東京ネクロマンサー -ゾンビのふーこは愛を集めたい-

神夜帳

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第4章 主人公

第46話 ネクロ野郎 ②

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 拠点としているマンションの居室のリビング。
 皆がネクロ野郎と呼ばれている男の顔をじっと見て、その乾いた唇から発せられる言葉をじっと聞き入った。
 漫画に出てくるサイコパスのように、わかりやすく狂っているわけでもなく、一見は面倒見も良く社会性もある。
 しかし、どこか全てに心が入っていない態度を感じ、この荒れ果ててしまった世界に全てを諦めてしまったのかと思えば、どうもそうではない……。

 よくわからないやつ。

 そのよくわからないやつが自分を語り始めた。
 恐らくこの男のことをちゃんと理解するきっかけは、もしかしたらこれが最初で最後かもしれない。
 特に砂金愛は、今までの生活の中で、徐々にこの男に惹かれていることを自覚し、今では、男が執心している女ゾンビの格好を真似てまで近づこうとしている。

 男もそれに応えて、自分に寄り添う態度を見せ始めている。

「……あぁ……見たかったな……」

 愛が誰にも聞こえないように、ぼそっと小さな小さな声で呟く。
 男の話は概要をざっくりと話をしているだけで、その時、彼はどんな表情をして、どんな仕草をして、そして、今、話に聞いただけで嫉妬に狂いそうになるその付き合っていた女と逢瀬を重ねたのか……。

 見たい……。いや、その場にいたかった……。

 そういう想いが胸を駆け巡る。

「ん?」

 ふと、愛の頭を誰かの手が触れるのを感じる。
 愛が振り向くと、自分の背後にふーこが至近距離にいた。

 一瞬、ひやっとする。
 自分のわかりやすく感情を漏らしてきてしまった。
 ふーこに男への好意を感じ取られてしまっただろうか。
 男への執着を見せるふーこにバラバラにされるだろうか? と。

 しかし、ふーこは無表情のまま口を開く。

「……カエスネ……」

 返す?

 何を?

 愛の頭に大きなクエッションマークが浮かぶと共に、聞こえてくる頭の奥からあの叫び声が……。

 アァアアアアアアアアアアァアアアアアアア!!
 ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
 キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 最初は、声とはわからぬ風切り音のような音、だが、だんだんとそれが老若男女問わない様々な人間の叫びであることが認識できた。

 頭の中の叫び声がどんどんとクリアに、そして、大音量となっていく……。
 助けを求めるように愛する男の横顔に視線を向ければ、男の動きが酷く緩慢でゆっくりと、それこそ、瞬きすらじっくりと、まぶたが閉じていく。
 その場にいる他の人間全てもそうであることを察する。自分の感覚がひどく先鋭化して、周りの時間を飛び越えているようだ。

(あぁ……! ふーこちゃんに気持ちがバレて!! 復讐されてるんだ!!!)

 頭の中で響き渡る叫び声が、気が狂うくらいクリアで大きくなっていくころ、愛はそう感じながら目の前の景色が暗転した。


 暗い暗い真っ暗闇。
 どこかで幼い男の子の泣きじゃくる声が聞こえる。

 身体の感覚がない。
 まるで、魂だけが抜け出して、何もない宇宙空間に放り出され、ぷかぷかと浮いているような感覚。

「泣いてるのは……誰……?」

 愛が目を開ける。
 目がない気もしたが、でもたしかに目を開けた。

 最初に目に映ったのは、美しいまでの星々の輝き。

「綺麗……」

 真っ暗な空間を、真っ暗だと感じさせないくらい、あらゆるところで小さな光が輝いている。
 そう、都会の明かりの無い美しい夜空のように。

 どこからか聞こえてくる幼い男の子の泣きじゃくる声が、愛の意識がしっかりしてくると共に遠くなっていく。
 そして、代わりに聞こえてくる。
 色々な人達の叫び声。

「うっ……。頭が痛くなる……! 何なのこれ!? ずっとふーこちゃんに出会うまで聞こえてたあの音は、人間の叫びなの?」

 自部の身体に視線を落そうとして、自分自身も輝く小さな光であることに気づく。

「えぇ? あぁ、ここ現実じゃないの? そういえば、口もよく動く……。あぁ、口無いんだ……」

 愛がそうつぶやくと、光は愛の人間の姿を形作る。
 それと共に、頭の中を様々な人間の姿が通り抜けていき、その度、なにか映像のようなものがフラッシュバックのように流れていく。

 あの日の悲惨な様子。
 あの日、誰かが死んで行く様子。
 だが、それだけではなかった。

 赤ん坊が生まれて、抱きかかえながら泣いて喜ぶ母親。
 子供の七五三に家族で記念写真をとる姿。

 誰かの様々な記憶が愛の中を通り抜けていく。

「なんなの!? 怖い! 怖いよ! ネクロさんっ!」

 愛が膝を抱えてうずくまりながら男のあだ名を叫ぶ。

 すると、大好きなあの男の声が聞こえてきた。

「あぁ、そうか。助けが欲しかったのか。ごめんね。リアクション間違えたね?」

 男の声にハッとして、愛が声のした方へ顔を向ける。

 学生服を着た男の映像がすっと愛の頭を通り抜けていく。

「ネクロさん? 違う……? もしかして……」

 銀河の星々のように輝く小さな光のうち、手近にあったものに触れてみる。

 キンッ!!

 まるで曇りガラスを爪でひっかいたかのような不快な高音が一瞬鳴って、愛の頭に映像が流れていく。
 映像は、誰かの一人称視点で、荒れ果てた街を揺れながら歩いている。
 生きている人間は見当たらず、ゾンビしか見当たらない。
 やがて、倒れて視界が青空でいっぱいになる。

 そして、流れる古い古い映像。
 どこかセピア色のように色褪せていて、でも……。

 気づけば愛は涙を流していた。

「もしかして、これ全部 ” 人 ” なの?」

 おもちゃが欲しくて泣いて親にせがむ映像
 友達と喧嘩して泣いてる映像
 大人になって好きな人と一緒になれて嬉しくて嬉しくて仕方ない様子の映像

 ——生まれてきてくれてありがとう——

 誰か知らない女の人の声が響いて、愛の目の前に赤子の映像が流れていく。

「知らないよ。私、知らないよ……。怖かったんだよ。今まで聞こえていたのは……。そんな?」

 愛の胸が切なさで締め付けられる想いがする。

 色々な凄惨な映像と、色々な嬉しくなる映像。

 全てが愛を通り抜けていく。

「……こんなの耐えられるわけがない……。もしかして、ふーこちゃんが今まで預かってくれていたの? だから、カエスって……」

 何か自分が大事な役目を持ってしまっているのではないかと動揺するが、それも一瞬。

「ごめんね。私、欲深いみたい。あの人が見たいの。あの人を見せて? ……あぁ、そんな。こんな暖かなものがみんな流れているの??」

 女ゾンビが別の女ゾンビを共食いしている様子が愛の頭を駆け抜けていく。
 しかし、なぜか胸が暖かくなる。

 どうして?

 ゾンビにとって食べるという行為は……。

「お腹を満たすだけじゃないの?」

 あまりの暖かさに、ほっとして心がほぐれ、涙がぬぐってもぬぐっても止まらない。

「なんだか、何か大切なことがわかりそう……。でも、本当にごめん! 私は、あの人が知りたいの!」

 愛する男の声がまたした。

「じゃあ、あいつらがいなくなれば信じてくれるのかい?」

 愛は、声がした方へ自身の輝く身体を飛ばした。
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