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外伝 レオンハルト編

スーパーカメレオン

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 レオンと一緒に過ごすようになってから、毎日がとても楽しくてたまらない!
 姿は、言うまでもなく超キュート、眺めているだけで心が癒される。
 口を開けて肉を強請ったり、頭をすり寄せて甘える仕草なんてもう可愛い過ぎて、私はレオンにめろめろにノックアウトされてる。
 おまけに、レオンはただ可愛いだけのカメレオンじゃない! 
 最強の魔法使いに飼われていたカメレオンだけあって、魔力を持ってて、魔法の腕も超ド級だったりする。
 カメレオンだけど、人間の私なんかよりもずっと賢くて、優秀で、驚くほど優しくて、私がレオンの面倒を見るんじゃなくて、逆に私の方がレオンに面倒を見てもらってると言ってもいいくらい。
 
 カメレオンなんて、最初はどうやって飼えばいいのか分からなくて不安だったけど、レオンに関しては全くの杞憂だった。
 一応、レオンが寝る場所とかトイレとか必要かなと思ってケージも用意したんだけど、レオンってばケージに入れても、すぐ転移魔法を使って飛び出してきちゃう。
 とにかく、中でじっとなんてしていなくて、夜だって、絶対に私のベッドに潜り込んでくるし。
 ルカの言った通り、全然必要なかった。
 カメレオンなのに動きも結構素早いし、転移魔法も使ったりしながら、自由自在に好きなところを動き回ってる。
 餌も肉や果物といった自分の好きな物が食堂で出た時だけ私に強請って、あとは多分、自分で虫以外の何かを捕まえて食べてるんじゃないかな。
 レオンはカメレオンのくせに、虫が大嫌いだから。
 とにかくレオンは規格外過ぎて、普通のカメレオンとは全くの別物だし、なんていうか、性格が自由人?人じゃないけど。

 
 大抵レオンは仕事に行く私にくっ付いて来て、ポケットの中だったり肩に乗っかったり、はたまた、知らぬ間にどこかに出掛けたりして自由気ままに過ごしているけど、私が困った状況に陥ってるといつの間にか戻って来て助けてくれる。
 レオンはカメレオンだけど、私よりずっと物知りで、なんていうか、すごく頭がいい。
 だから、最近は迷ったら何でもレオンに聞く事にしてる。
 その方が間違いがないんだよね。
 カメレオンの判断に任せるってどうよ、とは思わないでもないんだけど。
 だけど、実際、へまも無くなって、私の仕事に対する評価はうなぎ登りだったりする。
 魔力のコントロールの仕方も、レオンが導いてくれたおかげでなんとなくコツが掴めて、剣士としてはもちろん、魔法使いとしての腕も上がった。
 全くルカの言った通りになった。
 
 
 そして今回、最近の私の働きぶりを評価してくれた隊長が、なんと私を盗賊追討隊に大抜擢、組み入れてくれた!
 功をあげるチャンス! 頑張らなくっちゃ!!


 盗賊を追って、私達は今、森に来ている。
 この辺りの森は洞窟が多くて、しかも複雑に繋がっていたりして、盗賊が逃げ込むにはうってつけの地形。
 そして、日も暮れ始めて追跡を難しくさせるけど、私達・・には関係ない。

「隊長、見つけました。こっちです」

 レオンは今、首の後ろ側に隠れながら、私の探索魔法を補助してくれている。

「この先にある洞窟の中を東に向かっています」

 私は意識を集中して、洞窟の中を奥へ奥へと、神経を研ぎ澄ませて探って行く。

「えっと7、いえ、8人います。その先は・・・枝分かれして、えっと、両方とも出口があるようです」

 途中、集中が途切れそうになるとレオンが私にぴったり寄り添って、助けてくれた。

「その出口に案内出来るか?」
「はい」
「よし、ではお前達はここに残って指示があるまで待機。他は俺についてこい。先回りするぞ、フローラ、案内を頼む」

 隊長が待機組のマティアスに指輪のようなものを渡している。
 あ、もしかしてあれが噂の通信具とかいうモノ?
 遠く離れた場所にいる人と話が出来るという、私達、警備隊にとっては垂涎の代物。

