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恋人編
月夜のデート1
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「ローリー」
「んー?」
誰かがわたしを呼んでる気がする。
「ローリー、ローリー」
しつこい呼び声に、仕方なくゆっくり瞼を開けると、ベッド脇にアルがいた。
普通の令嬢ならいろんな意味で大声を上げるところだけど、わたしはあいにく普通の令嬢じゃないし、真夜中の訪問もアルだから、驚きはしない。
「アル? もう、何なの、こんな夜更けに」
目を擦りながら身を起こして、文句を言った。
驚きはしないが、安眠を邪魔されて不愉快ではある。
「今宵は、美しい月夜ゆえ、そなたと出掛けたくなったのだ」
アルはそう言って、まだ寝ぼけているわたしを強引にベッドから引っ張り出し、ガウンを着せると早くおぶされと背中を向けた。
ええー、今から? このままで?
おじいちゃんのアルは、大抵のおじいちゃんがそうであるように、普段はわたしの言いなりで、何でもニコニコと言うことを聞いてくれる。
でも、大抵のおじいちゃんがそうであるように、自分がこうだ!と決めたら周りが何と言おうと主張を引っ込めたりはしない。
なぜなら、アルは六百年も生きてるおじいちゃんの中のおじいちゃんだからね!
頑固じじいっていうのは、おじいちゃんの定番でしょ?
だから、こんな真夜中に女の子を連れ出すなんて非常識よと言ったところで、聞く耳を持っているはずがない。
耳は遠くないけど、聞きたくない事は聞こえないっていう便利な耳をしている。
これまた、おじいちゃんの定番の特技よね?
はっきり言って、今からお出掛けなんて面倒くさくて、勘弁して欲しい。
正直このままもう一度暖かいお布団に潜り込んで眠りたい。
でも、ここで無視したりすると、アルは怒ったりはしないけど、きっといじけて拗ねるに決まってる。
アルの背中から暖かいベッドへ、またアルの背中へと、視線を交互に動かしながら、う~ん、と考える事しばし。
わたしは出掛ける面倒と拗ねた後のご機嫌をとる面倒を天秤にかけて、最終的に出掛ける面倒をとった。
結局は、アルの気持ちを大事にしてあげたくなったから。
アルのキテレツな行動は今更だし、しょうがない。
付き合ってあげるかと、何も考えず言われた通り、もぞもぞと背中によじ登った。
「では、行くぞ」
背中によじ登って首にしがみつくと同時に、わたしは浮遊感に見舞われた。
え? 転移? ちょっと待って! 手が、手が離れちゃう! 突然の事で、何が起こったのか寝起きの頭は働かず、ただ目を瞑って悲鳴を上げるしか出来ない。
アルから引き離され、どこかに投げ出されたように感じた。
「こ、こわかったぁ」
『ローリー、大丈夫か?』
アルの気遣うような声に安堵して、声の主を探した両目が捉えたそこは空の上で、わたしは飛んでいた。
「え? なんで?」
滅多に動揺しないわたしだけど、寝起きで空に放り出されたら、驚いてパニックになっても仕方がないと思う。
ぎゃーっと再び悲鳴を上げ、しがみつくところを探したが、わたしが座り込んでいるそこは平らで、仕方なく黒い絨毯にへばり付いた。
「お、お、おちるー」
情けない声が漏れ出てしまう。
『はははっ、ローリー、大丈夫だ。落ちはせぬ』
ひぃひぃ言ってしがみついていると、アルの笑い声が聞こえる。
ん? よく考えてみれば、それもそうよね。
そうよ、アルと一緒にいて危険なわけがない。
