東京ネクロマンサー -ゾンビのふーこは愛を集めたい-

神夜帳

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第1章 ふーこ

第4話 人の形 ② Ver.3.0

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 ①

 俺が人間の女に現を抜かすことはありえない。
 しかし、あいつの言ったことが半分……いや、考えるのはよそう。

「俺は、レアイテムを拾った。今、アイテムを使っているだけだ」

 ギシギシと俺が腰を振る度に音を奏でるベッドのスプリング、揺れるふーこの胸、ふーこの赤々とした瞳はじっと俺のことを見つめ続け、その瞳に吸い込まれそうになる。女であれば羨みそうな天然の長いまつ毛に、愛らしい目の形、アイドルのような小さな唇、そして、ゾンビであることを差し引いても美しい透き通るような白い肌……。

 ふいに、強烈にふーこの唇に口づけをしたくなる衝動が走るが、自分のことをじっと見つめる赤い瞳に吸い込まれそうになるその感覚は、口づけをしたら最後、永遠にこの存在に囚われ抜け出せなくなりそうな恐怖がちりちりと頭の後ろを突き刺して、その感情を必死に押し引っ込めさせた。
 代わりに、胸の双丘のいただきにある桃色のつぼみに齧りつく。
 歯で甘噛みしながら、時に舌で転がす。
 別に甘いわけでも美味しいわけでもない。ただの肌の味であるが、一緒に食事をした女の形をしたナニカのものであることが、言い知れぬ興奮に繋がっていた。
 ふーこは、無表情のままされるがままだ。言葉を話すからといって喘ぐわけでもない。
 そこは他のゾンビと同じで、振動や圧で漏れる空気の出入りが、口から少し喘ぎ声に聞こえなくもない呻きになるだけだ。

 しーんとした無音の町。
 冷蔵庫の霜取りのモーター音が鈍く小さく響いているだけの静かな寝室で、俺の激しい息づかいと共に、ふーこの漏らす空気の音がベッドの軋みとともに響いていく。

「ハァ……フゥ……グッ……」

 ふーこの息づかいを聞きながら、必死に胸を揉み、必死に腰を振る。

 じっと見つめているふーこの赤い瞳が、「いったい何がそんなに良いの?」と言っているかのようだ。無表情で、それこそ俺のことをおかしな挙動をする虫のように見つめているように感じる。
 人間とは明らかに別のモノになり果てたゾンビからすれば、人間の営みなど、特にふーこからすれば、お腹の中から圧を感じるだけのものだ。いや、ゾンビの耐久力から考えれば、圧すら感じていないかもしれない。ただ変な生き物が、自分の上で必死に腰をふっているだけ……。

 まぁ、それでもいいさ。
 別に、共感を求めているわけじゃない。
 性欲は人間の抗えない欲求の一つだ。
 そして、俺は人間では勃たたないくせに、人の形をしていないと満たされない。
 なんという矛盾。
 だが、そんな俺には、ふーこのような存在は丁度良いのかもしれない。
 いつまでも気持ちの良い想いをしていたかったが、だんだんと色々な快楽がこみ上げてきて、限界を、それこそダムが決壊しそうな衝動を感じて、とっさにぐっとペニスを奥の奥へ突き上げる。

 途端に、ビクビクと脈打ち、解放感と共に震えるような快楽が、白い精を中に注ぎ込むたびに駆け抜けていった。

「はぁはぁ……」

 みるみるうちに自分の中にたまっていた何かが抜け落ちていく。
 目をつぶって最後の一滴まで快楽を貪り、ふとふーこの顔を見れば、そこには変わらず静かにじっと俺を見つめる赤く輝く瞳。

 ただ、見ている。

 その圧に、ぶるっと身体が震えて、最後の最後の一滴をふ―この中に流し込んだ。

 腰を引いてペニスを抜くと、時間差でじわじわと白いどろっとしたものが膣穴から垂れてくる。ティッシュでそれらを簡単に拭き取りゴミ箱に投げ入れると、ふーこの横に倒れ込んだ。よく見るとシーツに少し赤いシミができていた。処女だったのか?

