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出会い編

ローリーは守銭奴?

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 ローリーに促されてディーンは金貨五枚を壺に投入した。
 
 ローリーは壺を収納魔法で元の場所に戻すと、言った。

「あっ、そうだ。道案内は責任を持ってするから、おじさん達もちゃんとオレの言うことを聞いてくれよ」

「おじさんじゃない。アルだ」

「あっ、えーと、アルさん?」

「アルだ」

「うっ、分かった。じゃあ、アルとディ、ディーン?、道中はオレの指示に従ってくれ。それから要望があれば言ってくれ。できる限り応える。じゃあ、出発するよ。準備はもういい?  もし、足りない物があれば、あそこで買っていくといいよ」

 そう言って中央のテントを指さす。

「いや、いいよ。大丈夫だ」

 ディーンが答えた。

「じゃあ、行こう。今日は一番近い休憩所の大岩の草原まで行くよ。さっきの大商隊に場所を占領される前に着かないと」

 ローリーはそう言って先導するように歩き始めた。

 疎らに生えていた木が林となり、奥へ進んで行くにしたがって、鬱蒼と繁る森へと形相を変化させていく。
 だが、意外にも道は荷馬車が一台通れるほどには十分広く、また整備もされていた。
 そして道も一本ではなく、脇へと延びる獣道や別れ道もあって、思ったより複雑だった。

 北へ行く一本道に、立派な広さのある道が右側に延びているのが見える。

「レノルドへ行く道の他にこんな道ができているぞ。おい、これは一体どこに向かってるんだ?」

 ディーンが聞いた。
 前を行くローリーが振り返って、肩を竦めて答える。

「東のスタン国へ行くための道さ。魔物に襲われる危険を犯してでも、この大森林地帯を通って運びたい物があるみたいだね。国の真ん中を走る安全な街道があるっていうのにさ、おかしな話だよね、ま、オレには関係ないけど?」


 
 ここで、昼にしよう。
 ローリーはそう言って、自分用のパンと干し肉を取り出し食べ始める。

「軽く口に入れられる食物は持ってる? もし、無ければ用意するけど?」

「いや、大丈夫だ。あ、でも水が足りなくなりそうだな。水を革袋二袋分くれ」

「いいよ。じゃあ、まずこれに銅貨八枚入れて」

 ローリーは例の壺を取り出すとディーンに差し出した。
 ディーンは金が入った小袋を取り出すと、手を突っ込んで銅貨を八枚探し出す。

「分かったよ。ほらよ。入れたぞ」

 ローリーは革袋二つを受けとると呪文を唱え、水でいっぱいにする。

 それから簡単な軽食をとり、先を急ぐために近道であるという脇道に入った。
 ローリーによると、通常第一日目の夜は皆、大岩の草原と呼ばれる休憩所で休むらしい。
 だから皆より早く着いて良い場所を陣取らないといけないそうだ。
 この商人と魔法使いが切り開いた道には、いくつもの休憩所と呼ばれる強固な結界が簡単に張れる場所がある。
 夜就寝中に魔物に襲われないように、そこには結界の術式を組み込んだ魔石が設置されているらしく、魔力を注入するだけで簡単に結界が張れるとのことだった。

 ローリーは、若い大人の男二人だから体力的に問題はないだろうと、獣道をどんどん進んで行く。

 少しすると、今まで平らだった道のりに傾斜が出はじめ、周囲は山深さを増して行った。
 ローリーは、道すがら風魔法で山鳩やキジを仕留めたり、野草を摘んだりしていた。
 小休止を挟みながら草深い脇道をひたすら歩き、抜けたと思ったら前方に大きな岩が見えた。
 
 呼び名の通り草原の中央には大きな岩があり、ローリーはよじ登ると、その上に据え付けられた魔石に魔力を注いでいく。
 術式が作動し、結界が魔石を中心にドーム状に張られていくのを感じた。
 
