なぜ、私を殺したのですか?

月見うさぎ

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第2章 居場所

11 無償とは

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レグルスが見て見ぬふりをしたのはシリウスが殺すより誘拐された方がずっと都合が良かった。

てっきりこの音を聞き怪しまれると思っていたのか、必死に弁解をした。

「いや~。あれは何の音ですかね~動物でもいるのかなー……あははは」

「えっとーー騎士さん。私達はですね。えっとー。夜に追加の積み荷を運ぶように言われててーそれで、えっとー」

明らかに怪しくないように弁解を試みるがレグルスにはみえみえの嘘だ。

「はぁー。分かりました。疑ってすみません」

「へ?」

こんなみえみえの嘘で怪しまれないことに拍子抜けの雇われ人の男達。

レグルスは「では、お気をつけて」というと何事もなかったかのように見張りに戻っていった。

そうか、私はどうなっても関係ないってことなんだね。兄様が一番信用しているレグルスの態度が物語っている。

落胆ともいえるのか、怒りというか、呆れというかなんとも言えない失望感。

「はぁー。危なかったなー」

「いや、しかし気づかないなんて運が良いな」

と見てみぬふりをしたレグルスに気がつくことなく男達は安堵した。

「おい!さっさとこいつを荷馬車に乗せてずらかるぞ」

「お、おう」

横に倒れているカペラを起こし再び歩き始めた。

数十分歩くと怪しまれないよう調理場の裏に止められた屋根付き荷馬車があった。

そこにカモフラージュのための荷箱とカペラを荷台の中に乗せ「おい。行くぞ」とリーダーらしき人物が言うと後ろの荷台に3人、前に2人馬車に乗り込んだ。

「はっ」と馬の手綱を叩くと馬二等がゆっくりと走り出す。

カタカタとする振動にすっかり諦めモードのカペラ。

“もう、どうでもいいや。煮るなり焼くなり好きにしろ”

でも、皇女が誘拐されることで厄介なことになるのは決まっているので、それはそれで少しは一矢に報いるかもしれない。

「はっ。ははっこれで、難問はクリアだ」

「案外簡単だったな」

「そう、これで俺達の国に帰れば……」

「どこに帰るのですか?」

なんとも言えない穏やかな口調に荷台にいた全員が後ろを振り返る。

しかし、誰もいない。

ここの荷台に乗っているのは俺達3人と皇女、あとはカモフラージュの荷物があるだけ。

王宮からの追っ手かと緊張が走り嫌な汗が流れた。

「おい。どこだ!!」

「探せ!」

「探せって行ってもここには俺達だけしかいないぜ。あと、この馬車のスピードで乗り込む奴なんているわけない!」

「じゃあ、さっきの声は……アガっ!!」

屋根の上から剣が刺さり真下にいた男の肩に直撃した。

「イッッッテェエエ!!!」

剣が引き抜かれると、ビニール製の屋根に空いた穴が大きく広がりその正体が現れた。

「おっ!ナイス俺!直撃じゃん!」

屋根の上にいたのはグレーの髪にグレーの瞳の若い騎士。

「お前王宮騎士か!!」

「逆に王宮騎士じゃなかったらおかしくないですか?」

当たり前の問いに“?”をぶつけ、ふざけているのか真面目なのかわからない。

「って!俺、高所恐怖症なんすよ!」

今度はスピードに乗った馬車の上に乗っていることに気付き「うわっ!!」と急に騒ぎ始めグラグラとバランスを崩しそうになる謎の騎士。

そんな自分本意な追手相手に冷静を取り戻した男3人と、目隠しをされ益々状況が分からないカペラ。

“誰なの?騎士?これが邪魔で見えない”

「こいつ、いちびりやがって!」

「くそっ!イテェ!そいつを殺せ!」

「おい!王宮騎士だ!スピードをあげろ!!」

手綱を引いている仲間に声をかけると、グンとスピードが上がった。

「うわぁあ!」

バランスを崩しながらもなんとか持ちこたえる騎士。

「ひどいスッね!だから、俺高所恐怖症なんですって!」

「こいつしつけーぞ!棒かなんかで突き刺せ!一斉に屋根に突き刺せばやれるだろ!」

荷台にあった、槍やらパイプやら農具やらを持ち始めた男3人。

「卑怯っすよ!こっちは高所恐怖症で吐きそうなのに!」

「おい!いくぞ!せーの」

バリ!と屋根に穴があき、4つの穴により大きな1つの穴となった。

その穴からは人影は見えず暗闇と一層色が濃い木の影だけだ。

「やったか?!」

そう、ホッとしたのもつかの間ヒヒーン!と馬の嘶きが聞こえたかと思うと馬車は急停車した。

その反動で男3人はよろけ、床にいるカペラはズサーと奥の方に滑り積み荷に体をぶつける。

“イッタっ!今度は何?”

「おい!どうした!」

なぜ止まったのかと、手綱を引いている仲間に声をかけたが返答がない。

「おい!返事しろ!」

「あーあ。全く。酷いですねー」

ゆったりのした口調が再び聞こえたかと思うと、荷台の出入り口が開いた。

姿を現したのは、もちろん灰色の王宮騎士。

頬には返り血と思われる鮮血が頬につき、それを親指で拭いペロリと舐める。

「マズ」

手には殺傷力だけが取り柄な短剣。

屋根から落ちたと思われたが実は荷馬車の運転席側に飛び乗り、先に男2人を仕留めてきたのだ。

「なぜ生きている!」

「それ、重要ですか?」

声がワントーン低くなりピリリと空気が痺れた。

「皇女サマは……」

と奥に転がっている目隠しをされ手足を縛られているカペラを見つけ更に睨みを効かした。

女好き、子供好きの彼にとってぞんざいな扱いをする男達の行動は苛立ちそのもの。

「視界が見えないならちょうどいいですね」


「はっ?何を言って……」

ドターンっ!1人体がぶっ飛んだ。

“え!何?”

その音にカペラは警戒する。

まだジンジンと打ち身が痛いながらも、耳で状況を判断するしかない。

騎士がやられたとしか思えないけど、現れたと思ったら、バキやらドタンやら「ぐあ!」やら何がなんだか分からない。

「皇女様」

と若い男の声がしたかと思うと耳の後ろに手らしきものが当たりビクッと体を震わす。

目を隠した布が剥がれ落ち、灰色の髪と灰色の瞳を持つ若い騎士の顔を見えた。

「初めまして」

そう子供のように無邪気に微笑んだ若い男の後ろには例の男3人組が床に伏せていた。


今までカペラは無償の優しさなど非常に稀なことで人間は損得で動くものだと思っていた。

無償の優しさに触れたのは、生前の母、ラナス、そしてこの男、ルカム・ピオリスで3人目だった。
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