 車椅子で運んだ疲労と射精によって、じわじわと眠気が意識を沼に引きずり込もうとしている。

「……ふーこを念のために……縛らなくては……」

 しかし、俺の意識はあっさりと眠りに落ちた。
 ふーこが俺を襲うつもりがあれば、もうこのまま永遠の眠りについていたことだろう。


 ②

 薄暗い寝室。
 カーテン越しに朝日の光がぼんやりと寝室を照らしている。
 ネクロ野郎と呼ばれる男の瞼が静かに開かれた——

「やべ、寝ちまった」

 がばっとベッドから起き上がるが、どこからも痛みは感じられず腕からわずかに筋肉痛が走るのみ。視線を横に滑らせると、薄暗い寝室に二つの赤い瞳が浮かんでいる。



 ゾンビは眠らない。
 ずっとじっと俺のことを見つめ続けて一晩過ごしたんだろう。

「本当に人を襲わないんだな」

 俺のつぶやきにふーこは反応することなく、俺を見つめ続けている。
 赤い瞳、冷たい温もり、知能を奪われた憐れな存在。
 ゾンビになる経緯はどうも4種類くらいあるらしい。
 とはいえ、全て都市伝説的なネットの情報でしかない。
 なにせ、ゾンビの研究が行われる間もなく人類は世界人口の2/3が殺された、もしくはゾンビになってしまった。文明崩壊レベルにまで追い込まれた終末世界。
 インターネットも使えなくなり、衛星通信端末を持っていればまだアクセスできるかもしれないが、そんなものは持っていないし、俺には無線を扱う知識も技術もない。
 世界のどこかでゾンビの研究が進んでいるのかもしれないが、それを知る由もない。
 ただ、教祖もどきと戦っていた時に、衛星通信を持っていた仲間にWifiで繋げさせてもらったときは、色々な玉石混交な情報が錯綜していた。
 ゾンビの身体を調べたら遺伝子が改ざんされていた形跡があるとか、異常なたんぱく質が見つかっただとか……。
 そんな中で信憑性が高いとされていたのは、HLT-1と名付けられたウィルスによる感染症だそうだ。

 スペイン風邪、ペスト、天然痘、東京エボラ……。

 人類の歴史には何回も致死率の高い感染症が流行したけど、結局人類は滅びなかったし、適応してしまった。
 実際、ゾンビが大量に発生した、ゾンビクライシスの始まりのあの日から1年は経ったが、俺はピンピンしている。
 ゾンビに噛まれたり、引っ掻かれたりしたこともあったし、何度何度も返り血を浴びた。
 それに、好みの女ゾンビが良い感じに弱っていれば、喜んでセックスもする。
 それでもゾンビになるどころか、性病になったこともない。
 リスクがあるのはわかっているが、やはり、終末世界で毎日サバイバル生活をしていると、極限に追い込まれた心は、人の形を求めてしまう。

 人間ではダメで、動物でもダメで、人の形をした人間ではないモノ。

 俺が癒されるのはそんな存在、つまりはゾンビしかいない。
 つまりは、結局のところ、この今の環境こそが俺にとって幸せな毎日というわけだ。

『……本当に?』

 不意に記憶の底から夕焼けの景色とある女の声が思い出される。

 ふーことの昨夜のセックスでは、形だけの存在である他のゾンビでは感じなかった強い快感があった。
 あぁ、なんという中途半端な存在。
 終末世界を喜び、俺以外は死んでしまえと願っている。
 だというのに、ゾンビでありながら人っぽさを見せるふーことのセックスに何かハマりそうでハマらなかったピースを見つけたような、不思議な感覚がある。

「増えた食い扶持分、かき集めてくるか……」


 ふーこに適当に部屋にあったドレスシャツとジーンズを着せた後に、装備を整えエントランスへ降りる。
 ゾンビの日々のカロリー、ややこしいからエネルギーとするか……の消費は激しい。個体、特に女ゾンビには多いが、ある程度エネルギーが減ると休眠状態のような、ほとんど動かない状態になってやり過ごすやつもいるが、特に男ゾンビは、戦いながら餓死するようなやつらばかりで、漫画のように段々と身体が崩壊していく。皮膚が剥がれ落ち、肉が腐って落ちる。目玉もそのうち溶けて流れ出し、傷は回復しなくなり、最後の最期は泥のように悪臭をまき散らしながら死んでいく。
 折角のレアアイテムであるふーこを、そんな醜い死に方をさせたくない。
 風来坊からとった名前だけに、ふらふらとどこかに行ってしまいそうだったから、玄関や窓の施錠はしっかりとしてきた。ゾンビであるふーこに鍵を開けるという知能はないはずだ。