 なかなか降りてこないローリーに焦れて、我は声をかける。

「どうした? もう結界は張れたのではないか?」

「うん。でも、まだ魔石の魔力が満タンになってないから」

「そんなのお前だけで一杯にする必要はないんじゃねーの? あの大商隊には魔法使いの一人や二人、随行してるだろ? そいつらにも充填して貰えばいい」

 ディーンが言うと、ローリーはふふんと笑って小馬鹿にしたように返す。

「これも処世術ってやつ? 大人なのに、分かってないなぁ」

「はあ!? 何だとコラ、やるか?」

「まあ、まあ、黙って見ててよ。これでよしっと」

 ローリーはスルスルと岩から降りると、大岩のたもとで火を起こし、大鍋をかける。
 そして途中で捕った山鳩とキジを捌く為に、草原から出て山中へ移動する。
 我はローリーの後をついて回って、ローリーがすることをじっと眺めていた。

 戻って来ると大鍋にぶつ切りにした山鳩を投入し、キジを串に刺していく。
 その様子を見ていた我に、ローリーがチラリと視線を向け、敷物と雨よけはいるかと聞くから、ああと頷いた。
 収納魔法で出してきたそれらを敷いたり、張ったりするのを手伝って、夕食となった。

「で、夕食はこれを食べるの? それとも自分達で用意したものにするの?」
 ローリーが我とディーンと両方に視線を向けて聞く。
 これと指さしたのは、先ほどから準備していた山鳩のスープとキジの串焼きである。
 我は当然食べるつもりで、なぜそんなことを聞くのかととても不思議に思ったけれど、とりあえず答えた。

「これを食すつもりだ」

「ディーンも?」

「ディーンもだ」
 
 我は答えた。
 
 ローリーはニッコリ笑って、壺を差し出す。

「じゃあ敷物と雨よけと夕食が二人分で、しめて銀貨二枚と銅貨八枚」

「はあ?! 何だよ、夕食代は分かるけど、その敷物と雨よけってのは! 俺は聞いてないぞ。勝手にするんじゃねぇ!」

 ディーンが脇から割り込む。

「人聞き悪いな。アルにちゃんといるかって聞いたよ? アルが・・・がいるって言った!」

 ローリーが我の名前の部分を強調して言う。

「む、う」
 ディーンが我を見て黙り込むと、ローリーはふふんと勝ち誇ったように壺の投入口を指さし、料金を入れろと促す。

「くっ、仕方がない。よし、じゃあ、銀貨三枚入れるから、銅貨二枚、釣りを寄こせ」

 ディーンは銀貨を投入する。

「釣りは無いよ」

「はあ?!」

「言ったよね? これは割らなきゃ中身は出せないんだよ」
「それは聞いた。でも釣りくらい別に用意しとくもんだろう?」
「何で? そんなこと誰が決めたんだよ。オレはちっとも用意する必要性を感じないけど?」

 嫌なら、これからは食わなきゃいいんじゃない?と言って鼻歌交じりにスープをよそっていく。

「お、お前、確信犯か! 確信犯だな! 確信犯なんだろう?!」

 ディーンが愕然として叫ぶ。

「あっ、もう一つ言い忘れたけど、おかわりは一杯までだよ。それ以上は追加料金が発生するからね。それから、もしお酒が飲みたいなら言って? コップ一杯銅貨四枚で出すよ。デザートに焼き菓子はどうかな? 甘い物は疲れがとれるっていうし。これは一枚につき銅貨二枚なんだけど。疲れがとれるって言えば、ビタミン豊富な果物ってのもいいかもね。オレ今、ちょうど珍しい果物の王様って言われてるトリアンを持ってるんだ。これはさすがに高価だから銀貨一枚するけど、オススメだよ。それから・・・・・・」


「もう、どうとでもしてくれ」

 ディーンが小さな声で、呟くのが聞こえた。





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