東京ネクロマンサー -ゾンビのふーこは愛を集めたい-

神夜帳

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第1章 ふーこ

第4話 人の形 ① Ver.3.0

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 ①

 早々にゾンビ少女をベッドに押し倒して、その美しい体を蹂躙したい想いがあったが、その前に腹が減った。
 あの場所からここまで車椅子を押して運んだせいで、明日は絶対筋肉痛だし、そもそも腹がペコペコだ。
 適当に冷凍庫に入っていたシーフードピザを取り出して、レンジにかける。
 数分の後、だんだんと美味しそうなトマトの匂いと海老の匂いが部屋に充満する。
 出来上がったピザを更にのせてリビングのテーブルに置く。

「ん?」

 俺の方を見ることなくふらふらとあちこち動き回っていたゾンビ少女が、ピザをじっと見つめているのに気が付いた。

「なんだ? お前、食べたいのか?」

 俺の問いかけには無反応で、しばらくピザを見つめていた後、またふらふらとあちらこちらへとのろのろと動き始める。

「まるで、風が吹いたらそのままどこかに行ってしまいそうだな。風来坊……。そうだ。お前のことは、ふーこ、そう呼ぶことにしよう」

 俺はリビングのあちらこちらを歩き回るふーこを捕まえて、赤い瞳を見つめながら言った。

「ふーこ。お前はこれからふーこだ。飯を食わせてやる。そこの椅子に座れ」

 すると、トコトコとふーこは指定された椅子に歩み寄って、そして座った。
 変なゾンビだ。俺は肩をすくめながら、テーブルに置いたピザを皿ごとふーこの目の前に動かした。
 しかし、ふーこはじっとピザを見るものの食べようとしない。

「あぁ? なんだ? ふーこ、食べないのか? それとも人肉しか食べたくないか?」

 俺がひょいっと目の前のピザの1ピースを右手にとって、ふーこの口の目の前まで運んでやる。

 パクッ

 一瞬、大きな口を開けたかと思うと、ピザの1ピースを先端から半分ほど噛み千切って食べ始めた。

「なんだ、食べるじゃないか」

 ふーこは、もぐもぐとしっかりと咀嚼してやがて飲み込んだ。

 一瞬の間。

 気がついたら残りも目にもとまらぬ速さで齧られた。
 その時の勢いでピザのトマトソースが押されて、俺の右手にべっとりとつく。
 それを、ふーこが早くも飲み込んだ2口目では、全然足りないぞと言わんばかりに俺の右手を舐めはじめた。
 最初、手ごと食べられるかとひやっとしたが、ふーこはそんなことはなく、俺の人差し指を丁寧にそのねっとりと滑らかな舌で舐めとると、次に親指、そして手のひらと舐めていく。
 ふーこの唇の弾力が手を刺激して、なめらかでねっとりとした舌が俺の指を這うたびに、何かゾクゾクとした快楽が背中を走っていく。

「ふーこ。ここにあるんだ。全部食べていいんだ」

 俺の言葉を理解しているのかしていないのか、食べたことで食べられるものと認識したからなのか、自分の目の前に置かれているピザを無言でパクパクと食べていった。

「ゾンビはグルメで、人肉しか食べないやつもいるからなぁ。ふーこがそういうのじゃなくて助かるよ」

 それから、冷凍庫にあったピザを何枚かレンジにかけて、ふーこと一緒に夕食をとった。
 人の形をした存在と食事を共にするのは、半年ぶりだろうか?
 もう覚えていない。



 俺が腹を満たせたと思った時、ふと視線を感じて顔を上げると、ふーこが俺のことをじっと見つめていた。
 あれだけ俺を見ようとせず、ふらふらと動き回っていたふーこが、その赤い瞳をじっと俺に向けている。俺のことを餌として見ているのかと一瞬思ったが、その後も襲い掛かってくる様子はない。

「餌をくれる存在と認識したのかな……はは。なんか犬っぽいな」

 洗ってやったことで、さらっさらになった美しい艶のある髪の毛が照明に照らされて、シルクのように鈍くたおやかに光を反射させている。
 なんとなく、ふーこの前髪を触った。

 ふーこは髪の毛を触られても、びくっとすることはなかった。


 ②

 闇の帳が下りた町。
 生き残った街灯がぽつぽつとほのかに町を照らしている。
 廃墟のように崩れた家屋と生き残った無事な建物群が混在するが、各部屋の窓から生きた明かりが見えるのは、消されずに放置された明かりを除けばたった1室。
 ネクロ野郎と呼ばれる男の部屋からのみだ。
 外の景色とは裏腹に、こうこうと明るく照らされた寝室で、男はベッドに横たわったふーこを味わっていた。

 正常位の形でのしかかった俺の陰茎がふーこの中に飲み込まれると、ひんやりとした身体とは裏腹に生暖かい中のぬめった柔らかな感触に揉まれて、きゅんとした刺激が身体を駆け抜ける。



