東京ネクロマンサー -ゾンビのふーこは愛を集めたい-

神夜帳

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第4章 主人公

第47話 ネクロ野郎 ③

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「あぁ、そうか助けが欲しかったのか。ごめんね。リアクションを間違えたね?」

 愛する男の淡々とした冷たい声。
 それが自分に向けられたものではないことはすぐにわかった。

 男の視線が微妙に自分からズレていたからだ。

 誰に言っているんだろう?
 愛が身体を横に避けながら振り返る。

(あれ? なんとなく千鶴に似ているかも?)

 千鶴によく似た容姿ながら、千鶴から生きる力強さを抜いた感じの女の子が立っていて、その周りをがらの悪そうな男女が数人囲んでいた。

(あぁ、もしかして、この子の記憶? ううん。自分の姿が見えてるから、きっとこの場にいる人たちの映像が組み合わさったものなのね)

 状況が理解できない愛は、ちょっとその場から離れて辺りを俯瞰しようとしたが、どうも身体は女の子から2,3メートル以上離れられないようだった。
 動ける範囲で辺りを注意深く観察する。

 どこかの高校らしき校舎の裏か、別館かといった人通りが少なそうな日陰のじめっとした場所。
 千鶴に似ていながら、どこか弱々しくいじめられっ子っぽい茶髪の女の子がスカートの端を両手で握って立ち尽くしている。

 囲んでいるうちのひとりの体格がやたら良い男が叫ぶ。

「なんだてめぇーは! あっちいってろ!」

 それに対して、ネクロ野郎が応える。

「でも、確かに今その子が助けてってつぶやいたと思うんだけど?」
「言ってねーよ! 言ってたとしてもお前には関係ねーだろっ!」
「えぇ? 助けを求められたら助けるのが人間じゃないのかな?」
「偽善者野郎が……」

 体格の良い男がつかつかと肩で風をきりながら、ネクロ野郎に近づくと平手で頬を一発はたいた。

 バチンっ!

 乾いた音が辺りに響いて、ネクロ野郎の唇が少し切れて赤い血が一筋つたっていく。

(あぁ! なにこいつ!? もしかしてイジメ現場なの!? 私のネクロさんになんてことするの!?)

「おい。目覚めたか? 覚めたなら、どっかいってろ? な?」

 他の取り巻き立ちがクスクスといやらしく笑っている。
 ネクロ野郎は視線を地面に伏せる。
 それを、男はびびったと思ったのか。勝ち誇ったかのような表情を浮かべる。

 いや、浮かべられなかった。
 すかさず、ネクロ野郎の拳が鼻を潰したからだ。

「ぷげっ!!」

 男が鼻をおさえながら一歩後ろずさる。
 ネクロ野郎はそれを見て、一瞬でしゃがむ。

(しゃがんだ?)

 愛が疑問に思ったとたん、ネクロ野郎は低い低いタックルを男にかます。
 足を浮かされて、大柄だというのに男の身体があっさり地面に沈む。
 そのままマウントをとったネクロ野郎。

(あっ! ネクロさん。今石拾った!!)

 ネクロ野郎の石を握った拳が、容赦なく男の鼻を何度も叩きつけ、男が顔を両手でガードしようとすると、空いた喉を叩きつけた。

「ひゅっ。がっ! げっほげほ」

 周りの男女が慌てた様子で駆け寄って、ネクロ野郎を蹴りつけ地面に組み伏せる。

「なんなのこいつ!? あんた、殺すつもり!?」

 金髪のいかにもギャルといった風体の女がヒステリックに叫び、地面に組み伏せた男達が代わる代わるネクロ野郎を殴ったりけりつけたりするが、今度はネクロ野郎は抵抗しなかった。

(やだっ! 誰か助けてよ! ネクロさん死んじゃう!)

 愛が叫ぼうとしても、これはただの映像。
 愛の声は声にはならず、ただ頭の中を反響していくだけだ。

 しかし、やがて……。

「こらぁあああああああああ!! なにやってんだぁあああああああ! おまえらぁあああああああ!」

 いかにも体育教師といった様子の40代後半といった男が叫びながらかけよってくる。

「やべっ……」

 取り囲んでいた連中が苦虫を潰したような表情を浮かべ、しかし抗議の声をあげる。

「先生! でも、こいつがいきなり殺そうとしてきたんです! 危なかったんですよ!」

 それに対して、ネクロ野郎は冷静に言った。

「みてください。先生。僕、いじめられている子を助けようとしたんです。そしたら、こんなになるまでみんなで僕を殴ってきたんです」
「大神……ひどい怪我だな……」

(え!? ネクロさんって大神っていうんだ!!!! やった……。あれ、でも前に一回名乗ってたような? あぁ、なんで私名前覚えてないのよ!? あぁ、おかしくなってたからか……)

 ネクロ野郎の言葉を聞いて、教師が取り巻きたちを一喝する。

「お前ら、今すぐ指導室に来い!!!!!!!」

 いじめっ子たちは、教師に耳を引っ張られたり、お尻を蹴り上げられたりされながら、シブシブと言った様子でその場から去っていく。
 座り込んでいるネクロ野郎もとい、大神に千鶴に似た女の子が駆け寄っていく。

「だ、大丈夫?」
「あぁ、これくらいなんとか。痛いは痛いけど」
「ごめんね。巻き込んで」
「あぁ、いや。俺もごめん。君が助けを求めてるって気づかなかった」
「助けてくれたのは大神君が初めてよ。気にしないで」
「そう? 良かった。でも、表情は暗いね」
「うん……そうね……」
「もしかして、復讐が怖い?」

 大神の問いかけに女の子はさっと視線を横に逸らす。

「転校する?」
「そんな簡単にできないよ。お母さんの都合もあるし」
「そうだよね。ごめんね。言葉間違えたね」
「……大神君って、なんか変だね」
「変かな?」
「何かをとりつくろってるみたい」
「そう? 頑張って人間をやってるんだけどな」
「なにそれ」

 女の子はくすっと笑った。

(えぇえええ!!! なんかイメージと違うんですけどぉおおお!!!! わりと爽やかなんですけどぉおお!!!)

 愛は悶えたが、すぐに腑に落ちた。

(違う。演じているんだ。最初に聞いた彼の話からすれば、今、彼は人間に対して虫けらぐらいの感情しか抱いていないんだわ。でも、頭は悪くないから、社会に迎合する重要性はわかってる。だから、必死に演じているんだわ。普通の人間を……。見たいわ……。彼をもっと……)


 やがて、場面は暗転した。
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