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裏事情8
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間もなく妻は妊娠して、新しく立ち上げたアパレル会社も軌道に乗った。
不景気は続いているが、頑張って乗り切るぞと皆の気合は十分で、逆に一族の結束力は高まっている。
何もかもが上手くいっている実感はあった。
「よう、元気だったか?」
長年の友人で、俺のかかりつけ医でもある男に声を掛ける。
「まぁな」
俺は今、年に一度ホテルで開催される高校時代の同窓会に来ている。
参加者は多く毎年盛況で、俺もフランスにいた頃はわざわざ帰国して出席していたし、俺達卒業生にとってはとても楽しみな恒例のイベントだ。
伝統ある全寮制の中高一貫男子校で、校風は古式ゆかしい厳しいものだったから、仲間と団結して乗り切らなければ身が持たなかった。
長い間、苦楽を共にしてきたからこそ、皆、仲がいいのだろう。
あっちでもこっちでも、肩を叩き合ったり、大声で笑ったり、会場内は楽しげな声で賑やかだ。
また一方、この会は別の一面も持つ。
名門一流校でもあったこの学校は、卒業生の中には著名人も多いし、俺のような元華族の家系出身者も多い。
顔つなぎには、絶好の社交場だ。
「おい、高明、こっち来いよ」
こいつも俺と同じ、先祖が公家の元華族、旧伯爵家の若様であり、俺の2コ下の後輩、高校時代同室だった。
「お前どうした、えらく痩せたんじゃないか? なぁ、良一、お前んちの病院で一回診てやれよ。これはちょっと病的だぞ」
良一は代々医者の家系で、実家には立派な病院があるくせに、大学病院で薄給の勤務医なんぞをしている変わり者だ。
「ああ、もう、診察済みだ。こいつ、ストレス性の胃潰瘍なんだよ。しばらく入院した方がいいって勧めてるんだがな」
「そんなに悪いのか?!」
「あ、いや、そうじゃない。こいつの胃潰瘍の原因は嫁と母親なんだ。二人から離れれば、直ぐ治ると思う」
ああ、なるほど。
昔からここの嫁と姑の仲は最悪だった。
伯爵家の誇りだけで生きている姑と贅沢に甘やかされて育てられた現代っ子の嫁だ、合うはずがない。
「センパイんとこはいいですね。結婚して子供も授かって、この不景気の中、新しい事業も順調らしいじゃないですか。なんか勢いに乗ってますよね。本当に羨ましいですよ」
ため息を吐きながら、高明が零した。
そりゃそうだけど、そんなのここ最近の話で、俺もちょっと前までは不景気と鉄仮面の妻に囲まれて、鬱々とした生活を送っていたのだぞ。
反論しようとして、俺はハッと気付いた。
そうだよ、俺だってずっと、苦境の中で一人孤独に必死にもがいていたのだ、つい最近までは!
上に立つ者はそういうものだと諦めて、我慢していたんだ。
でも今は、違う。
デザインの仕事は楽しいし、毎日が充実している。
乙女がいて、妻がいて、仕事を補佐してくれる多くの頼もしい部下がいて、孤独を感じない。
苦境には違いないけど、皆が居れば乗り切れるという自信が、今はある。
状況は変わっていない。変わったのは俺の心持ちだけ。
そして、俺の心を動かしたのは、乙女だ!
乙女が俺に転機をもたらした。
そうか、乙女は俗に言うあげまんか。
男の気運を引き出し、幸運へと導く。
母親の麗美さんもそうだった。
男達は、麗美さんの前では、カッコつけたり見栄を張ったり、自分以上のものを見せようとする。
麗美さんに認められたくて必死に見栄を張っているうちに、それが本物になり、男を大きく成長させるのだ。
ナンバーワンとして長きにわたり輝き続けられたのも、出世を果たした彼らが麗美さんを忘れなかったからかも知れない。
乙女は麗美さんとは逆にその懐の深さが、男達が着込んでいる鎧のように重い責任や義務、肩書を取り除かせる。
男を素っ裸にして、そして再生を促してくれるのだ。
なるほど、いいかも知れん。
一石二鳥、いや三鳥にも成り得る、良いアイデアが思い浮かんだ。
俺は二人に向かって言った。
「実はな、お前達に一度行ってもらいたいところがあるんだ」
間もなく、二人は乙女の元に通うようになった。
俺はただ一度行ってくれと言っただけで、支援を頼んだわけではない。
乙女とどういうやり取りがあったのかも知らないし、聞く気もない。
だが、やつれていた高明が健康を取り戻し、良一の生き生きとした表情を見れば、俺と同様、乙女に気運を上げてもらえたのだろう。
乙女の価値が二人に理解出来たところで、俺は本題の相談を持ち掛けた。
俺は乙女を悪質なストーカー客から守る為、乙女の客としてふさわしい、善良な良識を持つ上質の男達を集めたかった。
あげまんの女性は、ある意味、男にとっては魔性の女だ。
初対面でも、密室空間で二人きりの濃密な時間を過ごせば、男は魅了され離れられなくなる。
乙女に魅入られた客がストーカーになってしまうのも、頷ける話なのだ。
俺は乙女を麗美さんのようにしたかった。
つまり、取り巻きの男達に守らせるのだ。
麗美さんの店は高級クラブだったから、それ相応の人間しか麗美さんに近寄れないはずなのに、それでも馬鹿な男は現れる。
そういう男は、取り巻きの男達が周到に排除していった。
