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前編
第2話 鬱憤溜まった王女様 (全年齢)
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日々、狩りか戦闘訓練くらいしかしてないんじゃないかってくらい、我ながら戦闘狂だと思う我が一族。
魔王の侵攻がこんな片田舎の森にまで及んだ時、私達黒狼族は力の見せ所だ!と言わんばかりにいきり立ち、初戦はその余りある戦闘力で魔王軍を蹴散らした。
しかし、蹴散らせど蹴散らせど、新たなに送り込まれてくる魔王軍。
やがて、デッドリースライムや、リッチーなど、私たちの最大の牙である打撃力が通用しない敵が増えていき、強力な魔法による遠距離魔法で連日苦しむようになっていった。
そんな折、人間である勇者一行が、魔王軍深部にまで深く斬り進み、もうちょっとで魔王城に突入するまでになったという人間たちの伝令を聞いた。
伝令は、続けて、一緒に力を合わせて、お互いの弱点を補い合おうと言ってくれた。
自分たちの信じてきた目に見える力では、太刀打ちできないと深く思い知らされていた私達は、今まで格下として見下していた人間に、この時初めて興味を持った。
実際、連携してみると、人間たちの開発した魔法は痒いところに手が届くような、多種多様なものが取り揃えられていて、デッドリースライムをあっさり溶かしたかと思えば、リッチーからの連発される強力な魔法も、人間たちが交代交代で光の盾を出現させ、黒狼族を喉元まで連れて行ってくれたと、実際に戦った者から伝え聞いた。
接近戦なら黒狼族に敵う者はいないと今でも信じている。リッチーに十分近づいた黒狼族は、あっさりとその集団も撃滅して、森に…人間たちの町に…進行してきた魔王軍を撃退したと聞いた。
人間は皆、口々に勇者の伝説を楽しそうに語っていた。
異世界の日本という国から連れてこられた哀れな存在。
それでも、腐ることなくその力をこの世界の民のために使ってくれていること。
その驚異の戦闘力は、黒狼族のトップですら勝てるかわからないこと。
異世界の日本という、生まれてから一度も聞いたこともない国の名前、そしてこの世界以外にも世界があることに胸は高鳴り、どんな世界なのだろう?
どんな人達が暮らしているんだろう?と想像すると夜も眠れないことがよくあった。
やがて、私達が森に侵攻してきた魔王軍を撃退してから数か月くらいした秋に、伝令が息を切らしながら森にやってきてこう言った。
「魔王堕ちる!魔王消滅!魔王消滅!勇者が!勇者が倒しました!」
その伝令を聞いて沸く森中の我が一族。
人間なのに大したものだと上から目線で言う男たち、人間だからこそやれたんでしょと人間の適応力と柔軟性を認める女たち、そんな中、私は私達より遥かに弱い身体能力の人間が、異世界人とはいえ、私達がリッチーにすら辛酸をなめさせられていたのに、あっさりとその遥か上位の存在を倒した…そのことに興奮が止まらなかった。
いつか会ってみたい。
いつか話してみたい。
いつか戦ってみたい。
いつしか見たこともない勇者とばったり会って、町中を一緒に話しながら歩いたり、人間の訓練所で手合わせをしてみたりする妄想を暇なときはしていた。
そうだ!勇者と戦ってみたい!
一族は、幼い頃から、私には狩りも戦闘訓練もさせてくれない。
「お姫さまは、戦う必要はありませんから」
私を護衛も担当する傍使えは、そういって絶対に訓練に参加させてくれなかった。
私だって黒狼族だ!しかも王家の血筋だ!戦ってこそだ!
黒狼族の王族は、いつだって皆の前に立って戦う!
そう息巻いて、不意打ちばりに強いと噂の者に木刀で斬りかかってみたことはあるものの、皆私の一撃をわざとくらっては。
「痛い痛い。もう、お姫様には勝てないななぁ」
と場を濁して、どこかに去ってしまうのだ。
戦いこそが生きがいである我が一族で、この対応はひどく誇りを傷つけられた。
王族の中で、唯一の年頃の女だからだろうか?
訓練には私以外の女だって参加している!王族ではないが私より年下の私より可愛らしいぬいぐるみのような女の子ですら参加している!
なぜ、私にはやらせてくれないんだ!
しかし、泣いてわめいて、無理やり不意打ちしても、皆ばらばらに逃げてしまうだけで相手にしてくれない。
5歳の時、10歳の時、そして14歳の時に、思い出したように戦いを挑んでみるのだが皆の対応は変わらなかった。
皆、口々に。
「いやぁ。今回の姫さんの台風は凄かったですなぁ」
ととぼけてしまうのだ。
もういい。14歳のそれを最後に戦うのは諦めた。
2年前の16歳の時に、魔王軍が侵攻してきたときも、子供や老人の世話を任され森の中の城の奥深い部屋に押し込まれた。
こんなときもか!?と抗議する私に、父である王は。
「お前が最後の壁である」
そう言って、抗議に聞く耳を持たず行ってしまった。
死んだら許さないぞ!と息巻いていたが、人間たちの協力もあり、皆、ボロボロになって帰ってきたが誰一人欠けることはなかった。
人間側には何人か死者は出たようだ。
それに対して、森の戦士たちは、黙祷を捧げていた。
戦う者同士の暗黙の呼吸と、種族を超えた戦士たちの文化に憧れ、それをまざまざと見せつけられるたび、私はふてくされて私室でこっそり泣いた。
それからというものの、最高の力の持ち主である勇者と力比べをするのが、なんだか生きる希望で、やりたいことリストの最上位になったのだった。
18歳になった春に、一族は私の誕生を盛大に祝ってくれた。
黒狼族では、18歳で成人だ。
それもあって、今まで一番のお祝い、そして最後のお祝いである。この先は、私は祝われる側ではなく祝う側になる。そういうものだ。
父は、私に。
「お前には誕生祝いと成人祝いとして、強い婿を用意してやる!もうほとんど確約できている。もうしばし報を待て!」
とありがた迷惑なプレゼントを一方的に言い渡し、母は。
「あなたの青い瞳に合うように、ミーシャ達と一緒にこしらえたのよ」
と、美しい絹の青いドレスをプレゼントしてくれた。
早速青いドレスに身を包み、昨日の夜から盛大に繰り広げられた私の誕生日会は、冒頭30分程度は儀式めいたことをやっていたけれど、それを過ぎれば、私を祝ってくれているのか?と疑問に思えざるを得ないくらい、皆酔っぱらって、ぐでぐでで、それでいてもなお、酒を浴びるように飲み続けていた。
父からのありがた迷惑なプレゼントの言葉に頭が痛い思いをしながら、酔っぱらって監視の目が緩んでいることに気づくと、私は城の外へ出た。
1か月ほど前から、怪しい二人が何か儀式めいたことをやっていると噂になっていたからだ。
魔王の侵攻後、せっかく人間と交流の場を持てたというのに、一族はそれが性なのか、ほとんどの者が森の中に引きこもって、自分たちだけの文化に浸っていった。
一部の者たちは、変わらず町を行き来していたようだが、私は森の外へ出るのを許されなかった。
町から帰ってきた者たちから、人間の様子を、文化を教えてもらう。
いわく、天にまで届くのではないかというくらい噴き出す噴水があるとか、いわく、男女がそこで愛をささやき合うと永遠の愛が約束される木があるとか、いわく、多額の賞金が出る武道会がコロッシアムで近く行われるとか…。
そんな中、その二人の噂を聞いた。
一族はその二人を撃退しようか悩んだこともあるそうだが、どうも木を新たに植えようとしているだけのようだということで、静観することにしたらしい。
一体、どんな木を植えようというのか。
好奇心が抑えられくなった私は、いつか見に行ってやろうと思っていたのだ。その機会が今来た!
鬱蒼とした大森林の真ん中にある立派なお城を抜け出して、ドレスを木の枝にひっかけて破かないように、そっと気を付けながらも全力で走る。
城から目撃情報のあった地点までは、距離にすれば50㎞ほどあったが、私の足なら1時間もしないでつくだろう。
魔王軍撃退後、変わらず平和な空気のまま優しい精霊たちに溢れかえる森の中を走る。
走る。走る。走る。
息をちょっと切らしながらも、たまに後ろを振り返って、うるさい誰かがついてきていないか確認しながら、走って走る。
もう春だけれど、ちょっと肌寒く感じる風が私の黒い長い髪をさらさらと撫でていく。
ラベンダー畑があるのだろう。青臭いもわっとした森の中で、時折優しい香りが鼻をくすぐっていく。
途中、道を間違えそうになりながらも、太陽の位置を確認しながら、森の中を走り抜けていく。
もうすぐだ――!
