義妹(いもうと)

Arara

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妹視点

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『いいか、ミーナよく聞け。俺が今から話すことをミーナは全部理解できないだろうけど、よーく覚えておくんだ。時間は限られている。ミーナが十分成長するまで守ってやりたかったけど、俺は十八歳の高校生で、親に養育されてる身分、ミーナと同じ子供で、なんの力も持っていない。

 俺や他の男がミーナに強いてきたことは、犯罪だ。今のミーナなら分かるだろう?これからは、命令されてもやみくもに従ってはいけない。自分の頭で考えて行動するんだ。ミーナを大切にしてくれないママなら、捨ててしまえ。ミーナはもうママがいなくても、生きていけるだろう?イヤだと思ったら、交番に逃げ込んで正直に話すんだ。親切な人間は必ずいる。素直に頼れば必ずミーナを助けてくれる。今のミーナならそれができるはずだ。そうできるように俺は育ててきた。

 それから、もう一つ、これは正攻法じゃないけど、一つの手段だと覚えておけ。ミーナは俺が好きだろう?俺にいろいろされるのはイヤじゃない。もし、ミーナの前に俺のような男が現れて、ミーナがイヤじゃなければ、その男を頼ってもいい。ミーナを大切にしてくれるなら、それも生きる術だと俺は思う』

 今でもお兄ちゃんが言った言葉は一つとして忘れていない。



 お兄ちゃんに大切な話をされた数日後、私はママによって大好きなお兄ちゃんと引き離された。
 お兄ちゃんからは、ママと二人きりにならないように気をつけろと、あんなに言われていたのに。
 私はうっかり騙されて、学校に迎えに来たママの後をついて行ってしまったのだ。


 そして私は、知らないおじさんの前に押し出され、ママに売られた。
 借金も払ってくれるし、生活の面倒も見てくれるの、いい話でしょ?と言って。




 私はお兄ちゃんが言った通りにして、ママを捨てた。
 欲しかった愛情は、お兄ちゃんがたくさんくれたから、もういい。

 実の母親に売られて監禁された私は、隙を見て逃げ出し交番に駆け込んだ。
 本当はすごく嫌だったけど、体内に男の証拠を残したまま。
 信じてもらうには、そうすべきだと判断したから。
 私はこの数ヶ月の間、この日のために失敗しないよう一生懸命逃げ出す計画を立てた。

 警察ではいろいろ聞かれて、私はこれまでのことを正直に話す。
 だけど、お兄ちゃんとのことは何も言っていないのに、警察の人がお兄ちゃんにもされていたんじゃないのかと聞いてきた時は、驚いてどうしたらいいのか分からなくなった。
 お兄ちゃんは可愛がってくれただけで、イヤなことはされてないと一生懸命答えたけど、信じてもらえたかどうかは分からない。
 

 連れていかれた児童養護施設は、私のように虐待を受けた子ども達がたくさんいて、世話をしてくれる大人の人たちはみんな優しくしてくれる。
 だけど、私は不安でいっぱいだった。
 私のせいでお兄ちゃんが捕まったらどうしよう。

 お兄ちゃんのことがずっと心配で、お兄ちゃんに会わせて欲しいと一生懸命施設の人にお願いすると、安藤さんという若いおまわりさんがお兄ちゃんの代わりにやってきた。
 お兄ちゃんの疑いは晴れたから、心配しなくていいと教えてくれる。
 神様に心の中で一生懸命お礼を言う。
 本当に良かった。

 安藤さんは、お兄ちゃんが住んでいるところの管轄のおまわりさんで、私が行方不明になった時、担当させてもらったんだよと言った。
 そして、その時のお兄ちゃんやおとーさんの様子を安藤さんが教えてくれる。
 嬉しくて、悲しくて、どうしようもなく涙がポロポロこぼれた。

 家に帰りたいと泣き出してしまった私に、安藤さんは連れて帰ってやりたいけど、ごめんなと謝った。
 そして、そうだ、手紙なら届けてやるよと慰めてくれた。
 手紙は見せてもらわなきゃいけないけどそれでもいいかと聞くので、私はもちろんうんと頷いた。
 

 施設では、暴力をふるわれていても親を恋しがって、夜泣く子がいた。
 私もお兄ちゃんが恋しい。
 だけど、二十歳になるまでは会わないと決めた。
 お兄ちゃんを犯罪者にするわけにはいかない。



 お兄ちゃんとの文通は私が中学を卒業するまで続いていたけど、ママから身を隠している間に行き違いがあって、音信不通になってしまった。
 シェルターにいる間は、誰とも連絡をとってはいけないことになっていたから。


 私は早く自立したかったから、中学卒業後は高校には行かず、働きながら准看護学校に通う道にすすんだのだが、施設を出て病院の寮に入りしばらく経ったある日、病院で私を捜すママを見付けた。
 そしてその憎悪に歪んだママの顔を見た瞬間、今の今まですっかり忘れてしまっていた記憶を思い出した。



『美奈、膿がたまって辛いから、ちょっとだけ出す手伝いをしてくれ』

 初めて言われたのは、一緒にお風呂に入っている時だった。
 膿をしごいて出すから、先のところを吸って欲しいとパパに頼まれた。
 幼かった私は言う通りにした。
 私は遊んでくれるパパが大好きだったし、おもちゃも買ってもらえた。
 だから、たびたび頼まれてしてたけど、悪い事をしているという自覚はなかった。

 だから、ママが私を突き飛ばすまで、それがいけない事だとぜんぜん知らなかった。
 いつの間にかパパはいなくなって、すごく悲しかったのを覚えている。
 それからだった。
 ママが知らないおじさんを連れてきて、パパにしてあげてた事をこのおじさんにもしてあげてと言ったのは。
 嫌だったけど、ママが怖くてイヤだと言えなかった。

 今なら分かる。
 ママは私にすごく怒ってて、今も赦してくれていない。
 私は怖くて、一歩も外へ出られなくなった。

 


 
 あれから五年が経ち、私は二十歳になった。
 もうお兄ちゃんには恋人か、もしくは結婚して新しい家族がいるかも知れない。 
 本当は告白して、結婚してくださいって言うつもりだった。
 
 結婚しててもいい、ただお兄ちゃんの存在を感じたい。
 そして、ミーナはお兄ちゃんのおかげで、立派に大人になれたよとお礼を言いたい。

 私はツイッターに、拡散をお願いしますと投稿した。





 
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