1 / 144
出会い編
プロローグ
しおりを挟む
ここは、ゼフィラス国の北にある国境の砦。
中央には閉じられた大きな門があり、その両脇にある中くらいの門が先ほどより開けられて、我らは順番に通行税なるものを支払い左側の門をくぐる。
砦の外の広場では、門より出てきた人々と入国しようとする人々でごった返していた。
「なあ、もう国に帰ろうではないか。我はもう帰りたい」
前を歩く赤髪の男に、ちょっと言ってみた。だめもとで言ってみた。
「はあ!?」
竜王である我にこんな無礼な口をきくのは、今回の花嫁探しの旅において従者を務めることになったディーン。
「何を言ってるんですかねぇ。まだ、国を出て三月ですよ? 俺は宰相様から、花嫁を見つけるまで戻って来るなと強く申し付けられているんです。俺の意地にかけても帰れませんよ」
人間で言えば二十歳前後の一見明るく爽やかに見える赤毛の好青年であるが、なかなかに手強い奴である。
「最低でもこの花嫁候補リストに載っている方々を見て回ってからでないと戻れませんね」
我の言は一蹴された。
「いいですか、宰相様からいただいた花嫁候補リストのうち、まだ半分も回れていないんですよ?! アルベルト様がぐずぐず言ってなかなか動かないからです。だいたいアルベルト様には、見つけようという気概が足りません! それでは見つかるものも見つかりませんよっ」
おまけに小言までもらってしまった。
「そうは言うけど、我には今の若い令嬢と何を話せば良いのかさっぱりわからんし、どうやって機嫌をとったら良いものなのかもわからんのだ」
というか我には令嬢達が何を話しているのかすらわからんのだ。
先日参加したとある貴族のパーティでの事を思い出す。
花嫁候補リストに載っている魔力が高いと評判のご令嬢が参加すると聞いて、我とディーンはそのパーティに潜り込んだ。
その令嬢はすぐにわかった。
確かに魔力保有量は多いようだ。
竜族の番いとなる人間の女の条件として、魔力が必須であることは分かっている。
それゆえ、宰相のエルランドは、魔力が高いと評判の令嬢を集めた花嫁候補リストなるものをわざわざ作って、我に押し付けたのだ。
優秀な魔法使いを多数輩出している家柄で、両親ともに魔法使いらしいが、我にはひと目見れば番いでないことくらい分かる。
美しい令嬢ではあるが、心は動かない。
同じくらいの年齢の少女達と楽しそうに談笑している。
番いでないことは分かったから我が帰ろうとすると、ディーンが練習ですよと言って我を令嬢たちのもとへと連れて行った。我を若い令嬢に慣れさせるつもりか。
「お嬢さん方、随分賑やかですけど、お話の仲間に加えていただいても?」
ディーンが人懐っこい明るい笑顔を浮かべて話しかける。
「何のお話をされていたのです?」
「こちらのアメリアが、先日求婚されたのですけど・・・」
件の令嬢が答える。
「私はなしよりのありだと思うわよ?」
別の令嬢がアメリアという令嬢に言う。
「そうかしら。私はありよりのなしだと思うけど」
すると今度はそれに反論するように、また別の令嬢がアメリアに言う。
なしよりのあり? ありよりのなし?
梨よりの蟻? 蟻よりの梨?
「ううん、やっぱりなしよりのなしよ」
「私も、なしよりのなしね。アメリアの相手としては、少しお年を召し過ぎていらっしゃると思うの」
梨よりの梨とは一体なんなのだ?!?!?!
「求婚者はお年寄りなのかい?」
「ええ、そうなのです。ただ、その方の家格は伯爵家で、財力もあるので悩みどころではあるのですが。でも、アメリアには、NHKされて恋に落ち、イケボでKSKと言われるのも間近の好きピがいるんですの。ただ、最近は手紙を書いても亀レスで、アメリアはもう飽きられてしまったのではと、さげぽよなのですわ。そこに求婚者が現れて、もうその方の求婚をお受けしようかしらなんて言うものですから。私はワンチャン賭けるべきだと思っているのですけど」
「そうよ、アメリア。今度のパーティーに誘って、来るかどうかはハンチャンだけど、来たらカクチャンゲット出来るように、胸元の開いたドレスで行くのよ。諦めるのは早いわ」
「そうね、それがいいわ」
「ありがとう。私、頑張ってみる」
「「「いいのよ、私たちBFFじゃない!うふふ」」」
「アメリアさん、良かったですね。僕たちもこうして旅をして、運命の相手を捜しているんです」
「「「「きゃー、素敵ですわ」」」」
「そうだ、ちなみに僕たちって若い令嬢にウケるのかな? 僕やアルベルト様はあり?それともなし?」
「「「「お二人ならありよりのありですわ」」」」
「そう? アルベルト様、良かったですね!僕たちありよりのありですって」
・・・・・・
五人は楽しそうに会話をしていたけれど、途中からついて行けなくなった我の頭では、両脇に陣を構える蟻軍と梨軍が、仲間の蟻と梨に、お前は蟻寄りだ梨寄りだと号令をかけている図までしか思い浮かばなかった。