また、その取り巻きの男達も同様、周囲に目があれば道を踏み外さないで済むからな。
不景気は続いているが、頑張って乗り切るぞと皆の気合は十分で、逆に一族の結束力は高まっている。
何もかもが上手くいっている実感はあった。
「よう、元気だったか?」
長年の友人で、俺のかかりつけ医でもある男に声を掛ける。
「まぁな」
俺は今、年に一度ホテルで開催される高校時代の同窓会に来ている。
参加者は多く毎年盛況で、俺もフランスにいた頃はわざわざ帰国して出席していたし、俺達卒業生にとってはとても楽しみな恒例のイベントだ。
伝統ある全寮制の中高一貫男子校で、校風は古式ゆかしい厳しいものだったから、仲間と団結して乗り切らなければ身が持たなかった。
長い間、苦楽を共にしてきたからこそ、皆、仲がいいのだろう。
あっちでもこっちでも、肩を叩き合ったり、大声で笑ったり、会場内は楽しげな声で賑やかだ。
また一方、この会は別の一面も持つ。
名門一流校でもあったこの学校は、卒業生の中には著名人も多いし、俺のような元華族の家系出身者も多い。
顔つなぎには、絶好の社交場だ。
「おい、高明、こっち来いよ」
こいつも俺と同じ、先祖が公家の元華族、旧伯爵家の若様であり、俺の2コ下の後輩、高校時代同室だった。
「お前どうした、えらく痩せたんじゃないか? なぁ、良一、お前んちの病院で一回診てやれよ。これはちょっと病的だぞ」
良一は代々医者の家系で、実家には立派な病院があるくせに、大学病院で薄給の勤務医なんぞをしている変わり者だ。
「ああ、もう、診察済みだ。こいつ、ストレス性の胃潰瘍なんだよ。しばらく入院した方がいいって勧めてるんだがな」
「そんなに悪いのか?!」
「あ、いや、そうじゃない。こいつの胃潰瘍の原因は嫁と母親なんだ。二人から離れれば、直ぐ治ると思う」
ああ、なるほど。
昔からここの嫁と姑の仲は最悪だった。
伯爵家の誇りだけで生きている姑と贅沢に甘やかされて育てられた現代っ子の嫁だ、合うはずがない。
「センパイんとこはいいですね。結婚して子供も授かって、この不景気の中、新しい事業も順調らしいじゃないですか。なんか勢いに乗ってますよね。本当に羨ましいですよ」
ため息を吐きながら、高明が零した。
そりゃそうだけど、そんなのここ最近の話で、俺もちょっと前までは不景気と鉄仮面の妻に囲まれて、鬱々とした生活を送っていたのだぞ。
反論しようとして、俺はハッと気付いた。
そうだよ、俺だってずっと、苦境の中で一人孤独に必死にもがいていたのだ、つい最近までは!
上に立つ者はそういうものだと諦めて、我慢していたんだ。
でも今は、違う。
デザインの仕事は楽しいし、毎日が充実している。
乙女がいて、妻がいて、仕事を補佐してくれる多くの頼もしい部下がいて、孤独を感じない。
苦境には違いないけど、皆が居れば乗り切れるという自信が、今はある。
状況は変わっていない。変わったのは俺の心持ちだけ。
そして、俺の心を動かしたのは、乙女だ!
乙女が俺に転機をもたらした。
そうか、乙女は俗に言うあげまんか。
男の気運を引き出し、幸運へと導く。
母親の麗美さんもそうだった。
男達は、麗美さんの前では、カッコつけたり見栄を張ったり、自分以上のものを見せようとする。
麗美さんに認められたくて必死に見栄を張っているうちに、それが本物になり、男を大きく成長させるのだ。
ナンバーワンとして長きにわたり輝き続けられたのも、出世を果たした彼らが麗美さんを忘れなかったからかも知れない。
乙女は麗美さんとは逆にその懐の深さが、男達が着込んでいる鎧のように重い責任や義務、肩書を取り除かせる。
男を素っ裸にして、そして再生を促してくれるのだ。
なるほど、いいかも知れん。
一石二鳥、いや三鳥にも成り得る、良いアイデアが思い浮かんだ。
俺は二人に向かって言った。
「実はな、お前達に一度行ってもらいたいところがあるんだ」
間もなく、二人は乙女の元に通うようになった。
俺はただ一度行ってくれと言っただけで、支援を頼んだわけではない。
乙女とどういうやり取りがあったのかも知らないし、聞く気もない。
だが、やつれていた高明が健康を取り戻し、良一の生き生きとした表情を見れば、俺と同様、乙女に気運を上げてもらえたのだろう。
乙女の価値が二人に理解出来たところで、俺は本題の相談を持ち掛けた。
俺は乙女を悪質なストーカー客から守る為、乙女の客としてふさわしい、善良な良識を持つ上質の男達を集めたかった。
あげまんの女性は、ある意味、男にとっては魔性の女だ。
初対面でも、密室空間で二人きりの濃密な時間を過ごせば、男は魅了され離れられなくなる。
乙女に魅入られた客がストーカーになってしまうのも、頷ける話なのだ。
俺は乙女を麗美さんのようにしたかった。
つまり、取り巻きの男達に守らせるのだ。
麗美さんの店は高級クラブだったから、それ相応の人間しか麗美さんに近寄れないはずなのに、それでも馬鹿な男は現れる。
そういう男は、取り巻きの男達が周到に排除していった。
また、その取り巻きの男達も同様、周囲に目があれば道を踏み外さないで済むからな。
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