でひっかく。鍵とチェーンをかけられたドア、それらを外す知能はゾンビには無い。
その様子をしばらく横目で見ながら、車椅子を畳んでその辺にしまう。
ゾンビ少女は、それから、廊下やリビング、各部屋をふらふらと歩き回る。
その度に、身体についた返り血がぽたりぽたりと床を赤く汚したから、俺は早く風呂場に突っ込んでしまいたかったが、何がきっかけで襲い掛かってくるのかがわからない。
「そうはいっても、持って帰ってきておいて今さらびびっても仕方がない。別の居室で弱るまで閉じ込めておいてもいいが……おい」
ふらふらとゆっくり歩き回るゾンビ少女の肩をつかんで揺さぶると、俺にされるがままゾンビ少女は身体を揺らし、頭を前後左右に揺らした。
しかし、それでも、俺を捉えることはなく、無防備だ。
「……こっちに来い!」
それの手をとって、浴室まで引っ張って歩く。
物凄い力でがんとして動かないかと思いきや、普通の女と変わらない力で引っ張られ、あっさりと浴室に押し込めることができた。
電気が生きているのはありがたい。
なぜか、金森町はこんな事態になっても電気や水道、ガスといったライフラインが生きている。まぁ、そのせいで、この区画を巡って人間同士の戦争ごっこがあったわけだが……、いやぁ、まぁ、本当に鬱陶しかったのは、自分の嘘を自分で信じてしまう糞野郎が、そういうのに限って嘘が上手で、区画内にカルト宗教を立ち上げて教祖の地位につき、あんなことやこんなことをやり始めたことだ……。お陰で、ゾンビと戦いながら俺達レジンスタンスは教祖もどきの勢力とも戦わなくてはいけなかった。全く。
ライフラインが何故生きているのか、発電所なんかを覗きに行ってみたいところではあるが、結局のところ、減ってきたとはいえゾンビはまだまだいるし、それなりに距離があるせいで簡単にはいけないまま、今に至ってしまった。
ある日突然この文明的な生活が終わる可能性も大きい。そうしたら、いよいよ原始時代のサバイバル生活だ。いや、まだ簡単な発電機とかどっかにあるだろうし、なんとかなるかな?
ビリッ!
ビリーッ!
ゾンビ少女の身体に張り付いていた赤黒く染まってボロボロな服のようななにかを力づくで破いて捨てる。
全裸になった身体にシャワーをぶっかけて血を洗い流す。
その間も、ゾンビ少女は、あちらこちらと視線を泳がし風呂場から抜け出そうとふらふらと動き出す。
「言葉を発することができるのなら、俺の言う事も少しは聞くか? おい、動くな。動くなって!」
しかし、こちらの言うことが理解できている様子はない。所詮は、ゾンビかと思ったところで、イライラしてきて、乱暴に胸を押して浴室の壁に叩きつける。
その拍子にゾンビ少女の頭がガクンと一回バウンドするように上下に動き、そして、俺とぴったりと目が合った。
真っ赤に煌めく艶のある瞳が、俺の瞳を捉えている。
「う・ご・く・な」
ゾンビ少女に脅しをかけるように声に圧を忍ばせて、目を見ながらゆっくりと命令した。
すると、途端にぴたりと動きを止めるゾンビ少女。
「おっ?」
手に石鹼をつけて、身体を洗っていく。
ゾンビ特有のひやりとした体温、しかし、瑞々しくも張りのある肌は、水滴が玉のように丸々と弾かれて重力に引かれて滴り落ちていく。
首から鎖骨、肩甲骨、二の腕と上から順々に洗っていき、そして、Dカップ程度ある胸を揉んだ。
柔らかく、それでいてしっかりと張りのある弾力。
ゾンビだから遠慮なく、ぎゅっと力をこめ、揉むたびに歪に変形する胸、そして、ムラムラしてくる気持ち良さが手のひらから突き抜けていく。
それを、ゾンビ少女は無表情でぼーっと見つめている。リアクションは何もない。
何か言葉を話すかと思ったが、何も言わずただただされるがままだ。
「ゾンビはゾンビか」
胸を揉み洗い、そのまま手は腰へと滑らせていく。
きゅっと引き締まった男受けしそうな腰を撫で洗い、小ぶりなお尻を揉み洗う。
筋肉のためか、胸よりしたたかな弾力を楽しませてくれる。
それから、すらっとした足を楽しみ、全身状態を観察した。
「小さな傷はあるものの、特段大きな傷はないか」
変なゾンビだ。
これだけ状態がいいゾンビなら俺のことなど簡単に身体をバラバラにできるだろうに、まるで襲う素振りはなく、それどころか、目を見ながら命令すれば指示に従う……。
長いウェーブがかった栗毛に触れると、ゾンビ少女は一瞬びくっと身体を震わせた。
「なんだ?」
途端に、またふらふらと、しかし、今度はゆっくりながら慌てるような素振りで浴室から出ようとするゾンビ少女。
俺は、髪の毛を掴みぐいっと引っ張って顔をこちらに向かせる。
表情は何も変わっていないが、明らかに違った反応をみせるソレの赤い目をしっかりと見つめ命令した。
「そこのシャワーチェアに座れ」
表情もないというのに、まるでシブシブというのが伝わってくるような空気をまとって、ゾンビ少女はゆっくりと浴室のシャワーチェアに腰かけた。
「こういう命令が通るということは、やっぱり、普通のゾンビより知能があるな」
目の前まで髪の毛の一束を掴んで観察する。
特段、これといって他のゾンビと違う髪の毛というわけではなさそうだ。
そういうパーマをしているのか、元々くせっけなのか……。しかし、あの日から1年は経過する。パーマだったら自然ともう落ちていそうだ。
綺麗な髪の毛からは、洗っていない犬のような匂いと、焼けた炭やモルタルの匂いがふわっと匂う。
俺は、無言でシャワーのお湯をゾンビ少女の頭からぶっかけると、シャンプーで洗ってやった。
「せっかくのレアアイテムとヤるんだ。この匂いがついたままはもったいない」
この居室を接収した時から浴室に置いてある、前の住民のものであろう女もののシャンプーを使って、揉みこむように洗い、長い髪の毛のせいで泡立たないシャンプーに苦戦しながら何度も何度も洗った。
不意に歌うように女の声が聞こえた。
『フワ…‥フワ……フワフワ……』
「お、やっと喋った。ふわふわ? 気持ちいってことか?」
俺の問いかけに返答はなく、洗っている間中ずっと、聞き取れない何かをつぶやいていた。
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