中央には閉じられた大きな門があり、その両脇にある中くらいの門が先ほどより開けられて、我らは順番に通行税なるものを支払い左側の門をくぐる。
砦の外の広場では、門より出てきた人々と入国しようとする人々でごった返していた。
「なあ、もう国に帰ろうではないか。我はもう帰りたい」
前を歩く赤髪の男に、ちょっと言ってみた。だめもとで言ってみた。
「はあ!?」
竜王である我にこんな無礼な口をきくのは、今回の花嫁探しの旅において従者を務めることになったディーン。
「何を言ってるんですかねぇ。まだ、国を出て三月ですよ? 俺は宰相様から、花嫁を見つけるまで戻って来るなと強く申し付けられているんです。俺の意地にかけても帰れませんよ」
人間で言えば二十歳前後の一見明るく爽やかに見える赤毛の好青年であるが、なかなかに手強い奴である。
「最低でもこの花嫁候補リストに載っている方々を見て回ってからでないと戻れませんね」
我の言は一蹴された。
「いいですか、宰相様からいただいた花嫁候補リストのうち、まだ半分も回れていないんですよ?! アルベルト様がぐずぐず言ってなかなか動かないからです。だいたいアルベルト様には、見つけようという気概が足りません! それでは見つかるものも見つかりませんよっ」
おまけに小言までもらってしまった。
「そうは言うけど、我には今の若い令嬢と何を話せば良いのかさっぱりわからんし、どうやって機嫌をとったら良いものなのかもわからんのだ」
というか我には令嬢達が何を話しているのかすらわからんのだ。
先日参加したとある貴族のパーティでの事を思い出す。
花嫁候補リストに載っている魔力が高いと評判のご令嬢が参加すると聞いて、我とディーンはそのパーティに潜り込んだ。
その令嬢はすぐにわかった。
確かに魔力保有量は多いようだ。
竜族の番いとなる人間の女の条件として、魔力が必須であることは分かっている。
それゆえ、宰相のエルランドは、魔力が高いと評判の令嬢を集めた花嫁候補リストなるものをわざわざ作って、我に押し付けたのだ。
優秀な魔法使いを多数輩出している家柄で、両親ともに魔法使いらしいが、我にはひと目見れば番いでないことくらい分かる。
美しい令嬢ではあるが、心は動かない。
同じくらいの年齢の少女達と楽しそうに談笑している。
番いでないことは分かったから我が帰ろうとすると、ディーンが練習ですよと言って我を令嬢たちのもとへと連れて行った。我を若い令嬢に慣れさせるつもりか。
「お嬢さん方、随分賑やかですけど、お話の仲間に加えていただいても?」
ディーンが人懐っこい明るい笑顔を浮かべて話しかける。
「何のお話をされていたのです?」
「こちらのアメリアが、先日求婚されたのですけど・・・」
件の令嬢が答える。
「私はなしよりのありだと思うわよ?」
別の令嬢がアメリアという令嬢に言う。
「そうかしら。私はありよりのなしだと思うけど」
すると今度はそれに反論するように、また別の令嬢がアメリアに言う。
なしよりのあり? ありよりのなし?
梨よりの蟻? 蟻よりの梨?
「ううん、やっぱりなしよりのなしよ」
「私も、なしよりのなしね。アメリアの相手としては、少しお年を召し過ぎていらっしゃると思うの」
梨よりの梨とは一体なんなのだ?!?!?!
「求婚者はお年寄りなのかい?」
「ええ、そうなのです。ただ、その方の家格は伯爵家で、財力もあるので悩みどころではあるのですが。でも、アメリアには、NHKされて恋に落ち、イケボでKSKと言われるのも間近の好きピがいるんですの。ただ、最近は手紙を書いても亀レスで、アメリアはもう飽きられてしまったのではと、さげぽよなのですわ。そこに求婚者が現れて、もうその方の求婚をお受けしようかしらなんて言うものですから。私はワンチャン賭けるべきだと思っているのですけど」
「そうよ、アメリア。今度のパーティーに誘って、来るかどうかはハンチャンだけど、来たらカクチャンゲット出来るように、胸元の開いたドレスで行くのよ。諦めるのは早いわ」
「そうね、それがいいわ」
「ありがとう。私、頑張ってみる」
「「「いいのよ、私たちBFFじゃない!うふふ」」」
「アメリアさん、良かったですね。僕たちもこうして旅をして、運命の相手を捜しているんです」
「「「「きゃー、素敵ですわ」」」」
「そうだ、ちなみに僕たちって若い令嬢にウケるのかな? 僕やアルベルト様はあり?それともなし?」
「「「「お二人ならありよりのありですわ」」」」
「そう? アルベルト様、良かったですね!僕たちありよりのありですって」
・・・・・・
五人は楽しそうに会話をしていたけれど、途中からついて行けなくなった我の頭では、両脇に陣を構える蟻軍と梨軍が、仲間の蟻と梨に、お前は蟻寄りだ梨寄りだと号令をかけている図までしか思い浮かばなかった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる