オックルティズム・インペリウム

すあま

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対決の時來れり

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 自尊心Pride。日本語に置いてプライドの概念は広い意味でとらえがちかと思われる。が、客観的かどうかで見分けることが出来ることに気付いている人は意外と少ない。
 それと言うのもプライドに対して実力と言う絶対的な物差しが他人からは見えてしまうからだ。

 この物差しは残酷なまでに無慈悲でもある。実力に伴わなければ、それは虚栄心Vanityと判断され、伴っていれば、誇りDignityと判断される。

『プライドを傷つけられた! コイツは敵だ!』

 果たしてそうだろうか? 怒りに身を任せる前に一度なぜ怒ったのかを考える余地はないだろうか?
 実力に見合わない自尊心か?
 所属していることに誇りを持てる団体を傷つけられたか?
 相手の言動は理不尽であろうか?

 怒りを感じた時はぜひ一度自問してみることをお勧めしたい。

 ◆
 01/26 05:00

 綾式寮 六号室(楠井自室)

 しまった、寝過ぎた。しかし怠いし喉が乾く。トイレと水を飲みにだけ部屋を出て戻るとグラグラとして寝てしまった。この風邪を境に自分を改革する方向に何かが心に働いた。昨夜の様なネットサーフィンで知識を漁るのが日課になったのは言うまでもない。

 ウィルスに願掛けみたいな命令が徐々に効いているのだろうか? 色々と試してみる価値がまだまだありそうだ。そこまで考えて、また睡魔に襲われた。

 ◆
 03/19 07:00

 綾式荘が見える比較的近くの曲がり角。

 そこの電柱に隠れた怪しい人影が独りごちる。
「やれやれ、坊っちゃまのワガママにも困ったものだ。とは言え、坊っちゃまの未来を穢す不穏分子は取り除かなければな。例え坊っちゃまの不手際で起こった不始末だとしても目を瞑って処理するのが出来る執事。飼い犬が飼い主の手を噛み付いては長生き出来ませんからね」

 などと誰に言うともなしに呟いている自分に気付く。現時点で自分に酔ってるちょっと危ない人にしか見えないな。気を付けねば。

「マイクドローンの設置もok。玄関からは死角だし超小型で高性能なアレなら会話はバッチリだろう。中まではさすがに入れないが。マイクオンっ」

 なぜかタイミングよくススメがドローンのそばに舞い降りて来てマイクを突き出した。

 ゴスっ! ゴスゴスっ!

 大音量でイヤホンに届けられる啄みの音。

「あっ痛った! 痛ってー」

 大慌てでイヤホンを外して音量調整すると、カラララッと玄関の開く音が聞こえて来た。その音に驚いたススメは飛び去っていった。

「お? 出て来たな」

 出て来たのは二人。事前に渡された写メからは楠井とか言う坊っちゃまを訴えようとする不穏分子。その彼女か?

「行ってきまーす! それじゃ、手筈通り放課後よろしく」
「任せときなよ」
「……うん」
「何よ、その間は」
「いや、行ってきます」

  マイクで拾えたのはそれだけだった。急ぎコインパークに止めた車に戻り、隙を見てドローンを回収し、坊っちゃまの高校へ向かう。

「やはり探偵も雇うべきだったか。必要経費を出してくれなかった以上は、自腹を切るしか無い。出来れば自腹は切りたく無い……一人でやるにも限界はある……くっそ」

 悪態を吐いてしまってから、心を落ち着ける。車の中は誰も聞いていないから、独り言も歌も好き放題だ。と自分に言い聞かせる。

「出来る男には、リラックスできる場所がないとな」


 ◆
 03/19 16:15

 旧校舎裏 道路側の雑木林

 不本意ながらメリケンと赤シャツを呼び出した。初めて相対した時は宗吾も居たから格好つけられた。しかし今は敵意を極力示さない為に一人だ。心細過ぎるので微レ存オカルトを小声で発動してみる。今回は腸内細菌をターゲットにした。

