義妹(いもうと)

Arara

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警察官安藤視点

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 同居していた母子が突然姿を消したとの相談を受け、とりあえず届け出をしてもらう。
 義兄あにだという高校生には、義妹いもうとは実母からネグレクトされているから、早く見つけて助け出してやって欲しいと懇願された。
 だが、果たしてそれが本当かどうかもわからないし、逆に母子がこの親子のDVから逃げ出したとも考えられる。
 子供だけならともかく実母が一緒ということなので、緊急案件ではないと判断された。

 僕としては、ネグレクトという義兄の言葉が気にはなったものの、警察は民事不介入が原則で、一般家出人に分類されたこの母子については積極的な捜索は行われなかった。



 一報が入ったのは、その行方不明者の届け出が出された師走から数ヶ月が経ったうららかな春の日のことだった。 
 同居人と実際に会っている担当者としての意見を聞きたいと呼び出され、部屋に入る。
 逮捕された男の調書を見ると、女の子の体内に残されていた体液のDNAと男のDNAは完全に一致しており、申し開きのしようがないと観念したロリコン男は、全てを白状していた。

 全ては実母から持ち掛けられた話で、借金を肩代わりすること、生活費の面倒を見ることで、女の子を自由にしていい権利を実母から得たとの供述であった。
 男も最初は、そんなうまい話があるものだろうかと訝しんで、一度は断ったという。
 すると、娘は従順で優しくしてやればすぐに懐くし、父親の愛情に飢えているから、愛してやってくれれば母親としても嬉しいと、逆に頼まれたという。
 またそういう行為はもっと幼い頃からやっていて慣れているから、きっと楽しめるはずだとも。


 そして、男に実の娘を売った鬼畜の若い母親の言い分は、こうだった。
 学校から連れ去ったのは、同居していた男の息子が娘を手懐けて、毎夜猥褻行為に及んでいると気付いたから。
 そして、娘はすっかりその息子に騙されており、引き離すためには知人宅で監禁するしかなかったのだと。
 また、その知人男性が娘に猥褻行為を強いていたのは、全然知らなかったと平然と言ってのけたという。


 僕はそれを聞いた時、あまりの衝撃でにわかには信じる事が出来なかった。
 これまでにも、さまざまな家庭事情を目にしてきたけれど、そんなおぞましい母親が存在するものなのかと。 
 だが、女の子自身の口からもそれを裏付ける証言がなされていた。


 

 その子は可愛い顔立ちをしていて、なるほどなにか男心を擽る艶めいたものを秘めていた。

「お兄ちゃんは何もしてない! どうしてそんなことを聞くの? お布団に無理矢理潜り込んだのは私で、いけないのはお兄ちゃんじゃない! お兄ちゃんには何度もだめだって言われたけど、こわくてがまんできなかった! お兄ちゃんには何もされてない! おねがいだから、お兄ちゃんをあの人たちと一緒にしないで!」

 これまで自分がこうむってきた虐待について、淡々と話していた女の子が、兄について問われると途端にうろたえ始める。
 この子が必死に隠そうとすればするほど、無情にも周りの大人達にそういう行為があったことを逆に証明しているようだった。






義妹いもうとさんが会いたがっているんだが、君の洗脳疑惑のために、会わせるわけにはいかなくってね」

 この男子高生の猥褻行為については、母親が証言しているだけで、当の女の子もこの高校生も否定している。
 疑わしい状況にはあるものの、証拠はないし、未成年者ということもあって、それについては不問とされた。
 しかし、手懐けられている懸念がある以上、近付けるのは妥当でないということで、二人は面会出来ないでいた。
 
「洗脳? はは、笑わせないでください。そんなの当たり前じゃないですか。美奈は、母親によって外の世界から隔離されて育てられました。愛情を求める美奈に愛情を与え、まっさらな状態の美奈に一つ一つ物事の善悪を、人との接し方を教えたのは俺です。俺の価値観を盲目的に正しいと信じていることでしょう。でも、それって、いけないことですか? 親が普通にやってることじゃないんですか? 血が繋がっていないというだけで、戸籍上家族でないからというだけで、美奈の事を何も知らない他人に一目会う事すら俺は阻まれるのか! あ、すみません。安藤さんにはお世話になっているのに。俺が文句を言えるような立場にないのは、分かっているんです。ただ、美奈が俺を恋しがっていると思うと。くそっ!」


 女の子が義兄である高校生に会いたいと食事をボイコットして困っているとの連絡を受けて、施設にいる彼女に会いに行った帰りのことだった。

 
「だから、代わりに僕が会って来たよ。義妹いもうとさんから手紙を預かってきた。本当はこういうのも、ダメなんだろうけど」

「え?」

 僕が預かってきた手紙を渡すと、高校生は驚いた顔をして受け取る。

「突然だったから、ノートの切れ端になってしまったけどね。一週間後に彼女に面会に行くから、前日までに僕のところに届けて。言い忘れたけど、一応僕の今後がかかってるからね、手紙は見せてもらったよ。君もそれでいいなら返事を書くといい、じゃ」

「安藤さんっ!!ありがとうございます!」


 僕は、懸念どころか、何らかの猥褻行為はあったと確信している。
 だけど、過酷な状況下に置かれ続けた彼女にとって、それは必要悪だったのではないだろうか。
 
 二人を見ていて、僕はそんなふうに思ったのだ。



 大好きなお兄ちゃんへ

 しんぱいかけてごめんなさい。
 めいわくかけてごめんなさい。
 ほかにもいっぱいごめんなさい。
 ミーナは、お兄ちゃんにすごく会いたいけど、がまんします。
 これからはべんきょうもがんばります。
 おてつだいもがんばります。
 だから、どうかお兄ちゃんのパジャマをミーナにください。

 ミーナより







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