森の木々が途切れてきた。
森の境界線である立派な杉の樹の群れから伸びる木の枝たちを、顔にあたらないようにドレスをひっかけないようにかきわけながらそっと、飛び出すと。
全身を震わすような感激が、頭のてっぺんから足の先まで走っていった。
目の前を桃色の小さな花をたくさんつけた樹がそびえたっている。
風が吹くと、その伸ばした枝をしなやかにわずかに揺らしながら、桃色の綺麗な花びらが舞い踊って、視界全てが桃色に染まる。
なんだろう。この樹は!これが世界樹だろうか!?
そう思ったのは、舞い踊る花びらの1枚1枚に精霊の、それも強力な精霊の力の残滓を感じたからだ。
世界樹の精霊イディアマモムルではないだろうか!?
興奮した私は、恥ずかしげもなく尻尾をぶんぶんと左右に揺らしながら、その樹に目が釘付けになった。
こんな綺麗な樹が…この世の中にあるなんて!
黒狼族の森の中には多種多様な植物や樹があるが、こんな樹は見たことが無い!
あまりの興奮にだろうか、自然と目が潤んでくる。
あっ、なんか泣きそう――。
そう思ったときに、人間の男がこちらに駆け寄ってくる。
自分より10㎝程高い175㎝程度の中肉中背の男。銀色の髪…後日、力の使い過ぎで色が抜けたが本当は私と同じ黒髪と聞いた…が日の光を反射させてきらきらと輝いている。
目は細いながら優し気な瞳をしていて、決して強そうに見えないながらも、何か圧を感じる独特の雰囲気の男だった。
正直言って、美しい男と言って過言は無いだろう。まぁ、人間の美醜は私には自信がないんだけどね。
その男が、とんでもないことを言う。
結婚…して…下さい?
この男は何を言っているのか。まだ今、初めて会って、今、初めて言葉を聞いたというのに。頭がおかしいのだろうか。
続けて、男は自分が勇者だったという。
私は、勇者というと非力な人間ながら魔王を倒す強さを持っているのだから、もっとこう筋肉隆々で身長も2メートルは超えていて、腕の太さは私の腰くらいあるものだと勝手に思い込んでいた。だから、最初は偽物だと思った。だって、この男はどちらかというとひ弱そうで、魔法使いと言われた方が納得できる体格だったからだ。
しかし、男の腰に携えていた剣は、一目で聖剣とわかった。
聖剣が光るまでは気にも留めなかったが、うっすら光った時に強力な魔力の波動、そしてこの者を本物の勇者であることを口々に説得してくるたくさんの精霊たちが、剣からあふれるように現れて私を取り囲んだからだ。
本物の…勇者…!
本物なら…戦ってみたい…!
だが、続けて勇者は言う。
私が好きだと。
私は全ての思考が止まった。頭が真っ白になった。
そして、気が付けば私は、聖剣デュランダルを抱えて森の中を、自分の城を目指してひた走っている。
あれ?どうしてこうなったんだっけ?
もう、よく覚えていない。
ただ、父が勝手に決めた会ったこともない婿と結婚させられるよりは、勇者と結婚した方が夢があるように思えた。
この聖剣を父に見せれば、父も納得せざるを得ないだろう。
今まで戦いからひたすら遠ざけてきた父への、ちょっとした復讐になると思うとちょっと暗い感情がわいてきてしまう。
私は、いつかは絶対結婚して、必ず子供をもうけなくてはならない。
ならば、相手が勇者で何が不足なのか?