 こういう便利な物は全て東から入ってくる。
 どういう仕組みになってるのか、私にはさっぱり分からないけど、東の国々では、もはや魔法は軍事力というよりも立派な産業として発達していて、人々の生活を豊かにしているらしい。
 ポルトとは、何もかもが大違いだなと悲しくなる。


 あの後、盗賊はばっちり捕縛出来たし、盗まれた品々も押収出来て、隊長は上機嫌で私の探索魔法と通信具のおかげだなと言ってくれた。
 魔法を使って疲れただろうから先に帰っていいぞと隊長に労われ、一足先に寄宿舎に戻った。
 すると、一報を既に聞いていたのか、同じ班のグレンとキリルがやって来て、よくやったなと声を掛けてくれる。
 捕縛の様子を聞かれたので話していると、数人のグループが脇を通り過ぎようとした時、

「裏切り者の娘が」

 グループの中の誰かが言った。
 ハッとして振り返ると、男達は皆ニヤニヤしている。

「おい!」

 グレンが聞き咎めるけど、おーコワいと笑いながら、止まることなく去って行った。

「ーーーーーー」

 グレンが何か言ってるけど、もう聞き取れない。もう何も聞こえない。

「失礼する」

 部屋に飛び込んだ。
 裏切り者の娘。悪魔の娘。私の人生にずっと付きまとう、呪詛のような言葉。
 私は、どれだけ、どれだけ頑張っても、裏切り者の娘として、ポルトでは憎まれ続ける。

 理不尽だと憤る気持ちと仕方がないと諦める気持ちが、胸の内でせめぎあう。苦しい。
 背中が痛んで、思わず手を伸ばした。

 レオンが気付いて、背に治癒魔法をかけてくれる。
 レオンは私の背中の傷跡を見てから、ずっと毎日私に治癒魔法をかけてくれている。
 
 背中の傷は乳母のカレンに鞭で打たれ続けた為に残ってしまった傷で、もうずっと昔のもの。
 治っているはずなのに、今尚こうして酷く痛む時がある。

 オルランド侯爵家が、裏切り者の家と評判が立ってからは使用人もどんどん辞めていって、私の面倒は全てカレン一人に任されていた。
 乳母のカレンは元は母の乳母で、母が亡くなってからはカレンが教育者となり、侯爵令嬢として恥ずかしくない振舞いを身につけるようにと厳しく躾けられた。
 姿勢がなっていない、歩き方が優雅でない、食事は一つも音を立ててはいけない、出来ていない分の回数だけ鞭で打たれる生活。
 折檻はどんどん激しさを増して、皮膚が裂け血が噴き出すまで打ち据えられるようになった。

 痛くて痛くて、治れ治れと一生懸命に祈っていたら、ある日突然傷が塞がって、痛みが治まった。
 今思えば、この時初めて魔法が使えるようになったのだと思う。

 無力な、何も出来ないみそっかすの令嬢であるわたしが、自ら立ち、自らの力で人生を切り拓く力を得た、そう考えれば、幼い私が受けた痛みや苦しみも少しは報われるかも知れない。

 傷がすっかり塞がっているのに気付いたカレンは、憎悪を滾らせて、やはり悪魔の子は悪魔なのねと私に言った。
 その後のことは覚えていない。
 カレンの怖ろしい顔だけが頭にこびりついている。
 気付いた時はベッドだった。
 ベッドの脇に居たのが、カレンじゃなくて、お医者様だったのに安堵したのを覚えている。


 レオンの温かくて、何故か甘く感じる魔力を背中に受けていると苦しさや痛みがすーっと引いていく。
 優しいレオン。
 レオンさえ傍にいてくれれば、ポルト全ての人間に憎まれても、耐えていける気がした。




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