「どうか、交渉をいい方向へて欲しい」
『無茶振りが過ぎますな……宿主あるじ。』
「不安なんだ。そこを何とか頼むよ」

『仕方の無い宿主ですね。寄生われわれに助力を求めるとかなかなかないですよ。取っておきのを使いますからそれで我慢してください。"運気を一つずつ"
「え、何それなんか物凄い数集まらない?」

 その時、二人が現れた。

「居た」
「おい!」

 もうちょっと話して詳しく聞きたかったが仕方ない。交渉モード降臨! クルリと振り返って、一礼して発言する。

「急な呼び出しにも関わらず、応じていただきありがとうございます」
「テメェ、何のつもりだ」
「単刀直入申しますと、二点の要件があり、二点の用件が飲まれた上で提案があるためにお呼びだてしました」
「お、おぅ。何の用だ」

 メリケン先輩が身構える。暴力が同時攻撃でなければ通用しない事にはまだ気付かれてないようだ。いい子だから、そのまま暴力に走らないでくれよ。

「ええ、先ず、一点目は昨日の件を謝罪いたします」

 二人の先輩は予想外と目を剥く。予測通り。

「は! 謝罪だぁ? 敵認定したんじゃなかったのかよ。今更過ぎるだろがぁ!」
「まぁ、それについて全面的に謝罪します。吉田君に事情を聞きました、私の誤解です。申し訳ございませんでした!」

 我ながら見事な直立不動からの深目のお辞儀である。よし、あっけに取られてるな直ぐに次の処理だ。相手に考える間を与えてはいけない。顔を上げて次の話題を振る為口を開いた。

「二点目は……」
「テメェ! なめてんのかよ! 裁判すんならこっちも考えがあんぞ!」
「あぁ、昨日の言動はまるで敵対する行動だったぞ」

「申し訳ございません、吉田くんをいじめている、又はカツアゲしているようにしか見えなかったのと、現に先輩方も後ろぐらそうな言質をされたのでやむ得ずあのように行動しました」

「な、何だと!」
「ですから、誤解と分かった今こうして謝罪をし、もう一つの用を話そうとしています。吉田くんを苛めるような行動は今後謹んでください。これは個人的なお願いです。命令でも吉田くんの要望でもありません」

「「……」」

  二人とも呆気に囚われている。頼むから早くきていただけないだろうか。このも疲れる。頭をフル回転させて相手の戦意を削ぎ、如何に愚かな虚栄心を振る舞っていたかを理解してもらわなければこの先吉田君もメリケン先輩も幸せな未来は掴めないだろう。
 せめて吉田君には幸せになって欲しいと贔屓目に考えてしまうが……何せ、メリケン先輩の心象は最悪他ならないのだから、仕方のない事だ。

「ちょっとだけ、僕の戯言に耳を傾けていただけないでしょうか。損はないと思います。むしろこの先の人生で有益に結果を選択できるようになるとは思っています。昨日の剣のせめてものお詫びです」
「あぁ? ……話してみろ」

「ありがとうございます。では。
生物学上草食動物は肉食動物から生き残る為に群を形成し、誰かが犠牲になっている間に逃げ延びると言う生贄生存戦略を選択しています」

 キョトンとし出した。いい傾向だ。

「そして、先天的にも後天的にも、奇形種や病気、怪我を負った個体は生贄にされやすくオメガ個体と生物学上呼ばれています」
「弱いんだから仕方ない」

 良いですね! 間髪入れず褒めるか同調です!