「くっ……。なんだ。やけに気持ちいいな。他とは違うゾンビだからか?」

 人間の女には勃つことのないペニス。
 形の良いゾンビだけをコレクションして、自分を慰めてきたが、形が良いだけでゾンビそのままであるそれらは、ただのマスターベーションの延長のようでしかないようで、快楽の壁がすぐに迫ってくるように感じていた。
 それに比べて、言葉を話し……とはいっても、あれから意味不明な言葉を時折つぶやくだけで、基本的に無口ではあるが……、こちらの指示も目を見て話せば聞く存在の中というのは、自分の気持ちが入るからだろうか、形だけのセックスとは明らかに違う快感が味わえた。
 それならば、気持ちの通じた人間の女とやれればもっと気持ちが良いことだろう。しかし、それはありえない。虫程度にしか感じないし、そもそも勃つこともないからだ。「人間ではない」ということがとても重要だった。
 人間が嫌いでゾンビが大好きで、敢えてこの町に独り残ったというのに、人間に近づいた反応を示すゾンビに、他のゾンビ以上の快楽を示す自分が、なんだか酷く矛盾した存在のように感じるが、仕方がない。そういうものなのだから。

 あいつの言う事が思い出される……。


 ネクロ野郎と呼ばれる男の過去の記憶——

 あちらこちら穴だらけの道路に瓦礫になった建物群を俺と平野が高台から眺めている。

「お前もよぉ、一緒に天国へ行こうぜぇ?」

 平野将成(ひらのまさなり)。背は173㎝の俺より若干高く、肩幅は広いがスマートな印象を持たせる体格に、鍛え上げ鋼のようになった筋肉はスーツ姿ながら、盛り上がった筋肉を隠しきれていない。
 口は笑っていても絶対に笑わない目。坊主に近い短髪で、いつもふざけたようなおどけたような喋り方をするくせに、その実、常にこちらの様子を鋭く観察し続けていて油断ができない中年のおっさん。
 妙に女にはもてて、何回も恋人が変わるのに、別れた女とはその後も友達のような関係を続けている。
 戦場に立てば恐れることなく単身でも敵に突っ込んでいき、大きなククリナイフで敵を斬り刻む。

 俺は知っている。人間を斬り刻んでいる時だけ目が笑っていることを。
 サイコパスであることを周りに悟られるサイコパスなぞ偽物だ。
 こいつのように、とても常識あり人情味あふれるおじさんを装っていても、それでもふわっと匂う危険な異物感。
 それこそが本当のサイコパスであろう。

「嫌だよ。人間にはもううんざりだ。この町に残る」
「はぁ? もうゾンビしかいねーぞぉ? あぁ、でもお前はゾンビの方がいいのか。ゾンビにしか勃たねーもんなぁ! ギャハハハ!」
「そうだ。可愛い子選び放題だ。こここそ天国だろ?」
「はっ。抜かせ……。俺はよぉ。お前が結構気に入ってんだよ。気に入った奴がおかしくなっていくのはなんかやるせないねぇ。まぁ、お前は元からおかしいんだけどよぉ。だがな、人間が人間と全く関わらず生きるのは無理なんだよぉ。お前、それこそゾンビ以下のゴミカスになっちまうぞぉ? 狂っちまうぞぉ?」
「まるでお前は狂ってないかのような言い分だな」
「そういうこと言うのお前だけなんだよねぇ! ギャハハハ!」

 男が豪快にひとしきり笑うと、ふーっと一息溜め気をついて。

「今日のお前は良かったぞぉ。あのタイミングでよぉ、あの女を人質にとるのはさすがだった。特に、女の耳をちぎって、目を潰して、死なない程度にそれでいて致命的にダメージを与えていく……。さすがだよ。お前。あの野郎もあっという間に降参したなぁ!」
「馬鹿な男だった。気も小さいくせに強がって。イキる?って言うのか?ああいうのは。覚悟が足りないただのチンピラだったな」
「これで残党は全滅だ。俺達は天国に合流して新たな生活を手に入れる。お前も来いよぉ?」
「嫌だよ。生きた人間よりゾンビの方が愛せそうだもん。というか、俺以外みんな死ねばいい」
「はっ。これだからサイコパスはよぉ」
「自分のことを言っているのか?」
「ふっ。じゃあ、これでお別れだネクロ野郎! 今回の戦いの最大功労者はお前だ! だから、タカクラデパートの残りの物資はくれてやる」

 そう言って平野は俺に背を向ける。
 残りの物資をくれてやると気前の良いようなことをこの男は言ったが、そもそも銃や弾薬は全て、そして食料も運べるだけ持って行ってしまっているのだから、報酬にあげるのではなく、単に運べないからしょうがないからというわけだ。全く……この男はうまいこと言葉を良いように変換する……。

 ふとある光景が頭をよぎって、俺は平野の背中に大声でこう問うた。

「なぁ! 子供の頃、蟻を潰して遊んだか!?」

 男はこちらに振り返るとニカッと笑って。

「そんなの男なら誰でも通る道だろぉ!」と叫んだ。

 数か月? 半年? それくらいのちょっとした記憶だ。
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