よし、まずは父が決めた結婚をやめさせるために、勇者と結婚することにしよう。
そして、勇者と戦うのだ。
勇者が私より強ければ、勇者の妻として一生を共にしよう。
だけれども、勇者が私より弱ければ、私は旅に出よう。
勇者より強い私が、旅に出て一体何の心配があるというのだろうか。
そして、旅先で自分より強い相手が見つかったら、その者と結婚してその地で生涯を終えよう。
なんだか、だんだんと楽しくなってきて、私はこれまで見せたこともないであろう笑顔を顔に張り付かせながら、城に戻った。
城に着くと、そのまま王の私室へ行き、酔っぱらいながらベッドで側室に乗っかっている父に聖剣を叩きつける。
目をぱちくりさせて似合わない顎髭を撫でながら、側室からどいてこちらに間抜け顔を晒す父にこう言ってやった。
「私、勇者様と結婚します」
城中の者が酔いを覚まして、大騒ぎした。
魔王の侵攻がこんな片田舎の森にまで及んだ時、私達黒狼族は力の見せ所だ!と言わんばかりにいきり立ち、初戦はその余りある戦闘力で魔王軍を蹴散らした。
しかし、蹴散らせど蹴散らせど、新たなに送り込まれてくる魔王軍。
やがて、デッドリースライムや、リッチーなど、私たちの最大の牙である打撃力が通用しない敵が増えていき、強力な魔法による遠距離魔法で連日苦しむようになっていった。
そんな折、人間である勇者一行が、魔王軍深部にまで深く斬り進み、もうちょっとで魔王城に突入するまでになったという人間たちの伝令を聞いた。
伝令は、続けて、一緒に力を合わせて、お互いの弱点を補い合おうと言ってくれた。
自分たちの信じてきた目に見える力では、太刀打ちできないと深く思い知らされていた私達は、今まで格下として見下していた人間に、この時初めて興味を持った。
実際、連携してみると、人間たちの開発した魔法は痒いところに手が届くような、多種多様なものが取り揃えられていて、デッドリースライムをあっさり溶かしたかと思えば、リッチーからの連発される強力な魔法も、人間たちが交代交代で光の盾を出現させ、黒狼族を喉元まで連れて行ってくれたと、実際に戦った者から伝え聞いた。
接近戦なら黒狼族に敵う者はいないと今でも信じている。リッチーに十分近づいた黒狼族は、あっさりとその集団も撃滅して、森に…人間たちの町に…進行してきた魔王軍を撃退したと聞いた。
人間は皆、口々に勇者の伝説を楽しそうに語っていた。
異世界の日本という国から連れてこられた哀れな存在。
それでも、腐ることなくその力をこの世界の民のために使ってくれていること。
その驚異の戦闘力は、黒狼族のトップですら勝てるかわからないこと。
異世界の日本という、生まれてから一度も聞いたこともない国の名前、そしてこの世界以外にも世界があることに胸は高鳴り、どんな世界なのだろう?
どんな人達が暮らしているんだろう?と想像すると夜も眠れないことがよくあった。
やがて、私達が森に侵攻してきた魔王軍を撃退してから数か月くらいした秋に、伝令が息を切らしながら森にやってきてこう言った。
「魔王堕ちる!魔王消滅!魔王消滅!勇者が!勇者が倒しました!」
その伝令を聞いて沸く森中の我が一族。
人間なのに大したものだと上から目線で言う男たち、人間だからこそやれたんでしょと人間の適応力と柔軟性を認める女たち、そんな中、私は私達より遥かに弱い身体能力の人間が、異世界人とはいえ、私達がリッチーにすら辛酸をなめさせられていたのに、あっさりとその遥か上位の存在を倒した…そのことに興奮が止まらなかった。
いつか会ってみたい。
いつか話してみたい。
いつか戦ってみたい。
いつしか見たこともない勇者とばったり会って、町中を一緒に話しながら歩いたり、人間の訓練所で手合わせをしてみたりする妄想を暇なときはしていた。
そうだ!勇者と戦ってみたい!
一族は、幼い頃から、私には狩りも戦闘訓練もさせてくれない。
「お姫さまは、戦う必要はありませんから」
私を護衛も担当する傍使えは、そういって絶対に訓練に参加させてくれなかった。
私だって黒狼族だ!しかも王家の血筋だ!戦ってこそだ!
黒狼族の王族は、いつだって皆の前に立って戦う!
そう息巻いて、不意打ちばりに強いと噂の者に木刀で斬りかかってみたことはあるものの、皆私の一撃をわざとくらっては。
「痛い痛い。もう、お姫様には勝てないななぁ」
と場を濁して、どこかに去ってしまうのだ。
戦いこそが生きがいである我が一族で、この対応はひどく誇りを傷つけられた。
王族の中で、唯一の年頃の女だからだろうか?
訓練には私以外の女だって参加している!王族ではないが私より年下の私より可愛らしいぬいぐるみのような女の子ですら参加している!
なぜ、私にはやらせてくれないんだ!
