痛快!乙女さんがゆく!

Arara

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客その4 -お殿様ー

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 今日の情緒不安定男は、いつもと違っていた。
 気がそぞろで、女王様である私を目の前にしながら私を見ないで、私を通して誰かを想っている。
 腹が立って、男を跪かせ、仕置きの鞭を振るう。
 男の目がすっかり私に釘付けになって、ようやく満足する事が出来た。

「いいコね。もう二度と私以外のモノに目を向けては駄目よ。いいわね?」
「ハイ、女王様」
「ではブーツに口付けなさい」
「ハイ、仰せのままに」



 ふー、女王様プレイの部屋から控え室に戻って自己嫌悪に陥る。
 私ったら、一体どうしてあんなコト・・・
 私はエセの女王様、本物の女王様なんかじゃないはずなのに。
 あれじゃ女王様そのものだわ。

 でも、男が私以外のモノに心を寄せているのがどうしても許せなかった。
 演じているうちに、知らず知らず本物の女王様に進化しちゃったとか?
 男が再び自分に夢中になったのが分かると、蕩けるほどの甘い愉悦を覚えた。

 ダメダメダメダメ!!
 ヘンな扉を開けてしまっては駄目よ!
 まだ、覗いたくらいだから、大丈夫よね?
 あーもう、ヤだヤだ、ほんと早く身を引かなきゃ。
 私は結婚して、絶対フツーの奥さんになるんだから!!

 旦那様になる人はサラリーマンがいい。
 つまり、祐一さん(今朝、プライベートで会う時は名前で呼んで欲しいと言われた)の奥さんになるのが、私の夢に近付く一番の近道であり、第一歩なのよ。
 っていうか、絶対に逃せない。
 結婚適齢期真っただ中(三十歳までは適齢期だと信じてる)の私にとって、この機会を逃したら祐一さんのような好物件、二度とチャンスは巡って来ないと思う。

 そして、今朝の初デートは、確かに夢への第一歩に違いなかった。
 私は、祐一さんに好感情を抱く度に気にはなっていたけど、会社ではさすがに聞き辛くて聞けなかった、ある事を思い切って尋ねたのだ。
 もし結婚するとなった時、赤澤家の人間から反対されるような事態にはなりませんかと。

 私にとっては譲れない鬼門というか、トラウマというか、関係を進めていくに当たっての一番大切な条件。
 私は、もう二度と天地が裂けるような、あんな思いはしたくない。
 祐一さんは驚いた顔をしたものの、しっかりした口調でなりませんと断言してくれた。
 これで安心して祐一さんを好きになっていける。
 
 
 短い昼休みの食堂でとる昼食と違って、ゆったりした時間の中でとる朝食だからか、お互いに話が弾んだ。
 プライベートな祐一さんの人となりがいろいろ分かってくる。
 金銭感覚や価値観は似通っているし、インテリのイメージがすごく強いけど、体を動かす事も好きみたい。
 私は頭を動かすより断然体を動かす方が好きだし、得意だから、良かったと思った。

 それからびっくりしたのは、祐一さんの夢も私と同じで、ごく普通の愛情溢れる温かい家庭を築くことだった。
 祐一さんは母子家庭で育ったために、子供の頃から普通の家庭にずっと憧れてたみたい。
 私の事情とは少し違うけど、気持ちはすごくよく分かる。
 目標が同じでとても親近感が増した。
 嬉しくて、期待が自分の手を離れて勝手に高まってしまう。
 祐一さんのためにも、絶対、温かい普通・・の家庭を築こうと思った。 

 祐一さんは外でも、もし自分が私とそんな家庭を持てたら、きっと毎日神に感謝の祈りを捧げるくらい幸せだろうとか、いつもの調子で大きな声で言うもんだから、いろんな意味で恥ずかしかった。
 甘い口説き文句は祐一さんらしいけど、他の人が聞いたら、私きっと結婚詐欺に騙されてる女の人だよね?
 ハッ、ひょっとして祐一さん、私が地味過ぎて、貯金が趣味の女だって勘違いしてる? 
 
 

 あら、もうこんな時間。
 祐一さんの結婚詐欺師疑惑を考察していたら、あっという間に休憩時間が終わってしまった。
 次がいくら気心の知れたシンさんだからって、気を抜いていいわけないのに。
 それに昨日は今朝のデートのための服のコーディネートやヘアスタイルまでおまかせして、まー、たとえそれが彼の最上の喜びで、利害が一致してるだけであったとしても、お世話になったのは事実なのだから、ちゃんとお礼と報告をしなきゃ。

 シンさんは一番古い常連客で、私をずっと可愛がってくれている。
 千葉の地元では有名な資産家で、多角経営企業グループのトップ、ピラミッドの頂点に立つ人なんだけど、それも納得、シンさんのご先祖様はお殿様だったんだもん。
 このお店に来たのは、周りの人達にかしずかれる生活が窮屈で我慢出来なくなったからとか。
 五十代の中年男だけど、オシャレで、若々しくて、頼りになる。
 変態M男というよりはフェミニストで、女性に尽くすのが大好きなお殿様なのだ。

「シンさん、いらっしゃい! 昨日はありがとう! お陰様で、ばっちりだったわ。すごく助かった!」

 シンさんとハグして、両頬にキスをする外人さんみたいな挨拶を交わした。
 シンさんはお殿様だけど、道楽者でずっとフランス暮らしだったから、祐一さんの激甘トークと同じで海外風が習慣になっちゃってるんだと思う。

「そうか、なら良かった。ん? どうした?」

 腕の中できょろきょろする私を不審に思ったシンさんが尋ねてきた。
 何か人の気配というか、視線みたいなものを感じて部屋を見回したけれど、特に問題はなかった。
 殺気というわけでもなかったし、・・・勘が鈍ったかしら? 

「ううん、何でもない」

 



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