過保護なアルがわたしを危険な状況に晒すなんて、考えられないもん。
アルの声を聞いて、だんだん落ち着いてきた。
まずは状況確認するべく、ゆっくりと慎重に頭だけを上げてみる。
でも、やっぱり目の前に広がっているのは夜空で、飛んでいることに変わりは無かった。
ただ、落ち着いて、もちろんへばりついたまま、視線だけ動かして観察していれば、真っ暗じゃないどころかすごく明るくて周りがよく見える。
わたしは、大きい絨毯のようなアルの、竜の背に乗ってゆっくり王都の空を旋回していた。
「嘘でしょ。驚いた。わたし、アルに乗って空を飛んでるの?」
『そうだ、驚いたか? くくっ、我ばかりそなたに翻弄されるのは、不公平であろう? たまには仕返ししてやろうと思ったのだ』
アルはサプライズのいたずらが成功したと嬉しそうで、多分笑っているんだと思う。
耳からは竜のぐるるるるという唸り声しか聞こえないけど。
落ちないかとこわごわアルの鱗の背にへばり付いて乗っていたわたしだったけど、しばらくして慣れてくると余裕も出始め、キョロキョロと辺りを見回せるようになった。
昼間のように明るいと思ったのは、大きな満月から青白い光が煌々と降り注がれているためで、真下には翼を広げたアルの大きな影が見える。
そうだ、王宮には夜警のための兵士が何人もいる。
「アル、こんな明るい月夜に竜の姿で飛んで大丈夫なの? 誰かに見られたりしたら、」
『結界を張ってるから大丈夫だ。それより、我の背の乗り心地はどうだ?』
アルの背に乗って飛んでいるというのに、不思議なくらい風をほとんど感じないし、揺れたりもしない。
「すごくいいわ! 落っこちることも無さそう」
『ははっ、我がそなたを落とすわけがなかろう?』
アルは飛んでいる状態にわたしが慣れたの感じとると、高度をぐんぐん上げていく。
そして、わたしはと言うと、すっかり目も覚めて、前に大きく広がる空と広大な景色に目を奪われ興奮していた。
「すごい! わたし、竜に乗って空を飛んでる!」
そして、月の光に照らされた美しい幻想的な別世界での飛行を、アルと二人で心ゆくまで楽しんだのだった。
「んー?」
誰かがわたしを呼んでる気がする。
「ローリー、ローリー」
しつこい呼び声に、仕方なくゆっくり瞼を開けると、ベッド脇にアルがいた。
普通の令嬢ならいろんな意味で大声を上げるところだけど、わたしはあいにく普通の令嬢じゃないし、真夜中の訪問もアルだから、驚きはしない。
「アル? もう、何なの、こんな夜更けに」
目を擦りながら身を起こして、文句を言った。
驚きはしないが、安眠を邪魔されて不愉快ではある。
「今宵は、美しい月夜ゆえ、そなたと出掛けたくなったのだ」
アルはそう言って、まだ寝ぼけているわたしを強引にベッドから引っ張り出し、ガウンを着せると早くおぶされと背中を向けた。
ええー、今から? このままで?
おじいちゃんのアルは、大抵のおじいちゃんがそうであるように、普段はわたしの言いなりで、何でもニコニコと言うことを聞いてくれる。
でも、大抵のおじいちゃんがそうであるように、自分がこうだ!と決めたら周りが何と言おうと主張を引っ込めたりはしない。
なぜなら、アルは六百年も生きてるおじいちゃんの中のおじいちゃんだからね!
頑固じじいっていうのは、おじいちゃんの定番でしょ?
だから、こんな真夜中に女の子を連れ出すなんて非常識よと言ったところで、聞く耳を持っているはずがない。
耳は遠くないけど、聞きたくない事は聞こえないっていう便利な耳をしている。
これまた、おじいちゃんの定番の特技よね?
