痛快!乙女さんがゆく!

Arara

文字の大きさ
21 / 29

裏事情8

しおりを挟む
 間もなく妻は妊娠して、新しく立ち上げたアパレル会社も軌道に乗った。
 不景気は続いているが、頑張って乗り切るぞと皆の気合は十分で、逆に一族の結束力は高まっている。
 何もかもが上手くいっている実感はあった。


「よう、元気だったか?」

 長年の友人で、俺のかかりつけ医でもある男に声を掛ける。

「まぁな」

 俺は今、年に一度ホテルで開催される高校時代の同窓会に来ている。
 参加者は多く毎年盛況で、俺もフランスにいた頃はわざわざ帰国して出席していたし、俺達卒業生にとってはとても楽しみな恒例のイベントだ。

 伝統ある全寮制の中高一貫男子校で、校風は古式ゆかしい厳しいものだったから、仲間と団結して乗り切らなければ身が持たなかった。
 長い間、苦楽を共にしてきたからこそ、皆、仲がいいのだろう。

 あっちでもこっちでも、肩を叩き合ったり、大声で笑ったり、会場内は楽しげな声で賑やかだ。
 また一方、この会は別の一面も持つ。              
 名門一流校でもあったこの学校は、卒業生の中には著名人も多いし、俺のような元華族の家系出身者も多い。
 顔つなぎには、絶好の社交場だ。


「おい、高明、こっち来いよ」

 こいつも俺と同じ、先祖が公家の元華族、旧伯爵家の若様であり、俺の2コ下の後輩、高校時代同室だった。

「お前どうした、えらく痩せたんじゃないか? なぁ、良一、お前んちの病院で一回診てやれよ。これはちょっと病的だぞ」

 良一は代々医者の家系で、実家には立派な病院があるくせに、大学病院で薄給の勤務医なんぞをしている変わり者だ。

「ああ、もう、診察済みだ。こいつ、ストレス性の胃潰瘍なんだよ。しばらく入院した方がいいって勧めてるんだがな」

「そんなに悪いのか?!」

「あ、いや、そうじゃない。こいつの胃潰瘍の原因は嫁と母親なんだ。二人から離れれば、直ぐ治ると思う」

 ああ、なるほど。
 昔からここの嫁と姑の仲は最悪だった。
 伯爵家の誇りだけで生きている姑と贅沢に甘やかされて育てられた現代っ子の嫁だ、合うはずがない。
 
「センパイんとこはいいですね。結婚して子供も授かって、この不景気の中、新しい事業も順調らしいじゃないですか。なんか勢いに乗ってますよね。本当に羨ましいですよ」

 ため息を吐きながら、高明が零した。
 そりゃそうだけど、そんなのここ最近の話で、俺もちょっと前までは不景気と鉄仮面の妻に囲まれて、鬱々とした生活を送っていたのだぞ。
 反論しようとして、俺はハッと気付いた。

 そうだよ、俺だってずっと、苦境の中で一人孤独に必死にもがいていたのだ、つい最近までは!
 上に立つ者はそういうものだと諦めて、我慢していたんだ。 
 でも今は、違う。
 デザインの仕事は楽しいし、毎日が充実している。
 乙女がいて、妻がいて、仕事を補佐してくれる多くの頼もしい部下がいて、孤独を感じない。 
 苦境には違いないけど、皆が居れば乗り切れるという自信が、今はある。

 状況は変わっていない。変わったのは俺の心持ちだけ。
 そして、俺の心を動かしたのは、乙女だ! 
 乙女が俺に転機をもたらした。

 そうか、乙女は俗に言うあげまんか。
 男の気運を引き出し、幸運へと導く。

 母親の麗美さんもそうだった。
 男達は、麗美さんの前では、カッコつけたり見栄を張ったり、自分以上のものを見せようとする。
 麗美さんに認められたくて必死に見栄を張っているうちに、それが本物になり、男を大きく成長させるのだ。
 ナンバーワンとして長きにわたり輝き続けられたのも、出世を果たした彼らが麗美さんを忘れなかったからかも知れない。
 