しかし、泣いてわめいて、無理やり不意打ちしても、皆ばらばらに逃げてしまうだけで相手にしてくれない。
5歳の時、10歳の時、そして14歳の時に、思い出したように戦いを挑んでみるのだが皆の対応は変わらなかった。
皆、口々に。
「いやぁ。今回の姫さんの台風は凄かったですなぁ」
ととぼけてしまうのだ。
もういい。14歳のそれを最後に戦うのは諦めた。
2年前の16歳の時に、魔王軍が侵攻してきたときも、子供や老人の世話を任され森の中の城の奥深い部屋に押し込まれた。
こんなときもか!?と抗議する私に、父である王は。
「お前が最後の壁である」
そう言って、抗議に聞く耳を持たず行ってしまった。
死んだら許さないぞ!と息巻いていたが、人間たちの協力もあり、皆、ボロボロになって帰ってきたが誰一人欠けることはなかった。
人間側には何人か死者は出たようだ。
それに対して、森の戦士たちは、黙祷を捧げていた。
戦う者同士の暗黙の呼吸と、種族を超えた戦士たちの文化に憧れ、それをまざまざと見せつけられるたび、私はふてくされて私室でこっそり泣いた。
それからというものの、最高の力の持ち主である勇者と力比べをするのが、なんだか生きる希望で、やりたいことリストの最上位になったのだった。
18歳になった春に、一族は私の誕生を盛大に祝ってくれた。
黒狼族では、18歳で成人だ。
それもあって、今まで一番のお祝い、そして最後のお祝いである。この先は、私は祝われる側ではなく祝う側になる。そういうものだ。
父は、私に。
「お前には誕生祝いと成人祝いとして、強い婿を用意してやる!もうほとんど確約できている。もうしばし報を待て!」
とありがた迷惑なプレゼントを一方的に言い渡し、母は。
「あなたの青い瞳に合うように、ミーシャ達と一緒にこしらえたのよ」
と、美しい絹の青いドレスをプレゼントしてくれた。
早速青いドレスに身を包み、昨日の夜から盛大に繰り広げられた私の誕生日会は、冒頭30分程度は儀式めいたことをやっていたけれど、それを過ぎれば、私を祝ってくれているのか?と疑問に思えざるを得ないくらい、皆酔っぱらって、ぐでぐでで、それでいてもなお、酒を浴びるように飲み続けていた。
父からのありがた迷惑なプレゼントの言葉に頭が痛い思いをしながら、酔っぱらって監視の目が緩んでいることに気づくと、私は城の外へ出た。
1か月ほど前から、怪しい二人が何か儀式めいたことをやっていると噂になっていたからだ。
魔王の侵攻後、せっかく人間と交流の場を持てたというのに、一族はそれが性なのか、ほとんどの者が森の中に引きこもって、自分たちだけの文化に浸っていった。
一部の者たちは、変わらず町を行き来していたようだが、私は森の外へ出るのを許されなかった。
町から帰ってきた者たちから、人間の様子を、文化を教えてもらう。
いわく、天にまで届くのではないかというくらい噴き出す噴水があるとか、いわく、男女がそこで愛をささやき合うと永遠の愛が約束される木があるとか、いわく、多額の賞金が出る武道会がコロッシアムで近く行われるとか…。
そんな中、その二人の噂を聞いた。
一族はその二人を撃退しようか悩んだこともあるそうだが、どうも木を新たに植えようとしているだけのようだということで、静観することにしたらしい。
一体、どんな木を植えようというのか。
好奇心が抑えられくなった私は、いつか見に行ってやろうと思っていたのだ。その機会が今来た!
鬱蒼とした大森林の真ん中にある立派なお城を抜け出して、ドレスを木の枝にひっかけて破かないように、そっと気を付けながらも全力で走る。
城から目撃情報のあった地点までは、距離にすれば50㎞ほどあったが、私の足なら1時間もしないでつくだろう。
魔王軍撃退後、変わらず平和な空気のまま優しい精霊たちに溢れかえる森の中を走る。
走る。走る。走る。
息をちょっと切らしながらも、たまに後ろを振り返って、うるさい誰かがついてきていないか確認しながら、走って走る。
もう春だけれど、ちょっと肌寒く感じる風が私の黒い長い髪をさらさらと撫でていく。
ラベンダー畑があるのだろう。青臭いもわっとした森の中で、時折優しい香りが鼻をくすぐっていく。
途中、道を間違えそうになりながらも、太陽の位置を確認しながら、森の中を走り抜けていく。
もうすぐだ――!