 エレベーターを降りて高級ホテルのフロントのような豪奢なエントランスを出ると、強い日の光によって一瞬視界が白くなる。
 歩きながらだんだんと現実世界がクリアに見えてくるようになったころ、視線の先から柴犬が2匹駆け寄ってくる。
 たまに、気まぐれに餌をやっている野良犬。いや、たぶん、元々は人間に飼われていたんだろうな。
 視線を上にあげれば、いつものように鴉が電柱にとまっていて、鳩も呑気に鳴きながら道を歩いているし、日当たりの良いコンクリートブロックには猫があくびをしながら寝転がっている。

 人間以外の動物には一切影響がなく、人間だけが数を減らしている。

 尻尾を振りながら駆け寄ってきた柴犬が俺の周りをぐるぐる駆け回る。

「おい。今日は餌はないぞ。うちもたくさん食料が必要なんだ。お前たちはその辺のゾンビでも齧っていなさい」

 柴犬たちは、こちらの言葉を理解したのかしないのか、舌を出しながら尻尾をぶんぶん振って、そのつぶらな瞳で俺を見つめる。

「……はぁ。しょうがないな」

 ポケットから適当に携帯食を取り出して、2匹に与える。
 柴犬の前足がしゃがんだ俺の膝にのせられ、前のめりにがっつくように携帯食を貪った。

 ワンっ!!

 不意に犬が吠えたかと思ったら、吠えた先に2匹の人影。
 目を凝らして見れば、一匹はでっぷりと太った中年の、もう一匹はスキンヘッドで身長は180㎝は超えていて、まるでラガーマンのような立派な体格の男ゾンビ。

「男ゾンビ……。珍しいな」

 デブの男ゾンビはじりじりとこちらに向かってきて、ラガーマンの方はゆらゆらと揺れながらも微動だにしなかった。

「ちっ」

 右手にククリナイフを握って、左手で胸ポケットに入っている手榴弾を確認する。

 ワンっ! ワンっ!

 柴犬2匹が、俺より先にけたたましく吠えてデブの男ゾンビに向かっていき、足に噛みついたり、首に噛みついたりしている。
 本気になった犬、特に柴犬はまるで狼のようだ。
 あっという間に、脚の肉をそぎ落とし、首の肉を噛みちぎる。
 デブの男ゾンビは多少もがくが、柴犬に攻撃する気配はない。
 やがて、その太った上半身を支えられなくなるほど削られた足は、あっさりと地面に身体を沈め、柴犬に腹を割かれ、内臓を引っ張り出される。
 男ゾンビはエネルギー消費が激しくて、今となっては生き残っているのを見つける方が珍しいのだが、こうやって個体差によって生き残っているのもいる。
 ラガーマンの方は、その力強くスタイリッシュな姿から思うに、戦って喰って生き残ったのでは……ないかと思う。つまり、歴戦の猛者の可能性がある。

「厄介だな」

 ラガーマンに注意を多く向けていると、デブの方が引きずり出された内臓を引きずりながら、俺の方へ這ってきたかと思えば、残った足で地面を蹴って宙を舞った。
 俺目掛けて落ちてくるソレを、紙一重で避けながら、ククリナイフで首を斬る。
 それこそ、漫画のように首を飛ばすつもりであったが、ナイフは骨に引っかかってしまい、首の肉を削ぐだけにとどまる。

「ちっ。やっぱり首を斬り飛ばすってうまくいかねぇ!」

 平野の戦う姿が思い浮かぶ。
 俺のより大きなククリナイフ……もはや、ソード、を使っていたとはいえ、綺麗に宙を舞う人の首たち。
 なんで、あんなふうに綺麗に斬り飛ばせるのだろうと、いつも不思議に思っていた。

 ヒュッ

 短く空気を斬り裂く音がしたかと思えば、デブゾンビの腕が俺の頬を掠める。
 そのまま、デブゾンビは地面に転びながら、地団駄を踏むように、腕をあちらこちらへ叩きつける。
 アスファルトで舗装された道路が、どんどんとひび割れていき、あっさりとボコボコ穴を空けていく。

