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外伝 レオンハルト編

女の子1

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 ここどこだ? 森? でも、見たことない変わった木ばっかりだ。
 もしかして、俺、またやっちゃったのかな。

 飛べるようになったのが嬉しくて、調子に乗って遠出をしたのはいいけど、魔力を使い果たして、飛ぶどころか帰れなくなったことがある。
 あれから気を付けていたはずなんだけどなぁー。
 トホホ・・・
 しかし、やってしまったのなら、仕方がない。母上に怒られる覚悟は決めた。
 それから、三人の姉にからかわれる覚悟も。

 辺りを観察しながら、助けが来るまで身を隠す手頃な場所を探す。
 危険は無さそうな場所だけど、一応、魔獣の気配を探る。
 すると、前方の茂みの奥に魔獣ではないが、何かがいる気配がした。
 近付いてそうっと覗いてみると、小さな女の子が身体を丸めてうずくまって泣いている。

 俺と同じ迷子なのかな・・・
 きっと心細くて泣いているんだろうなと思った。 
 俺も前に迷った時は深い森の中、日は暮れて、魔獣が襲ってきたらどうしようと、一人でいるのがどんなに心細かったことか。

 うちは大家族で俺は末っ子だから、いつも誰か彼かに余計な口出しやいらぬ世話を焼かれたりして、それが本当に鬱陶しくてしょうがなかった。
 だから、自分一人の力を試したくて冒険に出かけたのだけど、いざ一人ぼっちで暗い森の中に取り残されてみると、不安な気持ちで一杯になって、優しい兄上や父上はもちろんのこと、口うるさい母上やかしましい三人の姉でさえ恋しくなった。
 家に戻れば、やっぱり鬱陶しかったけどさ。

「お前も迷子なのか?」

 見たところ俺よりも小さな女の子だ。
 こんなところにひとりぼっちで取り残されて、さぞや不安だっただろうと思って声をかけた。
 ところが、その女の子は首を振る。

「お父さまがさがしに来てくださるのをずっと待っているの。お父さまはゆうしゅうなまほうつかいだから、フローがどこにかくれてもすぐに見つけてしまうのよ」

「ああ、なんだ、父親とかくれんぼをしてたのか。ん? じゃあ、なんで泣いてたんだ?」
「お父さまが来てくださらないから・・・・・・」

 うつむいた女の子が小さな声で答える。
 そして、顔を上げると俺に何か訴えかけるような必死さで、言い募った。

「フローがいなくなったら、みんなしんぱいするでしょう? きっとお父さまだって、しんぱいして帰って来てくださると思うの。フローをさがしに来てくださると思うの。だから、こうしてずっとかくれて待っているの」

 うーん、話から推測するに、女の子は父親が探しに来てくれるのを期待して待ってるみたいけど、その父親の方には何か事情があって来れない?みたいな?
 女の子は父親を思い出してまた悲しくなったのか、しくしく泣き出す。
 そして、寒いのか小刻みに震えていて、先程と同じ様に身体を丸めて縮こまった。

 確かにここは少々冷えるな。
 竜族は寒さにも暑さにも強いけど、人間のこんな小さな女の子では酷く堪えることだろう。
 家の者はどうしてるんだ? こんな小さな子供をひとりで放っておくなんて。
 それとも、勝手に出て来ちゃったのかな? ってことは、家が近くにあるってことか?
 家を探しに行くべきか、迎えが来るのを待つべきか。
 
「そうか、俺も家族が迎えに来てくれるのを待ってるんだ。ひとりじゃ寂しいから、一緒に待っていようか」

 俺は、小さな女の子を連れて不案内な場所を動き回るのは、あまりいい考えではないと判断した。

「いっしょに?」
「うん。一人で待つよりきっと楽しいよ。それに、こうしてくっ付いていればあったかいだろう?」

 しゃがみこむフローの隣に自分もしゃがみこんで身をくっ付けた。

「ほんとだ! すごくあったかい! ありがとう、お兄ちゃん!」

 笑った顔はとても愛らしかった。すり寄って来る小さな物体に心が擽られる。
 妹がいたらこんな感じなのかなと思った。

「ねぇ、お兄ちゃん、お父さまはフローがきらいになったのかな? だから、帰って来てくださらないのかな? お母さまだってずっと待ってるのに。フローだって、ずっとずっと泣かないでお父さまがお帰りになるのを待ってるのに」

 いや、お前さっき泣いてたしって突っ込みそうになったけど、我慢した。
 小さな女の子相手に大人げないし、それに、皆の前では泣くのを我慢しているのかも知れないと気付いた。

「お兄ちゃん、さむい」

 日が暮れたわけでもないのに、確かにどんどん冷え込みがきつくなってきている。
 俺はフローをひざの上に抱き上げて、俺の身体もフローに比べてさほど大きくないけど、それでも包み込むようにして温めてやる。

「お父様はフローを嫌いになってなんかいないさ。きっと、仕事が忙しいんだよ。魔法使いなんだろう?」
「うん、お父さまは王きゅうではたらくゆうしゅうなまほうつかいなの!」

 フローは優秀な魔法使いである父親を誇りに思っているようだ。

「フローはお父様が大好きなんだね」

「うん! ・・・・・・お父さまに会いたい。お母さまはずっと泣いてて、おじいさまはずっとこわいおかおをしているの」

 周りの空気がキンっと音を立てて凍ったように感じた。
 フローの唇の色が青くなり、ガタガタと震え出す。
 抱き締めてやっても、擦ってやっても、フローの身体は氷のように冷たかった。

 コレってやばくないか? 
 枯れ枝を集め火をつけて暖をとろうとしたけれど、なぜか全然暖かくならない。
 なんでなんだよ!! 
 俺がもたもたしている間にも、冷えた外気がフローの身体から体温をどんどん奪っていく。

「フロー? フロー?」

 声をかけても、フローは目をつぶったままで、歯を食いしばって寒さに耐えている。
 どうしよう・・・どうしよう・・・このままじゃ、フローが死んでしまう。

「兄上!! 母上!! 誰でもいいから早く助けに来てよ!! フローが死んじゃうよ!!」

 あの時と同じように、絶対に助けに来てくれると信じて、家族の名前を声の出る限り俺は叫び続けた。




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