 乙女は麗美さんとは逆にその懐の深さが、男達が着込んでいる鎧のように重い責任や義務、肩書を取り除かせる。
 男を素っ裸にして、そして再生を促してくれるのだ。

 なるほど、いいかも知れん。
 一石二鳥、いや三鳥にも成り得る、良いアイデアが思い浮かんだ。
 俺は二人に向かって言った。

「実はな、お前達に一度行ってもらいたいところがあるんだ」



 間もなく、二人は乙女の元に通うようになった。
 俺はただ一度行ってくれと言っただけで、支援を頼んだわけではない。
 乙女とどういうやり取りがあったのかも知らないし、聞く気もない。
 だが、やつれていた高明が健康を取り戻し、良一の生き生きとした表情を見れば、俺と同様、乙女に気運を上げてもらえたのだろう。

 乙女の価値が二人に理解出来たところで、俺は本題の相談を持ち掛けた。
 俺は乙女を悪質なストーカー客から守る為、乙女の客としてふさわしい、善良な良識を持つ上質の男達を集めたかった。
 あげまんの女性は、ある意味、男にとっては魔性の女だ。
 初対面でも、密室空間で二人きりの濃密な時間を過ごせば、男は魅了され離れられなくなる。
 乙女に魅入られた客がストーカーになってしまうのも、頷ける話なのだ。

 俺は乙女を麗美さんのようにしたかった。
 つまり、取り巻きの男達に守らせるのだ。
 麗美さんの店は高級クラブだったから、それ相応の人間しか麗美さんに近寄れないはずなのに、それでも馬鹿な男は現れる。
 そういう男は、取り巻きの男達が周到に排除していった。

 また、その取り巻きの男達も同様、周囲に目があれば道を踏み外さないで済むからな。

 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

憧れのお姉さんは淫らな家庭教師

馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺

NOV
恋愛
俺の名前は『五十鈴 隆』 四十九歳の独身だ。 俺は最近、リストラにあい、それが理由で新たな職も探すことなく引きこもり生活が続いていた。 そんなある日、家に客が来る。 その客は喪服を着ている女性で俺の小・中学校時代の大先輩の鎌田志保さんだった。 志保さんは若い頃、幼稚園の先生をしていたんだが…… その志保さんは今から『幼稚園の先生時代』の先輩だった人の『告別式』に行くということだった。 しかし告別式に行く前にその亡くなった先輩がもしかすると俺の知っている先生かもしれないと思い俺に確認しに来たそうだ。 でも亡くなった先生の名前は『山本香織』……俺は名前を聞いても覚えていなかった。 しかし志保さんが帰り際に先輩の旧姓を言った途端、俺の身体に衝撃が走る。 旧姓「常谷香織」…… 常谷……つ、つ、つねちゃん!! あの『つねちゃん』が…… 亡くなった先輩、その人こそ俺が大好きだった人、一番お世話になった人、『常谷香織』先生だったのだ。 その時から俺の頭のでは『つねちゃん』との思い出が次から次へと甦ってくる。 そして俺は気付いたんだ。『つねちゃん』は俺の初恋の人なんだと…… それに気付くと同時に俺は卒園してから一度も『つねちゃん』に会っていなかったことを後悔する。 何で俺はあれだけ好きだった『つねちゃん』に会わなかったんだ!? もし会っていたら……ずっと付き合いが続いていたら……俺がもっと大事にしていれば……俺が『つねちゃん』と結婚していたら……俺が『つねちゃん』を幸せにしてあげたかった…… あくる日、最近、頻繁に起こる頭痛に悩まされていた俺に今までで一番の激痛が起こった!! あまりの激痛に布団に潜り込み目を閉じていたが少しずつ痛みが和らいできたので俺はゆっくり目を開けたのだが…… 目を開けた瞬間、どこか懐かしい光景が目の前に現れる。 何で部屋にいるはずの俺が駅のプラットホームにいるんだ!? 母さんが俺よりも身長が高いうえに若く見えるぞ。 俺の手ってこんなにも小さかったか? そ、それに……な、なぜ俺の目の前に……あ、あの、つねちゃんがいるんだ!? これは夢なのか? それとも……

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

処理中です...