「こんなんでも、やっぱり男か!」

 ラガーマンを巻き込む形で手榴弾を使うか、しかし、それでは犬を巻き込む。
 少し迷ったと思った刹那――

「は? 逃げた?」

 ラガーマンはその場から走って逃げだした。
 ゾンビが人を襲わずに逃げる?
 ダチョウ以下である知能のゾンビのことだ、人を見失えば何を追っていたか忘れてどこかへ行ってしまうことはあるが、俺を視界にとらえながら逃げるなんて……。

 デブゾンビは、最後に大きな一撃を道路に叩き込んで、大きく道をへこませると、そのまま動かなくなった。恐らく、エネルギー切れで餓死したのだろう。

「なんなんだよ。まったく」

 ふと視線を感じて、視線の元へ首を動かす。

 ふーこ。

 5階の部屋だからよくは見えないが、ふーこが窓辺にいるように感じた。
 なんでだかはわからない。

 それからは、男ゾンビを見かけることなく、適当に女ゾンビと遊びながら物資を集めていった。町だけで約5万人、区になると20万人はいた場所だ。
 一気に人口の2/3がいなくなったせいか、まだまだ物資は残っている。


 ③

 夕食を一人と一匹でとり終わったリビング。
 あれからじっと俺を見つめ続けるふーこというゾンビ少女。
 もぐもぐと可愛く動く口をじっと見つめる。

 少しよからぬことを考える。
 命令をきいてくれるのならば……。

 俺は、食べ終わったふーこを洗面所に連れて行くと、入念に歯磨きをした。
 別に、ふーこのためにやっているわけではない。
 使うのは清潔なその口だ。
 寝室へ連れて行き、ベッドの端に座る俺。

「ふーこ。そこにしゃがみこめ」

 ふーこがおずおずと俺の前でしゃがみこむと、俺はズボンのチャックを開けてペニスを取り出した。

「ふーこ。しゃぶるんだ」

 無表情とはいえ、キョトンとしているような様子のふーこ。
 やはり、意味が解らないか。

 これは、一つの賭けだった。
 一歩間違えれば、地獄の苦しみを味わうだろう。
 ふーこの頭をつかんで、ぐいっと自分の股間に押し付ける。

「ふーこ。舐めるんだ。絶対に噛むんじゃないぞ」

 そう言って、陰茎をふーこの口の中へ押し込んだ。
 舌の滑らかな、それでいて一部ざらつく感触、口の中のしっとりと生暖かな感触がペニスを包む。

 ペチャ

 ふーこが舌でぬらりと俺のペニスを舐めはじめる。
 やっているふーこは意味がわかっていないことだろう。

 フェラ。



 ゾンビにしか勃たたない俺からすれば、永遠に叶わないと諦めていた性技。
 普通のゾンビにこれやろうとしたら、あっさり噛み千切られて、憐れ息子は胃の中、そして自分は出血で下手すれば死ぬ。というか、たぶん痛みで死ぬ。

「本当に良い拾いものをした!」

 ペチャ
 ぬるり

 ただ言われるがままに、ただ舐めているだけでは、快感のツボはかするが、違うそこではない……そういったもどかしさに襲われる。

「こうだよ。こう!」

 イマラチオ

 ふーこの頭を力づくで前後に動かす。
 亀頭がふーこの喉の奥をつく。
 膣の中とは違う独特の快感が突き抜ける。

「ふーこ。出すぞ!」

 ペニスが脈打って白い精を何度も何度も吐き出す。
 吐き出している間、ただでさえ気持ちの良いその瞬間もふーこがぺちゃぺちゃと舐め続けるがために、強い快楽となって頭を突き抜ける。

「はぁ……。本当にお前はいいな。何者なんだ? ふーこは」

 小さくなっていくソレを、ふーこの口の中から引き抜く。
 透明なねばねばした体液がふーこの唇を湿らし、グロスのようにてからせる。

 ゴクリ

 ふーこは、口の中に含まされた白濁したそれを餌と思ったのかあっさりと飲み込む。
 俺の心の中の支配欲をじわじわと満たしていく……。

「お利口だな。ふーこは」

 ふーこの頭を優しく何度か撫でる。
 ふわふわとしたそれでいて滑らかな髪の毛の感触が気持ち良かった。
 その夜、時間をおいてふーこの中に2回自分を放って果てた。
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