森の木々が途切れてきた。
森の境界線である立派な杉の樹の群れから伸びる木の枝たちを、顔にあたらないようにドレスをひっかけないようにかきわけながらそっと、飛び出すと。
全身を震わすような感激が、頭のてっぺんから足の先まで走っていった。
目の前を桃色の小さな花をたくさんつけた樹がそびえたっている。
風が吹くと、その伸ばした枝をしなやかにわずかに揺らしながら、桃色の綺麗な花びらが舞い踊って、視界全てが桃色に染まる。
なんだろう。この樹は!これが世界樹だろうか!?
そう思ったのは、舞い踊る花びらの1枚1枚に精霊の、それも強力な精霊の力の残滓を感じたからだ。
世界樹の精霊イディアマモムルではないだろうか!?
興奮した私は、恥ずかしげもなく尻尾をぶんぶんと左右に揺らしながら、その樹に目が釘付けになった。
こんな綺麗な樹が…この世の中にあるなんて!
黒狼族の森の中には多種多様な植物や樹があるが、こんな樹は見たことが無い!
あまりの興奮にだろうか、自然と目が潤んでくる。
あっ、なんか泣きそう――。
そう思ったときに、人間の男がこちらに駆け寄ってくる。
自分より10㎝程高い175㎝程度の中肉中背の男。銀色の髪…後日、力の使い過ぎで色が抜けたが本当は私と同じ黒髪と聞いた…が日の光を反射させてきらきらと輝いている。
目は細いながら優し気な瞳をしていて、決して強そうに見えないながらも、何か圧を感じる独特の雰囲気の男だった。
正直言って、美しい男と言って過言は無いだろう。まぁ、人間の美醜は私には自信がないんだけどね。
その男が、とんでもないことを言う。
結婚…して…下さい?
この男は何を言っているのか。まだ今、初めて会って、今、初めて言葉を聞いたというのに。頭がおかしいのだろうか。
続けて、男は自分が勇者だったという。
私は、勇者というと非力な人間ながら魔王を倒す強さを持っているのだから、もっとこう筋肉隆々で身長も2メートルは超えていて、腕の太さは私の腰くらいあるものだと勝手に思い込んでいた。だから、最初は偽物だと思った。だって、この男はどちらかというとひ弱そうで、魔法使いと言われた方が納得できる体格だったからだ。
しかし、男の腰に携えていた剣は、一目で聖剣とわかった。
聖剣が光るまでは気にも留めなかったが、うっすら光った時に強力な魔力の波動、そしてこの者を本物の勇者であることを口々に説得してくるたくさんの精霊たちが、剣からあふれるように現れて私を取り囲んだからだ。
本物の…勇者…!
本物なら…戦ってみたい…!
だが、続けて勇者は言う。
私が好きだと。
私は全ての思考が止まった。頭が真っ白になった。
そして、気が付けば私は、聖剣デュランダルを抱えて森の中を、自分の城を目指してひた走っている。
あれ?どうしてこうなったんだっけ?
もう、よく覚えていない。
ただ、父が勝手に決めた会ったこともない婿と結婚させられるよりは、勇者と結婚した方が夢があるように思えた。
この聖剣を父に見せれば、父も納得せざるを得ないだろう。
今まで戦いからひたすら遠ざけてきた父への、ちょっとした復讐になると思うとちょっと暗い感情がわいてきてしまう。
私は、いつかは絶対結婚して、必ず子供をもうけなくてはならない。
ならば、相手が勇者で何が不足なのか?
よし、まずは父が決めた結婚をやめさせるために、勇者と結婚することにしよう。
そして、勇者と戦うのだ。
勇者が私より強ければ、勇者の妻として一生を共にしよう。
だけれども、勇者が私より弱ければ、私は旅に出よう。
勇者より強い私が、旅に出て一体何の心配があるというのだろうか。
そして、旅先で自分より強い相手が見つかったら、その者と結婚してその地で生涯を終えよう。
なんだか、だんだんと楽しくなってきて、私はこれまで見せたこともないであろう笑顔を顔に張り付かせながら、城に戻った。
城に着くと、そのまま王の私室へ行き、酔っぱらいながらベッドで側室に乗っかっている父に聖剣を叩きつける。
目をぱちくりさせて似合わない顎髭を撫でながら、側室からどいてこちらに間抜け顔を晒す父にこう言ってやった。
「私、勇者様と結婚します」
城中の者が酔いを覚まして、大騒ぎした。
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