「そうです! 人間社会と違い弱肉強食の世界ではこれはもはや掟と言っても過言ではありません。ところで草食動物に限らないのですが群れには生存戦略的に地位があるのは知ってますか?」
「強い奴が群れを牛耳ることか?」
「そうです。中々動物好きじゃありませんか」
「ま、まぁな」

 照れてらっしゃる。意外と優しい一面が垣間見えます。……あぁ、吉田君は幼少期にこれを見たわけですね。

「そして上位を牛耳る者たちは子孫繁栄の為に異性を好きに選び、順位を落としていけばその選択権は無くなっていきます」
「まぁ、強ければ、その分子供にも強い子が生まれる可能性があるからな、美しさも同じ意味で」

「中々、博識ですね村瀬先輩。そして最下層は先ほど言ったオメガ個体が居ます。最底辺であるオメガ個体は群れにとって必要悪の生贄です。誰もが成りたくないと考えると思われます。同時に上位になりたいとも」
「そりゃあなぁ」

「ここで問題が発生します。上位に少しでも行きたい能力の近しい個体がちょっとだけ能力が劣っていたり醜かったり、あるいは怪我をして不利を被りました。能力の近しい個体がチャンスと見て、その個体を群れの下層へ少しでも落とし自分の順位を上げる行動に出ます」
「弱肉強食だしな」

「動物は人間の様に効率良く己を磨けません。結果、他を蹴落とす行動をとります。これがイジメの発明です。他を馬鹿に、いえ、仲間とする者と見下し、あわよくばオメガ個体へと蹴落とすことでしか自分の地位を示せず哀れな生き方しか出来ません」

「……」
「どうしました? 私は群れを作る動物の話をしてるだけですよ。弱肉強食の世界でなくて良かったですよね。。ご清聴ありがとうございます」

 先輩方は黙ってしまった。理解はしてもらえた様だ。納得していただくにはまだ時間は必要だろう。

「何かを誇示したいのでしょうけれど、吉田君に対する接し方を検討してください。お願いします」

 再び、頭を深々と下げた。

「ど、どうして」
「はい?」
「どうしてあいつの為に、そこまでするんだ」

 完全に毒気を抜くことに成功したらしい。一先ず安心した。

「吉田君を我が研究会会長が気に入りましてね。更に吉田君が里原先輩とじゃなきゃ研究会に入りたくないと言いましてね」
「チッあいつはまた女々しい事を!」

「里原先輩、別に世間の連中がどう思おうと関係ないんじゃないですかね。群れて、あいつはどうだとか言うしか出来ない低脳な奴らの目を気にする方が格好悪くありませんか?」
「「!」」

 その衝撃の顔が、オレには2人を味方に出来たと確信するものだった。まぁ、これで十分だと思ったとこへとどめを打込みにヤツが現れた。



 ◆

人物紹介

楠井くすい 和臣かずおみ(♂15~16) 高一(早生れ) 綾式寮在住オカ研所属オカルトマニア。特段取り柄のないフツメンだった。自己改造に成功し、自信が付いた。それだけでは飽き足らずに自己改造のキッカケの能力を試すようになる。実はまだまだ芯がなくブレブレになる性格を"モード"と称して制御している。
・あるのかないのか分からない能力「微レ存オカルト」を使い自己改造するのが他人に無い能力。

吉田よしだ あきら(♂16) 高一 S属性を自動で刺激する天然Mオーラを放つ、いじめられっ子。同時に母性本能もくすぐる、天性のオバサマキラー。ただし、同年代の女子には気持ち悪いと罵られ、嫉妬の対象となる。今回、空気。

村瀬むらせ かおる(♂17) 高三 空手を嗜んでいたと思われる。グレ気味目立ちたがり屋でも自分の名前は嫌い。多少理知的。左耳にピアス。赤T。バンドしたいけど友達居ないのが彼の不幸。

里原さとはら 秀雄ひでお(♂17) 高三 ネグレクトの家庭育ち。力こそが全てを地でいく野生児のようで都会育ちの自己中心的性格。憧れのキャラクターは北斗の拳のラオウ。吉田君とは実は幼馴染み。


武部たけべ(♂外見37歳)
 ネグレクト気味の両親が秀雄の為に雇った教育係。
優秀な教員だった? 芸人の様な挙動がデフォで自分で出来る執事とか言っちゃう。

槙野まきの 美香みか(♀だが中身は限りなくおっさん。16)
 蓮水君と同じく。急遽設定付け足し。吉田君に一目惚れし、里原君のライバルに立候補した。ギャルっぽい。今も香澄の風呂とか一緒に入りたがる。



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