はっきり言って、今からお出掛けなんて面倒くさくて、勘弁して欲しい。
正直このままもう一度暖かいお布団に潜り込んで眠りたい。
でも、ここで無視したりすると、アルは怒ったりはしないけど、きっといじけて拗ねるに決まってる。
アルの背中から暖かいベッドへ、またアルの背中へと、視線を交互に動かしながら、う~ん、と考える事しばし。
わたしは出掛ける面倒と拗ねた後のご機嫌をとる面倒を天秤にかけて、最終的に出掛ける面倒をとった。
結局は、アルの気持ちを大事にしてあげたくなったから。
アルのキテレツな行動は今更だし、しょうがない。
付き合ってあげるかと、何も考えず言われた通り、もぞもぞと背中によじ登った。
「では、行くぞ」
背中によじ登って首にしがみつくと同時に、わたしは浮遊感に見舞われた。
え? 転移? ちょっと待って! 手が、手が離れちゃう! 突然の事で、何が起こったのか寝起きの頭は働かず、ただ目を瞑って悲鳴を上げるしか出来ない。
アルから引き離され、どこかに投げ出されたように感じた。
「こ、こわかったぁ」
『ローリー、大丈夫か?』
アルの気遣うような声に安堵して、声の主を探した両目が捉えたそこは空の上で、わたしは飛んでいた。
「え? なんで?」
滅多に動揺しないわたしだけど、寝起きで空に放り出されたら、驚いてパニックになっても仕方がないと思う。
ぎゃーっと再び悲鳴を上げ、しがみつくところを探したが、わたしが座り込んでいるそこは平らで、仕方なく黒い絨毯にへばり付いた。
「お、お、おちるー」
情けない声が漏れ出てしまう。
『はははっ、ローリー、大丈夫だ。落ちはせぬ』
ひぃひぃ言ってしがみついていると、アルの笑い声が聞こえる。
ん? よく考えてみれば、それもそうよね。
そうよ、アルと一緒にいて危険なわけがない。
過保護なアルがわたしを危険な状況に晒すなんて、考えられないもん。
アルの声を聞いて、だんだん落ち着いてきた。
まずは状況確認するべく、ゆっくりと慎重に頭だけを上げてみる。
でも、やっぱり目の前に広がっているのは夜空で、飛んでいることに変わりは無かった。
ただ、落ち着いて、もちろんへばりついたまま、視線だけ動かして観察していれば、真っ暗じゃないどころかすごく明るくて周りがよく見える。
わたしは、大きい絨毯のようなアルの、竜の背に乗ってゆっくり王都の空を旋回していた。
「嘘でしょ。驚いた。わたし、アルに乗って空を飛んでるの?」
『そうだ、驚いたか? くくっ、我ばかりそなたに翻弄されるのは、不公平であろう? たまには仕返ししてやろうと思ったのだ』
アルはサプライズのいたずらが成功したと嬉しそうで、多分笑っているんだと思う。
耳からは竜のぐるるるるという唸り声しか聞こえないけど。
落ちないかとこわごわアルの鱗の背にへばり付いて乗っていたわたしだったけど、しばらくして慣れてくると余裕も出始め、キョロキョロと辺りを見回せるようになった。
昼間のように明るいと思ったのは、大きな満月から青白い光が煌々と降り注がれているためで、真下には翼を広げたアルの大きな影が見える。
そうだ、王宮には夜警のための兵士が何人もいる。
「アル、こんな明るい月夜に竜の姿で飛んで大丈夫なの? 誰かに見られたりしたら、」
『結界を張ってるから大丈夫だ。それより、我の背の乗り心地はどうだ?』
アルの背に乗って飛んでいるというのに、不思議なくらい風をほとんど感じないし、揺れたりもしない。
「すごくいいわ! 落っこちることも無さそう」
『ははっ、我がそなたを落とすわけがなかろう?』
アルは飛んでいる状態にわたしが慣れたの感じとると、高度をぐんぐん上げていく。
そして、わたしはと言うと、すっかり目も覚めて、前に大きく広がる空と広大な景色に目を奪われ興奮していた。
「すごい! わたし、竜に乗って空を飛んでる!」
そして、月の光に照らされた美しい幻想的な別世界での飛行を、アルと二人で心ゆくまで楽しんだのだった。
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