時計台がある街の中で

山本 英生

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深く暗い海に一人潜水していくような、段階的に心を押しつぶす圧迫感と、一つの決まった結末にしか向かわないという閉塞感

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 彼と一緒に過ごした最後の3日間、故郷の街について考えないことはなかった。考えないように努力しても、それはそのことを、遠回しに考えていることになったし、考えないことには、彼が、私との時間の中から抜け出してしまうような気がしたからだ。そのことについて考えることが、私たちをつなぎとめる唯一の手段であり、また、この状況の打開策発見の手立てになる可能性があると思われていたからだ。

 しかし、街での思い出を振り返ることは、想像以上に体力を使うことだった。深く暗い海に一人潜水していくような、段階的に心を押しつぶす圧迫感と、一つの決まった結末にしか向かわないという閉塞感が、私の精神を少しずつではあるが、着実に擦り減らしていった。
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